新・豪リークス/「日本はなぜ受注できなかった?」豪州潜水艦建造計画

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第6回「日本はなぜ受注できなかった?」豪の次期潜水艦建造計画

日本を含めた3カ国が競っていたオーストラリアの次期潜水艦共同開発計画の受注先がフランスに決定した。当初最有力候補だとされていた日本の「そうりゅう型」潜水艦はなぜ受注競争に敗北したのか、その理由と今後を探ってみたい。

◇水泡と消えた「ごうりゅう(豪龍)」の夢

今年4月15日。陽光をまばゆく反射させるシドニー湾に、黒い船体が静かに波しぶきをあげながら悠々と入港した。日本のそうりゅう型潜水艦「はくりゅう」が、まるで遠来の客人を出迎えるかのように佇む乳白色のオペラ・ハウスのそばを航行するその様は、地元メディアでも「歴史的到着」と大きく報道された。

日豪共同訓練に参加するために初めてシドニーに寄港した全長84メートル、水中排水量4,200トンで乗員65人、ディーゼル・エレクトリック方式のこの潜水艦は、通常動力型潜水艦としては世界トップ・レベルの性能を持つとされている。

4月19日にシドニー湾に面したクッタバル海軍基地で、記者会見を行った海上自衛隊護衛艦司令部の酒井良幕僚長は、日本の潜水艦がシドニー湾に入港するのは、1942年に旧日本海軍の特殊潜航艇がオーストラリアの軍艦を攻撃して以来であることに触れ「74年ぶりであり当時はとても想像できなかったことで、感慨深い」と語った。

記者会見には、日本や中国を含めた30人以上のメディアが集結し、記者からの質問は、次期潜水艦選定問題に集中した。その場に居合わせた地元記者の何人かに話を聞くと「日本が受注する可能性が高いのでは?」と口をそろえた。

海上自衛隊の潜水艦「はくりゅう」=4月19日、シドニー湾(筆者撮影)
海上自衛隊の潜水艦「はくりゅう」=4月19日、シドニー湾(筆者撮影)

しかし、その日予定されていた「はくりゅう」の撮影や取材は、オーストラリア軍の意向でなぜか直前にキャンセルされ、日本からの取材陣は一様に肩透かしを食らってしまった。この“ドタキャン”の理由がこれだったのかは定かでないが、その翌日にオーストラリア公共放送のABCが、19日の夜に開かれた国家安全保障会議(NSC)で、次期潜水艦の共同開発相手をフランスとドイツに絞り「日本は脱落したことが決まった」と、スクープとして報道したのだ。このような国家機密とも言える重大な情報がなぜ公式発表の前にリークされたのか?関係者の間で“豪州”をもじり「ごうりゅう(豪龍)型」と呼ばれていた日本の潜水艦が受注できなかった理由についてABCは「日本には熱意が欠けていた」からと伝えた。

◇日本はなぜ敗北したのか?

オーストラリア海軍は、現在6隻の通常動力型コリンズ級潜水艦を保有しているが、これらが老朽化していることから、代替として新たに4,000トン級の新型潜水艦を12隻共同開発する計画で、これには少なくとも建造費だけで500億豪ドル(約4兆円)の予算が見込まれている。当初、コスト面などから日本の「そうりゅう型」潜水艦を輸入するものとみられていたが、さまざまな事情から日本、ドイツ、フランスの3カ国に受注先が絞られ、CEPと呼ばれる競争的評価選定をすることになった。そして今年4月26日。ついにターンブル首相は閣議を招集、受注先をフランスの政府系造船会社DCNSとする国家安全保障会議の決定を承認した。次期潜水艦を建造することになるアデレードのオーストラリア国営造船会社(ASC)で記者会見を行ったターンブル首相は「フランスの提案は我が国の要求に最も合う提案だった」と述べ、日本が脱落した理由を具体的には語らなかった。ただ、今後も日本との戦略的友好関係は変わらず強固なものだと強調した。

それでは、なぜ日本は受注を逃してしまったのか?シンガポールや日本で勤務経験があるローウィー国際政策研究所のユアン・グラハム氏は、今回日本が受注を逃した原因は大きく分けて2つあると指摘する。

