新・豪リークス/豪にも迫るテロの危機!?

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第4回「豪にも迫るテロの危機!?」

世界を震撼させたパリ同時多発テロ事件は、その後フランスやロシアが過激派組織イスラム国(IS)への攻撃を拡大させるなど、まさにテロ組織と世界各国の“戦争”の様相を呈してきた。アメリカを中心とした有志連合の一員としてISへの空爆に参加するオーストラリアでも、こうしたISなどの過激派組織によるテロ攻撃は起きるのか? シドニー在住のイスラム教指導者を緊急取材した。

◇13日の金曜日の悪夢

11月13日金曜日の午後9時。市民や観光客で賑わう週末の夜の花の都パリに悪夢が襲った。オランド仏大統領らも観戦していたフランス対ドイツのサッカーの試合が行われていたパリ中心部のスタジアム周辺で最初に爆発音が響くと、コンサート会場やレストランなど合計6カ所で自爆テロと思われる爆発が相次いで起き、約130人が犠牲となる惨事となった。

事件発生直後、過激派組織イスラム国(IS)が犯行声明を出し、テロの実行犯にはアルジェリア系のフランス国籍を持つ若者などが含まれていた。また、事件現場にはシリア難民のパスポートが残されていたという。

今回のテロは、警備が行き届いていない繁華街のレストランなどのいわゆる「ソフト・ターゲット」が狙われたことから、その後もフランス国内のみならずドイツの都市の競技場などでもテロの誤報が相次ぎ、そのたびに一般市民が恐怖におののいた。

この事態を受け、フランスのオランド大統領は即座にシリアのISの拠点に大規模な空爆を開始。アメリカや国連も卑劣なテロリストの行為を強く非難した。一方で、11月24日にはトルコの戦闘機が領空を侵犯したとしてロシア軍機を撃墜。テロ組織と戦う側に亀裂が生じるなど、情勢は刻一刻と変化し、まさに予断を許さない状況が続いている。

◇テロ事件はオーストラリアでも起きるのか?

シドニーの西約20キロにあるラケンバ、ここに住む人の約70%がオーストラリア国外出身で、イスラム教徒が人口の3割を占める。街の目抜き通りにはアラビア語の看板が目立ち、男性は褐色の肌に黒い口ひげ、頭を布で覆うヒジャブなどをまとった女性が多く、白人系の住民はほとんど見かけない。ここがシドニー郊外だと告げられなければ、中東かアジアのイスラム圏の街かと見間違うほどだ。

このラケンバで、イスラム教徒の若者に正しいイスラム教の知識を伝える活動を行っている「シーカーズ・ハブ(Seekers Hub)という団体のアフロズ・アリ代表に話を聞いた。アリさんとは、2014年12月にシドニー市内中心部のマーティン・プレイスで起きた人質立てこもり事件後に知り合ったのだが、実際にISから戦闘員として勧誘された若者を知るなど、現地のイスラム教コミュニティーと密接な関わりを持つ人物だ。

そのアリさんに、今回のパリ同時多発テロがオーストラリアに与える影響などについて率直に質問をぶつけてみた。

取材に答えるイスラム教指導者アフロズ・アリ氏
取材に答えるイスラム教指導者アフロズ・アリ氏

──今回のパリ同時多発テロをどう感じていますか?
「我々イスラム教コミュニティーは、パリを含め世界中のテロと戦争の犠牲者と連帯する気持ちでいっぱいだ」

──パリで発生したような同時多発テロはオーストラリアでも起こると思いますか?
「パリのような規模のテロがオーストラリア国内で起こることはないと思うが、可能性が全くないとは言えない」

──オーストラリアにもISの支持者は存在しますか?
「“過激思想”は、ここオーストラリアにも存在し、ISの支持者がいても不思議ではないが、我々にもその者たちの特定は難しい。警察のほうが出来ると思うしやってほしい。ただ“過激思想”は他にもあり、常にイスラム教徒や非白人を攻撃しているような“過激な者”たちもいる」

──なぜISの戦闘員になろうとする若者がいるのでしょう?
「イスラム教徒への差別はこの国にもあり、特にムスリム女性独特の服装から女性への差別は多い。そういった社会への反発からISの支持者になる可能性はあるが、単にISから多額の報酬を提示され、金に目がくらんで戦闘員になったという例もある。少数のグループではあるがイスラムの正しい教育を受けず、犯罪活動に身を置き、疎外感や反抗的な態度から自分の責任を回避できる格好の言い訳としてISの戦闘員になろうとする若者もいるようだ。ただ、オーストラリアは他の国と比べて依然として安全でポジティブな国であり、イスラム教徒に対する偏見や人種差別、ヘイトクライムは少数派に過ぎないと感じている」

◇「戦争」の足音が近づく今、我々は何をすべきか?

アラビア語とイスラム教徒が目立つシドニー西部ラケンバの街
アラビア語とイスラム教徒が目立つシドニー西部ラケンバの街

「ISは弱い!」と人気番組で熱弁を振るう豪チャンネル10のキャスター

「ISは弱い!」と人気番組で熱弁を振るう豪チャンネル10のキャスター

全国紙「オーストラリアン」が行った世論調査で、オーストラリア国内でテロが発生する可能性について聞いたところ、回答者の7割以上が何らかの形で「起きる」と答えた。だからといって、いたずらに恐怖や憎悪を募らせる必要はない。

豪チャンネル10の人気番組「The Project」キャスターのワリード・アリー氏は、「ISの目的は、世界中の人々におびえ、怒り、憎悪、敵意を抱かせ、世界を”白と黒”に二極化させることにより、第3次世界大戦を引き起こすことだ。フェイスブックやツイッターなどで怒りや憎しみの書き込みをするのは、ISの策略の手助けをしていることになる。誰もこのクソ野郎ども(bastards)を助けたいとは思わない」と、生放送の番組内であえて放送禁止用語を使い言い放った。

第1次世界大戦はセルビア人青年の1発の銃弾で始まり、第2次世界大戦はヨーロッパの局地的な紛争が世界中に広まった。その後世界は「共産主義vs資本主義」、「暴君vs自由主義国」そして「過激派テロ組織vs有志国連合」…と、その都度手を替え品を変え、「大義名分」だけが先走る愚かな戦争を繰り返してきた。確かに今回のパリの同時多発テロで多くの尊い命が奪われた。だが、それと同時にフランスなどの空爆により、何の罪もない赤ん坊や一般市民が、翌日の新聞に顔写真が掲載されることもなく無残に死んでいる。「力なき弱者が泣きを見る」という戦争の本質は決して変わることはない。

インターネットなどで様々な情報が入手することができる今、嘘や策略に惑わされることなく、正しい知識を武器に、「何が最も重要か」ということをもう一度考え直す必要があるのかもしれない。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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