豪州、2010年に排出量取引を導入

ニュース解説
豪州、2010年に排出量取引を導入
温室効果ガス削減-政府が討議文書を公表

時事通信社シドニー支局:犬飼優
オーストラリア政府は7月、二酸化炭素(CO2)など温室効果ガスの排出量取引制度(Emmissions Trading Scheme=以下ETS)の導入に向けたグリーンペーパー(討議文書)を公表した。排出量取引とは、企業に温室効果ガス排出量の枠を割り当てて、過不足分を売買する制度。温室効果ガスを削減する手段の1つとして、欧州連合(EU)では05年から実施。日本も福田康夫首相が年内に試行導入する考えを表明している。政府は各界の意見を聞きながら、年末に最終報告書であるホワイトペーパー(白書)をまとめ、2009年に法案化した上で、10年7月にスタートさせる計画。しかし、ETSは企業にコスト負担を強い、成長にブレーキを掛けかねないことから産業界には反対が多い。今後、導入時期や実施内容で政府が大幅な修正を迫られる可能性がある。


公約の1つ
「このまま何もしなければ、2030年までにオーストラリアの干ばつは最大20%広がる。いま動かなければ、オーストラリアの経済と環境は大きな打撃を受けるだろう」--。7月16日。ペニー・ウォン気候変動担当相は、豪州版ETSの概要を説明する記者発表で、温暖化対策の重要性をこう言って力説した。
 気候変動相は、昨年12月のラッド労働党政権発足時に新設されたポスト。同政権は、地球温暖化政策に消極的と見られていたハワード前政権との違いを明確にし、「環境重視」を前面に押し出すため、気候変動の所管をこれまでの環境相から切り離した。  ラッド労働党が選挙中に公約した主な環境政策は、1つ目が「京都議定書の批准」(昨年12月に批准)、2つ目が50年までに00年比で温室効果ガスを60%削減、そして3つ目がこのETSの導入だ。
キャップ・アンド・トレード
 豪政府が導入を考えているETSは、一般的な「キャップ・アンド・トレード型」。全体の温室効果ガスの総排出量に上限(キャップ)を設定し、参加する企業にそれぞれに排出量の枠(パーミット、以下排出枠)を割り当てる。それら枠が、キャップの範囲内で取引(トレード)されることから、総排出量は自ずと抑制される仕組みだ。
 例えば、A社という企業が与えられた排出枠以上にガスを排出しているとする。この場合、大きく分けて、①=自社で生産調整や省エネを進めて排出量を減らす、②=排出枠を他社から購入する、③=①と②の組み合わせの3つの方法が考えられる。A社は①、②、③のうち、安いコストの方法を選択する。
 反対に、B社の与えられた排出枠が、生産調整や省エネ努力で余った場合、その枠の一部を販売することができる。これら企業間の排出量取引の結果、「できるだけ低いコストで温室効果ガスの排出量を減らすことができる」(グリーンペーパー)というわけだ。
約1,000社が参加義務付け
 豪州版ETSでは、温室効果ガスの排出量の多い企業の参加が義務付けられる。グリーンペーパーによると、10年の取引スタート時点の企業数は約1,000。国内で登録されている全760万社の企業のうち1%にも満たない。
 約1,000社は電力、鉱山、輸送、製造、廃棄物処理など。これらだけで国内の温室効果ガス排出量の75%(年約25万トン)をカバーする。豪州では農業セクターは電力セクターに次いで2番目に多く温室効果ガスを排出しているが、スタート時の参加は見送られ、早くて15年からとなる。また、林業の参加は自由だが、森林伐採事業はこれまでの政府の規制でガス排出量が既に減少しているため除外された。
 参加が義務付けられた企業は通常、政府から割り当てられた排出枠を有償で購入するが、大量の排出量ながら厳しい国際競争にさらされているアルミニウムやセメント、鉄鋼などは無償で排出枠が与えられる。その割合は取引全体の3割になるという。
 一方、ETSの参加企業は排出枠の購入あるいは売買に掛かるコストを最終価格に転嫁する可能性がある。このため、政府は消費者、特に低・中所得者層に負担にならないように軽減策や救済策を検討している。この対策費には排出枠を企業に有償で供与して得られた資金が充てられる。
 例えば、石油業界もETSに参加するが、ガソリン価格にそのコストが上乗せされることが予想されるため、ガソリンに課税されている燃料税を引き下げることで「上乗せ分」を相殺し、値上げにならないようにする。また、ガス排出量の最も多い電力会社は排出枠購入にコストがかかるが、電気料金が上がらないように政府が補償金を支出する。
 試算では、排出量1トン当たりのコストを20ドルとすると、電気料金(石炭火力による発電)は約16%、ガス料金は約9%上昇。消費者物価指数(CPI)全体でみると、0.9%アップするとしている。
年末に20年までの中期削減目標
 今後のスケジュールは、年末にグリーンペーパーの最終版である白書がまとめられるとともに、温室効果ガスの中期的な削減目標が公表される。ラッド政権は50年までに温室効果ガスを60%削減する長期目標を掲げているが、中期の20年までにどのぐらい削減するかの目標が示される。
 この20年までの削減目標をベースに10年からスタートするETSでどの程度、排出量を抑制するか、いわゆる総排出量の上限が決まってくる。この総排出量の上限が明らかでないため、現時点では、このETSが、実際にどの程度ドラスティックなものになり、企業や国民に負担がかかるかが分からない。
 ただ、今回のグリーンペーパーでは、前述したように排出枠の一部無償供与や低・中所得者層への救済策など、負担を緩和するための幅広い施策を盛り込んでいる。企業や国民から概ね納得の得られるソフトランディングな内容であることは確かであろう。  問題は、このような「八方美人」的なソフト路線で、ETS導入の目的であるガス排出量を実際に減らすことができるか。「痛み」がなければ、なかなか企業や国民は排出量を削減する努力をしないからだ。排出量を実際に減らせられなければ、ETSは費用がかかるだけのただの「無用の長物」になりかねない。
 豪州では温室効果ガスの約半分が電力発電所からの排出で、その大半が温室効果ガスの排出では「劣等生」である石炭火力。このことから、豪州の国民1人当たりの温室効果ガスの排出量は世界で米国に次いで大きいと言われている。環境重視を前面に掲げるのであれば、ハード路線をとり、国民や企業の低い環境意識を啓蒙することも必要かもしれない。

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