豪ドル、100円上回る

経済ハイライト

小平直樹・時事通信社シドニー特派員
オーストラリア経済の動き

政策金利、史上最低に

 

 豪ドルの対円相場が、4月4日の海外市場で2008年8月以来の100円台に乗せると、その約1週間後には105円台に上昇した。日本銀行がデフレ脱却のため金融緩和強化策を打ち出したことを受け、円の値下がりが加速。金利の高い豪ドルが買われた。一方、4月に発表された豪経済指標は、失業率が3年4カ月ぶりの水準に悪化するなど、景気の脆弱(ぜいじゃく)性を示すものが目立った。

「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「民間投資を喚起する成長戦略」を「3本の矢」としてデフレ脱却を目指す安倍晋三政権の経済政策「アベノミクス」。その期待に応えるべくして就任した黒田東彦総裁の下で日銀は4月4日、年2%の物価目標の達成に向け、マネー量と長期国債などの保有額を2年で倍増させる「量的・質的金融緩和」の導入を決めた。

黒田総裁自らが「次元の違う金融緩和」と説明したその内容は、市場にあった緩和期待の想定を大きく超えるもので、外国為替市場では円売りが急速に進んだ。日本の金融緩和強化で、日本の機関投資家が運用先を求め資金を海外に振り向けるとの思惑などもあり、それまで対米ドルでは落ち着いた値動きが続いていた豪ドルにも上昇圧力が掛かった。

今後の豪ドル相場を見通す上では、円がどこまで値下がりするかなど円相場の動きが大きな変動要因となる可能性が高い。一方、4月半ばには、中国の1〜3月期の国内総生産(GDP)が前年同期比7.7%増と、前期の7.9%増から予想外の成長減速となり、金など商品市場の下げが加速する中で、豪ドルが売られる場面もあった。

4月19日朝時点の豪ドル相場は、対円では101円10〜20銭、対米ドルでは1.0300〜0310米ドルだった。ANZ銀行は、今年末には1豪ドル=110円、来年9月には115円になると予想している。一方、豪ドルは対米ドルでは、今年9月から来年9月にかけて1.05米ドル近辺で推移すると見ている。

◇豪ドル高に苦しむ国内自動車産業

豪国内の製造業からは豪ドル高による苦しさを訴える声が再び上がった。約500人の人員削減を行うと発表した米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の豪子会社GMホールデンは、豪ドル高によって豪州での生産が「10年前に比べ60%高くついている」などとして苦境を訴えた。ホールデンは昨年11月にも170人の削減を発表している。

米自動車大手フォード・モーターの元社長兼最高経営責任者(CEO)を務めた経験のあるBHPビリトンのナッサー会長は、現在豪州で自動車を製造する3社のうち1社が生産を断念すれば、それが部品供給を支える裾野産業を揺るがし、「ドミノ倒し的な影響」をもたらす恐れがあると指摘。

豪自動車業界では、昨年以降だけでも、トヨタ自動車オーストラリア法人のトヨタ・モーター・コーポレーション・オーストラリア(TMCA)が約350人、米自動車大手フォード・モーターの豪子会社フォード・オーストラリアは約440人の削減をそれぞれ明らかにした。豪ドル高は、豪州生産車の輸出競争力低下を招いている。

ホールデンのデベロー社長は、豪国内市場での日本からの輸入車との競合をめぐって、「2万豪ドルだった車が1万5,000豪ドル程度で輸入できるようになっている」として、円安を懸念した。一方、連邦政府と州政府から補助金を受け取りながらの人員削減に対して、工場のある地元のSA州政府からは遺憾の意が示されている。

◇失業率が悪化

4月2日の豪準備銀行(RBA、中央銀行)理事会は、市場の予想通り、3回連続で政策金利の据え置きを決定した。声明や議事録のトーンは前月とほぼ同じで、政策金利の維持が「最も賢明な方向(コース)だ」と判断。これまでの利下げによる効果がまだ続くとの見通しの下、豪ドル高など景気抑制要因とのバランスを見極めていく様子見姿勢を示した。

統計局が11日に発表した3月の雇用統計(季節調整ずみ)は、失業率が5.6%となり、2009年11月以来の水準に悪化した。就業者数は前月比3万6,100人減少。2月は7万1,500人もの増加で市場を驚かせたが、その理由について、「かなりの部分が(調査対象)サンプルの変更によるもののようだ」(RBA)とされている。

ウエストパック・メルボルン研究所が発表した4月の消費者信頼感指数(季節調整ずみ)は104.9と、前月比5.1%低下した。指数は100が楽観と悲観の分かれ目。2月、3月で計9.9%上昇していた。ウエストパックのチーフ・エコノミスト、ビル・エバンズ氏は「消費者の信頼感がいかに脆弱かを浮き彫りにした」と慎重な見方を示している。

◇大型LNG開発計画が見直しに

豪石油・天然ガス大手ウッドサイド・ペトロリアムは、450億米ドル規模ともされたWA州沖合の「ブラウズ」液化天然ガス(LNG)開発計画の見直しを行うと発表した。これまでの計画で描いてきた陸上液化施設の建設は、コスト上昇などで経済的に見合わないと判断。LNG開発は直近の豪州の資源開発投資をけん引してきたが、風向きが変わってきている。

ブラウズ事業には、英BP、英・オランダ系ロイヤル・ダッチ・シェルなどのほか、三菱商事と三井物産も参画。今年6月末までの最終投資決定(FID)を目指していた。ウッドサイドは「ほかの事業同様のコスト上昇圧力に見舞われた」と説明した。豪州のLNG開発は、豪ドル高や、人件費、建設コストの上昇圧力にさらされている。米国で生産が拡大する安価な「シェール・ガス」が豪州にとって競合相手となる可能性もある。

計画では、沖合で採掘した天然ガスをWA州ブルーム近くのジェームズプライス・ポイントに建設する陸上施設にパイプラインで輸送して液化し、出荷する予定だった。施設のLNG生産能力は年1,200万トンで、17年の初出荷を目指していたが、かねてから計画のコスト高が懸念されていた。一方、環境保護団体などから激しい反対運動を受けていた。

ウッドサイドなどは、より安価な代替案として、浮体式LNG(FLNG)技術や既存液化施設へのパイプライン輸送などを検討していく方針だ。オーストラリアン・フィナンシャル・レビュー紙によれば、沖合のガス田近くに液化施設を浮かべるFLNGでは、生産能力は年800万トンに落ちるが、コストは120億〜150億米ドルですみ、雇用人員も大幅に抑制できるという。

豪州では昨年8月、BHPビリトンが、200億〜300億米ドルとされたSA州の「オリンピックダム」銅・ウラン・金鉱山拡張計画の先送りを発表した。豪州の資源開発投資をめぐる頭打ち感が一段と強まってきた。野党保守連合のアボット自由党党首は、今後も大型開発投資計画の延期や中断が続く恐れがあるとし、炭素税や資源税、建設コスト上昇、労組の対決姿勢の強まりなどを問題点として挙げている。

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