新・豪リークス/たかが野球、されど野球。豪州ベースボール事情

新・豪リークス

現在TBSのシドニー通信員を務める筆者が、オーストラリアの“ホット”な話題を独自の視点で分析する。あっと驚く“裏情報”や“暴露(リーク)情報”も!?

第13回「たかが野球、されど野球豪州ベースボール事情」

国別対抗の野球世界一を決めるワールド・ベースボール・クラシック(WBC)が、今年3月に開催されるが、その1次ラウンドで日本代表はオーストラリア代表と対戦する。他のスポーツに比べあまり盛んではない豪州プロ野球の現状とその実力を探ってみたい。

◇豪州プロ野球オールスター・ゲーム開催

メルボルン市内中心部から西へ約20キロの場所にあるメルボルン・ボールパーク。ここで昨年12月22日、オーストラリア・ベースボール・リーグ(ABL)のオールスター戦が開催された。

豪・野球リーグのオールスター戦が行われたメルボルン・ボールパーク(2016年12月22日、筆者撮影)
豪・野球リーグのオールスター戦が行われたメルボルン・ボールパーク(2016年12月22日、筆者撮影)

現在シドニー、メルボルン、ブリスベン、パース、アデレードそしてキャンベラの各都市に1チームずつの計6チームでリーグ戦を行なっているABLは、毎年11月から2月中旬までのシーズン中に、選手の出身国別に分けてオーストラリア選抜と世界選抜が対戦する「球宴」を開催している。

今回、埼玉西武ライオンズからメルボルン・エーシズ(Melbourne Aces)に短期派遣されていた本田圭佑投手ら日本人選手3人も世界選抜のメンバーとして選出され、アメリカ大リーグ(MLB)のオリオールズやロイヤルズなどで活躍したジェレミー・ガスリー投手なども出場した。

試合は、投手が1回ごとに目まぐるしく変わるため、両チームなかなか得点を重ねることができない中、スコア1対1で迎えた9回裏2死2塁で、アデレード・バイト(Adelaide Bite)所属のステファン・ウェルチ選手がライト前にサヨナラ・ヒットを放ち、オーストラリア選抜チームが劇的な勝利を収めた。

試合終了直後盛大に何発も花火が上がったが、クリスマス前のホリデー・シーズンとはいえ、平日の木曜日の夜ということもあってか、約5,000人収容のスタジアムは半分ほどの入り。球場に足を運んだ観客に話を聞くと「子どもはチームに所属しているが、自分自身で野球をした経験は無い」、「野球のルールはよく分からない」など、スポーツ好きそうな中年男性からも日本ではちょっと考えられないような答えが返ってきた。

年に一度のオールスター戦ということで、地元ケーブル・テレビ局のフォックス・スポーツによる中継も行われ、解説はMLBのブルージェイズなどでプレーし、日本のプロ野球でも日本ハムや巨人でリリーフ投手として活躍したマイケル中村氏が務めた。現在家族が住むメルボルンで、スポーツ用品販売などの仕事をしている中村氏は「オーストラリアの野球レベルはだんだん上がってきているが、メディアの注目度が低く、試合に観客があまり集まらないのが残念だ」と話した。

◇選手は“兼業”、豪州プロ野球界の実情

埼玉西武の2選手と談笑するマイケル中村氏(写真右、筆者撮影)
埼玉西武の2選手と談笑するマイケル中村氏(写真右、筆者撮影)
オールスター戦後のインタビューに答えるディーブル豪代表監督(16年12月22日、筆者撮影)
オールスター戦後のインタビューに答えるディーブル豪代表監督(16年12月22日、筆者撮影)

オーストラリアに最初に野球をもたらしたのは、1850年代にビクトリア州で起きたゴールド・ラッシュでやってきたアメリカ人鉱夫たちで、金鉱のあったバララットで初めて野球チームが結成されたという。97年にはナショナル・チームがアメリカ遠征を行うなどしたが、その後はマイナー・スポーツとして低迷。1989年に8チームによるプロ・リーグが発足したものの、財政難などで長続きせず、MLBなどが出資して現在の6チームによるABLが再開したのは2010年のことだった。

