2016年6月 ニュース/総合

連邦選挙を7月2日に実施すると発表したマルコム・ターンブル首相(Photo: AFP)
連邦選挙を7月2日に実施すると発表したマルコム・ターンブル首相(Photo: AFP)

連邦選挙、7月2日投票

首相交代後初の与党再選か、3年ぶりの政権交代か

連邦与党保守連合(自由党、国民党)のマルコム・ターンブル首相(自由党党首)は5月7日、上下両院の全議席を同時に改選する「両院解散同時選挙」を7月2日に実施すると発表した。最新の世論調査ではターンブル政権の支持率は低下傾向にあるが、一定の議席を失いながらも再選される公算がある。ただ、今後の情勢によっては、与党が第1党を維持するものの過半数に満たない「ハング・パーラメント」になるか、労働党が僅差で過半数を制して3年ぶりに政権を奪回する可能性も否定できない。

両院解散同時選挙は規定路線となっていた。ターンブル首相は4月18日の時点で、5月3日の連邦予算案発表後に両院解散をピーター・コスグローブ連邦総督に助言する方針を表明。想定通り、コスグローブ連邦総督は7日、オーストラリア憲法第57条の規定に基づいて首相の助言を承認し、両院を解散した。

通常の連邦選挙は、下院(任期3年=定数150)の全議席と上院(任期6年=定数76)の約半数を改選するが、ターンブル首相は上院の全議席も同時に改選する両院解散同時選挙に踏み切った。両院解散同時選挙は1987年以来29年ぶり。両院解散同時選挙の目的は、下院と上院が異なる議決を行った際、議会のこう着状態を打破することにある。

ターンブル首相は、今年末までに実施される見通しだった連邦選挙を大幅に前倒しした。その上で、与党が過半数に満たない上院でキャスティング・ボートを握る少数野党勢力を一気に落選させることを念頭に、上院の全議席を一気に改選するという賭けに出た。与党にとって上院の少数勢力は法案成立のネックとなっていたが、少数勢力の当選を難しくする上院選挙制度の改正法案を3月に成立させたことで、両院解散同時選挙へ道筋を付けていた。

両院解散を受けて、与野党は約2カ月間の長い選挙戦に突入した。ターンブル首相と最大野党労働党のビル・ショーテン党首は8日、ともに接戦選挙区が多いQLD州に入り、遊説を開始した。

ターンブル氏は昨年9月の首相就任後、初の連邦選挙に臨む。保守連合は資源ブーム後の経済成長と豊かさの持続、雇用の拡大、健全な財政など、経済を全面に押し出して再選を訴えている。一方、労働党は教育や医療への歳出増などを公約し、13年以来3年ぶりの政権交代を目指す。

ショーテン氏は22日、今回の選挙について「医療(政策)をめぐる国民投票だ」と述べた。労働党は政権を奪回すれば、医師に支払うメディケア(国民健康保険)給付金の増額に24億ドルを支出すると発表した。これは選挙戦で発表した同党の公約の中で最も高額。同党は処方薬に対する政府の補助金を9億7,100万ドルをかけて増額する計画も公表し、国民の医療費負担の軽減を訴えている。

これに対して、ターンブル氏は「(ショーテン氏は)予算のブラック・ホールを大きくしている」と主張。労働党の歳出策は財源のあてがなく、新たな増税につながるだけだと批判している。

保守連合 労働党
税制 ●小規模事業者に対する法人税減税。小規模事業者の認定要件の拡大。 ●政権の法人税減税策を批判。中止すれば、500億ドル節約できると主張。
●ネガティブ・ギアリング(住宅投資に対する優遇税制)を維持。 ●ネガティブ・ギアリング規制強化。投資物件のキャピタル・ゲイン税優遇措置縮小。
医療 ●一般開業医に対するメディケア給付金引き上げ凍結策の維持。 ●総額24億ドルを投じ、同給付金を増額。処方薬への補助金も引き上げ。
教育 ●反発を招いた大学授業料の規制緩和策を撤回。 ●10年間で370億ドルを投じ、教師の訓練、障がい者教育への支出拡大など。
環境 ●温室効果ガス排出量を2030年までに05年レベルの26〜28%に削減。 ●排出量を2030年までに05年レベルの45%に削減。50年に純排出量をゼロに。

