2016年7月 ニュース/総合

英国のEU離脱決定から2日経ったロンドン中心部。ユニオン・ジャック(英国旗)をまとい街中を歩く市民らの姿も(Photo: AFP)
英国のEU離脱決定から2日経ったロンドン中心部。ユニオン・ジャック(英国旗)をまとい街中を歩く市民らの姿も(Photo: AFP)

豪金融市場に激震−英EU離脱

豪ドル安、株安が進行

英国で6月23日に実施された欧州連合(EU)離脱をめぐる国民投票で、離脱派が多数を占めたことを受けて、24日の豪州の金融市場に激震が走った。外国為替市場では、対米ドル、対円ともに豪ドル安が進行している。豪証券取引所(ASX)の主要な株価指数は前日比3.5%の大幅な下落を記録した(為替レートと株価は24日午後4時時点)。

豪主要メディアは豪東部時間の24日昼過ぎ、速報で離脱派が多数を占めそうだと報じた。為替市場に伝わると、豪ドルは対米ドル、対円で、ともに下げ幅を広げた。英EU離脱は午後2時前に確実となった。

米金融メディアのブルームバーグによると、豪ドルは24日午後4時の時点で、対米ドルで1豪ドル=0.74米ドルと前日比で約3%安、対円で1豪ドル=75.61円と約6.4%安の水準で推移している。

また、ASXの代表的な株価指数「ASX 200」の24日の終値は5,104.2と前日の終値から3.5%、「オール・オーディナリーズ」は5,192.8と3.2%、それぞれ値を下げた。

豪州経済に8年ぶりの試練

英国のEU離脱は中長期的に同国の実態経済に打撃を与えると予想されている。旧宗主国である英国との経済的な結び付きは弱まっているとはいえ、英EU離脱が豪州及びグローバル経済に与える打撃から逃れることはできない。

英EU離脱が世界経済に与える影響は「世界金融危機に匹敵する」(英公共放送BBC)との悲観的な見方もある。豪証券市場と同じく取引時間中に離脱派勝利が伝わった東京市場では24日午後、日経平均株価が一時前日の終値と比べて1,300円を超える全面安となった。株安は、この後取引が始まる欧米市場に連鎖する可能性が高い。

金融市場では今後、リスク・オフ(リスクを避ける動き)の流れが加速しそうだ。マネーは比較的安全な通貨とされる円に逃避し、ボラタリティー(相場の乱高下)に脆弱な豪ドルは安値基調となるだろう。対円で豪ドル安が進行し、1豪ドル=70円をうかがう可能性がある。株式市場でも資金を引き上げる動きが強まり、ASX 200は節目の5,000を割り込む展開も想定される。

7月2日の連邦選挙に影響も

豪州は2008年から09年の世界金融危機を「かすり傷」で乗り切った。当時は財政黒字を背景に政府の財布に余裕があり、積極的な財政支出による景気刺激策が功を奏した。中国の景気回復も、豪州の資源輸出を支えた。

しかし、仮に世界的な不景気に陥ったとしても、豪州が採れる財政・金融政策の幅は8年前よりも狭まっている。当時と違って現在は財政赤字で、積極的な景気刺激策を採りにくい。経済が減速している中国向けの資源輸出に頼ることも難しい。政策金利は1.75%と既に史上最低の水準にあるため、金融政策の幅も限られている。

7月2日に迫った連邦選挙の結果にも、少なからず影響を与えそうだ。マルコム・ターンブル首相は24日、「経済政策でリーダーシップを取れる力強い保守連合政権が、過半数を制して安定した政治を行うことが必要だ」と述べ、経済運営の手腕を強調した。各世論調査では、与党保守連合は経済政策で有権者の評価が高い。英EU離脱による経済的な不安が広がれば、有権者の現状維持志向が強まり、与党に有利となる可能性がある。


5月29日にキャンベラで行われた党首討論会
5月29日にキャンベラで行われた党首討論会

接戦なら結果判明に時間

いずれも過半数以下となる可能性も−連邦選挙

7月2日投票の連邦選挙は、通常通りなら、同日夜から3日早朝にかけて下院(定数150議席)の大勢が判明する。即日開票の動向と主要メディアの出口調査の結果を踏まえ、過半数を制した2大政党のいずれかの代表が勝利宣言を行う。ただ、わずかな議席を争う接戦とななれば、勝敗の確定が長期化する可能性がある。

