【QLD】コモンウェルス・ゲーム ゴールドコースト2018 ”宴の後”に引き継がれるレガシー

コモンウェルス・ゲーム ゴールドコースト2018
“宴の後”に引き継がれるレガシー

ⓒ2018 Gold Coast 2018 Commonwealth Games Corporation

4月4日から15日までの12日間、世界71の英連邦諸国・地域からスポーツの精鋭たちが集い熱戦が繰り広げられた「コモンウェルス・ゲーム(英連邦大会)2018」の開催地・ゴールドコースト。その盛大なスポーツの宴が終わった今、開催地を含め人びとの関心は「大会の遺産(レガシー)」だろう。大会の関連施設は有効利用されるのか、また大会開催による経済効果はどのようなものなのか。コモンウェルス・ゲーム初開催となった同地の“宴の後”を見つめる。(文=植松久隆/本紙特約記者

周辺住民の開幕前の反応

英連邦諸国の精鋭アスリートがゴールドコーストで一堂に会し、その卓越した技術を競い合ったコモンウェルス・ゲーム2018の熱戦が終わった。

開幕直前までの準備でさまざまな影響を受けたゴールドコーストの街も、大会の進行と共に盛り上がりを見せたが、大会前の盛り上がりは、残念ながらゴールドコースト周辺だけの限定的なものだった。

3月上旬、あるトークバック・ラジオから、大会への関心度の低さがうかがえる声が聞こえてきた。ゴールドコーストとブリスベンをつなぐ大動脈・高速道路M1の制限速度が、大会に先駆け10キロ遅く変更されるニュースが報じられた時のリスナーの反応が「大会のために何で一般ドライバーが迷惑を……」「そもそも、あんな大会は誰も望んでいない」など、大会関係者が耳をふさぎたくなる内容のオンパレードだったのだ。これは、高速道路の速度制限に反対の人びとのバイアスが掛かっているので額面通りには受け取れないにせよ、総じて同大会開催への高揚感をまったく感じられない出来事だった。

頼みの地元住民にも、このビッグ・イベントの開催に対する疑義が最後までぬぐえない人も少なくなかったようだ。大会関連情報を知らせる一連のフェイスブックの投稿への書き込みには、大会準備に伴う道路事情の変更などへの恨み節が多く、歓迎ムードとは程遠かった。それでも、この手のイベントではいつもそうだが、始まれば始まったで盛り上がったのだろうが。

どうなる、大会のレガシー?

同大会の規模を考えた際、避けて通れない関心事が、競技施設や選手村などの大会関連施設がイベント後にいかに有効利用されるかということ。いわゆる大会の遺産、“レガシー”がどう地元に還元され、地元住民はその恩恵をどのように受けられるかが非常に気になるところだ。

2008年の誘致開始以降、足掛け10年少々の大会開催への道のりは、決して平坦なものではなかった。大会の誘致・開催に当たって州政府は10億ドルともいう巨額の費用を投じ、さまざまなインフラ整備を行い、本番を迎えた。大会が公費で行われる以上、言うまでもなくその原資は血税から賄われている。だからこそ、開催地の市民は大会後の関連施設の利用について関心を持つべきであり、それは、この国及びQLD州に税金を支払う日系コミュニティーにとっても同様だ。

カラーラ・スポーツ・アンド・レジャー・センターを始め、大会施設が開催地におけるスポーツの発展に寄与することが期待される(ⓒ2018 Gold Coast 2018 Commonwealth Games Corporation)
カラーラ・スポーツ・アンド・レジャー・センターを始め、大会施設が開催地におけるスポーツの発展に寄与することが期待される(ⓒ2018 Gold Coast 2018 Commonwealth Games Corporation)

ここ数年の大会開催に向けた建造ラッシュを経て、現在ゴールドコースト市内各地に建つ各競技の会場こそが、今大会のインフラ整備のその最たるもの。まさに、目に見える大会開催の恩恵だ。ゴールドコースト郊外のカラーラにある「カラーラ・スポーツ・アンド・レジャー・センター」はその典型だろう。今大会のバドミントン会場となった同施設では、本番に先駆けて昨年5月にバドミントン界最大の国別男女混合対抗戦・スディルマン・カップが開催された。コモンウェルス・ゲーム本番を前に、相応の規模の国際大会のホストとしての経験を積み、大会後の施設利用のイメージを示すことができたのは非常に大きい。

上記の例を見るまでもなく、ハード面の整備により、ゴールドコーストは大会後も国際大会やそれに準ずるハイ・レベルの大会を継続して開催することができるようになった。それは、同地域の競技力、スポーツ熱を高める効果を生む。世界レベルの施設で世界トップ・クラスの選手のプレーに親しむ機会を多く持てれば、自ずとその地の草の根レベルでの競技の普及は加速するからだ。今後もそういう事例が多く実現し広範囲のスポーツ普及へとつながれば、大会の開催意義の多くが達成されることになる。そして、スポーツ・インフラ全般が整備されたゴールドコーストは、「QLD州のスポーツの中心地」という評判を揺るぎなきものとしていくだろう。