与党23議席減の予想も

与党の再選は盤石ではなく、どれだけ議席を減らすかが焦点となる。前評判の高かったターンブル氏に首相が交代したことで、主な世論調査では保守連合の支持率は昨年末にかけて急回復した。しかし、今年に入り、相次ぐ閣僚のスキャンダルや税制改革論議で首相の指導力不足が露呈したことなどを背景に、与党支持率は低下傾向が続いている。

選挙戦が始まって約2週間が経った5月下旬の時点で、主要メディアの選挙予測は分かれている。

保守系の全国紙「オーストラリアン」5月23日付は、「保守連合から労働党へのスイング(政党間の得票率の増減)は4.5%」と分析。この数字を基に、現時点で投票が行われれば「労働党は保守連合から23議席を奪い、ショーテン氏は数議席差で過半数を制して労働党政権を樹立する可能性がある」と指摘した。

同紙が掲載した調査会社ニューズポールの最新の世論調査によると、2大政党別の支持率は労働党51%、保守連合49%と前回(5月9日付)と同じ。各政党別の支持率は、保守連合41%(前回と同じ)、労働党36%(1ポイント下落)、環境保護政党グリーンズ(緑の党)11%(前回と同じ)、その他12%(1ポイント上昇)だった。

また、「どちらのリーダーが首相にふさわしいか」の設問では、46%がターンブル氏と答え、31%のショーテン氏を依然として上回った。しかし、その差はピーク時の半分以下まで縮小している。

一方、リベラル系の地方紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」5月21日付週末版は、保守連合は議席を減らすものの「僅差で過半数を維持する」と予想。その上で「(10年の連邦選挙で過半数に届かなかった労働党が無所属議員らの協力を得て少数政権を樹立して以来の)ハング・パーラメントの再来もあり得る」と論じた。

同紙が掲載した最新の世論調査によると、2大政党別支持率は、保守連合51%、労働党49%(前回5月5〜7日の調査と同じ)だった。

ターンブル氏を「評価する」と答えたのは48%と「評価しない」(38%)を上回ったが、その差は今年2月の38ポイントから大幅に縮小している。ショーテン氏は、「評価する」が40%と「評価しない」(46%)を依然として下回っているものの、差は2月の15ポイントから縮まってきている。

都市郊外の激戦区がカギ握る

オーストラリアの政治制度は、下院選挙で選ばれた与党の党首が首相に就く英国式の議員内閣制。「中道右派」とされる保守連合と「中道左派」の労働党が政権交代を繰り返す2大政党制が定着している。

政策面では、どちらかと言えば保守連合は「小さな政府」による新自由主義的な経済・財政運営を掲げる一方、労働党は「大きな政府」による福祉優先、弱者重視のリベラル路線を採る。いずれも外交・通商政策は、米国との同盟関係や自由貿易を重視した現実路線だ。

支持層の色分けは、はっきりしている。保守連合の最大勢力である自由党の支持者は、主に財界や企業経営者などのホワイトカラー層に多い。同じく保守連合を構成する国民党は、農村の農業生産者が支持基盤。労働党の支持母体は労働組合で、ブルーカラーやインテリ層が支持者の中心だ。

ただ、オーストラリアの選挙では、こうした組織票よりも、支持政党を持たない浮動票の重みがはるかに大きい。罰則付きの強制投票制を採用しているため、投票率がきわめて高いことがその背景にある。加えて、近年は選挙時に吹く「風」次第で、浮動票がどちらかに一気に流れる傾向が強まっている。過去5年間で延べ5人が首相に就任するなど政権の短命化が加速しており、世論の「振れ幅」が大きくなっていると言える。

浮動票の中でも特に2大政党がターゲットとしているのが、住宅ローンを払いながら仕事と子育てに明け暮れる若・中年世帯だ。こうした層は「モーゲージ・ベルト」(住宅ローン地帯)と呼ばれるシドニー西部やブリスベン郊外などの大都市近郊に多い。家計のやりくりや雇用に影響する経済政策や財政支出、税制優遇措置などに関心が高い。

