2019年4月 ニュース/総合

3月23日夜、グラディス・ベレジクリアンNSW州首相の勝利宣言を伝える公共放送ABCテレビのニュース番組
3月23日夜、グラディス・ベレジクリアンNSW州首相の勝利宣言を伝える公共放送ABCテレビのニュース番組

SW州与党保守連合が続投

わずか1議席差で単独過半数

NSW州下院(定数93、任期4年)の全議席と上院(定数42、任期8年)の半数を改選する州議会選挙の投票が3月23日、実施された。同日夜までに、与党保守連合(自由党、国民党)の続投が確定し、グラディス・ベレジクリアン州首相(州自由党党首)が勝利を宣言した。

保守連合は4議席を減らす可能性があるものの、2011年の前々回州選挙以来3期目の再選を決めた。与党勢力が下院で過半数に満たない少数政権となる可能性も出ていたが、25日午後4時になって保守連合は過半数を1議席上回る47議席を獲得した。

一方、最大野党・労働党は、単独過半数を制するには13議席増やす必要があったが、事前の予想に反して得票を伸ばせなかった。現時点で2議席増にとどまり、11年以来8年ぶりの政権奪回を果たせなかった。NSW州労働党のマイケル・デイリー党首は25日、党首辞任を表明した。同党は5月までに行われる連邦選挙後に党首選を行い、新党首を選出する。

公共放送ABCによると、25日午後4時30分(開票率75.8%)時点で当選が確定した下院の各党の議席数は以下の通り。

女性州首相初の選挙勝利

ベレジクリアン州首相は23日夜、シドニー市内のホテルで「死に物狂いで職務を続けたい」と続投を宣言。「(人種的)背景や状況にかかわらず、この州では誰もがベストを尽くすことができるチャンスがある。長い名字を持つ女性も州首相になれる」と述べ、少数派の女性指導者が初の選挙で有権者の信任を得たことを強調した。

ベレジクリアン州首相はシドニー出身の48歳。アルメニア出身の労働者家庭に生まれ、幼少時代は英語をほとんど話せなかったという。03年の州選挙で初当選。州財務相を経て、17年1月に州首相を辞任したマイク・ベアード氏の後継に就任した。当時は知名度は高くなく、聞き慣れないアルメニア系の名字を発音できる人は少なかった。

女性のNSW州首相は、前労働党政権のクリスティーナ・ケネリー氏(在任期間09~11年)に次ぐ2人目。ケネリー氏は州首相として初めて臨んだ11年3月の選挙で敗北して引退したため、有権者の信任を受けることはなかった。同州で選挙に勝利した女性州首相は、ベレジクリアン州首相が初めて。

■NSW州下院各党の議席数

政党 議席 増減
自由党 34 -1
国民党 13 -3
保守連合小計 47 -4
労働党 36 2
グリーンズ 3 0
シューターズ・フィッシャーズ・アンド・ファーマーズ 3 2
無所属 3 0
未確定 1 ――
合計 93 ――

既存政党に批判票――NSW州選挙

今回のNSW州選挙では小政党が得票を伸ばし、保守連合と労働党による2大政党制のほころびが浮き彫りになった。

マイケル・デイリーNSW州労働党党首は3月23日夜、シドニー東部で行った敗北宣言で「(既存の)政治体制に対する有権者の信頼が更に失われないようにするために、もっとやるべきことがある」と強調した。小政党が得票を伸ばしたことで、2大政党の双方が打撃を受けたとの分析だ。

デイリー労働党党首の指摘は、各政党への支持の変化を示す指標「スウィング」(前回選挙時と比較した一次選考票の増減率)に現れている。スウィングは自由党がマイナス2.5%、国民党がマイナス0.9%、労働党がマイナス1.1%。これらの2大政党だけではなく、労働党に不満を持つリベラル層の受け皿だった左派の環境保護政党「グリーンズ」(緑の党)もマイナス0.8%と後退。全ての既存勢力が前回選挙比で得票率を減らした。

これに対して、「シューターズ・フィッシャーズ・アンド・ファーマーズ」(SFF=銃愛好者・漁業者・農業者の党)はプラス3.2%と得票率を大きく伸ばし、下院で2議席増と躍進した。これまで国民党を支持してきた農村部の保守票を取り込んだ可能性が高い。

