出産時の手当てが大幅減少─2013/14連邦政府予算案

[特集]2013/14年度連邦予算案

財政規律重視の緊縮型に

9月の選挙にらみ与野党の攻防激化


 連邦労働党政権が5月14日に発表した2013/14年度予算案。選挙前の予算案に多いバラマキ政策を「封印」し、ベビー・ボーナス(出産手当)の廃止など財政規律重視の姿勢をアピールした。一方、9月14日の実施が予定されている次期連邦選挙に向け支持率で優位に立つ野党保守連合(自由党、国民党)は、国民健康保険(スーパーアニュエーション)の雇用主負担率の引き上げ延期などの対案を表明している。

2013/14年度予算案のポイント
●2015/16年度に財政黒字化(8億ドル)
●政策実行と黒字化の両立を図るため430億ドルねん出
●ベビー・ボーナス(出産手当)廃止
●メディケア補助の敷居額引き上げ
●身障者ケアに7年間で193億ドル
●身障者ケアの財源としてメディケア税を0.5ポイント引き上げ
●教育改革に6年間で98億ドル
●道路や鉄道などのインフラ整備に6年間で24億ドル
●豪州の技術革新や生産性向上、競争力強化の施策に10億ドル
●ガンの予防や早期発見、治療、研究などに2億2,600万ドル
●多国籍企業に対する課税強化
●就労ビザ(サブクラス457)の申請手数料引き上げ

連邦政府は毎年ほぼ5月に新しい会計年度(7月1日〜翌年6月30日)の予算案を発表している。オーストラリアでは毎年の予算案に税制や各種給付金に関する新たな施策が盛り込まれることが多く、会社勤めの人でも所得税申告の必要があるので注意する必要がある。
ここでは、私たちの家計に直接影響しそうな予算案の主な制度変更について見てみよう。今年は連邦選挙の実施(9月14日予定)が間もないこともあって、現時点で優勢が伝えられる野党保守連合(自由党、国民党)の政策も気になるところだ。

 

出産時の手当、大幅減少

 連邦政府は予算案の歳出削減策の一環として、ベビー・ボーナス(出産手当)の廃止と既存の家族手当「ファミリー・タックス・ベネフィット・パートA」(FTB Part A)への移行を発表した。
ベビー・ボーナスは、人口増加による国力強化を目的とした出産奨励策として保守連合の前政権時代に導入。市民権または永住権を保持する親を対象に、新生児1人当たり5,000ドル(非課税)を給付している。当初は「中間層への福祉策」と批判されたが、オーストラリアの出生率は高水準を維持しており、一定の成果を挙げた可能性がある。
2014年3月1日からこれを廃止し、既存の家族手当(FTB Part A)を増額することで対応する。ただし、FTB Part Aの下での出産時の給付額は、第1子2,000ドル、第2子以降それぞれ1,000ドルとなり、現行制度から大幅に減らす。
新制度では給付が受けられる所得の敷居額(上限)も実質的に引き下げる。ベビー・ボーナスの1世帯当たりの所得の敷居額は、出産前の半年間で7万5,000ドル(年収換算で15万ドル)となっている。しかし、FTB Part Aの現行(2012/13年度)の敷居額は、例えば子ども(0〜12歳)1人の場合10万1,458ドル、2人の場合11万2,696ドルなどと低い。
政府の試算によると、現行制度のままでは2014/15年度のベビー・ボーナスの給付対象は16万1,000世帯となる見込みだが、FTB Part A移行後は11万3,000世帯に減少する。政府は世帯の状況によっては有給育児休暇制度を利用する選択肢もあるとしている。

 

家族手当の給付年齢限定

 政府は14 年1月1日以降、家族手当(FTB Part A)の給付対象を限定する。現行制度では在学していなくても最高18歳未満まで給付対象となっているが、「イヤー12サーティフィケート」(第12学年修了証書)を取得または同等の資格を修了した16・17歳の若者について給付対象から除外する。
制度変更後のFTB Part Aの給付対象は次の通り。

◇0〜15歳の子ども
◇ イヤー12サーティフィケートまたは同等の資格を修了するためフルタイムの学校に通学している16〜19歳(19歳になる暦年の12月末まで)

 

