第9回 「3Dプリンター」

 

第9回 「3Dプリンター」

分かっているようで、実はよく分からないものが多いITワードを岩戸あつしさんが分かりやすく解説してくれる。

3Dプリンターという言葉を最近よく耳にします。2021年には1兆円規模の産業になると言われており、その後も拡大を続けていくと言われている現在最も有望な技術の1つです。でもまだ多くの人は、立体を作るプリンターだという漠然としたイメージしかないのではないでしょうか。また、高価なものと、はなから思い込んで自分とは関係ないと思ってあきらめている人もいると思います。価格でいうと最近はかなり安くなってきており、日本では20万円を切る価格で個人用の3Dプリンターが手に入るようになりました。

今年の6月19〜21日にかけて東京ビッグサイトで開催された「設計・製造ソリューション展」では約30社から最新の3Dプリンターが出そろいました。3Dプリンターではアメリカの企業が先行している中、日本製の3Dプリンターも出てきています。

さて、3Dプリンターはどんな形をしていて、何が作れ、将来はどうなるのか、そしてなぜ今そんなに注目されているのか?最新の情報をお伝えしましょう。

3Dプリンターはどんな格好?

最近の個人用3Dプリンターは、写真にあるようにサイコロを大きくしたような形で、このモデルの外形寸法は「高さ404ミリ、幅376ミリ、奥行き333ミリ」で、この中に骨組みやレール、ヘッドが組み込まれています。例えて言うならUFOキャッチャーに構造が似ています。これで作ることができる最大造形サイズは高さ175ミリ、幅150ミリ、奥行き150ミリで、価格は約18万円です。このモデルでは小さな造形しかできませんが、産業用の大きなものは、ボックスがサイズに応じて大きくなり、大きさに従って価格も上がっていきます。

何が作れるのか?

今のところ素材はプラスティック、樹脂が主です。造形方法ですが、UFOキャッチャーのようにヘッドが上から降り、前後左右にヘッドを動かし、溶かした素材を薄くペンキを塗るように塗りつけていきます。それが終わると高さを0.1ミリほど上げ(機械によって精度は異なります)、先ほど塗ったものの上にさらに塗りつけます。このようにして何度も何度も上から上に塗りつけ、層を重ね、最終的な造形が現われるまで行います。今のところ1回の造形で1時間以上かかるのが普通で、量産という点では課題が残ります。ただ、今までの手彫りや組み立てや型による造形とは以下のようなポイントが決定的に異なります。

 

・CADで設計されたものや3Dスキャンされたものを忠実に何度でも再現できる。

・造形したものの修正、追加が簡単にできる。

・将来金属など新しい材料の利用が可能になれば、工作機械を使わずに直接機械製品や部品を作ることができるようになる。

今はプラスティック・モデルを作っているわけですが、将来は本物を作る機械になることが期待されていいます。具体的には素材をプラスティックや樹脂だけではなく、金属などの素材を使えるようにし、精度を実用レベルまで上げ、生産速度を速くし、コストを大幅に下げられるという予想があるからこそ、全世界で、もの作りの革命になると期待されているのです。

さまざまな産業への応用

建築業界にとって、大きいのは新しいビルの精密模型が簡単に作れるようになったこと。日本の自動車会社では、3Dプリンターでエンジンを試作して流体のテストに使っているとのことです。また、最近オーストラリアのある大学で、3Dプリンターによって人工臓器を2021年までに作るといったことが話題に上りました。3Dプリンターで作れるライフル銃設計図がウェブに載って大きな話題になったのも記憶に新しいと思います。

世界の産業地図を変える?

オーストラリアを例に取ると、オーストラリアは人件費の最も高い国の1つで、今の状況であればとても工業製品を生産するということは考えらず、市場にはメイド・イン・チャイナが溢れています。しかし、もし3Dプリンターだけでもの作りができるようになれば、設計者だけが必要で労働者が必要でなくなるため、どこで作っても同じようなコストになり、現地生産が増えてくることが考えられます。アメリカでもオバマ大統領が早くからそのことに注目し、衰退した製造業の復興の起爆剤としてインターネット以来の産業革命と位置付けているようです。逆に最先端の製造技術をもつ日本はとても微妙な立場でしばらく様子見というところでしょうか。

バーチャルからリアルへの転換

3Dプリンター革命をひと言で言いますと、「バーチャルからリアルへの転換」と言えます。いままで3Dと言えば立体映画のように実際は3次元のものをどのようにして2次元の中でバーチャルで見せるかというものでした。3Dプリンターはこれまで、バーチャルでしか見られなかったものを実物として実現させるものです。この革命の最大のポイントは、バーチャルに慣れた現代人、特に将来ある子供たちにスクリーン以外の現実の夢、ものづくりの夢を与えることです。さあ部屋の中に閉じこもっていないで、広い外に出てみましょう。

 

岩戸あつし <著者プロフィル>
大学院卒業後、貿易会社を経て、コンピュータ・エンジニアとして活躍。日経CG などへの執筆、PCショーの講師を勤める。1992年、オーストラリアに移住。1994年シドニーにジャパン・コンピュータ・ネットを設立、主にシドニー在住の日本人、日本企業にコンピュータ・サービスを開始する。現在同代表取締役社長。

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