2010年3月 ニュース/総合

ケビン・ラッド首相
ケビン・ラッド首相

野党支持率、与党を逆転
ラッド人気の陰りが鮮明に
 与党労働党の人気低下が顕在化してきた。全国紙「オーストラリアン」2月16日付が掲載したニューズポールの世論調査(12~14日実施)によると、各政党別支持率で、与党労働党は39%(前回1月29~31日の調査比で1ポイント減)と2006年以来初めて40%を割り込んだ。
 一方、自由党と国民党を合わせた保守連合の支持率は40%(同1ポイント減)となり、前回に引き続き与党を逆転した。左派の環境保護政党グリーンズは前回と同じ12%、他政党は9%(2ポイント増)だった。
 また、ケビン・ラッド首相の業績に「満足」しているとした回答者の割合は50%(前回と同じ)、「不満」は40%(2ポイント増)となった。昨年9月時点の「満足」67%、「不満」24%と比較すると、ラッド人気の陰りが一層鮮明になった格好だ。
 これに対して、トニー・アボット保守連合代表(自由党党首)に「満足」しているとしたのは44%(3ポイント増)、「不満」は37%(2ポイント減)。昨年12月に就任したアボット氏に対する蜜月が続いていることが改めて浮き彫りになった。マルコム・ターンブル前代表が温室効果ガス排出権取引制度(ETS)法案をめぐる野党内の混乱から失脚する直前、昨年11月27~29日に実施された同調査では、ターンブル氏は「満足」が36%に落ち込む一方、「不満」が50%に拡大していた。
 ただ、選好票を加味した2大政党別の支持率では労働党は53%(1ポイント増)、保守連合は47%(1ポイント減)となった。これは、労働党が圧勝した前回2007年11月の連邦選挙の2大政党別得票率と同じ水準。仮に現時点で選挙が実施されても、労働党の優勢に変化はない。
 与野党党首別の支持率も、ラッド氏は低下傾向にあるものの55%(3ポイント減)と、依然としてアボット氏の27%(1ポイント増)を引き離している。
焦点のETS法案めぐり世論に変調
 ニューズポールは今回、政局の最大の争点に浮上しているETS法案への支持と、気候変動に対する意識についても調査した。ETS法案を支持した回答者の割合は57%となり、前々回の調査(08年10月)の72%、前回(09年9月)の67%から低下。不支持率は34%と前々回の21%、前回の22%から拡大した。
 また、気候変動の存在を「信じる」としたのは73%と前回(08年7月)の84%から縮小、「信じない」は22%と前回の12%から増加。気候変動の原因に関する設問では「すべて人為的な要因だと思う」が前回の32%から24%に低下、「部分的には人為的な要因だと思う」は64%から70%に拡大した。
 労働党の支持率低下の背景について、オーストラリアン紙のデニス・シャナハン編集委員(政治担当)は16日付で「反ETSの潮目の変化は、アボット新党首の蜜月よりも以前から始まっていた。ターンブル氏の指導力低下と保守連合内の(ETSをめぐる)亀裂に隠れて見えなかっただけだ」と分析した。
 ①ETS法案に対する有権者の苛立ち、②第15回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP15)で温室効果ガス削減目標に関する国際合意が得られなかったこと――により、与党の気候変動対策に対する世論の変調が加速した。そこに、ETS法案の与野党合意を進めたターンブル氏に代わり、これに反対したアボット氏が党首に就任した。与野党の対立軸が明確になったことで「労働党は政権発足後初の本質的な政治的圧力に直面している」(同編集委員)というわけだ。
 与党は2月、ETS法案を連邦議会に再提出した。同法案は既に2度上院で否決されており、3度目の審議となる。しかし、報道によると、与党は上院通過のメドが立たない同法案の審議を急がず、ほかの法案の可決を優先する方針とされる。
 気候変動対策をめぐる国際情勢と世論の微妙な変化を背景に、ラッド政権は非常に困難な舵取りを強いられている。