下院で議席は確保できなかったものの、持続可能な経済成長を掲げる「サステナブル・オーストラリア党」(プラス1.5%)、動物保護を唱える「アニマル・ジャスティス」(プラス1.3%)、24時間都市の実現などを目指す「キープ・シドニー・オープン」(プラス1.5%)といった新興勢力も、小幅ながら得票率を拡大させた。

保守強硬派の「ワン・ネーション党」もプラス1.1%と伸ばした。上院では、2003~05年に連邦労働党党首を務め、ワン・ネーションに転じたマーク・レイサム氏が1議席を獲得する見通しだ。

保守、リベラル双方に打撃

中道右派の保守連合は、財界や経営者が支持する自由党と、農村部の保守層を基盤とする国民党で構成。成長重視の経済的自由主義、財政支出抑制の「小さな政府」などの路線を採る。一方、中道左派の労働党は労組が母体で、福祉・被雇用者重視の財政支出拡大を志向する。これらの勢力が一定間隔で政権交代を繰り返すのが、豪州の2大政党制だ。この構図は、連邦と各州においておおむね当てはまる。

ところが、経済成長による所得水準の向上や労働組合の弱体化などを背景に、管理職と労働者に分かれた旧来の階級意識は希薄になった。時代の変化を背景に、保守連合はよりリベラルに、労働党はより保守に傾斜して2大政党の中道化が進んだ。近年は選挙の勝敗の鍵を握る浮動票を取り込むため、2大政党の政策は一層似たり寄ったりになっている。

今回のNSW州選挙でも、与野党は大同小異の小粒な歳出策を公約に並べた。建設から20年も経たないシドニー五輪スタジアムを解体し、再建する州政府の計画は争点になったが、無駄だと主張する野党の批判も決定打にはならなかった。

住宅やエネルギーの高騰が家計を圧迫する生活コストの問題、人口が増加する都市部と干ばつで疲弊する農村部の格差といった問題をめぐり、与野党共に大胆な解決策を提示できたとは言えない。こうした既存政党への不満が、小政党への支持につながった。

NSW州選挙は5月までに実施される次期連邦選挙の事実上の前哨戦。同州の保守連合がかろうじて政権を維持したことで、苦戦が予想される連邦のスコット・モリソン首相(自由党党首)はひとまず胸をなで下ろしていることだろう。だが、連邦選挙でも「既存政党離れ」が潮流となれば、NSW州と同様に保守、リベラルの両陣営が打撃を受ける可能性がある。


利下げと利上げの可能性について中立的な立場を表明した豪準備銀(RBA)のフィリップ・ロウ総裁
利下げと利上げの可能性について中立的な立場を表明した豪準備銀(RBA)のフィリップ・ロウ総裁

豪経済の減速が鮮明に

年内追加利下げの観測広がる

豪州経済の減速傾向がより鮮明になってきた。エコノミストの間では、中央銀行の豪準備銀(RBA)が年内に追加利下げに踏み切るとの観測も強まっている。経済学者からは、1人当たり国内総生産(GDP)や人口増を考慮した場合、既に景気後退に陥っているとの指摘も出ている。

12月期GDP、前期比0.2%増

豪統計局(ABS)が3月6日発表した統計によると、2018年12月四半期(9~12月)の実質国内総生産(GDP=季節調整値)は前期比0.2%増となり、9月期の同0.3%増から減速した。16年9月期以降で最も低い水準。18年通年では2.3%増と、連邦財務省が18年12月の年央財政経済見通しで予測した2.75%を下回った。

家計最終支出(個人消費に相当)は0.4%増。不動産市況の低迷を背景に、住宅建設投資は3.4%減となった。干ばつで農産物輸出が打撃を受けたことを背景に、輸出も0.7%減と振るわなかった。

ABSのブルース・ホックマン主席エコノミストは声明で「軟調な個人消費と住宅建設投資の落ち込みを背景に、経済成長は抑制されている」と指摘。直近の住宅建設許可件数から、住宅建設投資の減少は今後も続くと予想した。