モーゲージ・ベルトには得票差が小さい接戦選挙区が多いため、与野党は特に力を集中させている。ターンブル氏が選挙戦初日、ブリスベン郊外で遊説をスタートさせたのも、激戦区の浮動票の取り込みが勝敗のカギを握るからだ。

2大政党はこうした都市郊外の勤労者世帯の人気取りを意識せざるを得ない。大きな対立軸は見えにくくなっており、選挙はリーダーの人気投票という要素が強まっている。もっとも、世論調査結果を見る限り強いリーダーは不在で、無党派層では「どちらがましか」という消去法的な投票行動が予想される。いずれにせよ、今回の選挙も大都市近郊の接戦選挙区の「風向き」が、勝敗を決することになりそうだ。


5月3日、連邦議会で新年度予算案を発表するスコット・モリソン連邦財務相(Photo: AFP)
5月3日、連邦議会で新年度予算案を発表するスコット・モリソン連邦財務相(Photo: AFP)

小規模事業者と中間層に恩恵

2016/17年度連邦予算案発表

連邦政府は5月3日、2016/17年度(16年7月〜17年6月)の連邦予算案を発表した。昨年9月に就任したマルコム・ターンブル首相とスコット・モリソン財務相の下で初の予算案。7月2日の連邦選挙での再選を念頭に、段階的な法人税減税や、中所得者層への所得税の実質減税、資源ブーム後の経済成長維持を図るイノベーション(技術革新)・科学技術振興策などを打ち出した。

予算案の規模は、基礎的現金収支ベースの歳入が4,113億ドル、歳出が4,450億ドル。財政収支は371億の赤字となり、赤字額が国内総生産(GDP)に占める割合は15/16年度の2.4%から16/17年度は2.2%に縮小する見通し。財政赤字は3年後の19/20年度に60億ドルとGDPの0.3%まで削減するとしているが、15/16年度予算案で目標とした19/20年度の黒字化は断念した。

法人税、10年後に25%まで引き下げ

予算案の施策の目玉は、今後10年間の法人税改革。まず今年7月1日から小規模事業者に対する法人税率を現行の28.5%から27.5%に1ポイント引き下げる。加えて、小規模事業者の年商の下限も現行の200万ドルから1,000万ドルに引き上げることで、減税の恩恵が受けられる事業者を300万社以上に増やす。法人税率はその後も段階的に引き下げ、10年後の26/27年度には規模にかかわらず全ての会社に対して25%とする。

所得税の見直し策では、32.5%の税率が適用される年収の上限を現行の8万ドルから8万7,000ドルに引き上げる。約50万人の納税者が37%の最高税率を回避できることになり、平均的な給与所得者にとっては実質的な減税となる。

ターンブル政権が力を入れるイノベーション政策では、総額11億ドルを投じ、独創的なアイデアや技術革新、ベンチャーの起業、海外からの投資などを支援する。

新年度のGDP成長率は2.5%見込む

連邦政府は3日発表した予算案の経済見通しで、GDPの成長率を15/16年度と16/17年度はそれぞれ2.5%で推移した後、17/18年度に3%に上昇すると予測した。消費者物価指数(CPI)は15/16年度の1.25%(予測)から16/17年度には2%に上昇し、失業率は15/16年度の5.75%から16/17年度には5.5%に低下すると見込んだ。

予算書で政府は「オーストラリア経済は、史上最大の資源投資ブームからより幅広い分野の成長へと転換している」と指摘した。その上で、資源部門は引き続き同国経済に重要な役割を果たしているものの「成長の軸足はより雇用集約型のサービス産業に移行している」と分析した。過去1年間では医療や小売部門を中心にサービス産業の雇用が拡大しており、今後はサービス輸出の拡大によってアジアの新興国の成長を取り込めると予想した。

主な経済指標の見通し(単位:%)

年度 14/15 15/16 16/17 17/18
実質GDP成長率 2.20 2.50 2.50 3.00
名目GDP成長率 1.60 2.50 4.25 5.00
失業率 6.10 5.75 5.50 5.50
消費者物価指数上昇率 1.50 1.25 2.00 2.25

出典:2016/17年度連邦予算案経済見通し (14/15年度は実質値、15/16、16/17、17/18年度は予想値)

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