ハリモグラ

第58回
ハリモグラ

冬になり、保護される野生動物の数は全体的に減りましたが、コアラやコウモリ、そしてハリモグラは例年になく多くなっています。

ハリモグラ(Short-Beaked Echidna)はオーストラリア全土に生息し、土壌に穴を掘って生活しています。縄張りを持たないため行動範囲が広く、のしのしと移動しながら鋭い嗅覚でアリやシロアリを見つけ、20センチにも及ぶ長い舌を出し入れして餌を飲み込みます。また、哺乳類でありながら、卵を産み、育児嚢(いくじのう)や母乳で子どもを育てます。

ハリモグラの繁殖期は5月から9月ごろで、この時期は気温が下がるにもかかわらず活発に行動します。そのため、夕方から夜にかけて移動中の車と接触したり、犬に噛まれてけがをしてしまったハリモグラがたくさん保護されます。

ハリモグラは危険に晒されると素早くボールのように丸まって、弱点であるお腹を守ろうとします。硬いトゲのお陰で内臓や手足は無事でも、くちばしの先端だけは守り切れずにあごの骨を折ってしまったり、大出血をすることがあります。

ハリモグラの親子(写真協力=カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリー)
ハリモグラの親子(写真協力=カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリー)

くちばしにけがをしてしまうと、鼻腔の変形や出血により呼吸困難になったり、餌を見つけるための嗅覚や舌を素早く出し入れするアゴの筋肉に支障が出て捕食できなくなってしまうため、ハリモグラにとっては致命傷なのです。

ハリモグラは、環境の変化や音にとても敏感でストレスが溜まりやすく、入院中はケージの掃除や投薬の回数も最低限にとどめ、音や振動を抑えるためにケージ付近は忍び足で動きます。多い時では7頭のハリモグラが入院していたこともあり、足の踏み場に困りました。

野生のハリモグラの治療の他、カランビン・ワイルドライフ・サンクチュアリーではクイーンズランド大学と提携して、ハリモグラの生態を研究しています。難しいとされている飼育下での繁殖に成功した数少ない施設の1つであり、研究目的で飼育されているハリモグラの繁殖行動を観察したり、必要であれば人工保育を行うこともあります。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る