新・豪リークス/豪総選挙、2大政党の終わりの始まり?

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第8回「豪総選挙 2大政党制の終わりの始まり?」

7月初めに行われたオーストラリアの総選挙は大接戦となり、投票から1週間経っても決着がつかず、最終結果が出る前に与党保守連合のターンブル首相が勝利宣言を行うという事態となった。今回有権者の多くが独立系の候補に投票したことが、この混乱の1つの理由とみられるが、これまでオーストラリアの政治を担ってきた2大政党システムの今後に暗雲が立ち込める状況ともなっている。

◇あわやハング・パーラメントに

7月2日の夜、メルボルン郊外にある競馬場のファンクション・ルームは、最大野党労働党のシンボル・カラーである赤のTシャツとバルーンで埋め尽くされていた。上下両院の全ての議席が改選された今回のオーストラリアの総選挙は、直前の予想では、テレビのコメンテーターや政治記者のほとんどが、下院定数150議席で、与党保守連合が過半数を超える80議席以上を獲得すると予想していた。

その2週間ほど前には、野党労働党がわずかにリードとの世論調査も出ていたものの、6月23日に行われたイギリスの国民投票の結果が、ヨーロッパ連合(EU)からの離脱というまさに想定外の結果に終わり、世界情勢の先行き不安から、経済政策に長けたターンブル首相に多くの票が集まるとの見方が強まったからだ。

ところが、投票日の2日東部標準時間の午後6時に、ニュー・サウス・ウェールズ州やビクトリア州など大票田の開票が始まると、なかなか保守連合の票が思ったように伸びない。オーストラリアの各テレビ局も選挙特番を放送していたが、その中で、いつも的確な判断を下すことで定評のある公共放送ABCの選挙エキスパートのアンソニー・グリーン氏が、接戦区で労働党の候補の当確が出るたびに、首をかしげる回数が増えていった。ABC自慢の集計コンピューターも各陣営の議席数の予測が二転三転し、“赤”で埋まった労働党のパーティー会場では、党所属候補の当確が出るたびにどっと歓声が上がり、その声は夜が深まるにつれて大きくなっていった。

そして、通常の総選挙では夜の9時半過ぎには大勢が判明し、敗北した側の党首が先に支持者を前にスピーチするのが習わしとなっているが、夜の10時を過ぎても勝敗はなかなか決しない。そんな中、ABCのグリーン氏が放送で「結果は今夜中には決まらないだろう」と発言すると、労働党のパーティー会場内は、にわかにざわめき出した。後方にステージを組んで待機していた各局のクルーが中継準備を始め、取材を続けていた女性記者も「これは長い夜になりそうだわ」と肩をすくめた。

このままいけば、2010年の総選挙で、当時のギラード労働党政権が過半数を獲得できず、少数与党となったいわゆるハング・パーラメント(宙ぶらりん議会)に陥る可能性が大いにあったからだ。

◇野党党首はまるで“勝利宣言”

スピーチする豪労働党ショーテン党首(メルボルン郊外、7月2日筆者撮影)
スピーチする豪労働党ショーテン党首(メルボルン郊外、7月2日筆者撮影)

最大野党豪労働党のショーテン党首が会場に現れたのは、夜の11時をとっくに回っていた。先にスピーチをするのは敗軍の将であるはずなのだが、会場は割れんばかりの歓声と拍手で包まれ、家族を伴って壇上に上がったショーテン党首は、満面の笑みを浮かべ、まるで「勝利宣言」でも行う調子で「ターンブル首相は議会の権限を失った。我々はメディケア(公的保険制度)を守り抜く!」と言い放った。

この後、ターンブル首相もシドニー市内の自由党のパーティー会場に登場したが、ショーテン氏とは対照的に怒りを押し殺したようなスピーチを行った。

この日、筆者はメルボルン市内で行われたオーストラリア緑の党のパーティー会場にも行き、再選を果たしたアダム・バント議員に今回の選挙結果について聞いてみた。「今回の選挙では多くの有権者が第3極を求めた、オーストラリアでは20~25%の有権者が2大政党のどちらにも投票しないと言っている」とバント氏は答えた。

結局、下院で与党保守連合がかろうじて過半数の75議席を超え政権を維持することになったが、7月末時点でいまだ開票作業が続いている上院では第3極の緑の党や独立系議員が大幅に議席を増やすものとみられている。

◇2大政党制の終わりの始まり?

オーストラリアは、政党は複数あるが、2大政党が定期的に政権交代を行う2大政党制を維持してきた。もちろん今回の選挙結果も保守連合と労働党が下院議席のほとんどを分け合う形となった。

筆者のインタビューに答える豪緑の党バント下院議員(メルボルン市内、7月2日)
筆者のインタビューに答える豪緑の党バント下院議員(メルボルン市内、7月2日)

しかし有権者の投票傾向は、確実に“2大政党離れ”が進んでいる。ABCなどによれば、今回、少数政党や独立系候補を優先順位の1位とした投票が過去最高の23.2%に達した(※表を参照)。また、労働党や自由党などの大政党の党員数も若い世代を中心に減少傾向が続いているという。オーストラリア国立大学の調査によれば、1996年には有権者の79%が自分の投票により「変化がある」と答えていたのに対し、2014年にはその数が56%に下降した。また、43%が「誰が政権を担っても何も変わらない」と感じているという。

※豪総選挙下院優先順位1位投票の変遷(豪ABC調査)
※豪総選挙下院優先順位1位投票の変遷(豪ABC調査)

オーストラリアでは投票を法律により義務付けているが、約20%の有権者が投票しないか、あるいは無効投票を行っていて、これらの多くが若者や低所得者、遠隔地に居住している有権者だという指摘もある。

この傾向についてニュー・イングランド大学のバティン教授は、「彼らは無関心というよりも政治システムが自分たちを疎外していると感じている」と分析した。

今回の選挙結果は、先行き不安な経済状況を踏まえ「雇用と安定」を訴えた元投資銀行出身のターンブル首相だったが、公的医療保険が危機にあるとして国民の不安を煽る「スケア・キャンペーン」を展開した労働党の戦略に屈した形となった。

また、イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ現象にみられるように、世界が「グローバリズム」的な政治の動きに懐疑的になっている流れに呼応しているようにも見える。

オーストラリアにも近い将来“ドナルド・トランプ的”な極端なカリスマ・ポピュリスト政治家が登場し、2大政党制の枠を超えた政治状況が出現するかもしれない。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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