政策金利、史上最低に

経済ハイライト

小平直樹・時事通信社シドニー特派員
オーストラリア経済の動き

政策金利、史上最低に

 

 オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)は、豪ドル高などで圧迫される景気を下支えるため、政策金利を史上最低の2.75%に引き下げた。しかし、連邦政府予算案が財政状況の大幅悪化を示す内容となったことなどが重しとなり、消費者信頼感指数は7カ月ぶりに楽観と悲観の分かれ目となる100を割り込んだ。米自動車大手フォード・モーターの豪州生産撤退表明は、消費者心理をさらに押し下げる可能性がある。

 RBAは5月7日の理事会で、政策金利の0.25%引き下げを決定した。利下げは5カ月ぶりで、政策金利は2.75%と、1990年以降の現行制度下で最低となった。相当する金利の推移をそれ以前にさかのぼってもRBAが設立された60年に記録した2.89%がそれまでの最低だった。RBAの利下げを受けて銀行は、標準変動型住宅ローン金利を相次いで引き下げた。

RBAは、これまで経済をけん引してきた資源開発投資がピークを迎えていることや、豪ドル高、財政健全化への取り組みを成長の圧迫要因として指摘しつつも、その影響度については、今年の成長が「長期平均を若干下回る」程度との基本的な見方を変えていない。

13 年平均の実質G D P(国内総生産)成長率は2.75%と予想しており、14年は長期平均に向かって徐々に加速していくとみている。

◇緩和余地の一部使う

成長がマイナスに転じるような状況でないにもかかわらず、政策金利を史上最低水準に引き下げた理由について、RBAは、インフレを十分に抑制できる見通しとなっていることで生じている緩和余地の「一部」を使って「持続可能な成長の下支え」を狙ったと説明している。利下げは6月以降と見ていたエコノミストの間からは「利下げを正当化する理由に乏しい」との声も上がった。

RBAの利下げは、「豪州が世界的な通貨戦争に加わった」とも報じられた。日本銀行の異次元金融緩和、欧州中央銀行(ECB)の利下げの後で、豪ドルの押し下げを狙ったとの見方だ。

国際的には「通貨安競争の回避」がうたわれているが、主要先進国の金融緩和は、結果としてその通貨の下落につながっている。豪ドル相場は、資源価格の下落や、金利の低下にもかかわらず、「歴史的に依然高い」(RBA議事録)状況が続いていた。

RBAは、緩和余地の「一部」を使ったとして、先行きの追加利下げの可能性に含みを残している。豪ドルは、理事会前には1豪ドル=1.02米ドルを上回っていたが、利下げを受けて下落。米国の量的緩和の早期縮小観測を背景とした米ドル買いの流れがさらに豪ドルの下げを加速させ、5月23日時点で0.96米ドル台と約1年ぶりの安値水準となっている。

豪ドルは、円安の進行もあり、対円ではそれほど下げていない。

◇歳入が見込み下回り、財政悪化

ギラード労働党政権は5月14日、政府予算案を発表した。それによれば、現行12 年度(2012年7月〜13年6月)の財政収支(基礎的現金収支ベース)は、最終的に194億ドルの赤字となる見通しとなった。昨年10月時点では11億ドルの黒字を見込んでいたのだが、ギラード政権は昨年12月、税収が想定よりも大幅に落ち込んでいることを受け、12年度の黒字化公約を撤回した。

13年度も180億ドルの赤字、15年度になって収支がほぼ均衡し、本格的な黒字は16年度に繰り延べされた。税収が想定を下回ることになった理由についてギラード政権は、輸出資源価格の下落や豪ドル高で企業利益が圧迫されたことなどを挙げている。

財政収支黒字化は先送りされたが、格付け大手3社は、いずれも豪国債の最上位「トリプルA」格付けと「安定的」とする見通しを再確認した。

予算案は、障害者ケア(全国障害者保険制度)の導入に向け、財源の一部となるメディケア税の0.5%増税や、教育改革のため14年度から6年間で98億ドルの投資、新生児1人当たり5,000ドルを支給していた新生児給付の減額などが盛り込まれた。選挙前の予算案にありがちな、ばらまき的要素に乏しく、「責任ある経済運営姿勢」(エコノミスト)をアピールするものとなった。


VIC州ジローンのフォード圧造工場

◇予算案が消費者心理冷やす

 ウエストパック・メルボルン研究所が発表した5月の消費者信頼感指数(季節調整ずみ)は97.6となり、前月(104. 9)比7. 0%低下した。予算案の発表をまたいで5月13〜18日に実施された調査によるもので、指数は12年10月以来7カ月ぶりに楽観と悲観の分かれ目となる100を割り込んだ。指数は、この2カ月間で計11.7%低下しており、12年8月以来の低水準となった。

ウエストパックのチーフ・エコノミスト、ビル・エバンズ氏は、政府予算案に対する否定的な反応が利下げの朗報を上回り、信頼感を低下させたと分析している。予算案への評価についての質問で、暮らし向きが悪化すると考える人は44%、良くなるとしたのは5.4%だった。エバンズ氏は「消費者信頼感はぜい弱だ」と指摘。RBAは6月に追加利下げし、政策金利は今回の利下げ局面で2%にまで低下すると予想している。

◇フォード、工場閉鎖へ

フォードは5月23日、コスト高を理由に、1925年以降続けてきた豪州での乗用車生産から撤退することを明らかにした。16年10月にVIC州のエンジン工場と自動車組立工場を閉鎖し、国産モデル「ファルコン」の歴史も幕を閉じる。約1,200人が解雇されるが、工場閉鎖後も研究・開発や販売関連で1,500人以上を雇用するという。

フォード豪子会社のグラツィアーノ社長兼最高経営責任者(CEO)は、豪州でのフォードの生産コストが「欧州の2倍、アジアの4倍近く」となっていることや、豪国内での販売が輸入車との激しい競争にさらされていることなどを指摘。同子会社は過去5年間に計6億ドルの赤字を計上しており、フォードとしての豪州生産は「長期的に存続不可能」と判断したことを説明した。

豪州では現在、フォードのほか、トヨタ自動車、ゼネラル・モーターズ(GM)子会社GMホールデンの3社が自動車を生産しているが、人件費を含む生産コスト高は構造的課題。輸入車のコストを押し下げる豪ドル高も競争力を削いでいる。

フォードは、主力の大型乗用車の販売不振から豪州生産が年4万台弱に縮小。トヨタやホールデンの半分以下となっており、スケール・メリットを出しにくい事情も抱えていた。

かつて豪州では、日産自動車や三菱自動車なども生産していたが、日産は1992年に、三菱は2008年に生産から撤退している。政府は、雇用維持などの観点から自動車産業つなぎ止めに補助金を投入してきた。フォードの決断は、豪経済において比重低下が続く製造業の将来を改めて考え直す機会にもなりそうだ。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る