【QLD】ルーシーのアート通信「Utopia Panels」

ルーシーのアート通信

オーストラリアのアート業界で活躍中のコラムニスト・ルーシーが
オーストラリアを中心に活躍するアーティストと彼らの作品をご紹介。

第3回 エミリー·カーメ・ウングワレー(Emily Kame Kngwarreye)
「Utopia Panels」

「Utopia Panels」Synthetic Polymer Paint on Canvas 262.8cm x 84.7cm each by Emily Kame Kngwarreye (Anmatyerre people Northern Territory, Australia 1910 - 1996)
Collection: Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art
「Utopia Panels」Synthetic Polymer Paint on Canvas 262.8cm x 84.7cm each by Emily Kame Kngwarreye (Anmatyerre people Northern Territory, Australia 1910 – 1996)
Collection: Queensland Art Gallery | Gallery of Modern Art

近年、アボリジナル・アートはオーストラリアの現代アート及び、ポスト・モダン(脱近代主義)・ビジュアル・アートを語る上で重要な創作表現としての立場を確立し、アボリジニーのアーティストは、国際的に認知されている。

今回は、オーストラリア先住民女性アーティストであるエミリー·カーメ・ウングワレーの18枚のパネルから成る「ユートピア・パネル」のうち3作を紹介する。

アリス·スプリングスの北東230キロに位置する砂漠地帯はアボリジニーとって「ユートピア(理想郷)」とされ、先祖の名前に由来する5つ地域の集合体であった。彼らのアートの歴史は、「Dreamtime」と呼ばれるアボリジニーに伝承される天地創造の神話を、手で砂に描いていたことから始まる。当時のアボリジナル・アートは全てドット(点)を基調として構成され、手作業でアートを完成させる伝統的な方式が重んじられていた。その常識を覆したアーティストの1人がエミリーである。

彼女自身も砂絵やバティック(ろうけつ染め)の制作を行っていたが、1980年代後半にオーストラリア中央西部からアクリル塗料・ブラシ・点描ツールなどの現代的な美術様式が導入されて以来、複雑で多色を要するストーリーを絵画により表現することが可能となった。そして、瞬く間にアボリジニーの作品の色合いとスタイルは大胆に変化していった。彼らの表現様式は、従来手書きで描かれていたころの細かな点を基調としたドット・スタイルとは一線を画し、カラフルで現代的な手法を取り入れ、その後独特な「ユートピア・アート」を確立した。

アボリジニーには女性の体にボディー・ペイントを施す「Awelye」と呼ばれる習わしが今なお根付いている。生涯を通して儀式用のボディー・ペインターに従事していたエミリーは、女性の体に施されるペイントをキャンバス上で表現する独自の方法を編み出した。その際、ドットを基調として描く代わりに、大地を想起させるような大胆な直線や繊細なストライプを用いた。それは、従来のアボリジナル・アートのイメージとは対照的な、新しい方向性を築いたのである。「ユートピア・パネル」は書道のように優雅で力強い一筆で流動的に描かれており、大胆かつ自然体で躍動感がみなぎっている。

18枚から成る同作は、96年にQLD州立美術館に委託され、同年4月に完成した。彼女は作品を通して、人が道を歩けば足跡が残るように、故郷(Alhalkere)を思いながら、先祖から受け継いだ民族の歴史や精神を後世に伝えようとしていたのである。


ルーシー・マイルス(Lucy Miles)
オーストラリアと日本のアート業界で25年以上の経歴を持つ。クイーンズランド・カレッジ・オブ・アート並びにグリフィス大学でファイン・アート(ペインティング)の美術学士、クイーンズランド大学では美術史の優等学位を取得。現在、QLD州のサウスポートを拠点にファイン・アート・コンサルタントとして活躍中。
■Email: luceartbrands@gmail.com
■Web: www.luceartbrands.com.au

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