カギ握る成長のバランス・シフト

経済ハイライト

時事通信シドニー支局 小平直樹
オーストラリア経済の動き

カギ握る成長のバランス・シフト

 

 ラッド首相は、資源開発投資ブーム後を見据え、豪経済の「多角化」を図っていく必要を強調している。豪州の最大の資源輸出先である中国の今年4〜6月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前年同期比7.5%と、2期続けて鈍化。豪州は、資源部門依存の成長からの脱却を迫られる状況となっている。豪準備銀行(RBA、中央銀行)は、非資源部門の成長を後押しするため、早ければ8月にも利下げすると見られている。

首相は7月の講演で、「対中資源ブームは2013年で終わりだ」とし、「製造業や食料生産、インフラ、建設、サービス業で雇用を創出し、経済を多角化することが将来戦略の中核に据えられなければならない」と強調した。併せて、政労使の3者の緊密な協力で生産性を向上させていきたいと訴えた。ただ、経済界から労働者寄りとの批判のある労使関係「フェア・ワーク」法については「バランスは適正」として、改正に慎重姿勢を示した。

中国は、長期安定成長を目指し、投資・輸出主導から消費主導への経済構造転換に取り組んでいる。成長率7.0%のラインは死守しつつも、多少の成長減速は許容する構えで、製鉄業界などへの融資制限を強化するなどして過剰生産能力の解消を進めている。ボーウェン豪財務相は、中国の長期安定成長は「豪州の国益にかなう」と評価しつつも、その減速によって豪経済は「岐路」に立たされていると述べている。

財務相は、豪経済の先行きについて、平均的水準(トレンド)を少し下回るやや弱含みの成長が見込まれる中、これまで成長をけん引してきた資源部門で投資拡大期から生産・輸出拡大期へと段階が移行し、資源部門の経済成長に占める比重が低下していくという2つの大きな変化に直面していると指摘。「資源部門は過去2年間、経済成長の半分程度を占めたが、先行きは3分の1程度に低下する」と語っている。

◇8月利下げとの見方も

資源部門から非資源部門への成長バランスのシフトは、RBAが懸念している部分でもある。RBAのスティーブンス総裁は、家計の住宅への支出や非資源部門投資などへのけん引役のバトンタッチがうまく行くか不確実さがあることを認めつつ、その成否は、足下低調な景気への「信頼感」次第のところが大きいと述べている。政策で簡単には信頼感は上がらないとしつつ、「合理的に行えることはやる」と支援を約束している。

今年5月に政策金利を史上最低の2.75%に引き下げたRBAは、6月、7月の理事会では利下げを見送った。7月の理事会では、国内資源開発投資が開発計画の大幅減などを反映して先行き「より急速に落ち込む」可能性が指摘され、豪ドル相場は「依然高い水準」との見方が示された。理事会は、中期的にインフレは目標に沿って推移するとの見通しから、必要であれば「一段の緩和への若干の余地」があるとの姿勢を継続した。

7月24日発表の4〜6月期の豪消費者物価指数(CPI)上昇率は、前年同期比2.4%、基調インフレ率も2.4%だった。RBAがインフレ目標とする2〜3%の中間をやや下回る数字。基調インフレ率が事前予想の2.25%を上回ったため、市場の利下げ観測はやや後退したが、「インフレ圧力はなおも抑制されている」(マッコーリーのエコノミスト)などとして、景気刺激のための8月の追加利下げを見込む向きもある。

◇炭素税、来年廃止

ラッド首相は、温室効果ガスを大量に排出する企業にトン当たり単価固定の費用負担を課す炭素税から、価格が市場の取引で決まる排出量取引制度(ETS)への移行を2014年7月へと、1年前倒しすると表明した。総選挙をにらみ、同じ労働党のギラード前政権の政策を修正、炭素税の廃止を敢えて強調することで、支持率アップを図ったものだが、「朝令暮改」的な労働党政権の政策変更に経済界では困惑や反発が広がった。

炭素税は、前回10年の選挙で下院議席の過半数を獲得できなかったギラード前政権が、環境重視の緑の党などの意向を反映しつつ、12年7月に導入した。少数与党として政権維持のために緑の党の協力が欠かせなかったとはいえ、その導入がギラード氏自身の言葉に反した「公約違反」となったため、支持率が低下。党内の求心力を失ったギラード氏は、今年6月下旬の党首選でラッド氏の挑戦に敗れた。

豪州の現在の炭素価格はトン当たり24.15豪ドルだが、ETSへの移行で、国際相場の6豪ドル程度に下落することが見込まれている。炭素税を支払っているのは、主要排出者である火力発電事業者やメーカーなどの企業だが、電気料金への転嫁などを通じ家計にも間接的に影響を与えている。ラッド政権は、電気料金やガス料金などが引き下げられることで、平均的世帯で年380ドルの生計費負担軽減になると試算している。

一方で、炭素税導入に伴って実施した補償的な家計支援措置は変更せず、15年度(15年7月16年6月)の財政収支均衡化の方向は崩さない方針を示した。そのため、4年間で38億ドルの歳入欠損が見込まれることになり、新たな歳出削減・増収策として、雇用者が従業員に提供する社用車に関する課税厳格化や石炭火力発電業界への補助削減などを打ち出した。

◇車のFBT課税厳格化に業界反発

特に、社用車に関するフリンジ・ベネフィット税(FBT)課税厳格化をめぐっては、豪自動車関連業界から強い反発の声が上がっており、選挙での新たな争点となる可能性がある。トヨタ自動車の豪法人は「豪州の新車市場に大きな打撃を与える恐れがある」と指摘。「企業や政府向けの販売に大きく依存する国内生産車を中心に影響を及ぼすことになるだろう」と、政府に再考を促している。

車のFBTは、仕事での使用と私的使用の比率を基に算出される。車の費用に私的使用の比率を乗じた額が、従業員への給与外の特典、つまり、フリンジ・ベネフィットとして課税対象となる。これまでは、実際の運行記録を取らなくても、私的使用分を20%とみなして控除する簡易方式を選択できたが、これが廃止される。これまで簡易方式を選択し、実際には20%を超える私的使用をしてきた多くのケースで、負担増となる。

FBT控除厳格化が大きな影響を及ぼすとみられるリース車は、豪州の新車販売の半分、国内生産の30%を占めるとも。業界には、事前協議もなく変更が発表されたことへの怒りもある。炭素税、ETSの廃止を公約に掲げる野党保守連合は、家庭訪問で車を使用する看護師など「32万人に平均で年1,400ドルの負担を押し付ける増税だ」として、選挙で政権を獲得すれば、FBTの変更は行わないと表明している。

 

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