世界最小の有袋類

 オージー・ワイルドライフ 診療日記

 第20回 世界最小の有袋類

空中を行き来することのできる有袋類には、大きく分けてモモンガとコウモリがいます。鳥のように翼を使って空を飛ぶコウモリと違い、モモンガは飛膜と呼ばれる肘から膝まである皮膚を広げて木から木へと滑空します。オーストラリアには6種類のモモンガがいますが、その中で最小のものがチビフクロモモンガ(Feathertail glider)です。


保護されたチビフクロモモンガ


チビフクロモモンガという名の通り、体長8センチ、体重10グラムほどしかない小さなモモンガですが、その動きはとても素早く、滑空できる距離は25メートルにも及びます。あまりに小さいので、野生でその姿を見られることは稀ですが、実は意外と身近に生息していて、ほかの野生動物と同じように危険な目にも遭っています。

ペットの猫が外でネズミを捕まえてきた、と猫の飼い主さんが「ネズミ」を連れて病院にやって来ます。ふたを開けてびっくり、それはネズミではなくてチビフクロモモンガだった、ということは本当によくあるのです。子ネズミほどの大きさしかなく、素早い動き、鋭い前歯までそっくりですから見間違えるのも無理もありません。チビフクロモモンガの1番の特徴は、平べったく鳥の羽根のように見える尻尾です。

先週入院したチビフクロモモンガも、猫に捕まってケガを負っていました。病院に着いてすぐはまったく動こうとせず、背中と左後肢に傷があったため脊椎損傷が心配されました。しかし触診をしようとした途端に箱から逃げ出して、病院の診察室を跳び回りました。誤って踏んでしまったり、手に力を加え過ぎたりしないように、捕まえるのにも気を遣います。結局3人がかりで捕まえて、麻酔をかけてから検査を行いました。

このモモンガはメスで、お腹の袋には4匹の赤ちゃんがいました。小指の爪の先ほどの小さな小さな赤ちゃんたちです。幸いお母さんは軽症で、脊椎に問題がないこともその素早い動きで証明済みでしたので、数日間痛み止めと抗生物質の治療を受けた後、野生に返されることになりました。

普段目にすることがなくても、身近にいるかもしれない小さな動物たちのことも覚えておきたいものです。

 
 
■床次史江(とこなみ ふみえ)

クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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