
【連邦予算案】
所得減税、低・中所得者層に恩恵
黒字化1年前倒し、2019/20年度達成目指す
連邦政府は5月8日、2018/19会計年度(18年7月1日~19年6月30日)の国家予算案を発表した。財政黒字化の目標年度を1年前倒しし、19/20年度の黒字転換を目指す。最大の目玉は、低・中所得者層を狙った所得減税。次期連邦選挙(今年8月~来年5月)をにらみ、マルコム・ターンブル首相の保守連合政権は幅広い中間層の取り込みを図る。
予算案の規模は、歳出が前年度比5.4%増の4,846億ドル、歳入が同6.4%増の4,737万ドル。歳入から歳出を引いた財政収支は、基礎的現金収支ベースで145億ドルの赤字(政府系年金基金「フューチャー・ファンド」の運用益36億ドルを含む)となる見通しだ。
赤字幅は前年度の推計182億ドルから削減し、2年後の19/20年度には小幅ながら22億ドルの黒字を見込む。黒字化の目標年度は、昨年の予算案発表時に想定していた20/21年度から1年前倒しする。黒字幅は20/21年度に110億ドル、21/22年度に166億ドルと更に拡大する。
所得税減税は3段階。即座に低・所得者への所得税還付制度を設けると共に、6年後までに低い税率が適用される敷居額(年収の上限)を引き上げることで、幅広い層の納税額を軽減する。減税策の要点は次の通り。
- ①18/19年度から、約1,000万人の低・中所得者を対象に、課税所得に応じて最大530ドルを還付する。一時的な措置ではなく、同年度以降、毎年実施する。
- ②今年7月1日から、所得税率32.5%の敷居額を9万ドル(現行8万7,000ドル)に引き上げる。22/23年度からは、19%の敷居額を4万1,000ドル(現行3万7,000ドル)に引き上げる。
- ③24年7月1日から、税率37%が適用される範囲(現行8万7,001ドル~18万ドル)を廃止し、32.5%の適用範囲を4万1,001ドル~20万ドルに拡大する。税率は、19%(4万1,000ドル以下)、32.5%(4万1,001ドル~20万ドル)、45%(20万ドル以上)の3段階に簡素化する。
保守連合政権が注力するインフラ公共投資では、大都市圏の鉄道や道路の建設を中心に245億ドルを計上した。ただ、今後4年間に投じる予算はこのうち45億ドルにとどまる。都市部の渋滞を緩和するための基金に10億ドル、道路改修の基金に35億ドルをそれぞれ出資する。
鉄道では、メルボルン空港鉄道の新設(50億ドル)やパースの鉄道延伸(11億ドル)、西シドニー空港鉄道新線の調査費(5,000万ドル)などに79億ドルを計上。道路関連では、NSW州北部コフス・ハーバーのバイパス建設(9億7,100万ドル)やQLD州の幹線道路ブルース・ハイウェイの改修(33億ドル)、ゴールドコーストとブリスベン間の高速道路の改修(10億ドル)などを盛り込んだ。
福祉関連では、今後4年間で1万4,000カ所の在宅ケア拠点を新設するなど高齢者ケアの拡充に16億ドルを投じる。医療関連では、処方薬補助制度(PBS)の新薬の予算として14億ドル、メンタル・ヘルス関連予算として1,250億ドルを盛り込んだ。
スコット・モリソン連邦財務相が予算案を発表したのは、ターンブル政権発足以来3度目。同財務相は8日夜、キャンベラの連邦議会で予算案演説を行い、力強い経済成長と雇用拡大、財政健全化を実現したとして政権の経済財政政策の成果を強調した。
その上でモリソン財務相は、経済を更に強化するための重点ポイントとして、①勤労者の努力を報いる減税、②投資と雇用拡大を図るための主に中小企業向け支援策、③メディケア(健康保険制度)、医療、教育、高齢者ケアなど基本的な福祉サービスの確保、④国境警備への歳出拡大を含む安全保障、⑤財政規律、の5点を挙げた。
【連邦予算案】
景気は引き続き堅調に推移
新年度の実質成長率は3%――経済見通し
連邦政府が8日発表した2018/19年度予算案の経済見通しによると、豪州の景気は今後も引き続き堅調に回復しそうだ。
18/19年度の実質国内総生産(GDP)成長率は3%と前年度の2.75%からややスピードを速める。失業率は5.25%と0.25ポイント低下する。消費者物価指数(CPI)は2.25%と0.25ポイント上昇する。いずれも昨年12月に発表した年央経済・財政見通し(MYEFO)から変更はなかった。
