東日本大震災1周年 レポート 変わり果てた「故郷」

東日本大震災特集

 

東日本大震災1周年

変わり果てた「故郷」

激甚被害地・石巻出身女性、9カ月目の帰省

未曾有の国難となった昨年3月の東日本大震災。本紙昨年7月号に記事「届け、故郷への思い」を掲載した、QLD州在住で激甚被害地である宮城県石巻出身の品川真有美さんが、震災発生後9カ月を経て実家のある石巻に帰省を果たした。そこで彼女が見聞きした被災地の真の姿、そして海外に暮らす被災地出身者としての思いとは。文・構成=植松久隆(本紙特約記者/フリーライター)、写真=品川真有美


【リポート】

カオスから無、そして復興へ

「どんな状況か聞いていたし、写真も見ていたけど、やっぱり実際に見ると言葉を失いました」。QLD州ゴールドコースト市在住の品川真有美さんは、先の大震災の激甚被害地の故郷・石巻に、震災後9カ月を経て帰省。その時の心境を率直に語ってくれた。

「瓦礫に埋もれた被災直後とは違う更地ばかりの景色を見て、“あぁ、ここも流された” “あそこもなくなった”って、初めての雪に興奮して走り回る子どもたちを尻目に、ただ辺りを見回していました」

昨年3月11日に石巻を襲った大津波は多くの尊い人命を奪い、数多の幸せな家庭の日常を暗転させた。その被災地の現状は、震災直後の様子から大きく様変わりしている。津波被害で再建を断念した店舗や倒壊の恐れのある建物などは、自治体の支援を受けることで、多くの住民や商店主が解体を決意、どんどん更地になっていく。

「実際に帰って、復興というものがそんな生易しいものではないことを嫌でも実感させられました」と真有美さん。実家は石巻の旧市街に古くからある中央商店街で洋品店を営む。その中央商店街も、更地になったところ、営業しているところ、建物はあるが持ち主がまだ戻っていないところが点在している状態で、かつての賑わいが戻るかは、商店主たち自身も非常に懐疑的にならざるを得ないという。

石巻旧市街は、震災直後の瓦礫と廃墟のカオスから、震災後約1年近い時を経て、更地の広がる「無」の状態に帰している。その「無」に1つ1つ復興のピースを積み上げていくことで街を再生する..。何十年単位のグランド・デザインが必要な長い長い道程である。


新旧市街の明暗

東日本大震災 特集

学生は瓦礫と背中合わせで学ぶことを強いられている。石巻市渡波地区、石巻女子商業高校

石巻は宮城県第2の都市として長く栄えてきたが、真有美さんはこの震災を機に市街地の状況が大きく変容しつつあるのを感じ取った。

実家のある一帯は旧市街と呼称されていたが、旧北上川のほとりに広がる古くからの繁華街であったこのエリアは、ほぼ全域が甚大な津波被害を受けた。一方、旧市街より内陸に位置し、大規模ショッピング・センターと交通至便な立地条件で震災前から多くの人が集まっていた石巻市蛇田地区周辺の新興市街地は軽微な被害に留まった。その結果、蛇田周辺は震災後かなり早い段階で一見したら普段と変わらない生活が戻ったという。

そうなると市全体からの人の流れが新興地域に集中、被害の大きかった旧市街との明暗のコントラストは大きくなる。その傾向は、真有美さんが帰省したころはより顕著になっており、実家に戻る際の車窓から見る新興市街地はパチンコ店のネオンもきらびやかに、年の瀬ということもあって人も車も押し寄せ賑わいを見せていた。

対照的に旧市街は「閑散としていて暗い」という状況で、真有美さんは「同じ石巻でどうしてここまで違うのか…」と悔しさと妬ましさの混じった複雑な思いを感じたという。

今後の防災上の観点からも、旧北上川に近い旧市街を以前と同じように元に戻していくというよりは、街の主要機能をより安全な内陸部に移転させようという流れになることは明白だ。そうなれば、なし崩し的に新興地域への人・物の移行が進んでしまうという危惧は地元にも大きい。しかし、旧市街の人々はそんな状況をただ傍観しているわけでは決してない。