メディケア敷居額引き上げ

政府は15年1月1日から、国民健康保険(メディケア)の延長敷居額(エクステンディッド・メディケア・セーフティー・ネット)を現行の1,221ドル90セントから2,000ドルに引き上げる。FTB Part Aの受給世帯とコンセッション(年金生活者、各種給付金受給者などの割引)のカード保持者は現行(610ドル70セント)と変わらない。
メディケアの敷居額制度は、ひんぱんに通院したり検査を受ける人の医療費の負担を軽減することが目的。医師からの請求額とメディケアがカバーする金額の差額(自己負担額)が一定の金額を超えた場合、給付金を補助するシステムとなっている。

 

野党は年金負担引き上げ延期へ

一方、野党保守連合が発表している主な政策のうち、私たちの家計が影響を受ける可能性があるものとしては、◇退職年金積立制度(スーパーアニュエーション=スーパー)負担率拡大の先延ばし、◇就学児童給付金(スクールキッズ・ボーナス)の廃止がある。
労働党政権は炭素税導入に伴って拡大した電気・ガス料金などのエネルギー・コストを補償するため、所得税の課税下限を11/12年度6,001ドル、12/13年度1万8,201ドル、15/16年度1万9,401ドルと大幅に引き上げていた。
これに対してトニー・アボット保守連合代表(自由党党首)は16日、炭素価格制度(炭素税)の廃止を改めて表明すると同時に、炭素税に合わせて導入された補償措置は変更しない方針を明らかにしている。
アボット氏は、炭素税廃止による税収の穴を埋めるとともに、今後も維持する補償措置の財源を確保するため、雇用主のスーパー負担率引き上げを延期するとしている。現行制度では従業員の給与の9%を雇用主が負担することが義務付けられている。労働党政権が導入した年金改革では、雇用主の負担率を今年7月から段階的に引き上げて19/20年度に12%とすることが決まっている。保守連合はこれを2年遅らせて21/22年度とすることで、11億ドルを節約できると主張している。
また、アボット氏はスクールキッズ・ボーナスの廃止を公約した。これは、労働党政権がFTB Part Aの受給資格を持つ世帯を対象に、教育費の税額控除に代わる措置として導入しているもので、今年1月から小学生1人当たり年間410ドル、中学・高校生1人当たり同820ドルを給付している。保守連合はこれを廃止することによって約12億ドルを節約するとしている。

なお、保守連合はネガティブ・キャンペーンによるイメージ悪化を避ける狙いもあって、身障者ケアへの支出やメディケア税の引き上げといった予算案の主な政策については基本的に賛成する意向を表明している。このため、予算案の関連法案は特に大きな混乱のないまま成立するとの見方が出ている。このため、仮に9月の選挙で予想通り保守連合が勝利して政権を奪回したとしても、すぐに法律の改正を伴う税制や給付金などの制度変更は行われず、当面は現行制度が維持される見通しとなっている。

 

 


ナオキ・マツモト・コンサルタンシー
松本直樹

政局展望
2013/14年度連邦予算案の特徴

財政黒字化の失敗、「選挙直後型」
「遺産作り」予算案


 5月14日、2007年11月の連邦選挙で11年8カ月ぶりに政権の座に返り咲いた労働党が、これで通算6回目、そしてギラード首相の下では3回目の来年度連邦予算案を公表している。政府は今次予算案を、(1)「経済力の一層の向上」(Stronger Economy)、(2)「より知的な国家の建設」(Smart er Nati on)、そして(3)「より公正な社会の構築」(Fairer Society)、を実現するためのものと自画自賛している。今次予算案の主要な特徴、ポイントとしては、①財政黒字化の失敗、②「選挙直後型」予算案、③「遺産作り」予算案、の3つが指摘できよう。

財政黒字化の失敗

 周知の通り、今年度に財政収支を黒字に転換するとの公約は、労働党政府が執拗に繰り返してきたもので、それどころか政府は、昨年公表された予算案の中では、アンダーライング現金ベースでの財政収支は、今年度ばかりか、向こう4カ年度にわたってすべて黒字で、しかも黒字幅は年々拡大すると豪語していた。

 政府、とりわけスワン財務大臣が財政の黒字化に固執してきたのは、主として政治的動機に基づくもので、すなわち、選挙での有権者の投票行動を決定する重要要因は、与野党の経済運営能力に関する有権者の「漠然とした」評価で、その点に関して労働党は、伝統的に自由党の後塵を拝してきたとの政府、スワンの認識があった。そして、経済の専門家では決してない一般国民の「漠然とした」評価を決めるのは、金利の水準と(注:金融政策は豪州準備銀行の主管だが、例えば高金利に対する国民の怒りは政府へと向かう)財政の状況であるとの認識があった。

