新・豪リークス/カオス(混沌)か?調和か?2017年の展望

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第12回「カオス(混沌)か?調和か?2017年の展望」

さまざまな出来事があった2016年、アメリカの次期大統領選に「まさか」のトランプ氏が選出されたように、引き続き「激動」「大変化」も予想される2017年を展望してみたい。

◇2017年は「大“変”化」の年か?

2016年、その年の日本の世相を漢字一文字で表す恒例の「今年の漢字」に「金」が選ばれた。南米初開催となったリオ五輪で日本が金メダルを量産したことが選定理由のようだが、世界に目を向けると、やはりアメリカの次期大統領にドナルド・トランプ氏が決まったことに象徴されるように、まさに「予想外」の出来事が相次ぎ、今後起きるかもしれない「激動」や「変化」を予感させる年だった。

幾たびの停戦合意が破られ混迷を極めるシリア情勢の悪化により、アメリカ、EUなどのNATO諸国とロシア、イラン、サウジアラビアなど周辺諸国を巻き込んだ「世界大戦」に発展する危機感が募った1年でもあった16年。そのシリアの内戦に加わった過激派テロ組織のイスラム国(IS)掃討作戦に、世界最大の軍事力を持つアメリカのオバマ政権がもたつき、シリアからの大量な難民がヨーロッパに押し寄せる中行われたイギリスの国民投票は、イギリスのEU離脱という「驚き」の結果をもたらした。

一方、テロの脅威も更に拡大した。16年7月4日、南フランスのニースで過激派テロ組織ISに感化されたとみられるチュニジア出身の男が乗るトラックが、花火大会後の人の群れに突入。幼い子どもを含む80人以上が犠牲となる事件が起きた。また、年末の12月19日には、ドイツ・ベルリンの野外クリスマス・マーケットに大型トラックが突っ込み、50人を超える死傷者が出た。これにISが犯行声明を出したが、同じ日にトルコの首都アンカラでロシアの大使が「シリアを忘れるな!」と叫ぶ男に射殺される事件も起きている。

大量な移民の流入やテロの脅威に加え、世界経済の低迷による所得格差の拡大から国民の不満が募り、反グローバリズムや保護主義、移民排斥などを訴えるポピュリスト政治家が各国で台頭した。トランプ氏はもちろん、フィリピンのドゥテルテ大統領やフランスの極右政党・国民戦線のルペン党首など、少し前なら一笑に付された「過激発言」により、逆に有権者の圧倒的な支持を得てしまう状況が出現している。

オーストラリアでも、投資銀行のゴールドマン・サックス出身で、国内でも1、2位を争う大金持ちのマルコム・ターンブル首相が、16年7月行われた総選挙で大幅に議席を失い、支持率も大幅に落とした。それに伴い「オーストラリアはアジア系移民で溢れている」とうそぶき、選挙戦でイスラム教徒移民の停止を掲げ、大幅に議席を伸ばしたワン・ネーション党のポーリン・ハンソン党首のようなポピュリスト政治家も影響力を強めてきている。

過去25年間、景気後退なき成長を続けてきたオーストラリア経済だが、16年の第三四半期の経済成長率がマイナス0.5パーセントとなり、08年の世界金融危機以来の最大の落ち込みを記録した。最大貿易国の中国経済が停滞していることもあり、好調を維持してきた経済にも先行き不透明感が出始めている。

前述の今年の漢字に「金」が選ばれたのは、シドニー五輪が開催された00年とロンドン五輪の12年に次ぎ、3回目だということだが、17年は「リーマン・ショック」が起きた08年に選ばれた「変」が、1年を象徴する漢字として再び選出される年となるかもしれない。

◇行き過ぎた「ポリティカル・コレクトネス」への反発

アメリカ大統領選でのトランプ氏勝利の背景には、ないがしろにされてきた平均的中間所得層の「怒り」があった。多国籍企業が利益を追求するあまり、工場や拠点を賃金の安い外国に移した上、巨万の富を上げながらケイマン諸島などいわゆるタックス・ヘイブンに実体のない拠点を置き、多額の租税回避を行ってきたことが、パナマ文書などにより白日のもとに晒され、ついにアメリカ一般国民の怒りの導火線に火がついてしまったのだ。