石巻・旧市街の挑戦

筆者は、真有美さんを介して、石巻で長く地域スポーツ振興に取り組んできたNPO石巻スポーツ振興サポート・センターが、震災直後から被災者支援に積極的に活動していることを知った。同団体の松村豪太さんが記す「爆心地から」というブログで、石巻の状況を知り、何とか力になりたいと思ったのが前回の記事を書いたきっかけでもある。

その松村さんを中心とした中央商店街の若手有志が集まってできた組織が“石巻2.0”。彼らはさまざまな分野でいろいろな試みを行うことで、旧市街そして石巻全体の復興に主体的に関わっていきたいと積極的に活動している。

彼らが発行する『石巻VOICE』という小冊子の冒頭にこんなことが書かれていた。「中央商店街から復興の狼煙を上げたい。そして石巻を復興させたい。(中略)昨日より今日より明日を良くしたい。自由闊達な石巻の人のDNAで全く新しい石巻にならなくてはならない。(中略)私たちは新しい石巻を幅広い智恵と縦横無尽のネットワークにより、草の根的に作ります」。

未曾有の大震災の被害でいったんすべてがリセットされたと(無理にでも)前向きに捉え、新しい石巻を主体的に作っていこうという彼らのような若者がいる限り、石巻旧市街の復興にも希望が持てるのではないだろうか。「石巻2.0」の活動の詳細はウェブ(www.ishinomaki2.com)で確認できる。


女川、衝撃の光景

旧市街の被災した商店が集まった仮設商店街「ふれあい商店街」。石巻市立町地区

今回の滞在で、真有美さんは故郷石巻以外の場所でもいろいろなことを体験、目撃した。その中で一番の衝撃だったのが、家族水入らずの温泉旅行の帰路に足を伸ばした女川(おながわ)だった。

女川は、入り組んだ入り江に港がある漁港で、郊外の女川原発でもよく知られている。実はこの町、あまり活字にならないが特に甚大な被害を受けたところで、津波は最大で15メートル以上の高さで女川港周辺地域を襲い、根こそぎ破壊し尽した。

「何が起きたんだっていう感じで、空襲の後みたいに本当に何もないんです」。真有美さんと両親が、町の中心を見下ろす丘に車を停めて見た光景は、想像を絶するものだった。

港のほど近くにあったという彼女の叔母の母が営む釣具店は跡形もなく流されたが、丘を駆け上がった叔母は九死に一生を得た。復興するには復興できる下地が必要だが、女川のような状況だと復興以前に、町ごと移転するかというような次元の話になる。震災から1年を経ようとしている今もなお、このような過酷な状況があるということを我々は忘れてはならない。


“被災地出身者”の自分に「できること」

石ノ森漫画館の正面玄関に掲げられた日の丸。横のステッカーは津波到達地点を示す。石巻市中瀬地区

真有美さんは、家庭の事情や被災者である父親の強い意向などもあって、震災直後に石巻へ駆けつけることを敢えてしなかったのだが、それでも彼女自身は「(すぐに駆けつけないという)決断が正しかったのか」という葛藤が今もあると言う。

帰省中にも、直接言葉では言われないものの、何で今ごろ戻ってきたのかと思われても仕方がないと感じることもあった。滞在中に故郷の復興にもっと携わりたいと思いは強くあったものの、すぐに海外に戻る身で「自分は被災地の出身者であっても被災者ではないんだ」と身につまされることも何度かあったという。それでも真有美さんは、「海外にいる“被災地出身者” である私ができることをやるだけ」と、被災者と自分と同じ在外邦人をつなぐことに使命感を見出した。今後は、被災地の子どもをゴールドコーストに定期的に短期滞在させる計画を実現させ、3月18日に開かれるジャパン・デーで石巻の物産を販売し、寄付を募る準備に日々奔走している。

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何もかもが破壊された中に根こそぎ流された姿を晒す旧警察署ビル(女川町)

今回の帰省を前に真有美さんは、実際に被災した家族や知人の前では絶対に泣かないと決めていた。「実際に被災した彼らの体験を思えば、涙なんか見せられない」というその気丈な思いも、豪州人である夫のブライアンさんと訪れた石巻・中瀬地区で復興を願う“幸福の鐘”を鳴らして手を合わせた瞬間に、脆く消え去った。

澄んだ鐘の音が、弔い、祈り、復興への希望の思いを乗せて鳴り響く。真有美さんはブライアンさんに肩を抱かれ、ただただ咽び泣いた..。私の故郷、私たちの町、石巻がまた元気を取り戻せますように、そう願いながら。


