新・豪リークス/どうなる豪の次期潜水艦建造計画

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第2回「日本は受注できるのか?どうなる豪の次期潜水艦建造計画」

日本政府は、オーストラリアが進める次期潜水艦共同開発計画で受注を目指しているが、 親日的だったアボット前首相の突然の失脚などで、その雲行きが怪しくなってきている。少なくとも200億豪ドル規模とされる巨額プロジェクトの行方を探る。

◇アデレードで日本の潜水艦をアピール

今年8月末、まだまだ街路樹に枯れ木が目立つ南オーストラリア州の州都アデレードに、日本の防衛省と民間企業などで構成する代表団が向かった。オーストラリア政府が進める次期潜水艦共同開発計画の受注を目指し、現地で説明会を行うためだ。

オーストラリア海軍は、現在6隻のディーゼル・エンジン搭載のコリンズ級潜水艦を保有しているが、これらが老朽化していることから、代替として新たに4,000トン級の新型潜水艦を最大で12隻共同開発する計画で、少なくとも200億ドル(約1兆6,840億円)の予算が見込まれる巨額プロジェクトとなっている。

現地の産業界の代表など関係者約200人が集まった説明会では、代表団を率いる元統合幕僚長で防衛省顧問の斎藤隆団長らが、原子力を使わない通常動力型潜水艦としては世界最大級の「そうりゅう型」潜水艦の優秀性をアピールした。「日本は過去40年間で50隻の潜水艦建造の実績を持ち、水中で静かに深く、外洋で長期潜行できる日本の潜水艦は、世界最高水準にある」。説明会の前に行われた記者会見でこう語った斎藤団長は、「日本は過去40年間で50隻の潜水艦建造の実績を持ち、水中で静かに深く、外洋で長期潜行できる日本の潜水艦は、世界最高水準にある」「日本の潜水艦建造技術の開示は初めて」と強調したが、新型潜水艦をオーストラリア国内で建造するか否かについては「現在真剣に検討している」として明言しなかった。

海上自衛隊の「そうりゅう型」潜水艦(海上自衛隊ギャラリー提供)
海上自衛隊の「そうりゅう型」潜水艦(海上自衛隊ギャラリー提供)

当初、オーストラリア政府は、日本の「そうりゅう型」潜水艦の導入に前向きだと伝えられていた。オーストラリア国内で建造されたコリンズ級潜水艦にはさまざまな問題があり、既に完成した潜水艦を調達したほうが安上がりなうえ、中国の海洋進出を踏まえ、日米豪の連携を強化したい同盟国のアメリカが日本の潜水艦の導入を支持していたことから、日本の受注が有力視されていた。

しかし、海軍の潜水艦が海外で建造されることで雇用が失われると懸念するオーストラリア国内の反対が根強く、昨年末、コリンズ級の潜水艦を建造した国営の造船所ASCは「カヌーを造る能力さえない」と、当時のジョンストン国防相が発言したことで、造船業などに関わる労働者らの不満に拍車をかけてしまった。また、日本の安倍首相と親密な関係を築いていたアボット前首相が、日本との間に「密約」を交わしたのではないかという憶測が流れ、アデレードで開かれた記者会見では、地元メディアの記者が「密約」の有無について日本代表団に繰り返し質問する場面が見られた。

◇日本の受注に“逆風”

今回説明会が開かれたアデレードは、オーストラリアの軍事産業と造船業の中心地だが、地元の労働者をとりまく環境は厳しい。かつては三菱自動車の工場もあり、製造業が盛んだったが、相次ぐ企業の撤退や工場などの人員削減により、今年7月には、失業率がオーストラリア国内で最も高い8.2%に跳ね上がった。

アデレードで関係者に日本の潜水艦について説明する防衛省顧問の斎藤隆団長(8月26日筆者撮影)
アデレードで関係者に日本の潜水艦について説明する防衛省顧問の斎藤隆団長(8月26日筆者撮影)


南オーストラリア州の製造業労働組合副書記のコリン・フェンネイ氏に話を聞くと「もし潜水艦が海外で建造されるなら、地元の労働者2,500人が職を失い、オーストラリア全体では関連企業など1万人の雇用に影響がでる」と指摘し、「オーストラリア政府は、潜水艦の国内建造の公約を守るべきだ」と語気を強めた。

また、日本代表団の説明会にも参加していた南オーストラリア州のマーティン・ハミルトン防衛産業相は「日本から潜水艦を調達すれば、最大の貿易取引国の中国との関係を損ないかねない」と述べている。

9月には「日本はアジアの親友」と呼んだアボット前首相が与党党首選で敗れ、“中国寄り”とされるマルコム・ターンブル氏が新首相となり、日本の受注はますます楽観視できなくなった。

現在潜水艦の発注先候補は、日本、ドイツ、フランスの3カ国に絞られているが、ドイツ企業は潜水艦の100パーセントの現地生産が可能と表明し、フランスの造船会社も7割から8割を現地生産できるとアピールしている。オーストラリア国内での潜水艦建造について明言を避け続ける日本には、まさに“逆風”が吹き始めている。

◇日豪両国民が注目する巨額プロジェクトの行方

そんな中、9月25日付けの全国紙「オーストラリアン」が、日本が潜水艦のオーストラリア国内での建造可能と表明」という内容の記事を一面トップに大きく掲載した。

草賀純男駐豪大使が、同紙記者の単独インタビューに答えたというものだが、これに南オーストラリア州選出のクリストファー・パイン産業科学相が、即座に「歓迎する」と反応した。

この記事について、キャンベラの日本大使館に確認すると「草賀大使は、アデレードを訪れた日本代表団の説明とほぼ同じ内容を記者に話しただけ」ということだった。

「日本大使が豪国内建造可能と表明」と伝える「オーストラリアン」紙(9月25日付)
「日本大使が豪国内建造可能と表明」と伝える「オーストラリアン」紙(9月25日付)

オーストラリア国内での建造を「真剣に検討する」と、駐豪日本大使が発言したことで、大きく報道されたようだが、見方を変えれば、この問題に対するオーストラリア国民の関心の高さを象徴する記事だとも言える。

日本は「武器輸出三原則」に代わる「防衛装備移転三原則」を昨年4月に閣議決定し、「平和貢献」や「日本の安全保障に資する場合」などに限り、武器輸出が可能になった。

今回、日本が潜水艦共同開発を受注すれば、新三原則決定後初の大型案件となるが、親密な関係ではあるものの同盟国ではないオーストラリアに、戦闘能力の高い武器を搭載した潜水艦を“売る”ことに対する日本国内での反発も考えられる。

また、オーストラリア国内で建造することになれば、日本の持つ世界最高水準の高度な技術を移転させることになり、技術面でのオーストラリアの対応力への不安とともに、第3国への機密情報流出の恐れも懸念される。

今後、発注先候補の3カ国は、11月末までに潜水艦共同開発の計画書を提出し、来年初めにもオーストラリア政府が結論を出す見込みだが、日本でも注目度が高いこの巨額プロジェクトの行方には、潜水艦だけにまだまだ“曲折浮沈”がありそうだ。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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