この「怒り」は、政治的公正などと訳される「ポリティカル・コレクトネス(以下PC)」の行き過ぎにも向けられた。PCとは、黒人に対して「Black」ではなく「African American」と言ったり、同性愛者などの性的マイノリティーに配慮して「ジェンダー・ニュートラル」つまり男女性別のないトイレなどを設置する動きに代表されるが、「当たり前のこと」もおおっぴらに言えない行き過ぎたPCに反発する声が高まっているのだ。日本でもフェイスブックやツイッターなどのSNSの普及により、いわゆる「炎上」といった形で、PCに抵触した言葉などを使った人物や組織が、最悪の場合、転校や辞職に追い込まれたり社会的地位を失ったりする事例も増えていて、いわば反PCを唱えるトランプ氏や他のポピュリスト政治家の台頭で、17年は世界的に「ポリティカル・コレクトネス」への「反逆」の動きが広がるかもしれない。

◇混沌(カオス)の中での日本の役割

14年の暮れ、シドニー市内中心部のマーティン・プレイスにあるリンツ・カフェで、自称イスラム教指導者の男が、居合わせた客らを人質に立てこもり、警察との銃撃戦の末、従業員と客の2人が犠牲となる事件が発生した。事件後警察の規制線が解かれると、現場となったカフェには、宗教、人種を問わず犠牲者を悼む数万人の人が訪れ、カフェの前と隣接した広場はおびただしい数の花束で埋まった。

立てこもり事件後、無数の花で埋まった現場カフェ近くの広場(シドニー市内マーティン・プレイス、2014年12月19日筆者撮影)
立てこもり事件後、無数の花で埋まった現場カフェ近くの広場(シドニー市内マーティン・プレイス、2014年12月19日筆者撮影)

結局犯人はISなどのテロ組織との関係は薄かったようだが、この事件により逆に一般のイスラム教徒を含め全オーストラリア国民が一致団結したかのように見えた。

オーストラリアは、百を超える民族がそれぞれの言語、文化を尊重し合う多文化主義政策の下で共存・共生している社会だが、それを持続していくには原則である自由・平等・博愛といった共通の普遍的価値をそれぞれバックグラウンドの違う人びとが(理想論や建前であっても)認め合い、守っていく必要がある。

イスラム教徒やアジア系移民排斥を訴えるポーリン・ハンソン上院議員が言う「一般オーストラリア人」の持つ脅威や不公平感について、全く理解できないわけではない。しかし、どうしてもそこに潜むマジョリティー(多数派国民)が持つマイノリティー(少数派国民)への優越感、差別意識を排除することはできない。

前述した「ポリティカル・コレクトネス(PC)」だが、もちろん常軌を逸した「行き過ぎ」は良くない。例え同一民族(実際にはあり得ないが)同士が共に暮らしていく社会であっても、他人へのある程度の配慮、言葉使いのルールは必要だ。本来PCは、アメリカのような多民族共生国家において弱者やマイノリティーを保護するために作られた概念であって、これが間違っているからといって「暴言」を吐いて良いわけでは決してない。

16年12月10日、ダーリング・ハーバーで大規模な日本の文化や観光地を紹介するフェスティバルが開催され、浴衣や日本のアニメのコスプレ姿の市民ら約3万人が集まった。その来場客に話を聞くと、口々に「日本文化や日本食が大好き」「また日本に行きたい」と答えてくれた。かつては憎しみあい、殺しあう悲惨な戦争を戦った日本とオーストラリア両国だが、70数年経った今お互い理解し合い、良き友人として国際社会で共存している。17年は、世界が激動するまさに混沌(カオス)とした年になるかもしれない。しかし、戦後の焼け野原から奇跡的に立ち上がり、平和憲法のもと70年以上原則戦争には参加せず、弱肉強食の国際社会の中で存続してきた文字通り「普通ではない」日本に課せられた使命は、世界の平和と調和のために尽力することではないだろうか。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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