東日本大震災1周年

チャリティー情報&活動報告

昨年3月11日に発生し、多くの人が犠牲になった東日本大震災から1年。被災地の復興活動が進む中、オーストラリアでも日系コミュニティーや豪州の人々が一丸となってチャリティー活動を続けている。3月に開催される1周年記念イベントの情報や、最近行われたチャリティー活動の報告をご紹介する。

 

【イベント告知情報】

復興写真展

自衛隊によって救出された住民たちをとらえた1枚

在シドニー日本国総領事館は3月8日.4月29日、シドニー市内サーキュラ・キーのカスタムズ・ハウス内の図書館で復興写真展を開催する。写真は東北地方で撮影されたもの。震災直後から今までの復興支援活動の様子や、東北の美しい自然をとらえた、計約60点の作品が展示される。入場は無料。東北地方の魅力を伝えるとともに、被災地の人々の力強い姿と復興の様子をより多くの人に伝えることを目的とする。


■Tohoku, Japan.Rebuilding for a Better Tomorrow
日時:3月8日(木).4月29日(日)月.金10AM.7PM、土・日11AM.4PM、祝休
会場:Level 2, Exhibition Space, Customs House Library, 31Alfred St., Circular Quay NSW
料金:無料
協賛:シドニー市カスタムズ・ハウス


ウェブで復興応援番組放送中

シドニーで活躍する書家のれん氏がタイトル書を書いたことでも知られる復興応援ソング「名もない絆(作詞:shu、作曲:尾飛良幸 )」。この歌を中心に昨年5月にスタートした、ウェブ動画共有サービス「USTREAM」の番組「プロジェクト名もない絆」が、その活動の幅をさらに広げている。

銀座のスタジオを発信地として、被災地各所で行われているイベント、支援活動、各国各地での復興支援の様子を届けてきたが、現在はさらにシドニー、ゴールドコースト、米サンディエゴと活動の場を広げ、今後は英ロンドンにもそのコネクションを広げる予定だという。

俳優の柴俊夫さんの復興支援活動との連携など、USTREAM番組ならではのフットワークの軽さが魅力の同プロジェクト。なお、楽曲「名もない絆」は英語、中国語、韓国語、ヒンドゥー語、ミャンマー語などへも翻訳されている。著作権はないので番組と合わせて確認してみるといいだろう。

 


■USTREAM「プロジェクト名もない絆」
配信日:毎週木1:30PM.3PM(日本時間)


日本を考えるセミナー

 

ブリスベンを中心にチャリティー・ライブ活動を続けている日本人バンド「カンジ&サザンクロス」は3月11・16・18日、「あの日を忘れない」というテーマで、東京、大阪、山梨のカフェやライブ・ハウスで演奏する。 日本でのライブは初めてで、バンド・メンバーのカンジさんは「オーストラリアに暮らす日本人の方々の思いを歌で伝えてきますので、応援してください」と話している。


■セミナー「日本近代史の忘れられた時代:1920年代の日本外交と後世への影響を探る」
日時:3月17日(土)2PM.5PM(開場1:30PM)
会場:ジャパンファウンデーション・シドニー(Level 1,Chifley Plaza, 2 Chifley Square, Sydney NSW)
Email: tsuruwattle@gmail.com
料金:$15(茶菓子込み)
*年齢制限あり(12歳以下は参加不可)


QLD出身日本人チャリティー・バンドが祖国でもライブ

 

ブリスベンを中心にチャリティー・ライブ活動を続けている日本人バンド「カンジ&サザンクロス」は3月11・16・18日、「あの日を忘れない」というテーマで、東京、大阪、山梨のカフェやライブ・ハウスで演奏する。 日本でのライブは初めてで、バンド・メンバーのカンジさんは「オーストラリアに暮らす日本人の方々の思いを歌で伝えてきますので、応援してください」と話している。

 

 


サーキュラ・キーで復興祈念祭

震災から1 周年を記念し、シドニーで暮らす日本人やオーストラリア人によるボランティア団体「3 1 1Commemoration Committee」が3月11日、シドニー市内サーキュラ・キーで復興祈念祭を開催する。

犠牲者の追悼、豪州の復興支援協力者への感謝、原発事故再発防止などへの思いを込め、地震発生時刻の4時46分(日本時間2時46分)に黙祷。折り鶴のワークショップや、復興応援ソング「名もない絆」の合唱、福島出身の主婦による街頭演説なども行われる。