まず1つ目の敗因は「オーストラリアの国内事情と日本側の対応」だ。当初日本が受注する可能性が高いとみられていたのは、お互いファースト・ネームで呼び合うアボット前首相と安倍首相の個人的な関係が大きいとグラハム氏は言う。一時は同盟国のアメリカが日本の潜水艦の導入を後押ししているとの観測もあり、日本側はオーストラリア政府からいわば“注文”を受けたと安心してしまい、その後の受注競争への対応が後手になったように見える。実際、受注先決定後に記者会見した川崎重工業の村山滋社長は「防衛装備品を海外に売って商売するとは今まで考えていなかった。(武器輸出が)ビジネスにつながるかどうか、考えないといけない」と述べていて、今回の“売り込み”が政府主導だったことを匂わせた。この点で「熱意が欠けていた」とオーストラリア側に感じさせてしまったのかもしれない。

ドイツやフランスが次々と現地オフィスを開設し、オーストラリア国内での建造を約束して攻勢を強める中、想定外のアボット首相の退陣と雇用不安を抱える地元アデレードの労働者の反発により、日本有利の状況は一変することになり、結局、受注レースは振り出しに戻ってしまった。筆者がある会合で会ったオーストラリア軍関係者は「アボット前首相からオファーしたにもかかわらず、こういう結果に終わり、日本側のフラストレーションは本当に理解できる」と申し訳なさそうに語っていた。

2つ目の敗因として「技術的側面」をグラハム氏は挙げた。つまり、客観的に見て、今回フランスの提案した潜水艦の性能が日本のものより優れていたというのだ。

スウェーデンのコックムス社が設計し、ASCが建造した「コリンズ級」は、ディーゼル・エンジンの騒音が大きく、故障も多かった。そこで、現存する最大の通常動力型潜水艦である「そうりゅう型」に白羽の矢が立ったわけだが、広大な領土と長い海岸線を抱え、潜水艦の航続距離が死活問題となるオーストラリアの要求を十分満たせるのは、現段階では原子力潜水艦しかない。日本やドイツには原子力推進エンジンの技術はなく、現存の原子力潜水艦の通常動力バージョンを提案したフランスDCNS社が、性能的にも一歩抜きん出ていたというのだ。劣勢を挽回するためキャンベラにある現地法人のトップにオーストラリア海軍の実力者ショーン・コステロ氏をスカウトしたDCNS社は、軍事機密とも言える最新式のソナー技術やプロペラ推進の約2倍の速度を出すことができるポンプジェット推進装置の導入も提案している。世界でこの推進システムを通常動力型潜水艦に搭載できるのはDCNS社だけだという。

またグラハム氏は、一部のメディアや研究者が指摘する、オーストラリアが日本の潜水艦を導入することに不快感を示している中国や将来原子力潜水艦の導入を考慮して受注先をフランスに決定したとの見方は、あくまでも憶測であって、正しくはないだろうとしている。

◇興味深い日本国内の反応

今回のオーストラリア政府の決定に、日本政府は落胆の色を隠さず「今般選ばれなかったことは、大変残念だ」と中谷防衛大臣は報道陣に語った。成立すれば14年4月に「武器輸出三原則」代わる「防衛装備移転三原則」を制定後最大の軍事技術移転案件だったが、この件に関する日本国内での一般国民の反応は、ツイッターなどのソーシャルメディア(SNS)などを見る限り、政治家や関連企業との温度差を感じた。

通常は安倍政権擁護の投稿が多い保守系やいわゆる“ネトウヨ”層の人々の反応は「今回日本が誇る高度な技術が、中国などの第三国に流出しなくて安心した」といったコメントが大半を占め、反原発や護憲といった政府に批判的な層の投稿も「平和国家の日本が、本格的な武器輸出の再開に至らず良かった」など、理由は異なるものの、どちらも今回の決定に肯定的な反応を示したことは興味深い。

次期潜水艦共同開発の受注は逃したが、南シナ海情勢などを巡り、同じアメリカの同盟国として、日本とオーストラリアは引き続き重要な戦略的協力関係にある。今後両国間で、ますます軍事技術移転などの案件が増えることも予想される。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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