ラグビーやクリケット、サッカーなどに比べ、国内ではいま一つ盛り上がりに欠けるオーストラリアのプロ野球だが、大リーグ通算105本の本塁打を放ち、MLBのオールスター戦出場も果たした元中日ドラゴンズの「ディンゴ」ことデービッド・ニルソン捕手を筆頭に、これまで多くのメジャー・リーガーを輩出してきた。また、英語圏という利点を生かして高校・大学レベルからMLB入りを目指して渡米する選手も多く、現在約30人の選手がアメリカのメジャーとマイナー・リーグに所属しているという(独立リーグを含めると100人以上)。

このように選手個々の身体能力が高いオーストラリアは、国際大会で好成績を残すこともあり、04年のアテネ五輪では史上初めてオール・プロで挑んだ日本代表チームを倒し、銀メダルに輝いている。

とはいえ、1年に3カ月半のシーズンで、公式戦は基本的に週末のみ。平均的なABL選手の報酬は、月に約1,000豪ドルで、アメリカなどのプロ野球でプレーしている選手でなければ、基本的に別の仕事を持っている。例えばメルボルン・エーシズのドゥシャン・ルジッチ投手は平日ビール工場で働き、シドニー・ブルーソックスのジョシュ・ディーン選手は高校の特別養護教師、パース・ヒートのティム・ケネリー選手は消防士……という具合だ。

また、時には数万人の観客で埋まるラグビーやサッカーの試合と違い、ABLの公式戦が行われる球場は小ぢんまりとしている。オールスター戦が行われたメルボルンの球場には外野席は無く、一塁側内野席は広場になっていて、まるで近所の公園のようなベンチと長いすが置かれているだけ。その周りにホット・ドックやビールなどを売る屋台が軒を連ねている。

かつてゴールドコーストに存在したプロ野球チーム「クーガーズ」の元オーナーで、現在ABLの国際渉外部長のデニー丸山氏は「今までABLはMLBのファーム的性格が強く、今後は日本や韓国、台湾などアジアのプロ野球や独立リーグとの連携を強化していく必要がある」と語ってくれた。

◇WBCで日豪が再び激突

4年に1度の野球世界一決定戦、第4回WBCが3月6日から開催され、日本代表チームは、キューバ、中国そしてオーストラリア代表と1次ラウンドで同じ組となった。

ABLオールスター・ゲームで豪州選抜チームを指揮したジョン・ディーブル監督は、今回のWBCも4大会連続で代表チームを率いるが、現在MLBのロサンジェルス・ドジャースの環太平洋地区担当スカウトとしての顔も持つ。以前はボストン・レッドソックスのスカウトとして、松坂大輔投手や岡島秀樹投手の獲得に関わるなどしていて、昨年11月にも日本を訪問し日本ハムの大谷翔平選手の視察を行っている。

アテネ五輪で日本代表に2度勝つという快挙も成し遂げたそのディーブル監督を直撃すると「日本はもちろん強いチームで、負かすのはとても大変だ。彼らはミスをしない。我々は長年日本チームを恐れているし、リスペクトもしている。日本に勝つためには本当にベストを尽くさなければならない。できればアテネの再現を望みたいね」と笑顔で答えてくれた。

オーストラリアでは長年“マイナー・スポーツ”とされていたサッカーは、ワールド・カップやアジア・カップで日本代表と数々の熱戦を繰り広げるなどした結果、国内プロ・リーグの人気が定着してきている。競技人口はそれなりにいるというオーストラリアのプロ野球、実力がある選手もいるのだからこれからもっと盛り上がって欲しいものだ。


PROFILE
飯島浩樹(いいじま・ひろき)
日本の民放局でニュース番組のディレクターなどを経て来豪。豪SBSの日本語教育番組の制作などに携わった後、TBSのシドニー五輪支局現地代表となる。現在、TBSのシドニー通信員として多くのニュース・レポートを日本に送っている。オーストラリア人の妻、子ども3人とシドニー北部に在住。

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