新・豪リークス/コアラのブルース

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第5回「コアラのブルース」

オーストラリアのシンボルとも言える 「コアラ」。野生の個体はオーストラリアにしか生息していないが、 今その数が激減しているという。その一方で、一部の地域では「過密状態」になり、当局から「間引き」も行われている。

◇コアラ受難

昨年末から今年の年始にかけて、ビクトリア州や南オーストラリア州などで気温が40度前後まで上昇し、それに伴って大規模な山火事が発生した。

近隣住民に与えられた水を飲む山火事で焼け出されたコアラ(アデレード近郊、2016年1月2日、撮影: YOUTUBE, COLIN PHIL COOK )
近隣住民に与えられた水を飲む山火事で焼け出されたコアラ(アデレード近郊、2016年1月2日、撮影: YOUTUBE, COLIN PHIL COOK )

メルボルンの南西約150キロにある観光地グレート・オーシャン・ロード周辺で、昨年のクリスマスに発生した山火事により約2,200ヘクタールが焼け、100軒以上の家屋が焼失した。また近隣の国立公園に棲息する野生動物も焼け出され、アデレード近郊では煤で真っ黒になった野生のコアラが、普段はあまり飲まないとされる水を近隣の住民から与えられ、それをゴクゴクと飲む映像がテレビのニュースなどで流された。

気温が急激に上がる夏の時期のオーストラリアでは、たびたびこのような大規模な山火事が起き、コアラやカンガルーといった野生動物が焼け出される光景が繰り返される。

やはり今回の山火事に見舞われたビクトリア州南部の「ケープ・オトウェー国立公園」周辺は、多くの野生のコアラが棲息することで知られており、ここではコアラの食料となるユーカリの木の森が焼け、その映像は日本のニュースなどにも流されたが、この「ケープ・オトウェー」、実は今回の山火事が発生する少し前にも国内外のメディアに大きく取り上げられていた。ここに生息する約8,000頭の野生のコアラが「過密状態」にあるとして、約700頭が州政府によりひそかに「殺処分」されていたのだ。エサとなるユーカリの木の不足によるコアラの「餓死」を防ぐのが目的ということだが、もし必要な「処分」なら、なぜ秘密裏に行わなければならないのか?オーストラリアの動物保護団体などは、ビクトリア政府に抗議する声明を即座に発表した。その生息数が減少しているにもかかわらず、オーストラリアには、全国レベルでコアラの生息地を保護する法律が存在しないのである。

オーストラリア全体で、かつては1,000万頭いたというコアラの個体数は今では5万~10万頭前後に激減しているという。「オーストラリア・コアラ基金」の初代役員で、オーストラリアの野生動物に詳しいハイランド真理子さんによると「コアラはヨーロッパ人が入植してから毛皮の取引などにより急激に生息数が減り、近年は住宅開発や都市化でコアラの生息地が消失したことで、その数が減少した」という。また、クラミジアやいわゆる「コアラ・エイズ(KIDS)」と呼ばれる性感染症の蔓延も個体数の減少に拍車をかけている。コアラのクラミジアとは人間と同じで性交渉により感染する性感染症で、肝炎や肺炎を併発させ死に至る場合もある。また、クラミジアにかかると、HIVに代表されるレトロ・ウイルスへの感染率が高くなり、いわゆる「コアラ・エイズ」が発症するのだという。コアラのクラミジアやレトロ・ウイルス自体は以前から存在していたというが、森林伐採や道路の建設などで生息地のユーカリの森が分断されたことにより、コアラの行動範囲が狭まり、性感染症などが蔓延したと考えられている。このような状態をこのまま放っておけば、いずれはコアラの大量死につながりかねない。

◇コアラは日豪友好のシンボル

オーストラリアにしか生息しないコアラは、その愛くるしい姿から世界中の動物園などに贈られ、飼育されている。日本に最初にコアラが登場したのは1984年10月で、シドニーのタロンガ動物園から名古屋の東山動物園にやって来た。

タロンガ動物園を訪問した河村たかし名古屋市長(2015年11月4日、筆者撮影)
タロンガ動物園を訪問した河村たかし名古屋市長(2015年11月4日、筆者撮影)