気候変動対策の野党案公表
ETS導入せず、排出削減を直接支援
 連邦最大野党の自由・国民党連合(保守連合)は2月2日、気候変動対策の温室効果ガス削減政策を発表した。政府が成立を目指す炭素汚染削減計画(CPRS)法案と異なり、野党案は市場で炭素価格を売買する排出権取引制度(ETS)を導入せず、各産業の排出削減努力を直接的に支援するとしている。
 野党案の骨子は次の通り――。
 各産業や農業部門に温室効果ガス削減を支援する「排出削減基金」(ERF)を創設、開始時(2011/12年度)の規模は3億ドルとし、14・15年度には総額10億ドルまで拡大する。基金から6,000万ドルを拠出して国内3カ所にクリーン・エネルギー拠点を構築するほか、石炭坑内ガスの利用などエネルギー効率の高い新事業にも出資する。
 また、地中に貯留した温室効果ガスを削減量として算出する概念「二酸化炭素(CO2)固定」を認定し、農業生産者からCO2の削減分を買い取る。CO2固定による排出削減量は20年までに年間8,500万トンとする。
 さらに、太陽光発電パネルまたは太陽熱温水装置の設置費用を1世帯当たり1,000ドル補助する。上限は年間10万世帯とし、20年までに100万世帯への普及を目指す。ほかにも、自治体や学校単位でのソーラー・システムの導入にも総額1億ドルを拠出するなど再生可能エネルギーの導入を促進する。
 加えて、20年までに2,000万本の木を植樹する「緑の回廊」計画を進める――。
 トニー・アボット野党連合代表(自由党党首)は2日、会見で「注意深くコスト計算を行った直接的な行動計画であり、(政府の)包括的な大増税なしに温室効果ガスを削減するものだ」と強調した。同代表によると、政府のETSは400億ドルの巨額な支出が必要となるが、野党案の予算総額は32億ドルとはるかに低コストですむという。政府案と同じく20年までに温室効果ガス排出量を5%削減することが可能だとしている。
 一方、与党労働党は同日、開会した連邦議会にCPRS法案の3度目の提出を行った。ケビン・ラッド首相は野党案について「信用詐欺だ。炭素に価格を付けない制度がうまく機能するわけがない。アボット氏は温室効果ガス排出量の多い大手企業を優遇しながら納税者に打撃を与えようとしている」と酷評した。


ボブ・バーカー号
2月6日、調査捕鯨船・第3勇新丸の左舷船尾に衝突するシー・シェパードのボブ・バーカー号(写真提供=日本鯨類研究所)

調査捕鯨中止の期限を通告
ラッド首相、国際法廷提訴の意向
 ケビン・ラッド首相は2月19日、日本が来シーズンも南極海での調査捕鯨を中止しなければ、国際司法裁判所(本部オランダ・ハーグ)へ提訴するとの意向を明らかにした。民放セブン・ネットワークの朝のテレビ番組「サンライズ」で述べた。
 ラッド首相は「捕鯨シーズンが始まる2010年11月までに提訴する」と語り、捕鯨中止のタイム・リミットを通告した。翌20日から鳩山政権の閣僚として初めて訪豪した岡田克也外相に対して、威嚇射撃を見舞った格好だ。
 また、捕鯨反対の姿勢を改めて明確にすることで、年末までに実施される次期連邦選挙に向けて、低下傾向にある支持率の浮上につなげる狙いもありそうだ。豪州は反捕鯨国陣営の急先鋒。世論調査では国民の100%近くが捕鯨に反対している。豪州が排他的経済水域(EEZ)を主張する南極海だけではなく、世界的な捕鯨の全面停止を主張。豪州を実質的な出撃拠点としている米海洋動物保護団体、シー・シェパード(SS)による海賊まがいの捕鯨妨害活動も放置してきた。
 ハワード前保守政権も反捕鯨の立場だったが、日本との経済関係を重視して強硬手段は避けていた。一方、07年の前回選挙で当時野党だった労働党のラッド党首は国際法廷への提訴を含む捕鯨阻止を公約。同選挙で政権を奪回すると、税関船を派遣して捕鯨船を監視させるなど、提訴に向け準備を進めた。その後は税関船による監視もやめ、外交手段を通して日本側を説得するとして態度を軟化させたため、公約違反との批判を浴びていた。
 ただ、仮に提訴に踏み切っても、国際法廷では豪州側に勝ち目はなさそうだ。豪州は南極大陸の広範囲で領有権を主張、その沖に一方的に設定したEEZ内での「日本の調査捕鯨は違法だ」としている。しかし、南極大陸の領有は国際的に承認されていないことから、EEZの主張自体に無理がある。このため、ラッド首相の発言は、得意の政治的パフォーマンスの域を出ていないと言える。


