ウエストパック、セント・ジョージに合併提案

ニュース解説
実現すれば時価総額でトップ・バンクに
時事通信社シドニー支局:犬飼優
豪銀第3位のウエストパック銀行が同5位のセント・ジョージ銀行に合併を提案した。セント・ジョージ経営陣も提案に合意した。事実上の吸収合併で、買収額は186億ドル(約1兆8,000億円)。これを上回る条件を提示する金融機関が今後出てこなければ、時価総額でコモンウエルス銀行を上回る国内トップの銀行が誕生する。これまで再編を阻んできた政府の「4大銀行政策」も、この合併を機に見直される可能性が出てきた。


豪金融界で最大のM&A
「我々と一緒になりませんか。国内トップの銀行になれます」。
 5月9日金曜日。ウエストパックのテッド・エバンズ会長はシドニーの同行本店近くにある自宅にセント・ジョージのジョン・カーチス会長を招き、合併を提案した。
 週明け12日朝、セント・ジョージはウエストパックから合併提案があったと発表。両行の株式は豪証券取引所(ASX)で取引停止。そして翌13日、セント・ジョージ経営陣はウエストパックの提案を受け入れると発表した。合併提案からわずか4日。セント・ジョージの大株主からは経営陣の判断が「早過ぎる」と批判が出たほどだ。
 ウエストパックの提案はセント・ジョージ1株にウエストパック株1.31株を充てる株式交換方式。金額にして186億ドルで、オーストラリア金融史上、最大のM&A(合併と買収)となる。
 合併後の時価総額は660億ドルとなり、国内トップ。総資産5,500億ドル(約54兆円)はナショナル・オーストラリア銀行(NAB)に次ぐ第2位に浮上する。
 また、顧客数は約1,000万。両行のブランド、支店数、現金自動預払機(ATM)数はそのまま維持するとしているが、国内の支店数は合わせて1,230、ATMは約2,700で、国内最大のリテール網だ。
 さらに国内の市場シェアは、総貸し出し市場で約22%、住宅ローン約25%、クレジット・カード約27%でいずれもトップ。資産運用事業でも運用額は1,080億ドルとなり、首位に立つ。
8月にCEOをヘッドハント
 この合併提案には布石があった。昨年8月、ウエストパックのエバンズ会長は、退任するデービッド・モーガン最高経営責任者(CEO)の後任にウエストパック内部からの昇格でなく、外部からわざわざ人材をヘッドハンティングした。
 それがセント・ジョージの現役CEOだったゲイル・ケリー氏だ。南アフリカ共和国生まれで、現在52歳のケリー氏は、1997年に豪州に移住。小児科医の夫を持ち、4人の子どもの母親でもあるケリー氏は、2001年12月にセント・ジョージCEOに就任。個人リテールに注力し、同行の資産、利益を在任期間で2倍以上に引き上げたスーパーレディである。
 そのケリー氏は昨年8月のセント・ジョージのCEO退任後、準備期間を置き、今年2月にウエストパックCEOに就任した。
 ケリー氏は6年半もセント・ジョージのCEOを務めていただけあって、同行の事情は知り尽くしている。ウエストパックとしては、セント・ジョージを買収するに当たり、まさに「うってつけの人物」。同氏は3月にはセント・ジョージで右腕だった役員のピーター・クレア氏をウエストパックのリテール部門のトップに据えた。
サブプライム問題が追い風
 セント・ジョージを狙うウエストパックにとって、米国の低所得者向け高金利型(サブプライム)住宅ローンに端を発した世界的な金融市場の混乱も追い風となった。
 セント・ジョージの株価はケリー氏の退任後、下がり続ける。昨年11月半ばに36ドルだった株価は今年3月上旬には一時20ドルまで下落した。また、国際金融市場では、リスク回避の動きが強まり、金融機関が円滑に資金調達することが難しくなった。
 ウエストパックの格付けは「AA(ダブルA)」。これに対し、セント・ジョージは「A(シングルA)」。ウエストパックのエバンズ会長が豪有力紙オーストラリアンに語ったところによると、両行の資金調達の金利差はサブプライム問題発生前にわずか「3ベーシス・ポイント(0.03%)」だったのが、発生後は現在に至るまで「40ベーシス・ポイント(0.4%)以上」になったという。
 銀行にとって資金調達コストが上昇すれば、それだけ利益に響いてくる。セント・ジョージが5月6日に発表した08年3月中間期決算では、純利益は前年同期比10.1%減の5億1,400万ドルとなった。また、現金利益は6.2%増の6億0,300万ドルと増益となったものの、アナリストの事前予想(6億1,900万ドル)を下回った。
 これまでケリー氏の下でシンボルである「竜」のごとき上り調子を続けてきたセント・ジョージが、一転して下降トレンドに入ろうとしている時で、ウエストパックにとっては、まさに「買い時」だった。
外資巻き込んだ再編劇も
 とはいえ、これで合併が成功した訳ではない。セント・ジョージの経営陣は合併に同意したものの、当然ながら株主からの承諾を得る必要がある。その前に今回の合併が独占禁止法に抵触するかどうかについて、豪州公正取引委員会であるACCCの審査をパスし、その上で連邦政府の認可も得なければならない。ウエストパックのケリーCEOによると、ACCCの審査だけで3、4カ月はかかる。
 さらに、ウエストパックに対抗して他大手行が対抗提案をしてくることも考えられる。NABとコモンウエルスのトップは、対抗提案の可能性を否定していない。特にNABはかつてセント・ジョージの買収を計画し、株式も保有していた。提案合戦になれば、外資を巻き込んだ再編劇が起こる可能性がある。
4大銀行政策の見直しも
 しかし、実はウエストパックとセント・ジョージが合併しても、総資産では世界の名だたる銀行には遠く及ばない。例えば、日本でトップの三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下の三菱東京UFJ銀行は総資産153兆円(2008年3月期)。合併するウエストパックとセント・ジョージの資産合計(約54兆円)はその3分の1でしかないのだ。
 これは政府の「4大銀行政策」が大きく影響している。1990年、当時のキーティング財務相(労働党政権)は国内金融機関の競争促進のため、大手4行(コモンウエルス、NAB、ウエストパック、ANZ)と大手保険会社2社(AMP、ナショナル・ミューチュアル=後に仏AXAが買収)について合併と外資の買収を禁じた。
 ハワード政権下で、保険会社2社の規制と外資規制は外れるが、大手4行同士の合併は現在も認められていないため、合併による規模拡大はできない。国内貸し出し市場では既に大手4行の寡占状態にある。大手2行が合併すれば、それだけで貸し出し市場のシェアが4割を超えてしまう。
 しかし、金融機関の国際化が急速に進む中で、主要プレーヤーの1つとしてやっていくのなら、豪州の大手行同士の合併による規模拡大は避けられないのも事実だ。
 日本では1990年代に10行以上あった都銀はメガバンクでいえば、3グループに集約された。独禁法上の問題はあるにせよ、豪州でも3行体制、あるいは2行体制になる日が近いうちに来るかもしれない。

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