昨年11月4日、シドニーと名古屋市の姉妹都市提携35周年を記念してタロンガ動物園を訪れた河村たかし名古屋市長は、新たに東山動物園に贈られることになったメスのコアラ「ミリ」について感謝の言葉を述べた。また、訪問団の来園に合わせて行われた餌付けの際、コアラが元気良くユーカリの木から木へジャンプするのを目の当たりにした河村市長は「触れんにしても市民がもっと喜ぶ(コアラの)展示方法を考えなアカン」と独特の名古屋弁でインタビューに答え、日本の動物園来園者にもオーストラリアのようにもっと身近にコアラに親しんでもらえるようにしたいと述べた。

市長に同行していた東山動物園・黒邊雅実副園長に日本におけるコアラの飼育状況について聞いたが、コアラはユーカリの葉だけを食べ、600種類もあるユーカリのうち、好んで食べるのはわずかに35種類。さらにユーカリは日本では自生しておらず、寒さにも弱いため、東山動物園では、沖縄や鹿児島の専門の農家に委託して栽培していて、現在6頭いるコアラのエサ代に、年間約5,000万円がかかるという。

飼育する動物園も少なくなり、かつては日本国内に100頭近くいたコアラも今では半数近くまで減っているのが現状だ。また、コアラが持つ特有のウイルスについては、日本でも発見されていて、「コアラ・エイズ」などの発症を防ぐため、なるべく個体にストレスをかけないよう慎重に扱っているという。「来園客にも人気があり、日豪友好のシンボルでもあるコアラをこれからも大切に飼育していきたい」と黒邊副園長は語った。

◇クジラはダメでもコアラはいいの?

このように海外での飼育は高コストで手間がかかる上、原産地であるオーストラリア国内でもその数が減少しているコアラ。その一方で、前出のケープ・オトウェーのように、一部の生息地ではエサ不足が理由で「間引き」が行われていることに、日本の調査捕鯨に対してまさに国全体で反発した”大の動物好き“のオーストラリア人は、あまり声を荒立てていない感がある。「クジラはダメでもコアラはいいの?」と突っ込んでみたくなるが、大抵のオーストラリア人からは「コアラやカンガルー、牛や羊などの陸の動物は、飼育管理が可能だが、クジラは養殖などをすることができないでしょ」という答えが返ってくる。

かつて反捕鯨団体シーシェパードのポール・ワトソン氏に直接インタビューしたことがあるが、彼は「クジラの愛らしい目を見て愛護者になった」と真顔で話した。それではなぜ「コアラやカンガルー、牛や羊の“つぶらな瞳”を見て守ろうとしないの?」と「クジラを食べる日本人」と“後ろ指を指される”身としては、どうも腑に落ちない。

「カンガルーの間引き問題」を取材する筆者のリポート写真を掲載した 2008年3月16日付のサンデー・テレグラフ紙
「カンガルーの間引き問題」を取材する筆者のリポート写真を掲載した 2008年3月16日付のサンデー・テレグラフ紙

少し古い話で恐縮だが、数年前、筆者が増えすぎたカンガルーの間引き問題の取材で首都キャンベラに行った際、地元新聞の記者から逆取材された。翌日の朝刊にはデカデカと写真付きで「日本がカンガルーの間引きに激怒」という見出しが踊り、日本人リポーターが「オーストラリアは、反捕鯨を訴えながら偽善行為をしていると述べた」という記事が載った。そのようなことはひと言も言っていないが、オーストラリア人の中にも、闇雲に捕鯨を反対する姿勢を少し後ろめたく思う人もいるのかもしれない。

ペットなどの動物虐待に反対し、希少動物を保護しようとする動物愛護活動を否定するつもりは毛頭ないが、「可愛いから」や「高等だから」という理由で、保護するべきだというのは、結局のところ人間から見た勝手な基準でしかない。

クジラもコアラもかつては西洋人に乱獲されその数を減らした。まさに動物のように扱われ、強制的にヨーロッパやアメリカに連行され奴隷となったアフリカの人たちは、その悲しみを独特のペンタトニック・スケールでブルースを歌った。もしコアラが歌えるなら、きっと人間への“恨み節ブルース”を歌うに違いない。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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