ロトルアの露天風呂で日本語の洗礼

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記

出倉秀男の日本料理と歩んだ豪州滞在記
~オーストラリアでの日本食の変遷を辿る~

其の拾九:ロトルアの露天風呂で日本語の洗礼

いよいよマオリ族の聖地、ロトルアへ。温泉好きの私が最も楽しみにしていたのが、このロトルア。街のいたる所から湯気が出ていて、硫黄の匂いが立ち込め、熱泥地が点在し、それらがふつふつと沸き立っています。間欠泉からは数十メートルの高さで力強く熱湯が噴き出していて、どことなく日本の温泉地とよく似ています。1987年から、ロトルア市が、別府市と姉妹都市としてつながっていることにも納得できます。

いよいよMt. エグモントへの旅に向けて2日間体力作りに専念しながらも、体をほぐすために、程良く温泉に漬かれるような場所を探してロトルアの街を駆けました。道路を走っていると、道の脇に程良いサイズで、湯気が上がっている温泉を見つけました。湯加減をみると、入るのにちょうど良い感じで、人気もなかったので、真っ裸でその温泉に飛び込みました。当時は、露天風呂の設備もほとんどありませんでした。それ以降、ロトルアに行く機会はなかったのですが、多分今は、公共の場で裸になることも限られているでしょうし、行き当たりばったり露天風呂に入ることもできないかもしれません。

しばらく、ロトルアの自然を楽しみながら、リラックスして温泉を楽しんでいると、入っている温泉の近くに、ゆっくりと1台の観光バスが停まりました。バスが停まるような場所でもなかったので、一瞬、驚きました。すると、20人ぐらいの中年のグループが降りてきて、どうして私が日本人であるのか分かったのか不思議なのですが、裸である私の状況を気に留めることもなく、私のそばに近付いてきて、日本語で質問攻めに遭いました。恐らく、彼らにとっても、こんな所で、ゆっくり裸で温泉に入っている日本の若者に多分に興味があったのでしょう。

私自身もこのような状況で、たくさんの日本人に出くわすとは思ってもいませんでした。今考えると、この時代(1973年)が、日本からの団体旅行の始まりのころであったかもしれません。奇妙な状況でしたが、久しぶりの日本語での会話は、ちょっとしたリフレッシュになりました。

ロトルアを去る前に、日本からの郵便物が私に届いているか見るために郵便局に立ち寄りました。当時、家族との連絡を取る方法は限られていたので、私は郵便局を利用して、家族に前もって出掛ける予定を知らせ、その郵便局宛に手紙を送ってもらったりしていました。また、宿泊を予定しているYHA、YMCAなども利用できました。

タイミング良く、日本の父から、母の代筆でしたが手紙が届いていました。内容は「ニュージーランドでの近況を知らせよ」とのことでした。オーストラリアでの計画が崩れ、予定外のニュージーランドにいる私を心配していたのでしょう。それなのに温泉気分を味わっている自分、日本で忙しくしている家族のことを思うと後味が悪く、勝手なことをしていることを後ろめたく感じました。同時に、自由な時間を与えられていることをありがたく思いました。

父の手紙を読み終えて、その場で「明日から、NZ最初の登山のためマウント・エグモントのふもとニュー・プリマスの街へと南下する予定で、あと数カ月は私の趣味の1つでもある厳冬のロック・クライミングとスキーでの滑降をしようと幾つかの山を訪れたいと思っている。今はNZにいるが、日本食文化との結び付きは私の使命であり、NZでの休息期間を生かして、飛躍したい」というようなことを書いて返信しました。

いよいよマウント・エグモント、ニュー・プリマスの街へ入り、YHAに宿泊しました。YHAはスキー客でにぎわっていました。しかし、私のように、登山とアウトバックでの滑降をする人は誰もいませんでした。まずは、アドバイスをもらおうと観光協会へ出向きました。しかし、私のような前例はないということで、山岳パトロールの人を紹介して頂き、会いに行くことになりました。ヨーロッパの登山、特に冬山は、山での経歴やグレード・テストなども必要でしたが、NZでの入山の手続きは面談で予定を知らせるだけの簡単なものでした。食料などの買い出しを済ませて、YHAに戻り、登山道具を点検し、キスリング・バッグに詰め込んで、出発の日を待ちました。


出倉秀男(憲秀)
料理研究家。英文による日本料理の著者、Fine Arts of Japanese Cooking、Encyclopaedia of Japanese cuisine、Japanese cooking at home, Essentially Japanese他著書多数 。Japanese Functions of Sydney代表。Culinary Studio Dekura代表。外務省大臣賞、農林水産大臣賞受賞。シドニー四条真流文芸師範、四條司家師範、全国技能士連盟師範、日本食普及親善大使

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