 

 


■東北震災1周年復興祈念祭
日時:3月11日(日)2PM.5PM
会場: First Fleet Park, George St., The Rocks NSW
(Contemporary Art Museumの前)
Tel: 0414-758-295
Web: sites.google.com/site/helpjapansydney/home


ジャズ・ピアノ・コンサート

 

美しい森や屋久杉などで知られる、鹿児島県屋久島を拠点に活動するジャズ・ピアニスト、健たけびみろ未路氏のコンサートが3月11日、シドニー北部のワールンガで開催される。

ジャズ演奏に加え、普段から自然豊かな所で暮らす健氏自身の「エコ・ライフ」についてのトーク・ショーも行われる。コンサートの最後には、震災の犠牲者の追悼も行う。

 

 


■Jazz Piano Live in Sydney
日時:3月11日(日)2:30PM.3PM
会場:Fox Valley Community Centre / Auditorium, 183a Fox
Valley Rd., Wahroonga NSW
料金:大人$20、子ども(小学生以下)$10 *就学前の子ども
は無料、茶菓子付き
予約・問い合わせEmail: ydevent@optusnet.com.au


佐久間友美さんの写真展開催売上の一部を震災支援に寄付

佐久間さんの祖父母の日常生活をフレームに収めた作品

メルボルン在住の日本人写真家、佐久間友美さんが3月21日.4月3日、シドニー市内のオーストラリア紀伊國屋書店シドニー店のギャラリーで作品展を開く。福島県出身の佐久間さんがかつて10年間にわたり、現在は故人となった祖父母を撮影した作品を展示する。

第2次世界大戦を乗り越え、毎日を強く美しく生きてきた祖父母の日常生活をフレームに収めた。佐久間さんは「今を生きる人々の心に、希望の明かりを灯したい」との思いから写真展を企画したという。作品は販売し、売上の一部を震災支援活動に寄付する。

佐久間さんは学生時代から世界を旅しながら写真を撮影。06年にドイツ・ベルリンに移り、ベルリン国際映画祭のプロジェクトに参加。09年からオーストラリアに在住。今年2月にも同じテーマの作品展をメルボルンで開催したほか国内・海外で写真展を開いている。

 

 


■佐久間友美さん写真展
日時:3月21日(水).4月3日(火)月.水・金.土10AM.
7PM、木10AM.9PM、日10AM.6PM
会場:Wedged Gallery, Books Kinokuniya, Level 2, The
Galeries, 500 George St., Sydney NSW


【チャリティー報告】

マーケットで復興支援

マーケットでのブース

パネルでは被災地の様子を展示 

シドニー北部ノーザン・ビーチ在住の日本人ボランティアによるNPO法人「がんばれ日本NB」では、有志により寄付された品物を昨年3月から毎月、マンリー・ビレッジ・マーケットで販売。その売上金を義援金として東日本大震災の被災者に送っている。

同団体のホリントン奈緒子さんは「1人ではなく、皆で力を合わせてきたので、続けることができました。これからも無理なく自主的に活動していこうと思いますのでよろしくお願いします」と話している。

 

 


餅つき大会で復興支援

ステージで餅つきを披露する出倉さん

シドニーの日系コミュニティーから集まったボランティア参加者が1月28日、シドニー北部マンリー・ビーチにある歩行者天国で餅つき大会を開催。ボランティア52人、出演者36人が出席したほか、多くの人々で会場はにぎわった。

会場に開設されたステージでは、料理研究家の出倉秀男さんによる餅つきセレモニーをはじめ、和太鼓グループ「りんどう」のパフォーマンスや書家れん氏の書き初め、JCS南中ソーラン踊り隊とモザイク・フォーク・ダンス・グループの演舞などが行われた。

寄付金や着物写真撮影、茶道、新春ゲームなどの売上額を合わせて、合計1,573.60ドルが集まり、義援金として、福島被災学生のシドニーでのホームステイを支援するプロジェクト「レインボー・プロジェクト」に充てられる。

 


■レインボー・プロジェクトのウェブサイト
Web: sites.google.com/site/rainbowstaysyaney
■ボランティア団体「Help Japan Sydney」のウェブサイト
Web: sites.google.com/site/helpjapansydney


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