「増えすぎた野生動物」が意味するもの

オージー・ワイルドライフ 診療日記

第24回「増えすぎた野生動物」が意味するもの

野生動物の保護活動が盛んなオーストラリアですが、近年、野生動物の殺処分が話題になることが増えている気がします。ビクトリア州政府が一部の地域で「増えすぎた」野生のコアラを間引きするために686頭を殺処分したというニュースは世界中で報道され、たくさんの議論を引き起こしました。

8月初めには、ゴールドコーストのリゾート施設の敷地内に生息しているカンガルーが「増えすぎた」ために100頭を殺処分する計画が明るみになり、動物愛護団体や周辺の住民たちが反対デモや署名で殺処分中止を呼びかけました。ほかにも、野生のカモの狩猟を解禁にしたり、人に危害を加える恐れのあるホオジロザメや感染症ウイルスを宿している可能性のあるコウモリの駆除など、あちこちで野生動物を管理しようという動きが後を絶ちません。

オーストラリアのアイコン的存在、カンガルーも間引きの対象になることがある
オーストラリアのアイコン的存在、カンガルーも間引きの対象になることがある

野生動物が「増えすぎた」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。都市部の生活ではコアラやカンガルーを目にする機会はあまりなく、動物の頭数が増えすぎたと言われてもなかなかピンと来ません。私自身、治療を通して野生動物が生き残ることの厳しさを目の当たりしているため、頭数が減ることはあっても、増えすぎるという状況は不思議でなりません。

野生動物の個体数を正確に把握することはとても難しく、一部地域の観測データを元に推測することがほとんど。元々の数が分からなければ増減を判断できるはずもありませんが、一見増え過ぎているように思えてしまう状況は確かにあるのです。土地開発により元の広大な領域を追われ、都市部に点在する森林や草地など狭い区域で生きることを余儀なくされた動物たちは、そこから移動することも難しくなります。そうしてたくさんの動物が狭い区域に生息するようになれば当然、食料不足や争いも起こります。つまり実際には、動物の個体数が増えたのではなく、動物が住む場所が狭くなっているのです。

食料不足で餓死してしまうことを避けるために殺処分、という状況まで追い詰められてしまう前に、これ以上野生動物の生息地を脅かすことのないよう、国全体で対策が練られることを切に願います。

 
 
■床次史江(とこなみ ふみえ)

クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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