トカゲのしっぽ

オージー・ワイルドライフ 診療日記

第22回 トカゲのしっぽ

皆さんがオーストラリアで最初に遭遇した野生動物は何でしたか。私は日本からオーストラリアに来て間もないころ、大学に向かう途中の歩道で、初めてウォーター・ドラゴンを目にしました。日本でよく見かけた「トカゲ」とはその姿形も大きさもまるで違っていて、こちらに向かってきたらどうしよう、と少し怖いとすら感じたのをよく覚えています。

ヒガシ・ウォーター・ドラゴン(Eastern Water Dragon)は、オーストラリア東部全域にかけて生息しています。主に樹上で見られますが、敵から逃れるために水に飛び込んで、90分近く潜っていることもあります。オスは体長1メートル近くまで成長し、腹側の皮膚は鮮やかな赤色をしているのが特徴です。この赤色の皮膚を見て、「ケガをして出血している」と勘違いしてしまう人も少なくありません。


再生したしっぽの先端が奇形になったヒガシ・ウォーター・ドラゴン

トカゲの中には、外敵から逃れるために自らしっぽを切り捨てるという特殊な機能を備えている種類がおり、ウォーター・ドラゴンも同様です。ペットの犬や猫、またはほかの野生動物に捕まりそうになったとき、自ら切り捨てたしっぽをおとりにして逃げます。切れてしまったしっぽは再生できますが、失ったしっぽの部分の脊椎を再生することはできず、皮膚や筋肉の再生にもかなりの時間とエネルギーを必要とします。そのため元のしっぽよりも短かったり、色が違ったりすることがほとんどです。

しっぽをなくしたばかりのウォーター・ドラゴンが保護され病院に連れて来られた場合、まずしっぽがどれくらい残っているか、切断面はきれいか、身体のほかの部分に異常はないかを調べます。特に問題がない場合の治療はいたってシンプルで、きれいな寝床を用意し2、3日様子を見てから元いた場所に返します。体長の3分の2もあるしっぽの大部分をなくしてしまっても問題はないのですが、根元近くからなくしてしまうと繁殖や排泄に支障をきたすこととなり、命に関わります。切断面から感染症にかかる場合もあり、敵から逃れられたからといって全く無事というわけではありません。

写真のウォーター・ドラゴンのように、再生したしっぽが奇形ということもよくありますが、命の危険から身を守った証なのですね。

 
 
■床次史江(とこなみ ふみえ)

クイーンズランド大学獣医学部卒業。カランビン・ワイルドライフ病院で年間7,000以上の野生動物の診察、治療に携わっているほか、アニマル・ウェルフェア・リーグで小動物獣医として勤務。

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