クルーズ船上で起きた女性の謎の死に迫る

オーストラリア・クライム・レポート随時連載 第2回
オーストラリアで起きている犯罪を随時レポート
オーストラリア・クライム・レポート
クルーズ船上で起きた女性の謎の死に迫る

 庶民的なクルーズとしてオージーに人気のあるパシフィック・スカイの船上で2006年9月、ダイアン・ブリンブルさん(当時42歳)という女性の死体が発見された。彼女のキャビンではなく、4人の男たちがシェアしていたキャビンで、全裸死体で発見されたため、最初の断片的なニュースでは、憶測が憶測を呼び、一般人には、男たちにレイプされ、殺された事件のような印象を与えた。翌年、事件に関する審理が始まり、審理は前代未聞の63日という長期にわたって75人の証言者を喚問し、ブリンブルさんの謎の死の全貌を明らかにした。


出航された死のクルーズ
 ブリスベンの郊外に住んでいたブリンブルさんは2回の離婚歴を持つ、いわゆるシングル・マザーで、「フリーダム・ファニチャー」という家具店に勤めていた。生計は楽ではなく、娘の分を含めたこのクルーズの費用(1人当たり2,100ドル)を貯めるのに、数年の期間を要したという。
 クルーズでは、彼女の姉とその息子も同行し4人でキャビンをシェアしていた。このクルーズに乗り込む時のスナップ写真が公表されたが、デッキを上がる途中、満面の笑顔で手を振るブリンブルさんの様子は、どれほどこのクルーズを楽しみにしていたかが手に取るように分かる。
 一方、後に「アデレードからの8人の要注意の男たち」という異名を取る一行が乗船していた。ボディビルダーのような筋肉隆々の30代の男たちの一行で、男たちだけのクルーズ・ホリデーという旅。友達同士あるいは友達の友達という構成だった。
 記事中の写真は、出発前にターミナルで撮られた写真だが、運命の一瞬を捕らえたものと言える。確認しづらいが、彼らの後方にブリンブルさんの姿がキャッチされている。この時点では、お互いに赤の他人。そしてその日の夜に、ブリンブルさんは全裸死体で発見され、彼らはその死亡事件に関わったかもしれない「疑惑の人物たち」という関係に大変貌を遂げる。
 この8人の集団は悪い意味で目立っていたらしく、特に女性の乗船客はかなり敬遠していたとのこと。ちなみに、同行していたブリンブルさんの姉は、「ああいう男性は目で女性のドレスを脱がしているタイプだから、気を付けなくては」とブリンブルさんに警告していた。
 クルーズがスタートし、最初の夜はオープニング・ナイトとして、飲み物が飛び交い、あちこちで自己紹介があり、ダンスに興じるなど典型的なクルーズのエキサイティングな夜が展開されていた。
 ブリンブルさんは、自らこの8人のグループに近付き自己紹介をし、仲間に入ろうとした。8人はそれぞれ、この時の心理状況を、後の審理で説明した。ブリンブルさんには失礼だが、ひと回り年が上であったことと、少々肥満タイプだったことから、彼女にはあまり興味を示さなかったと彼らは証言している。彼らの興味を大いに引いたのは、船内の20代の若い女性たちだったという。
 これ以降、なぜそうなったのか事情がクリアではないが、真夜中を過ぎ、3時、4時になり、パーティーがお開きになった時、ブリンブルさんは彼らのキャビンに同行する。誰に強制されたわけでもない。まだパーティー気分が抜けなかったのか、自分の意志で――。
 そして、その内の1人である、マーク・ウイリヘルムとセックスをする。その後、キャビンのフロアで意識をなくして倒れるが、同室の男たちは彼女が飲み過ぎで倒れたものと思い、何の看護もしなかったが、ブリンブルさんはこの時点で絶命していた。
 彼女の死に気付き動転した男たちは、正直に、トラブルを避けるため一時は死体を海に投げ捨てるというとんでもないことを考えたことも告白しているが、結局、船内の事務所に緊急報告をした。
舫いどころのない検死結果
 解剖の結果、ブリンブルさんの体内から、多量のアルコールとエクスタシー(ドラッグ)が発見され、それが呼吸停止の原因となり死を迎えてたものという決断が下された。
 審理が終わって半年がゆうに過ぎたが、現時点では誰も起訴されていない。専門家によると、犯罪として問われる部分があるとすれば、非合法のドラッグであるエクスタシーの所持で(もう1つはブリンブルさんが、スパイキング[飲み物にこっそり薬物を加えること]によって知らずにエクスタシーを摂取させられたのならば犯罪だが、彼女はエクスタシーを摂取することに同意したとウイリヘルムは主張しており、これはもはや藪の中でしかない)、その場合、前例から有罪になったとしてもコミュニティー・サービス程度の罰しか課せられない。
 今回の事件で悪者としてメディアに徹底的に叩かれたのがアデレードからの8人の男たちだが、死者に鞭打つことはしたくないが、ブリンブルさんへのある種の批判もなくはない。いくら姉が同行しているとはいえ、キャビンに小さな娘をほったらかしにして、3時、4時まで浮かれていることや、屈強な男たちだけのキャビンに何の警戒もなく同行すること、果ては、そのキャビンでセックスに興じていることには、頭をかしげたくなるのも当然だ。
 この事件の個人的な感想でしかないが、英語で言う方がぴったりくるのだが、“She doesn’t deserve this kind of death”と“She can enjoy the sex the way she wants”を頭に入れた上で、何と言うのだろう、熟年女性の用心あるいは警戒または知恵が働いていれば、幼い子どもを残して不慮の死を迎えるような悲劇が避けられたのでないかと思い、それがとても残念だ。
(KS記)

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