ダニ麻痺(まひ)症

第63回
ダニ麻痺(まひ)症

カランビン野生動物病院(Currumbin Wildlife Hospital)があるゴールドコーストは、夏に向けてジワジワと蒸し暑くなってきました。

毎年8月から3月にかけて、オーストラリア東海岸では犬や猫の「ダニ麻痺症」が頻発し、動物病院はどこも大忙しになってしまいます。「オーストラリア麻痺ダニ」は、草や茂みに生息し、皮膚に噛(か)み付いて血を吸うと同時に神経毒を注入します。歩行がふらついたり立てなくなる初期症状から、まばたきができない、声が出しづらい、水や餌を飲み込めないなどへと重症化し、呼吸筋が麻痺して死に至ることもある、とても危険な病気です。

犬や猫だけでなく、私たち人間にも害を及ぼすダニ麻痺症ですが、オーストラリアの野生動物も例外ではありません。

ダニ麻痺症の治療を受けるシャクシギ科の幼鳥
ダニ麻痺症の治療を受けるシャクシギ科の幼鳥

普段から草むらに生息していて麻痺ダニの宿主となっているカンガルーやハリモグラなどには麻痺の症状は現れませんが、地面に下りてくることが少ない動物ほど、ダニの持つ神経毒の影響を受けやすいようです。

ここ2カ月、ダニ麻痺症に侵された鳥やコウモリが毎週のように保護され、病院で治療を受けています。足の麻痺や呼吸困難など、症状は犬や猫とほぼ同じです。治療法も、ペットの犬や猫の治療に使う物と全く同じ血清を静脈注射します。食べ物をうまく飲み込めない嚥下(えんげ)障害がある場合は、水や餌を与えることができないので、点滴やチューブによる強制給餌(きゅうじ)が必要です。まぶたが麻痺して目を閉じられない場合は、人工涙液(るいえき)を点眼して角膜を保護しなければなりません。

ペットの犬や猫を麻痺ダニから守るためには、ダニ予防のための薬を継続的に使用し、更に毎日体毛をかき分けてダニを探すことが一番効果的です。

野生動物は、ダニ予防することはできませんが、早期に治療を受けることができれば回復するチャンスはあります。もし地面で動けなくなっている野生動物を見つけたら、けがだけでなくダニ麻痺の可能性も考え、できるだけ早く動物病院に連れて行ってください。


床次史江(とこなみ ふみえ)
クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっている他、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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