与党保守連合(自由党、国民党)は「経済成長と雇用」を訴える一方、最大野党の労働党は「教育と医療の充実」を掲げ、約2カ月間の長い選挙戦を展開した。6月23日時点の最新の世論調査によると、保守連合は改選前の議席を大幅に減らす公算が高い。少数政権による不安定な「ハング・パーラメント」となる可能性もある。

20日付の全国紙「オーストラリアン」が掲載したニューズポールの世論調査によると、2大政党別支持率は保守連合50%、労働党50%(6日付の前回調査と変わらず)となった。これを元に同調査は、保守連合から労働党へのスイング(得票率の増減率)を3.6%と算出。仮に選挙結果がこの通りになれば、保守連合は前回選挙比で14議席失い、74議席と第1党を維持するものの過半数(75議席)を割り込むと予想した。一方、労働党は14議席増やして71議席(その他の勢力は5議席で変わらず)を獲得するという。

また、18日付の地方紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」が報じたフェアファクス・イプソスの世論調査(6月14〜16日実施)によると、2大政党別の支持率は保守連合49%、労働党51%(5月31日〜6月2日実施の前回調査と同じ)。この通りになれば、労働党による3年ぶりの政権交代もあり得る。

ただ、各政党別支持率は、保守連合39%、労働党33%と、ともに前回調査比で3ポイント低下した。一方、環境保護政党グリーンズ(緑の党)が14%(1ポイント上昇)、今回の選挙で下院に鞍替えしたニック・ゼノフォン氏の「ニック・ゼノフォン・チーム」(NXT)などの「その他」が14%(4ポイント上昇)となり、2大政党に属さない「第3の勢力」が支持を伸ばしている。

このため、同紙政治部のマーク・ケニー氏は「保守連合、労働党のいずれも、(投票日の夜に)シャンパンのコルクを抜くことはできないだろう」として、勝敗の確定までに時間がかかるとの見方を示した。

2大政党がいずれも過半数に達しない場合、その他の少数勢力と政策協定を結んで少数政権の樹立を模索することになる。2010年の前々回の選挙では、当時与党の労働党が72議席と過半数を割り、3人の無所属議員の支持を得てかろうじて少数政権を樹立した例がある。この際は、投票日から新内閣の発足まで1カ月近くかかった。


2回目の州政府予算案を発表したグラディス・ベレジクリアンNSW州財務相
2回目の州政府予算案を発表したグラディス・ベレジクリアンNSW州財務相

NSW州政府、新年度予算案発表

学校や鉄道への財政支出拡大

NSW州の保守連合政権は6月21日、2016/17年度(16年7月〜17年6月)の新年度予算案を発表した。新年度の財政収支は37億ドルの黒字を見込み、学校の新設や鉄道車両の購入に予算を手厚く配分する一方、住宅購入への新たな支援策は盛り込まなかった。公共放送ABCなどが伝えた。

グラディス・ベレジクリアン州財務相は「わが州は全豪で最も健全な財政運営を行っている。その結果、インフラに記録的な支出を行い、人びとが必要とする学校や病院を新たに建設することが可能になった」と述べた。

ただ、州財政が安定していることから、財・サービス税(GST=消費税)を財源とした連邦政府の交付金の割当は今後、縮小する。このため、州財政の黒字幅は17/18年度に13億ドル、18/19年度に14億ドル、19/20年度に16億ドルと半分以下に減少する見通しだ。

教育や医療、インフラ整備に重点

州政府は今後4年間、学校の建設や教室の増設に約10億ドルを新たに投入する。シドニー北部のライドや同北西部のノース・ケリービルなどに新しい州立校を建設する。今後、追加で学校の新設計画を発表する。同北部のウィロビー小学校、ウィロビー女子校などの教室も増やす。老朽化した州立校の修繕費も3億3,000万ドルとこれまでの約2倍に拡大する。

都市鉄道の車両購入には追加で10億ドルを費やし、通勤客の増加に対応する。2024年の開通を目指すシドニーの鉄道路線「シドニー・メトロ」の建設費には、今後4年間で125億ドルを支出する。高速道路のウェストコネックスとノースコネックスの建設費、幹線道路のパシフィック・ハイウェイとプリンセス・ハイウェイの改修費も計上し、道路関連のインフラ整備予算の総額は169億ドルに達した。

医療関連の予算は、220億ドルと当初より5%増やして過去最高とした。病院の改築費に16億ドル、緊急病棟の処理能力向上などに3億7,500万ドル、看護師や医療技術者の新規採用に1億2,000万ドルを投じる。