さらなる利上げ、容認の姿勢
インフレ圧力なしの成長余地少ない-中銀総裁
 豪準備銀行(RBA=中央銀行)のグレン・スティーブンス総裁は2月19日、連邦下院経済委員会で行った証言で、さらなる利上げによる金融引き締め策の継続を容認する考えを表明した。
 同総裁は、金融危機による豪州経済の傷口が浅く済んだため、失業率の低下が当初の予想より軽度にとどまったことなどから「インフレ圧力が再び拡大しないままに、需要が旺盛に成長する余地は少ない」と指摘した。その上で、低金利による景気刺激策を持続するべきではないと強調、適正な水準に戻すべきだとの見方を示した。
 また、同総裁は豪国内総生産(GDP)成長率が09年は約2%、10年は3%以上、11、12年は3.5%と拡大するとの見通しを明らかにした。なお、豪統計局(ABS)は3月3日、昨年12月四半期のGDP成長率を発表する予定だ。
 RBAは昨年10月、景気回復局面のインフレ圧力を抑制するため、主要先進諸国に先駆けて政策金利の引き上げに踏み切った。さらに12月まで3カ月連続で0.25ポイントずつ引き上げ、現在3.75%としている。
 市場では、RBAが3月2日に開く月例の金融政策決定会合で0.25ポイント程度の再利上げに踏み切るとの観測が強まっている。今年初となった2月の同会合では、大方の市場予測に反して同金利を据え置いていた。
 豪州では、金利変動型の住宅ローンが主流であることや、一般的に貯蓄水準が低く借入需要が高いことから、金利動向に関する社会的な関心が高い。このため、金利政策の決定はRBAの専権事項ではあるものの、政治問題化しやすいという側面がある。


技術独立永住ビザ取得がより困難に
移住政策、大幅見直し-教育産業に打撃も
 クリス・エバンズ連邦移住・市民権相は2月8日、技術移住者の受け入れ計画を大幅に見直すと発表した。発給の対象となる職業リストを保健医療や工学、鉱業など技能労働者不足が深刻な職種に絞り込む。永住権申請を目指して資格取得を目的に豪州に留学している外国人学生への影響は大きい。
 エバンズ移住相は声明で、106種類の移民必要職業リスト(MODL)について「技能水準がより低く、既に雇用の需要が低下しているものが多い」として廃止を表明した。同移住相によると、「ビザ取得の1年半後に職業リスト通りの仕事に就いている者は約半数にとどまり、3分の1は失業しているか単純労働に従事している」とのデータもあるという。
 今後は、ビザ発給対象をより専門的な付加価値の高い職種に限定した移民必要職業リスト(SOL)に差し替える。SOLは独立機関が選定した上で今年半ばまでに発表、毎年1回内容を更新するとしている。
 また、資格や技能、職務経験、英語力の優劣を基準に永住ビザ発給の適正度を測るポイント・テスト(点数制度)も今年後半をめどに全面改定する。同移住相は「現行制度では、豪州で職業訓練コースを修了した学生のポイントが、米ハーバード大を卒業した環境科学の研究者よりも高い」と指摘、難易度が高まることを示唆した。
 さらに移住・市民権省の公式発表では、2007年8月31日以前に技術永住ビザを申請し現時点で審査中の国外申請者については、今後設定される受入数枠に達した段階で残りの分は申請を却下し、申請手数料を払い戻すとしており、その人数は2万人程度になるとしている。
 在豪の業界関係者によると、MODLの廃止やポイント・テストの変更などにより永住権取得のハードルはさらに高くなり、申請希望者にとっては打撃になるという。正確な人数はつかめないが、永住権取得を視野に入れた日本人の豪州留学は一定の需要がある。今回の抜本的な制度変更は、現地の教育産業や日系の留学業界にも少なからず影響を与えそうだ。


英会話のジオス、閉校
現法の資金繰り悪化-豪州
 会計事務所アーンスト・アンド・ヤング(E&Y)は2月1日、英会話学校のジオスがオーストラリアで展開する8校の閉校を決めたと発表した。日本を含め20カ国以上からの生徒約2,300人は、豪政府機関などの支援を受けながら新たな学校を探すことになった。
 ジオスの豪州法人は、シドニー中心部とその近郊、メルボルン、アデレード、パース、ブリスベーン、ゴールドコースト、ケアンズに学校を展開していたが、資金繰り悪化から1月29日にE&Yの管理下(任意管理)に入った。E&Yは財務状況などを調査したが、「学校再開は不可能」と判断した。 
 E&Yによると、豪州法人の従業員数は約390人。生徒は豪英語学校団体の保証制度の下で、同団体の他の学校に受け入れを求めることができる見通し。ジオス東京本社は、豪州校への留学予定者に対して返金に応じるなどの措置を講じるとする一方、日本の学校運営に関しては「影響ない」と説明している。
ジオス豪州校の負債額、1,000万ドル超か
 2日付の豪紙オーストラリアンによると、閉校が決まったジオス豪州校の前払い授業料や教職員への支払いなどの負債額は計1,000万ドル以上に達する可能性がある。同紙はまた、ジオスを通じてホームステイの代金を支払った約1,000人の生徒が家主から立ち退きを迫られる恐れに直面していることを伝えている。

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