新・豪リークス/「豪州危険生物ファイル サメ・ワニ編」

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第7回「豪州危険生物ファイル サメ・ワニ編」

今年に入り、観光地のビーチなどにサメやワニが出没し、サーファーや海水浴をしていた人が襲われ死亡する事故が相次いだ。大きいものでは体長が5メートルを超えるサメやワニはなぜ人を襲うのか? 自然環境保護や動物愛護の声が高まる昨今、危険な野生生物と我々人間はどう共生していくべきなのかを考えてみたい。

◇体長5メートル超のサメが!

インド洋の温かい海流が流れ込む西オーストラリア州パースの北約30キロにある美しい街ミンダリー。今年6月5日の日曜日の朝、地元の大学に看護学の講師として勤務するドリーン・コルヤーさん(60)は、久しぶりのダイビングを楽しむためにコバルト・ブルーに輝く海に入った。海岸から1キロほど離れた沖でダイビングを開始してから25分ほどが経ったころ、ダイビング・パートナーの43歳の男性が、すぐ側を“何か”が通り過ぎるのを感じたため浮上すると、海面は荒立ち、重大な異変が発生していた。男性はすぐさま海中に戻り、ドリーンさんを引き上げたが、すでに彼女はサメに襲われたとみられる致命傷を負っており、通報を受けて岸で待機していた救急車両により近くの病院に緊急搬送されたものの、その後死亡が確認された。2人の救助に向かった地元の漁師は、ドリーンさんらを襲ったサメは「長さが5.3メートルの船よりも大きかった」と語った。

このショッキングな出来事の5日前には、パースの南に位置するマンデュラで、サーフィンをしていた29歳の男性が体長約3メートルのホホジロザメに襲われ右足を失い、収容された病院で死亡したばかりだった。

まさに映画『ジョーズ』さながらの出来事のようだが、オーストラリアでは、人がサメに襲われるケースが頻繁に起きていて、過去100年間で840件以上が報告され、うち175人がサメの襲撃により命を失っている(Australian Shark Attack File – Tarongaより)。

サメに襲われた邦人死亡事故を一面で伝える地元新聞(2015年2月10日付ザ・デイリー・テレグラフ紙)
サメに襲われた邦人死亡事故を一面で伝える地元新聞(2015年2月10日付ザ・デイリー・テレグラフ紙)

2015年2月には、ニュー・サウス・ウェールズ州北部のバリナ在住の日本人、中原忠さん(当時41歳)が、地元のサーファーらが多く訪れるシェリー・ビーチで、サーフボードの上に座っていたところをサメに襲われ、両足を噛みちぎられ死亡するという痛ましい出来事も起きている。

西オーストラリア州では、14年に相次ぐサメの被害を防ぐため、連邦法で保護種に指定されているホホジロザメの捕獲を許可。海岸近くにサメ捕獲用のかぎ針付きのロープを設置してサメの駆除を行ったが、動物愛護団体などの猛反対を受け、結局この駆除作戦は中止せざるを得なくなった。

◇水辺のギャング「イリエワニ」

オーストラリアにはサメの他にも人を襲う動物がいる。地球上の生物のなかで最強とされる顎の力と鋭い歯を持つクロコダイル、イリエワニだ。

クイーンズランド州ケアンズの北約120キロのデインツリーにあるソーントン・ビーチで、今年5月29日の夜10時30分ごろ、シドニーから観光で訪れていたニュージーランド出身のシンディ・ウォルドロンさん(46)が、遊泳中ワニに襲われ水中に引きずり込まれた。一緒にいた47歳の友人の女性が懸命にシンディさんを助けようと試みたが、なすすべもなかったという。その後現場近くのビーチで、シンディさんを襲ったとみられる体長4.3メートルのイリエワニが発見され、その内部からシンディさんとみられる遺体が見つかった。また同州では、5月17日にもカニ捕りの小舟が転覆し、70代の男性がイリエワニに襲われ死亡している。

