国家主席を走らせた 経済の歪み


国家主席を走らせた 経済の歪み



7・5 中国ウイグル騒乱
文=青木公

国際ニュース反射鏡

 国際的な地位が向上した中国政府にとっては、イタリアG8会議の晴れ舞台が暗転。シルクロードの地、ウイグル自治区で騒乱が起きてしまった。胡錦涛・国家主席は北京にUターンした。鎮火につとめて面子を失った。自慢の経済成長がもたらした、歪みの付けだった。
 中国政府にとって、国際的なビッグ・イベントは鬼門といえようか。1年前の北京オリンピック前には、チベットの自治区での騒乱が起きた。聖火リレーは、世界各地で、チベット自治区での民族抑圧をめぐって反中国の抗議に巻き込まれた。長野やキャンベラでの中国留学生による騒ぎを思い出す。
 7・5新疆(しんきょう)ウイグル自治区騒乱は、イタリア・ラクイラでのG8サミットにぶつけるかのように起きた。G8と新興経済国との会合のためイタリアに来ていた中国の胡錦涛主席は、即時に北京へ帰ってしまった。面子(めんつ)を重んずる中国にとっては、実にタイミングの悪い出来事だった。

天安門事件とウイグル学生
 20年前の天安門事件も、ゴルバチョフ・ソ連大統領(当時)が北京訪問中だった。民主化を求める中国学生たちのリーダーの1人ウーアルカイシさんは、ウイグル族出身者で、いま台湾に亡命している。今回のウルムチ騒乱で、ウイグルに戻ろうとして、香港で追い返されてしまった。
 このように、急に起きたかに見えるウイグル騒乱には、長く根深い背景がある。漢族が90%を占める中国には56の少数民族が暮らしている。中国の長い歴史をたどってみると、満州族やモンゴル族が、中国王朝の支配者だった時代もある。民族の興亡は激しい。日本への侵攻を図った元王朝による元冠の役(13世紀)は、モンゴル族王朝によるものだった。
 オーストラリアも日本も、少数民族を抱えてはいるが、漢民族中心の中国は、より複雑な民族問題が時折、火を吹く。中国と同じ広大な社会主義国、ソ連・ロシアでも90年代のチェチェン紛争は、カフカス(コーカサス地方)にある7つの共和国の1つでの反モスクワ支配への血なまぐさい騒乱だった。

国家主席を走らせた 経済の歪み

変わった中国のメディア操作
 ウイグル騒乱は、G8で脚光を浴びた中国政府にとって間が悪い出来事だったが、中国政府の対応策は、チベット騒乱に比べて、柔軟だった。チベット・ラサ騒乱では、外国メディアを締め出した。ウイグル騒乱では、海外メディアにウルムチ取材を認め、プレス・センターまで設けた。騒乱の映像は、国際的に流れた。漢族による仕返しの姿も、国際映像にのって明らかになった。IT時代で利用者数3億人を超す携帯電話やインターネットで、国外に実像が流れ出すのは、くい止められなくなったからだろう。
 ちょうど同じころ、中東イランの大統領選の結果をめぐる反政府系の抗議デモが起きた。イラン政府による外国メディアの取材規制、禁止に比べると、中国政府の方が、チベットでの苦い経験を生かしてスマートだったといえよう。
 そうはいっても、中国政府は国外で活動する亡命者の口を封じることはできない。チベットならダライ・ラマ。ウイグル族の場合は、世界ウイグル会議(本部・ドイツのミュンヘン)の女性リーダー、ラビア・カーディルさんの声は、欧米メディアを通じて広がった。米国に亡命、11人の子どもの母親の訴えは、NHKニュースでも流れたが、NHK国際放送の映像は、中国当局によって遮断されてしまった。中国政府による情報公開の限界だろう。
 ところで、イタリアから急きょ帰国した胡錦涛主席の映像は見られなかった。ウルムチには治安大臣が派遣され、その白い文官の制服姿が映し出され、漢・ウイグル両族の被害者には補償金まで支払われた。 経済格差が火種だった
 民族差別、宗教や人種問題は、これからも中国政府につきまとうだろう。チベット自治区、ウイグル自治区のほか内モンゴル自治区もある。中央アジアのイスラム国と接するウイグル自治区の東隣には、ジンギス汗の国、モンゴル国があり、中国の内モンゴル人と民族統一を願う流れがある。
 こういった民族自決の血の流れとは別に、現代では経済格差が騒乱の火つけ役となっている。今度のウイグル騒乱の火元は、経済大国・中国のエンジン部、香港に接する広東省への出稼ぎウイグル人2人が殺されたからだ。中国の治岸部と、内陸部の経済格差は、漢族だけでなく、少数民族にも及んでいる。そのほころびが、内陸部で火を吹いた形だ。中国にとって内陸開発は命題だが、簡単にはいかない。
G8でなくなったG8
 胡錦涛主席が姿を消したイタリアG8は、ウイグル問題を深追いしなかった。中国政府の巧みな火消し対策もあったが、中国抜きでは世界秩序が保てなくなったからもある。また、ホスト国イタリアのベルルスコーニ大統領のラテン的な開けっぴろげな個性も、事態を荒だてなかったと思える。G8プラス主要経済国のほか、いつの間にかエジプト大統領やリビアのカダフィ将軍まで姿を現した。G8枠外での国際協調の流れはとまらない。


筆者紹介・青木公(あおき・ひろし)
朝日新聞社友。日豪プレス創刊時に朝日新聞シドニー支局長。定年後、東南アジア、中南米、アフリカ大陸などの途上国を毎年、訪問・取材。現在、国際協力機構(JICA)サポーター。著書に『ODA最前線』『中高年、はつらつと海を渡る』『ブラジル大豆攻防史』ほか。海外日系紙に寄稿

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