外国人の印紙税率引き上げ

初めて住宅を購入する世帯に対する既存の補助金制度は維持するものの、追加の支援策は見送った。住宅購入者への印紙税の免除も実施しない。

不動産価格の高騰を背景に、一般的な勤労者のマイホーム購入は年々、難しくなってきており、新たな支援策を求める声が出ている。QLD州政府は先に発表した予算案で補助金を増額すると発表していた。しかし、ベレジクリアン州財務相は「初めての住宅購入者への補助金の拡大は、市場を歪め、逆効果になりかねない」と否定的な考えを示した。過度に需要を刺激すれば、かえってバブルを誘発しかねないとの見方だ。同州財務相によると、住宅の着工軒数が記録的な水準で推移していることから、受給バランスは改善しているという。

一方、オーストラリアの国民や居住者以外の海外の投資家については、不動産購入時にかかる印紙税を住宅価格の4%分、土地税の0.75%分をそれぞれ引き上げる。海外の投資家が100万ドルの住宅を購入した場合、印紙税の支払い額はこれまでより約4万ドル増える。シドニーなど大都市では、中国人をはじめ外国人の投資が不動産価格を押し上げている見られる。外国人への税負担を重くすることで、住宅価格の上昇を抑制する狙いがある。


6月初旬の嵐で建物が破壊され、庭が削り取られたシドニー北部コラロイ・ビーチの住宅(Photo: AFP)
6月初旬の嵐で建物が破壊され、庭が削り取られたシドニー北部コラロイ・ビーチの住宅(Photo: AFP)

暴風雨、東海岸に大打撃

シドニーでは深刻な海岸侵食も

QLD州南東部からNSW州南部、TAS州にかけてのオーストラリア東部沿岸の広い地域で6月初旬、暴風雨や高波による大きな被害が出た。公共放送ABCによると、運転中の車が鉄砲水に流されるなどして、6月9日までに3人が死亡した。

シドニー北部コラロイの海岸では、砂浜の侵食が深刻化している。海沿いの住宅が大波に破壊され他、庭の一部が波に削り取られて流されるなど甚大な被害を受けた。ビーチでは、大波が押し寄せる中、ボランティアの住民たちが一列に並び、夜を徹して砂の侵食を防ぐ土のうを積み上げていた。

家屋やインフラの損害は深刻だ。保険業団体「インシュランス・カウンシル・オーストラリア」(ICA)の発表によると、16日の段階でQLD州、NSW州、VIC州、TAS州の4州から3万2,000件の保険金請求があり、請求額は合計2億3,500万ドルに達した。請求額は今後も増える見通しだという。

今回の暴風雨をもたらしたのは、中緯度帯で発生する「イースト・コースト・ロー」(ECL)と呼ばれる猛烈な低気圧。沖合でサイクロン(台風)並みの勢力に急発達し、大雨と猛烈な風、数十年に一度と言われる伝説的な大波をもたらした。

低緯度帯で夏から秋に発生する熱帯低気圧のサイクロンと異なり、ECLは冬季に多いものの、1年を通して突発的に発生する可能性がある。進路や威力の予報がある程度可能なサイクロンと異なり、ECLは突然発達することが多く予測も難しい。気象学の専門家からは、気候変動の影響でECLの発生頻度が長期的に高まるとの学説も出ていて、今後も警戒が必要だ。

恵みの雨、冬作物は豊作の予想

東海岸沿岸に大きな被害を出した今回の暴風雨だが、このところのエル・ニーニョ現象で水不足に見舞われてきた農業生産者にとっては朗報となった。

連邦政府系のシンクタンク、豪農業資源経済科学局(ABARES)が6月15日に発表した作柄予想によると、今シーズンの冬作物の生産量は4,230万トンと前年度比で7%増える見通しだ。大陸南東部やWA州南西部の穀倉地帯で秋口からまとまった雨を記録。今後も当面、エル・ニーニョの終息を背景に平年を上回る降水量が期待できるとして、3月時点の3,950万トンの予想から上方修正した。特に、冬作物の主力で日本への輸出も多い小麦は5%増の2,540万トンと、5年ぶりの大豊作になるという。

過去の経験則から、南米沖の太平洋の海水温が平年より高まるエル・ニーニョの年は、オーストラリア東海岸は干ばつに見舞われ、凶作となる確率が高いことが分かっている。逆に、同海域の水温が低まるラ・ニーニャの年は、オーストラリア東海岸では雨が多く豊作となるケースが多い。豪気象局(BOM)によると、当面はラ・ニーニャの傾向が続く見通しで、農業生産にとっては追い風になると見られている。

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