ワニ出没注意と遊泳禁止の標識(北部準州カカドゥ国立公園、筆者撮影)
ワニ出没注意と遊泳禁止の標識(北部準州カカドゥ国立公園、筆者撮影)

オーストラリア北部に棲息するイリエワニは、どう猛かつ俊敏で、筆者も北部準州のカカドゥ国立公園を訪れた際に、多く目撃したことがある。現地では、イリエワニが棲息する川辺などには「ワニ出没、遊泳禁止」の立て看板があり、水辺から近いところをジョギングしたり散策するのはもちろん、観光バスからむやみに降りて写真を撮るのも危険だと注意される。

◇なぜ人を襲うのか? 防衛策は?

人がサメやワニに襲われるケースは、オーストラリアに限ったことではなく、今年6月15日、アメリカ・フロリダ州のディズニー・ワールド敷地内の人口湖で、2歳の男の子がワニにより水中に引きずり込まれ、行方不明になったニュースは記憶に新しい。

南オーストラリア州で「ホホジロザメ探検ツアー」を主催するロドニー・フォックスさんは、「サメは人を襲いたくて襲っているのではない」と話す。ロドニーさんは、1963年にホホジロザメに襲われ、なんと462針を縫う大けがを負った。その後、野生のサメの生態に興味を持ち、アデレードの「サメ博物館」の館長を務めるなど、世界的にも有名な「サメ研究家」となった。以前ロドニーさんを取材した際「人間はアシカなどと比べれば骨と皮ばかりで、決してサメの“ごちそう”というわけではなく、通常ひとかじりして、ペッと吐いてしまうんだ」と、身体中に残るサメに噛まれた傷跡を見せながら語ってくれた。

一方、ワニはサメよりも人を襲う確率が高く、世界中で年間約1,000人が犠牲になっていると言われるが、これはワニが水辺に棲息していて、子どもや釣り人などと接触する可能性が高いためだと考えられる。

「サメ博士」のロドニーさんによれば、サメの食事時間である夜明けや夕方、夜間の遊泳は避けるべきだという。サメの嫌がる電磁波を出す撃退装置なども市販されているが、残念ながら100パーセント有効というわけではない。もちろんむやみにサメを刺激するような行動は禁物だが、運悪くサメに噛まれてしまったら、サメの目を指で思い切り突き刺してみるのも1つの手だという。

ワニに襲われ、ワニの目と目の間をパンチして撃退したという例も実際にあるが、かなりの腕力と勇気がいる行為だと言えそうだ。前述したイリエワニに襲われたシンディさんが遊泳していたビーチには、「ワニ出没注意」の標識が立っていたが、やはり一番の防衛策は、サメやワニが出没しそうな場所には近づかないのが鉄則だ。

大型のイリエワニに調教師が頭を入れるショー(タイ・バンコク近郊、筆者撮影)
大型のイリエワニに調教師が頭を入れるショー(タイ・バンコク近郊、筆者撮影)

オーストラリア国外の話で恐縮だが、先日タイを旅行した際、大きく開いた大型のイリエワニの口の中に調教師の女性が頭を突っ込むというショーを観覧した。見ている方が叫び声を上げたくなるような光景だったが、当のイリエワニはピクリとも動かない。

ワニは比較的頭の良い動物だとされるが、北部準州では、餌付けされたイリエワニの見物ツアーが人気で、地元の重要な観光資源となっている。

サメやワニが人を襲うケースの増加は、住宅やリゾート開発、エコツアー人気などにより、これら野生動物のテリトリーに入り込む人間が増えているからだとの指摘もある。皮肉なことに、人間の乱獲によりその数が激減したホホジロザメとイリエワニは、今では共に保護種に指定されている。「サメ博士」のロドニーさんが言うように、彼らは何も好き好んで人を襲っているのではない。彼らの“縄張り”に侵入している人間こそが、十分に野生動物の生態について知識を持ち、共生していく知恵を働かせることが必要なようだ。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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