 ところが昨年の12月20日、多くの国民がクリスマス休暇を巡って浮かれている最中、いわばどさくさに紛れる形でスワンが記者会見を開き、主として法人税収入の予想以上の低迷により、これまでの歳出節減策に加えて大規模な追加削減を断行しない限りは、今年度のアンダーライング現金ベースでの黒字転換はほぼ不可能との見方を披瀝している。そしてスワンは、景気の先行きに不透明感がある中で、これ以上の歳出カットは経済成長の阻害要因になりかねないとして、これまで労働党政府が最優先の公約として掲げてきた、今年度に黒字化を達成するとの目標自体を断念する旨、公表したのである。

ただ、昨年5月の連邦予算案の公表時点ですら、税収入の落ち込み状況に鑑み、黒字化転換はもはや無理と見る向きががほとんどであったことから、スワンの宣言を驚きをもって受け止めた向きは少なく、むしろ遅きに失した感の方が強かった。いずれにせよ同宣言以降、今次予算案に関して注目されていたのは、黒字化の有無ではなく、財政赤字幅がどの程度の規模になるかという点であった。

 今回明らかとなった今年度の赤字幅予測額は194億ドルで、今年度が終了する6月3 0日までの今後の状況次第では、実際の財政赤字が200億ドルを超える可能性すら十分に考えられる。11億ドルの黒字とした前回の年央経済・財政概況報告書(MYEFO)からわずか半年強の間に、205億ドルもの逆転現象が生じたわけである。

 かなりの赤字幅を記録した原因に関し、スワンは、昨年12月の公約断念宣言時と同様に、歳入額が当初の予測を大幅に下回り、しかもそれが急激であった点を強調している。歳入が予測を大きく下回った主因は、法人税収入が予測を大幅に下回ったからで、そしてその原因は、中国経済の成長にややブレーキが掛かりつつあることによる1次産品価格の下落、ならびに豪州ドル高の趨勢とされる

。 ただし、赤字幅が194億ドルで、一方、歳入の減少額が170億ドルということは、仮に歳入額が予測通りであったとしても、今年度は赤字であったということにほかならない。また笑止千万であるのは、スワンが今年度の財政赤字を政府の「選択」の結果と、強弁していることだ。

 これも昨年12月の公約断念宣言時と同様だが、スワンは経済の先行きに不透明感がある中、財政黒字の達成のためだけに、欧州連合(EU)のメンバー国で実施されているような過酷な緊縮政策を採用することは、雇用と経済成長に負の影響を与えると述べつつ、政府があたかも雇用と経済を護るために、穏当な歳出のカットを「選択」し、その結果が財政赤字であるといった議論を展開している。

 言うまでもなく、赤字の主因は、政府が連邦財務省の「薔薇色」の経済予測、税収入予測を最大限に活用し、野放図な支出を行ってきたことにある。以前より予想されていたものの、何と言っても09年5月以降、公約断念宣言のつい数日前まで、黒字転換は政府の一貫した公約、執拗に繰り返してきた公約で、また政府が最優先課題と位置づけてきた公約である。しかもこれまでの労働党政府が、「過剰約束、過少実行」との批判に晒されてきただけに、黒字転換公約の破棄、失敗は、政府のクレディビリティーを一層毀損するものであった。

「選挙直後型」予算案

 連邦下院の任期は最大で3年であり、他方、選挙は下院の解散と上院半数改選の同時選挙が通常の形態で、その場合、上院選挙に関する憲法上の規定により、選挙は下院任期3年目の8月初旬以降、12月初旬ごろまでに実施されることが多い。要するに政権党は、選挙から次期選挙までに計3回の連邦予算案を公表するのが一般的である。

 また、国民全般から見た予算案の好感度は、選挙直後の1回目の予算案が最も低く、次期選挙直前、すなわち第3回目の予算案が最も高く、そしてその中間に来るのが第2回目の予算案となるのが一般的である。

 その理由は、選挙に勝利した直後の政権党は、依然として政府に寛大な有権者のムードを背景にして、また時間的にずいぶん先の次期選挙でのバックラッシュを懸念せずに、一時的に国民の痛みを伴う中・長期的な施策を実行できるからだ。一方、選挙直前の第3回目の予算案は「ポーク・バレル型」とならざるを得ず、しかも有権者の財布を直接潤すような現金給付的な施策が盛り込まれることとなり、3回の予算案の中では国民にとっては最も好評なものとなる。