「選手村」「ライト・レール」の有効利用

現在、リオ五輪、北京五輪など近年の五輪開催都市で、大会後の競技施設が全く使われずに廃墟と化していることが大きな問題となっている。そのような事態を受けて、大規模スポーツ・イベントの在り方を考え直す動きも世界的に見られるようになってきた。ただ、ゴールドコーストに関してはそのような問題とは無縁だ。

というのも、実施競技種目のほぼ全てが、英連邦随一のスポーツ大国・オーストラリアに一定以上の競技人口を持つものとなっているからだ。先の平昌五輪でのボブスレー会場のように「大会後はほとんど使われないのは確実」というような施設はない。また、競技施設自体も、新設、増改築、既存施設利用で、うまくバランスを持たせているように、大会の準備計画自体が実によく練られている。ゴールドコーストでさばききれない分は、“周辺地域”のブリスベン、遠隔地のケアンズ、タウンズヴィルにも割り振られるなどの柔軟な対応が見られた。

大会関連施設で、カラフルな彩りに良くも悪くも目が惹かれるのが、サウスポートのグリフィス大学に程近い「選手村」。総戸数1,252を数える「コモンウェルス・ゲームス・ビレッジ」というその施設は、大会後には相応の改良と整備を行って、19年初頭の入居を視野に一大住宅用ディベロップメントとして売りに出される。グリフィス大学や発展著しいサウスポートにも程近い一等地での大規模なディベロップメントが人気を集める可能性は高く、急激に人口が増加する当該エリアにとっては、まさに需要と供給のパーフェクト・マッチ。この選手村、目に見えたコミュニティーへの還元という観点では、確実にポジティブなレガシーとなっていくだろう。

ライト・レールの路線拡充は大会がもたらしたポジティブな遺産の1つだ
ライト・レールの路線拡充は大会がもたらしたポジティブな遺産の1つだ

更に、今大会の開催決定が大きなきっかけとなり、大会開催に向けてより充実した交通網へと発展したのが「ジーリンク(G:link)」、ゴールドコーストの主要エリアを結ぶライト・レール・ネットワーク(LRN、通称トラム)だ。既に14年7月に開通していた路線に加え、コモンウェルス・ゲームに先んじての敷設完了を目指す突貫工事の末、延伸された路線も、無事に17年12月に開通。その延伸部がまさに前述の選手村の真横を通り、ブリスベンからの鉄道と接続するヘレンズベール駅までつながった。これで利便性も一気に増したライト・レールは、大会期間中は原則24時間運行され、期間中、通り抜けができないゴールドコースト・ハイウェー経由の交通を一手に引き受けるなど、同大会の運営に欠かせない存在となった。当然、大会後も市民の貴重な足としてこれまで通り利用されるので、こちらも今大会が生み出したポジティブなレガシーの1つに数えて異論はないだろう。

大会の経済効果はいかに

今大会の開催で、ゴールドコーストに一定の経済効果があるのは間違いない。特に観戦に訪れる人びとの宿泊先やその周辺の飲食店は潤う。しかし、それが普遍的なものかは疑問だ。実際、サウスポートの水泳会場(オプタス・アクアティック・センター)の真横にある自社ビルで長年ビジネスを営む筆者の知人の経営者が「顧客のアクセスが制限されるので、大会期間中は休業しなければならない。一方で、それに対する補償などは何もなく、正直とても厳しい」と語るように、華やかな大会の陰で直接的な打撃を受けるビジネスも少なくない。

8日にはピーター・ビーティー実行委員長が「ブリスベンの人びとが、(交通事情などを)心配してゴールドコーストに来るのを渋っているなら、それは間違いだ。街には駐車場の余裕はあるので、とにかく出掛けて欲しい」との異例の呼び掛けを行った。これは、大会序盤の来場者の動きの出足が鈍いものだったことを如実に物語っている。

4月号の「大会観戦ガイド」にメッセージを寄せてくれたケイト・ジョーンズ担当大臣は、以下のように語る。

「今大会は、QLD州の観光業にとって、すばらしいプロモーションの機会となる。大会期間中には、およそ1,100万人の国内外からの訪問者を見込み、世界的規模でのテレビ放映によって、ゴールドコーストは15億人の目に触れる」

これだけの訪問者がお金を落として、英連邦諸国内で大きなアピールができるのであれば、経済効果は見込めるが、それが限定的になってしまうのでは公平さを欠く。悩ましい問題だ。

観光都市として人気を集めるゴールドコーストが、今回の大会で今まで以上に注目を集め、多くの観光客を国内外から更に呼び寄せられるのであれば、長期的な視点に立った時、大会開催は同地の成長への有効な投資だったと言えるだろう。ただ、今、それを判断をするのはあまりに早計。数年を経て、地元住民が「開催して良かった」と振り返れて初めて、「成功した大会」と総括できる。その日を待つしかない。

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