成長減速、漂う不透明感

経済ハイライト

小平直樹・時事通信社シドニー特派員
オーストラリア経済の動き

成長減速、漂う不透明感

 

オーストラリアの2013年1〜3月期の実質GDP(国内総生産)統計では、国内最終需要が世界金融危機以来の前期比マイナスとなり、街角の景気減速の「実感」を裏付ける結果となった。ギラード前首相は、世界的に厳しい経済環境の中での「しっかりとした成長」であることを強調、悲観論を戒めたが、豪州の最大の貿易相手国である中国の成長鈍化懸念の強まりもあり、目先の見通しには不透明感が漂っている。

統計局が発表した1〜3月期の実質GDPは、12年10〜12月期比では0.6%増と前期並みだったが、前年同期比でみると、2.5%増と前期の3.2%増から鈍化した。前年同期比2.5%という成長率は、QLD州での大洪水とサイクロン被害からの回復過程にあった11年4〜6月期の2.4%以来の低さだ。国内最終需要は前期比0.3%減となったが、これは09年4〜6月期以来のマイナス。
 輸出を含まない最終需要を州別に見ると、WA州が前期比3.9%減、北部準州が10.2%減と、これまで資源開発投資ブームをけん引してきた両州の落ち込みが目立った。そのほかは、SA州が0.3%減、TAS州が1.1%減。一方、VIC州は0.8%増、NSW州は0.4%増、QLD州は0.6%増となった。

◇景気後退の可能性?

 米金融大手ゴールドマン・サックスは、オーストラリアの今年の経済成長率予測を従来の2.4%から、2.0%へ下方修正。14年の成長率も1.9%にとどまるとした。豪ドル高や輸出商品価格の下落のほか、資源開発にけん引された企業投資が既にピークを過ぎたなどとし、14年の成長率は、豪州が前回景気後退に陥った1991年以降で最も鈍くなり、今後、景気後退に陥る確率も20%あるとした。
 ただ、豪州が2四半期連続の前期比マイナス成長として定義される景気後退に陥る可能性について、ナショナル・オーストラリア銀行(NAB)のチーフ・エコノミスト、アラン・オスター氏は「非常に低い」と述べている。同氏はABCの番組で、「消費は芳しくなく、資源開発投資が減少しても非資源部門投資がそれを補う状況でない」ことから、景気後退のように感じられるだろうが、資源輸出がGDPを支えていくとしている。
 5月の雇用統計は、失業率が5.5%と前月の5.6%から改善、就業者数も前月比1,100人増となった。この数字だけを見ると、良くなっている印象を受けるかもしれないが、内訳を見ると、パートタイムの雇用が6,400人増加した一方で、フルタイムが5,300人減少しており、就業者全体の総労働時間でみれば、むしろ前月に比べ0.7%減少している。
 オスター氏は、フルタイムよりもパートタイムで必要な人手を間に合わせようとする雇用の傾向が見て取れると指摘。「失業率はトレンドとして悪化方向にあり、年末までには6%かそれを少し上回るかもしれない」と予想した。同氏によれば、鉱業の景況感はトレンドを下回り、小売業や製造業、建設業なども後ずさりしている。住宅価格は上昇するかもしれないが、消費者の信頼感は必ずしも新しく住宅を建てるほど強くないという。
 個人消費に関しては、豪準備銀行(RBA、中央銀行)も今年初めに上向いたようだが、「直近ではペースが鈍化したかもしれない」との見方を示している。一方、オスター氏が明るい面として挙げているのは、石炭出荷関連の輸送業のほか、娯楽・教養サービス業だ。悲観と楽観のはざまで揺れる消費者だが、「健康や教育、海外旅行といった自分が欲しいサービスにはお金をかけている」と指摘している。

◇豪ドル下落で、輸入品値上がりへ

外国為替市場での豪ドル相場は、6月21日朝時点で、1豪ドル=0.92米ドル近辺、対円では89円台後半。今年4月の1.05米ドル台、105円台の高値からは、1割超の下落となった。豪ドルの値下がりは、これまで豪ドル高に苦しんできた製造業や国内の観光業、留学生を受け入れる教育関連、農業にとっては助けとなるが、消費者にとっては、家電など輸入品の小売価格上昇という形で影を落としそうだ。
 シドニー・モーニング・ヘラルド紙によると、家電・家具小売り大手ハービー・ノーマンのハービー会長は、商品の仕入れや在庫の回転サイクルなどを踏まえ、3カ月後には輸入商品の価格が10%上昇しているだろうと述べている。豪ドルが0.80米ドルを下回るようなら、消費者は25%の値上がりを覚悟しなければならないだろうという。海外旅行やガソリンなども値上がりしそうだ。
 豪ドルの値下がりの背景には、米国の量的金融緩和の縮小観測がある。緩和縮小で米国の長期金利が上昇し、豪州の金利優位性、つまり、豪ドルを買う投資のうまみが薄れていくとの見方だ。6月19日には米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が、経済が予想通りに改善すれば、今年後半に国債などの資産購入ペースを縮小し、来年半ばに量的緩和を終了することが可能との見通しを示し、米ドルが買われ豪ドルは急落した。
 豪経済は減速しており、RBAは、必要であれば「一段の緩和余地が若干あるかもしれない」と、追加利下げの可能性に含みを持たせている。国内経済をこれまでけん引してきた資源開発投資はピークを迎えており「来年あたりまでは高水準で推移すると見込まれるが、その先はかなり不透明」(RBA議事録)とされる。GDPの成長を支える輸出の稼ぎ頭である鉄鉱石や石炭の価格もさえない。

◇気になる中国経済

資源価格にも大きく影響する中国経済の成長鈍化は大きな不安要因だ。6月のHSBC中国製造業購買担当者景況指数(PMI)は、景気判断の境目となる50を割り込んだ。中国の5月の貿易統計では、輸出が前年同月比で1.0%増にとどまり、4月の14.7%増から急減速した。その背景には、輸出の「水増し」疑惑に対する取り締まりがあるとされ、実態としては半年以上にわたって輸出低迷が続いていた可能性があるとみられている。
 中国は、輸出主導から内需主導の成長へと、経済構造の転換を図っている。人件費の上昇などで海外からの投資の減少傾向が続く一方で、不動産投資が過熱しバブル懸念が強まっている。中国では、もたつく景気のてこ入れのために金融緩和を求める声も出始めているが、そうすれば不動産投機をさらに加速させる恐れがある。一方、投機抑制で引き締めを行えば、不動産以外の分野にはブレーキの踏み過ぎになってしまう。
 中国の金融機関が資金を融通し合う銀行間市場で6月20日、短期金利が13%超に跳ね上がった。中国人民銀行(中央銀行)が資金供給によって金利上昇を抑えるのを見送ったとされ、安易な緩和はしないというメッセージとも受け止められている。


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