 ところが異例なことに、選挙直前の今次予算案には特段の「ポーク・バレル」策が含まれておらず、他方で、向こう4カ年度430億ドルにも上る倹約策が盛り込まれており、昨年公表されたギラード第2次政権の第2回目の予算案どころか、最も厳しいとされる第1回目の予算案と比べても、国民に対してより厳しい内容のものとなっている。

 しかも後述するように、歳出カットには労働党が再確保、保持を狙う、低所得層向けの政策も含まれているなど、自由党と比較して労働党が社会的弱者の味方、「大きな政府」を標榜している党だけに、今次予算案の異例さがますます目立っている。

 ただし、「倹約」という用語は紛らわしい、あるいは不正確なもので、同用語から連想する歳出の削減額は全体の4割強に過ぎず、残りの6割近くは歳入の増加策、すなわち増税策によるものである。

「倹約」の具体的内容は、①新生児ボーナスの廃棄、②家族税給付パートAの追加支援策の廃棄、③高等教育予算の一部カット、④目的税であるメディケア・レビィーの増税、⑤個人所得税減税の第2段階の廃棄、⑥主として多国籍企業をターゲットとした法人税の徴収増加策、⑦タバコ税上昇のインデクゼーションの変更、そして⑧海外援助目標値の達成繰り延べ、などとなっている。

 さて、今次予算案が「選挙直前型」どころか、むしろ通常の「選挙直後型」、要するに相当に厳しい予算案となった理由だが、言うまでもなく財政がひっ迫しているとの事情、要するに「無い袖は振れぬ」との事情がある。また、財政的な余裕がないことのほかにも、もはや「バラマキ」の効果は薄いとの政府の判断があるように思われる。

 確かに、労働党を取り巻く現況は、多少の「バラマキ」で大きく改善するほど生易しいものではなく、有権者の多くは政府の「バラマキ」を喜んで受け取ったあげく、選挙では保守連合に投票するのがおちであろう。そこで労働党が今次予算案、というよりも次期連邦選挙の「セールス・ポイント」に据えたのが、政府には未来の国家ビジョンがあると宣伝できる、中・長期的な制度改革、具体的には、「身障者ケア」制度の構築、ゴンスキー初等・中等教育改革、そして全国運輸インフラの整備策であった。

政府が選挙前の「バラマキ」を断念して、それどころか必死になって430億ドルもの倹約額を捻出したのも、できるだけ早い財政の健全化もあるものの、主目的は上記3大政策、とりわけ身障者と教育制度の改革に要する莫大な財源を確保するためにほかならない。

「遺産作り」予算案

ギラード労働党政府は、次期連邦選挙のネガティブ・キャンペーンでは、「アナクロ」で「ネガティブ一辺倒」のアボット、ならびに「大鉈振るいの保守連合政権」とのスローガンを使用し、一方、労働党が未来志向で、長期的な国家ビジョンを持っていることを宣伝するポジティブ・キャンペーンには、「身障者ケア」、ゴンスキー教育改革、そして全国インフラ整備、の3つを据える計画である。

 労働党政府は、とりわけ身障者ケアと教育改革については、労働党の価値観、信条、政治哲学を反映した歴史的改革、新たな国家建設計画と述べつつ、これを「アイコン化」している。

 この内の身障者ケア制度改革とは、事故以外の原因で身障者となった人々をカバーする、全国普遍的、公的な身障者介護サービス制度を指す。確かに、身障者ケア制度の直接の恩恵を受ける身障者の数は、制度が本格的に整備されるFY2018/19でも50万人に満たない程度と、国民全体から見ればごく一部に過ぎない。ただし、恩恵を受ける介護者を含めるとかなりの数となるし、何と言っても社会的弱者の救済を標榜する労働党にとって、しかも伝統的な労働党の支持層の再確保、保持を目論むギラード労働党政府にとって、身障者ケア政策を執行することの政治的、シンボリックな意味合いは極めて大きい。

 一方、ゴンスキー初等・中等教育改革だが、ギラード首相は、野党時代に影の保健大臣として活躍したことから、身障者問題にも詳しいが、ラッド首相下で教育大臣(兼職場関係相兼副首相)も務めたことから、当然のことながら教育分野にも通暁しており、また強い関心を抱いてもいる。

