ハイイロ・リングテール・ポッサムの巣立ち

オージー・ワイルドライフ 診療日記

第45回 ハイイロ・リングテール・ポッサムの巣立ち

コアラやカンガルーなど、たくさんの有袋類が生息しているオーストラリアですが、その多くが夜行性で、私たち人間の前にはなかなかその姿を現してくれません。そんな動物たちを見られるのが動物園の良い所ですが、オーストラリア中の動物園でも少数しか飼育されていない種の1つが、ハイイロ・リングテール・ポッサム(Common Ringtail Possum)です。

体重は1キロ以下で、同じポッサムの仲間であるフクロギツネ(Common Brushtail Possum)の半分程の大きさで、比較的おとなしい性格です。

赤茶色の毛と細長い尾が特徴で、この長い尾を木の枝に巻き付けて木を登ったり、巣の材料となる小枝を運んだりします。

ハイイロ・リングテール・ポッサムの赤ちゃんは生後約4カ月で、育児のうと呼ばれる母親の袋から出てきます。30種もあるポッサムの中で唯一、父親が赤ちゃんを背負って育児に協力するのがこのハイイロ・リングテール・ポッサムです。

育児のうを出入りしている時期の赤ちゃんはその姿や大きさがネズミによく似ているため、猫に捕らえられてケガをすることがよくあります。また、夜中に餌を探して移動している時に車に轢かれてしまい、赤ちゃんだけが助かることもあります。

ハイイロ・リングテール・ポッサムの赤ちゃん
ハイイロ・リングテール・ポッサムの赤ちゃん

孤児となったポッサムの赤ちゃんは、独り立ち出来るようになるまで保護士さんの元で育てられます。もし保護されたのがたった1匹だけだったとしても、同じくらいの大きさの赤ちゃんを育てている保護士さんを探し、単体ではなく複数のポッサムをきょうだいとして育てます。そうした方が、野生に返した時にポッサム社会に馴染みやすいとされているからです。

保護された赤ちゃんの大きさによりますが、2時間おきにミルクをあげ、排泄の手助けをし、ケージの温度や湿度のコントロールにも気を使い、保護士さんは大忙しです。

ある程度大きくなると、「ソフト・リリース」と言われる屋外の大きなケージに移され、開けっ放しの扉から自由に出入りが出来ます。最初のうちは、夜はケージの外を散策して日中はケージ内の巣箱で過ごしますが、徐々に行動範囲を広めていき、ある日突然帰ってこなくなります。赤ちゃんのころから一生懸命育てたポッサムが巣立つのは、嬉しくも寂しくもあるものです。


■床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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