インフラ整備の加速を背景に公共事業は6.3%増加した。医療や高齢者ケアなどの支出拡大に伴い、政府部門の最終支出は1.8%増え、民間投資の弱さを相殺した。ホックマン氏は「資源ブーム後に経済構造が変化する中で、力強い公共事業が全国の経済成長をけん引している」と分析した。

事実上の景気後退か

豪州経済は1991年6月期以来、110四半期連続で景気後退(リセッション=2期連続のマイナス成長)を回避し、先進諸国で最長とされる経済成長を続けてきた。鉄鉱石や石炭などの資源輸出の大幅な伸びが成長をけん引した。ただ、資源投資ブームは2012年に天井を打ち、内需を引っ張ってきた住宅市況も17年後半に下落に転じた。実質賃金の伸びやインフレは低水準で推移し、経済成長の伸びは鈍化している。

景気を下支えするため、RBAは16年8月、政策金利を現行制度下で最低の1.5%に引き下げた。以来、この3月まで28回の金融政策決定会合で、金利を据え置いている。

従来は利上げの時期が焦点となっていたが、足元の景気は足踏み。今後は米中貿易戦争による豪州経済へのマイナスの影響が予想され、一段の景気の冷え込みも懸念される。このため、昨年末ごろから追加利下げの観測が浮上。これまで利上げを示唆していたRBAのフィリップ・ロウ総裁も2月、利上げと利下げの可能性について「五分五分」と軌道修正した。

18年12月GDPの発表を受けて、英経済調査会社キャピタル・エコノミクスは6日、「RBAが既に中立的な立場を採ったことから、早ければ8月にも利下げに踏み切る可能性がある」と予想した。

豪州経済が既に、事実上のマイナス成長に陥っているとも見方も出ている。NSW大学のリチャード・ホールデン教授(経済学)は6日、同大学ウェブサイトの記事で「1人当たりGDPは既に18年9月期、12月期と2四半期連続でマイナス成長となった。1人当たりGDPベースで見るとリセッションだ」と指摘した。豪州の人口が0.4%の割合で伸びていることを計算に入れると、「GDP0.2%増はマイナス成長だ」(同教授)と解説している。

■豪州の主な経済指標

実質GDP成長率※
(2018年12月四半期)
前期比 0.20%
前年同期比 2.30%
消費者物価指数
(2018年12月四半期)
前期比 0.50%
前年同期比 1.80%
実質賃金指数※
(2018年12月四半期)
前期比 0.50%
前年同期比 2.30%
人口増加率
(2018年9月四半期)
前期比 0.40%
前年同期比 1.60%
失業率※(2019年2月) 4.90%


昨年、豪州向け輸出が解禁された日本産牛肉。日本産農林水産物・食品の輸出額は過去5年で2倍以上に拡大した
昨年、豪州向け輸出が解禁された日本産牛肉。日本産農林水産物・食品の輸出額は過去5年で2倍以上に拡大した

日本産食品、豪州向け8.9%増

161億円――過去5年で倍増

日本食が幅広く普及している豪州では、日本産農林水産物・食品の輸出額が5年前の2013年と比較して2倍以上に伸びている。日本の農林水産省がこのほど発表した18年の日本産農林水産物・食品の輸出額(速報値)に関する統計によると、豪州向けは161億円と前年比で8.9%増加し、17年に続いて過去最高を更新した。

豪州の国・地域別順位は10位。人口1人当たりの輸出額で見ると、食文化が似ている英語圏で最高の水準にある。内訳は農産物が145億円、林産物が1億円、水産物が16億円。上位3品目は、清涼飲料水、アルコール飲料、ソース混合調味料だった。

世界全体への輸出額は9,068億円と前年比で12.4%増加した。上位3カ国・地域は、香港(2,115億円)、中国(1,338億円)、米国(1,177億円)だった。日本政府は、成長戦略や地方再生の観点から農林水産物・食品の輸出拡大に力を入れており、19年に輸出額1兆円を突破するとの目標を掲げている。

2013 2014 2015 2016 2017 2018※
輸出額 80 94 121 124 148 161
前年比 23.10% 14.90% 28.70% 2.50% 19.40% 8.80%

(単位:億円)
※2018年は速報値 出所:農林水産省

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