 そしてギラードは、生産性の向上を通じた持続的経済成長の鍵の1つは教育であるとの信念を持ち、そのため昨年の9月には、2025年までにOECDの国際生徒学力評価ランキングにおける算数(数学)、理科(科学)、そして読解の3科目で、豪州が上位5位に入ることを目指すことを宣言している。ゴンスキー教育改革とは、そのための「ビークル」と位置づけられているものである。

 同改革の中核、最大の特徴とは、政府系と非政府系学校で異なった現行の学校助成額決定方式を廃棄し、政府系であれ非政府系の生徒であれ、生徒個人個人に共通のベンチマークを設定した上で、必要に応じて助成額を調整するという、政府系、非政府系学校の垣根を取り払った点にある。

 最後に、インフラ整備策だが、これは新規の政策ではなく、既に動いていた整備プログラムの拡大、延長策と位置付けられるものである。労働党政府は一貫してインフラ整備に熱心であったが、これまでの整備の主目的は資源・エネルギー・ブームへの対応、具体的には「生産の隘あいろ路」への対応であった。これに対して今次予算案で重視されているのは、むしろ国民生活の改善を念頭に置いた、都市部の運輸インフラ、とりわけ通勤・通学鉄道や道路を最優先にした整備策である。

その背景には、資源・エネルギー・ブームも沈静化しつつある一方で、次期連邦選挙で重要な都市郊外在住の有権者の不満、あるいは重大関心時の1つが、交通問題との事情がある。

さて、選挙前予算案に「バラマキ」が含まれず、その代わりに大規模な改革案が前面に出されたのは、厚顔無恥の労働党指導部、正確にはギラードやスワン財務相も、さすがに次期選挙での敗北は必至との思いを抱いているため、との穿うがった見方もある。要するに、敗北を覚悟したギラードにとって重要なのは、自分が後世の歴史家にいかに記述されるかで、そのためギラード首相時代の実績作り、あるいはギラード政権の「遺産作り」のために、大きな改革を掲げているという見方である。

確かに、現在の各種世論調査の結果は、このままでは労働党が敗北するどころか、大惨敗を喫することを示したものであり、選挙までわずかに4カ月ということもあって、本音のレベルでギラードやスワンが勝利に自信を持っているとは考え難い。「遺産作り」予算案といった見方も、決して荒唐無稽なものとは言えまい。

 

 


アーンスト・アンド・ヤング パートナー/ジャパン・ビジネス・サービス
アジア太平洋地域統括
菊井隆正

2013/14年度連邦予算案の税務概要

わずか12カ月前の、長期的な財政黒字化という予測から180度転換し、2013/14年度予算は180億ドルの財政赤字となり、黒字化は16/17年度まで見込めない予算となった。しかも最近の税収不安定や、オーストラリアおよび世界経済の先行きが依然として不透明なことを考えれば、今回の見通しにも確信は持てない。

これは、過年度の連邦予算案についても本紙で指摘してきた点であるが、現政府があまりにも財源について自国政策ではコントロールできない(例えば資源コモディティー価格の上昇や世界経済の成長に委ねる)要因に依存してきた結果ではなかろうか。また、公約にあまりにも固執していたため、持続可能な経済成長や社会制度を確立するという点から積極的、かつ具体的な歳出計画を十分に検討していなかったからではないか。

財務相は、政府が雇用と経済成長を支えるため、財政黒字化を先延ばしするのは国益にかなう正しい措置と考えている。今となって公約が守れなければ、なぜ過去に積極的な財政政策を取らなかったのか。

まして、この予算にはインフラ支出案以外に直ちに経済を成長させ雇用を増やす新しい施策はほとんど含まれていない。それどころか、税制改正案には正反対の効果が出る可能性のあるものまで含まれている。

予想通り、予算の焦点は先に発表された国家障害者保険制度( NationalDisability Insurance Scheme、NDIS)とゴンスキー教育改革(Gonski reform)に充てられている。これらの財源の一部はメディケア・レビーの増加により調達される予定だ。しかし最終的な財源は、長期的な歳出削減にも依存している。

タイミングが遅くなればなるほど、その後の対応に困難を極める懸念がある。経済が今必要としているのは、事業投資を促すための確実性および政府の明確な方向性であろう。以下、いくつかの主要な連邦予算案の内容について言及する。

経済

大方の予想通り、財務相は13/14年度は180億ドルの財政赤字を見込み、15/16年度までに財政均衡を図るという道筋を示した。予算案はコモディティー価格の下落と豪ドル高という問題を指摘し、今後4年間の税収見通しは600億ドル引き下げられている。

