11日間の船旅を終え、ついにシドニー到着

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の伍:11日間の船旅を終え、ついにシドニー到着

世界の3大美港の1つにもうたわれるシドニー湾。シドニーを訪れる前に、船でサンフランシスコとリオデジャネイロにも訪れたことがありました。リオデジャネイロでは大海に面してビーチが広がり、コルコバードのキリスト像が旅人を迎え入れてくれます。サンフランシスコでは湾の入り口にゴールデン・ゲート・ブリッジがあります。それぞれ港の美しさは噂通りでした。大きな期待を胸に、船は一路、シドニーの玄関ノース・ヘッドから、シドニー湾へと進んで行きました。

ノース・ヘッドを通過すると同時に、船はダック・ボートに引かれ、間もなく、別の小さなボートが横付けされ、そのボートから1人の検察官が船に乗り込んで来ました。黒っぽいスーツにきちんとネクタイでフォーマルなのですが、下はバミューダ・パンツ、ハイソックスに革靴。初めて目にしたスタイルでしたが、その姿の格好良いこと。船の乗客の中では、彼のさっそうとした姿にどよめきが沸きました。ブリスベンで入国手続きは終えていたので、簡単な手続きで終わりました。ちなみにブリスベンの検査官はもっとカジュアルな姿でした。

後に彼のスタイルは、当時、シドニーの紳士の服装の1つだと知りました。夏はハーフ・スリーブの背広もあり、当時は人気がありました。私も、格好良かった彼のスタイルに憧れて、似た格好をしたことがありますが、背の低い私のようなタイプのアジア人にはあまり似合わなかったことを覚えています。いつの間にか、彼のような恰好をする人を見なくなり、映画などで観たりすると当時のことを懐かしく思い出します。

かつて80年代までノース・ヘッドには、検疫所(Quarantine Station)がありました。伝染病などが見つかると、そこにしばらく隔離されます。今ではその歴史を知るための博物館として一般に公開されています。夏にはお化けを見るツアーなども開催されているらしく、ここで不幸にも命を亡くした人の魂が成仏されずにさまよっているなどと不幸な歴史も含め、夜間ガイド付きで話が聞けますので、時間があったら、ぜひとも参加してみて下さい。

夕暮れ迫る大都市のシドニーCBDに向けて船は波を切って進み、海軍基地を過ぎ、フォート・デニソン島のすぐそばを通過し、左手に現れたオペラ・ハウスはまだ工事中でした。外観の貝殻や帆を思わせる形はできていて、すぐにでも完成するかと思っていたのですが、その後完成までに、2~3年ほどかかったように記憶しています。オペラハウスの前方には、ハーバー・ブリッジの堂々とした姿が迫り、船はバーバー・ブリッジすれすれを通ります。デッキから見ていると、あと少しでブリッジに手が届くかのような錯覚に陥るほどの、切迫感でした。ぶつかるのではと、ハラハラしたほどです。その気持ちは、当時の私の気持ちにも似ていて、ここオーストラリアで夢をつかめるような感覚でワクワクしていました。

ハーバー・ブリッジの迫力は今も昔も変わらない
ハーバー・ブリッジの迫力は今も昔も変わらない

今でも、ハーバー・ブリッジは、通過するたびに何となく、初心に帰るのか、不思議とリフレッシュさせてくれる場所です。車の量が増え、トンネルもでき、いろいろシドニーも様変わりましたが、ハーバー・ブリッジの色と形はそのまま。地味ですが、頑丈で力強い姿は、私のシドニーで最も思い出に残る、好きな風景です。

ハーバー・ブリッジをくぐると、更に船はゆっくりと進みます。11日間の船旅が終わりに近付き、終着点・シドニーに着いた時は、デッキでは大きな歓声が起きました。皆、興奮と熱気に沸く中、船はピアモントの桟橋に無事、横付けされました。辺りは薄暗く、周りには明かりがポツポツと見える程度で、今とは全く様相が違っていました。

待ち合わせていたトニーとも無事に会うことができ、彼の車で用意されたポッツポイントの古いフラットへと案内されました。フル・ブリックの建物には歴史を感じさせられ、ドアは重く、電灯も良く言えばアンティーク調。床は軋み、カビのにおいがする暗い感じの室内でしたが、ベッドに横たわりながら、旅を振り帰っていると、あっという間に深い眠りに入っていました。



出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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