予算書は、豪州経済の中期的な見通しについて「(豪州経済が)資源投資ブームからより幅広い分野に成長の軸足を移す動きは、予算案の予測期間(19/20年度まで)に完了するだろう」と指摘した上で、「経済は今後数年間、失業率を低下させるのに十分なペースで成長していく見通しだ」と予想した。
堅調な予想の要因としては、◇世界経済の堅調な伸びが予想されること、◇個人・企業共に景況感が平均を上回っていること、◇個人消費と非資源部門の投資が堅調であること、◇資源投資ブームの終了による反動減が少なくなってきたこと、◇資源輸出の堅調な伸びが期待できること、などを挙げた。
主な経済指標の予測値は次の通り(単位%。2016/17年度は実績)。
2016/17年度 | 2017/18年度 | 2018/19年度 | 2019/20年度 | |
---|---|---|---|---|
実質GDP成長率 | 2.10 | 2.75 | 3.00 | 3.00 |
雇用増加率 | 1.90 | 2.75 | 1.50 | 1.50 |
失業率 | 5.60 | 5.50 | 5.25 | 5.25 |
消費者物価指数 | 1.90 | 2.00 | 2.25 | 2.25 |
賃金指数 | 1.90 | 2.25 | 2.75 | 3.25 |
名目GDP成長率 | 5.90 | 4.25 | 3.75 | 4.75 |
(出典:2018/19年度予算書)
エネルギー安保政策見直しへ
ガソリン備蓄はわずか20日分
ジョッシュ・フライデンバーグ連邦エネルギー相は5月7日、液体燃料のエネルギー安保政策を改訂すると発表した。海外と国内で供給に支障をきたした場合の対策を含めて、燃料の供給と需要について検証する。年内に政策をまとめ、2026年までに液体燃料の備蓄日数を国際エネルギー機関(IEA)が勧告している90日の達成を目指す。
豪州の液体燃料の備蓄日数は、IEAの基準を大幅に下回る。6日付の日刊紙「シドニー・モーニング・ヘラルド」によると、豪州の備蓄日数は原油が22日、液化天然ガス(LNG)が59日、ガソリンが20日、航空機用燃料が19日、軽油が21日しかない。大規模な災害や戦争で供給ルートが寸断されれば、1カ月も経たないうちに経済や国民生活はマヒする。
政府が前回、11年にエネルギー安保政策を改訂した際は、備蓄日数は90日間の基準を上回っていたが、過去10年間で液体燃料の備蓄は急速に減少した。7日付の同紙が掲載したフライデンバーグ氏の寄稿文によると、過去10年間で豪州国内では3つの精油所が廃止され、液体燃料の国内生産量は約3割減少した。国内の油田での原油生産量が減少したと共に、コスト高を背景に海外で精製される石油製品を輸入する動きが強まった。
石油製品の輸入依存度高まる
連邦政府がエネルギー安保政策の見直しに乗り出したのは、豪州が世界有数の資源産出国であるにもかかわらず、ガソリンや軽油などの液体燃料の輸入依存度が急速に高まっているからだ。
豪州の石油製品の備蓄日数は、ガソリンが20日、軽油が21日(シドニー・モーニング・ヘラルド紙)にとどまる。数字を単純に比較することはできないが、日本の石油備蓄日数は、国家備蓄と民間備蓄の合計で219日分(2018年4月=資源エネルギー庁)とIEAの基準である90日間を大幅に上回る。
豪州産原油は資源量の減少を背景に生産量が縮小に転じた。高コストを背景に国内で精油所の閉鎖が相次ぎ、海外で精製した製品を輸入する動きも強まった。大陸北西部で生産が本格化している液化天然ガス(LNG)もほぼ全量が海外向けだ。
国内での石油精製を縮小する一方、豪州は日本などアジアを中心に石油精製品の輸入を増やした。豪州は2016/17年度、日本から25億2,100万ドル(連邦外務貿易省)の石油精製品を輸入した。日本からの輸入品目としては、1位の乗用車(74億4,700万ドル)、2位の金(25億8,700万ドル)に次いで3番目に多い。
資源に恵まれた豪州が大量の石油精製品を日本から輸入している現状は、資源に恵まれない日本から見ると意外な印象だ。資源輸出や経済効率を優先した結果、豪国内のエネルギー安全保障が脅かされた形と言える。