今年度の実質GDP成長率予想は2.75%で14/15年度は3%であり、歴史的低水準のインフレ率と相まって、財政黒字化には今後の世界経済の見通しに悪材料が出ないことが必要だ。

主要な指標

13/14年度の現金収支は、主として税収減により、対GDP比1.1%の180億ドルの赤字と見込まれる。税収額は昨年度から170億ドル引き下げられ、15/16年度までの4年間では600億ドル引き下げられた。

財務相は16/17年度には6 6億ドルの財政黒字化を見込んでおり、その根拠の1つは5年間で43 0億ドルの収支改善策である。

実質G D P 成長率は、1 3 / 14 年度に2.75%、14/15年度はトレンドに近い3%と予想されている。国内経済は安定しているものの、厳しい国際情勢と豪ドルの高止まりが引き続きオーストラリアの経済成長を圧迫している。また今後、資源主導の経済成長からのシフトという大きな変化にも直面する。

輸出は資源投資ブームから資源生産ブームへと移行しながら、堅調に伸び続けると予想される(13/14年度の成長率は6.5%、14/15年度は7.0%)。輸入は13/14年度に6%、14/15年度に3%成長する見通しだ。しかしこれは豪ドルの相場に非常に大きく左右される。

失業率は13/14年度、14/15年度とも5.75%、インフレ率はこれら両年度とも2.25%に留まる見込みである。

企業

過少資本税制のセーフハーバー限度額引き下げ

本予算案には、負債水準が許容限度を超える多国籍企業の支払利息の損金算入を制限するという重要な提案が含まれている。この改正は14年7月1日以降に始まる財務年度に適用されるが、今後の協議により見直される可能性がある。

予想通り、セーフハーバー債務比率は一般投資家の場合75%(債務対資本比率3対1)から60%(同1.5対1)へ、金融機関では20対1から15対1へ引き下げられる。アームズ・レングス・テスト(独立企業間債務テスト)が継続されることは歓迎すべきだが、今後のコンサルテーションにはその運用の改善方法の検討が含まれる予定だ。

グローバル債務比率テスト(ギアリング・テスト)の比率もまた変更され、テストはインバウンドの投資家にも適用されるようになり、アウトバウンドの投資家に適用される比率が120%から100%へ引き下げられる。

少額免除枠の引き上げにより、年間利息損金算入額が200万ドル以下の納税者は過少資本規則から除外される。

外国配当に関連する利息の損金算入

政府はまた、オーストラリアの外国子会社配当益金不算入制度の対象となる配当に関連する負債利子について損金算入を認める規定を完全に撤廃する(1997年所得税法25-90条)。

一般損金算入規定に基づいて損金算入が認められるのは、外国関連会社から課税対象となる所得が得られる場合に限られ、ATOが割当規則(apportionmentrules)について検討する。オフショア企業買収にオーストラリアで資金を借り入れた企業グループへの影響が多大であるため、この案に反対してかなりのロビー活動が行われることが予想される。

外国配当益金不算入制度の改正

政府はまた、被支配外国会社(Controlled Foreign Company、CFC)改革の一環として提案されていた、外国配当益金不算入規定を新しい債務/区分規定と調整する修正案を採用する。

そのため外国子会社により発行された、オーストラリアの税法上債務と区分される株式について支払われる配当は、益金不算入規定対象外となる。

しかし、より広範なCFC改正パッケージは、経済協力開発機構(OECD)が利益移転の分析結果を出すまで、先送りされる。

探査費用の税務処理

政府は探査費用の損金算入を制限する改正を発表した。特筆すべき点は以下の通りである。

・ 鉱業権および採油権情報の取得費用に関して、最初に探査に使われた際に認められている取得価額の即時損金算入は認められなくなる。これらの費用の償却期間は15年、または鉱山・油田の耐用年数のいずれか短い期間となる。
・ 探査が失敗した場合、未償却残高は確定次第、損金算入が認められる。
・ 新規情報の創出、または既存情報の改善、および鉱業権や情報の政府機関からの取得、または認定されたファームイン、ファームアウト契約の費用は引き続き即時損金算入できる。
・ ほかの探査関連費用に関する損金算入については、この改正の対象とされていない。

