2015年11月 ニュース/総合

新連邦首相に就任したマルコム・ターンブル氏
新連邦首相に就任したマルコム・ターンブル氏

新連邦首相にターンブル氏

アボット氏、1期目半ばで退陣

マルコム・ターンブル前通信相が9月15日、第29代オーストラリア連邦首相に就任した。連邦与党自由党は14日夜、緊急開催した両院議員総会で党首選を行い、ターンブル氏が現職のトニー・アボット氏に54票対44票で勝利した。支持率が低迷していたアボット氏は、首相就任から2年弱の1期目半ばで退陣に追い込まれた。ターンブル氏は党首選後の会見で、「直面する大きな課題と可能性を説明できるリーダーシップ」を訴え、経済改革に取り組む姿勢を強調した。

同時に副党首選も行われ、ジュリー・ビショップ副党首兼外相の留任が決まった。ターンブル新首相は16日、自由党とともに保守連合政権を構成する国民党との連立協定に合意した。首相は21日、内閣人事を発表し、重要閣僚のうち財務相にはスコット・モリソン前社会サービス相が就任した。

中道右派の自由党内では、ターンブル氏はリベラル系の政治家として知られる。政界入り前には、英国国王を元首とする現行の立憲君主制を見直し、オーストラリア人を元首をする共和制への移行を推進する運動を主導した。同性愛者の結婚を認める法整備にも賛同するなど、立ち位置は保守色の強いアボット氏と異なる。野党党首時代は、温暖化ガス排出削減など環境保護政策にも前向きだった。

ターンブル氏は1954年シドニー生まれの60歳。政界を代表する富豪だが、幼少時代に両親が離婚、父親に育てられながら経済的な困窮の中で奨学金で学校に通った経験を持つことから、社会的弱者にも寛容とされる。

シドニー大、英オックスフォード大を卒業後、弁護士などを経て、投資銀行の経営者として巨額の富を得た。2000年まで「オーストラリア共和制運動」代表。04年に自由党からシドニー東部ウェントワース選挙区に立候補して初当選。ハワード政権で環境相、野党時代の08〜09年に自由党党首を務めた。しかし、温室効果ガス削減の政策をめぐって党内の混乱を招き、09年の党首選でアボット氏に敗北した。同氏との間では遺恨を残した格好だが、アボット政権では通信相として入閣した。

 

経済の構造改革に課題

ターンブル氏は、温室効果ガス削減や同性愛結婚をめぐるアボット政権の主な政策を当面、踏襲する方針を表明しているが、徐々に同性愛結婚の承認など社会政策を中心にリベラル色を打ち出す可能性はありそうだ。一方、経済界からは、実業家としての経験が豊富なターンブル氏の手腕に期待が高まっている。外交や安保政策では、親米路線や日本との安保協力を進める基本姿勢に変更はないと見られる。

ただ、懸案の豪海軍次期潜水艦選定をめぐる問題では、ターンブル氏は国内造船産業の雇用を守る観点から、外国技術を導入して国内で生産する方針に傾いている。通常動力型潜水艦の建造で高い技術を持つ日本は、豪海軍次期潜水艦の受注を目指してきたが、技術移転のノウハウに乏しい。このため、ターンブル政権の下で国内生産が正式に決まれば、経験が豊富な仏・独との受注競争で形勢が不利になる可能性も否定できない。

ともあれ、新政権が直面する最大の課題は、中国の成長鈍化や資源価格の急落で岐路に立つ豪州経済の構造改革だ。ただ、資源輸出に代わる成長エンジンを育てるには時間がかかる。直近の「中国ショック」の影響も測りきれないだけに、党首選後の会見で訴えた「経済ビジョン」をどこまで具体化できるかは不透明だ。

これまで実施された世論調査では、ターンブル氏への支持率はアボット氏を大きくリードしていた。首相就任後に実施された世論調査でも、与党支持率、党首別支持率はともに大幅に上昇した。今回の党首選は1年後に迫った次期連邦選挙を視野に「勝てるリーダー」に期待を託した形だが、中国経済次第で景気がさらに悪化することになれば、就任直後のハネムーン(蜜月)効果で支持率が高いうちに早期選挙に打って出る可能性もある。


新財務相のモリソン氏(左)と女性初の国防相に就任したペイン氏
新財務相のモリソン氏(左)と女性初の国防相に就任したペイン氏

財務相にモリソン氏、
国防相に女性のペイン氏

内閣発足−ホッキー前財務相は引退表明

ターンブル首相は20日、新しい内閣の人事を発表した。ターンブル政権は翌21日、連邦総督の認証式を経て正式に発足した。主要閣僚では、スコット・モリソン氏(前社会サービス相)を財務相に、マリース・ペイン氏(人的サービス相)を女性初の国防相にそれぞれ横滑りさせた。閣内相のポストは21人とアボット内閣の19人から拡大した。女性閣僚は5人と前内閣の2人から大幅に増えた。

ウォーレン・トラス副首相兼インフラ地域開発相(国民党)、ジュリー・ビショップ外相、アンドリュー・ロブ貿易・投資相、ピーター・ダットン移住・国境警備相らはそれぞれ留任した。バーナビー・ジョイス農相(国民党)も留任したが、環境相から分離された水資源の担当が加わった。

前内閣の大物閣僚のうちジョー・ホッキー前財務相、ケビン・アンドリュース前国防相、エリック・アベッツ前雇用相、イアン・マクファーレンの4人は、アボット前首相とともに「バックベンチャー」(政府の役職を持たない陣笠議員)に退いた。

ホッキー氏は20日、連邦下院議員を辞職し政界を引退すると表明した。同氏は年末に任期が切れる駐米オーストラリア大使への転身が取りざたされている。

ターンブル内閣の顔ぶれ(閣内相)

首相 マルコム・ターンブル (自由党党首) 下院
副首相、インフラ・地域開発相 ウォーレン・トラス (国民党党首) 下院
外相 ジュリー・ビショップ* (自由党副党首) 下院
財務相 スコット・モリソン 下院
法相 ジョージ・ブランディス 上院
歳出相 マシアス・コーマン 上院
農業・水資源相 バーナビー・ジョイス (国民党副党首) 下院
産業・イノベーション・科学相 クリストファー・パイン 下院
先住民問題相 ナイジェル・スカリオン (地方自由党) 上院
国防相 マリース・ペイン* 上院
保健相、スポーツ相 スーザン・リー* 下院
教育・訓練相 サイモン・バーミンガム 上院
雇用相、女性担当相 ミカエラ・キャッシュ* 上院
社会サービス相 クリスチャン・ポーター 下院
中小企業相、財務副大臣 ケリー・オドワイヤー* 下院
貿易・投資相 アンドリュー・ロブ 下院
環境相 グレッグ・ハント 下院
移住・国境警備相 ピーター・ダットン 下院
通信相、芸術相 ミッチ・フィフィールド 上院
資源・エネルギー・豪北部担当相 ジョシュ・フライデンバーグ 下院
内閣書記 アーサー・シノディノス 上院

敬称略、*は女性官僚

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