これらの改正は、13 年5月14日午後7 時3 0 分( 豪東部標準時)より後に鉱業権または採油権を取得する全納税者に適用される。13年7月12日を期限としてこれらの改正に関する産業界からの意見を求める協議文書が公表されている。本協議資料はまた、オーストラリア国税庁(Australian Taxation Office、ATO)が、石油資源利用税(Pet roleumResource Rent Tax、PRRT)および法人税の双方における探査活動の定義を再考中であることも確認している。

研究開発費(R&D)の税額控除の改正

既に発表されていた通り、政府は以下の法案を提案している。

・ 年間売上が200億ドルを超える企業とその系列会社に対し、現行40%の研究開発費(R&D)の税額控除を廃止。
・ 14年1月1日以降、比較的小規模な適格事業者(売上げ2000万ドル未満)にR&D税額控除額の四半期ごとの還付請求を認める。

オフショア・マーケティング・ハブの調査

ATOはオフショアのマーケティング・ハブや事業再編を通じた潜在的利益移転機会の調査に今後4年間で1億900万ドルの予算を獲得した。この調査の結果、5億7,600万ドルの税収がもたらされると見込まれている。

ATOは既にこの種の活動が多く見られる資源関連産業に目を光らせ、攻めの姿勢をとっており、最終的には裁判で争われることになる可能性もあるとみられる。

新たな10%の源泉徴収税

16 年7月1日以降、外国人居住者がオーストラリアの不動産資産を売却すると、それが資本的性格のものであるか、収益的性格のものであるかにかかわらず、新たに暫定的な10%の源泉徴収が適用される。買主には源泉徴収の義務が生じる。

250万ドル未満の居住用不動産取引やオーストラリア国籍の住民による売却は対象外である。

ディスカッション・ペーパーを含めた13年末までの協議において、実際の売却益と税額を速やかに計算するための手続きや、買主が源泉徴収対象取引を特定する義務などについて考慮する必要がある。

連結納税制度の改正

本予算案には、2本の税務委員会報告書(Board of Taxation Report)に基づく、連結納税グループとマルティプル・エントリー連結納税(MEC)グループに影響する多くの改正が含まれる。

連結/MECグループは、現在の、または提案されている一切の取引について、特に買収における控除可能債務の処理などの即時施行される改正を考慮するべきである。

租税回避防止に関する規則の改正は13年5月14日午後7時30分から適用される。

同じく13年5月14日以降、外国人居住者のキャピタルゲイン税制(CGT)への改正には、オーストラリア課税対象資産を特定する目的での、連結企業グループ間取引を用いた資産の創造や重複ができないようにすることが含まれる。

PAYG予定納税の改正による新たなコスト

PAYG予定納税の改正により、すべての大企業は、毎月の申告が義務付けられる。これにより、コンプライアンス費用が増加してキャッシュ・フローに負の影響を与える。適用開始日は以下の通りである。

・14年1月1日:年収10億ドルを超える企業
・15年1月1日:年収1億ドルを超える企業
・ 16年1月1日:年収2,000万ドルを超える企業ならびにそのほか、年収10億ドルを超えるすべての投資家(スーパーファンド、個人投資家など)
・ 17年1月1日:そのほか年収2000万ドルを超えるすべての投資家

炭素価格の下落に伴う政府支援の削減

炭素の国際価格は下落しており、本予算はオーストラリアが市場価格に移行することで歳入が失われることを考慮せざるを得なかった。そのため当初予定していた個人所得税減税をさらに先送りし、また以下のような石炭産業への技術助成金や支援がカットされる。

・ 炭素回収・貯留フラッグシップ・プログラム(5億ドル)・ 地域エネルギー効率化ならびに低所得層向けエネルギー効率化プログラム(9,800万ドル)・ 炭鉱排出削減技術支援(2 , 9 0 0万ドル)、全国低排出石炭イニシアチブ(8 , 82 0万ドル)、石炭産業雇用セクター・パッケージ(2億7,420万ドル)

公共事業

インフラ・プロジェクト

国家レベルで推進する国家陸運建設計画(Nation Building Program)は、次の段階に入り、全国各地で計画されている多数の交通およびインフラ大規模プロジェクトを後押しする。

政府はその諮問機関、インフラストラクチャー・オーストラリア(IA)の助言にほぼ従って優先順位を決定した。

だが、「悪魔は細部に宿る」─というよりもこの場合は、詳細の欠如が問題である。各プロジェクトは実施時期が曖昧であり、その順番も明らかではない。

この不透明性によって投資家心理は低下しており、民間セクターのインフラ投資参加者も、リソース確保のための計画を立てられないでいる。州政府と連邦政府がしっかりと連携しなければ、批判が高まる可能性がある。

革新的な資金調達

ブリスベン・クロスリバー鉄道やメルボルン・メトロ鉄道プロジェクトなど、政府は革新的なプロジェクト・ファイナンス資金調達方法を導入することで、民間セクターの投資を促し、より多くの資金提供方法を模索してきた。また、プロジェクトのコンセッション期間中は、関連州政府とともに資金を拠出し、クロスリバー鉄道の場合は民間セクターの負債を保証することも発表した。

NSW州では、M4とM5高速道路の建設資金に「高速料金無料」という条件が付いており、メッセージに一貫性がない。

つまり、新たな財源を政府が後ろ盾するのでなければこれらのプロジェクトは実行されないということだ。

こうした資金調達方法は、実行に移す前に期待通りの好影響があることを確認するため、市場で徹底的にテストすることが重要である。

教育

予算案は今回も教育支出を重視したものとなっているが、分野によって明暗が分かれている。幼稚園から高校までと早期教育への支出が大幅に増やされる一方で、大学への支出が犠牲になっている。

ただし、大学への資金は(ペースは鈍るものの)増え続けることに変わりはなく、学生数の上限もない。

政府はまた、教師および看護師の養成やアジア言語分野における準学士号や大学院課程の学生数を年間1,650人増やすべく8,460万ドルの支出を計画している。

大学への支出は物価スライド制となっているため、支出がカットされたとしても支出額が減ることはないが、今後間違いなく負の影響が生ずる。こうした予期せぬ削減によって、さらなる改革と規制緩和の必要性が高まったことは確かである。

個人

炭素価格制度導入による所得税減税は取りやめ

予想通り、15/16年度に予定されていた再生エネルギー計画(Clea n Energ yFuture Plan)の一環である15億ドルの個人所得減税案は先送りとなった。所得累進税率および低所得層税額控除の微調整と組み合わせ、非課税額上限は1万9,400ドルまで引き上げられる予定だった。減税は、政府が期待する炭素価格が達成されたると思われる18/19年度に有効となる見込みである。

予算案ではまた、以前発表していた通り、14年7月1日からメディケア・レビーを2%に引き上げることが確認された。これは障害者医療改革の資金源となる。今回の予算案には、個人に関連する下記の点も含まれる。

ATOによるトラストの監査とデータ照合を強化

ATOによるトラストの監査活動が強化されると見られる。主に租税回避目的のトラストが標的とされATOは6,790万ドルの追加予算を得て、取引を不正な勘定に計上したり、人為的にトラスト所得を減らしたりして租税回避が行われていないか監査を強化する。

また、A T O は不動産や株式売買、オーストラリア取引報告分析センター(AUSTRAC)に補足された取引、投資信託(MIT)からの分配金など、第三者情報プロバイダーによる報告義務を強化および拡大する。

医療費控除と障害者保険税の徴収

医療費税額控除は段階的に廃止し、障害者補助、訪問介護、老齢者介護費用は19年まで控除可能。

ファミリー・タックス・ベネフィットの減額

13年7月1日から、公約の1つであったFamily Tax Benefit Part A(FTBA)の増額を取りやめ、14年1月1日以降、16歳以上の子どもに関してはFTBAは就学者についてのみ支給される。

ベビー・ボーナスの廃止

14年3月1日から、ベビー・ボーナスの代わりに追加FTBA給付金を出産・養子縁組の日から1年間にわたり分割で支払う。金額は第1子が2,000ドル、それ以後は1人当たり1,000ドル。ただし、国の有給育児休暇制度を利用する親は対象外。


※この記事は出版時の時点で適用される一般的な情報を掲載しており、アドバイスを目的としたものではありません。この情報をもとに行動をされる際には、専門家のアドバイスを受けることをお勧めいたします。

 

■居住者の所得税課税分岐点と税率(単位ドル)

課税所得 税額
0 – $18,200 なし
$18,201 – $37,000 $18,200超の範囲につき$1当たり19セント
$37,001 – $80,000 $3,572+$37,000超の範囲につき$1当たり32.5セント
$80,001 – $180,000 $17,547+$80,000超の範囲につき$1当たり37セント
$180,001 and over $54,547+ $180,000超の範囲につき$1当たり45セント

※上記の税率にはメディケア・レビーは含まれていない。

 

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