オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2009年9~10月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

世界が注目する連銀の次の動き

オーストラリアの中央銀行である連邦準備銀行(連銀)は、10月6日に開催された理事会で、公定歩合に当たるキャッシュ・レートを0.25%ポイント引き上げて3.25%とすることを決定し、翌日から実施された。今回の世界的な経済変調以降、経済先進国では最初の利上げとなり、オーストラリアにとっても、2008年3月以来、19カ月ぶりの引き上げとなった。直近2四半期でのプラス成長に見られるように、豪州経済は連邦政府の思い切った財政政策による支援もあって堅実な個人消費を背景に、中国などの新興国向けの資源輸出の恩恵もあり、一時の景気低迷から予想以上に速い回復を見せていることがこの利上げの要因となった。理事会開催日が近づくにつれ、発表される各種経済統計は、明確な経済立ち直りを示すものが多くなり、エコノミストの間では、以前は半々だった利上げ予想も、直前には確実な見込みとなり、引き上げ幅を0.5ポイントと予想するエコノミストも多くいるほどの状況となった。年内にもう1回引き上げがあるのか、連銀の動きに世界の眼が注目している。

 

利上げの要因と背景

今回の利上げに伴い発表された総裁声明の中で、スティーブンス連銀総裁は、経済高揚を目的とした政策実施の効果もあって、世界経済が上向きとなったことをまず指摘し、金融危機の余波により、ほかの先進国では緩やかな立ち直りが見込まれる中で、特に力強い回復を見せる中国経済は国際商品の輸出元であるオーストラリア経済にも大きな恩恵をもたらすとした。

民間設備投資や政府固定資本形成も増加傾向にあり、特に民間住宅投資は、国民支出の増加に寄与し、2010年中には、豪州経済の巡航速度(成長率で3%程度)に近づくものとみている。失業率は、以前の見込みほどには悪化しないと見込んでいる。物価の上昇も、豪ドル高の効果もあって、インフレ目標内に収まる情勢にあるとしている。したがって、経済を支援する目的の低金利政策から、次第に通常の設定(金利水準で5%程度)に戻るべきと判断したとしている。

金利を通常の水準で維持することは、持続的な経済成長を確かなものとし、インフレを適正水準に維持する、連銀の基本政策であるインフレ目標政策に基づくものである。

このような比較的楽観的な連銀の経済見通しに対して、連邦政府の見方は、やや悲観的である。ケン・ヘンリー連邦財務省事務次官は、10月9日に開催された連邦議会の公聴会で、財政面からの支援策を打ち切れば、10万人が失業する見通しを明らかにし、直ちに中止をも求める野党連合の要求を拒否するとともに、豪州経済が巡航速度に戻るにはなお2年を必要とするとした。

このような見方は、連銀総裁の経済見通しよりは相当に悲観的といえよう。連邦財務省事務次官は充て職(Ex Officio)として連銀理事に自動的に就任しており、連銀理事会での論議にも当然参加している。理事会でどのような議論があったのかは、後日公開される議事録で明らかになるが、関心を呼ぶことになろう。

この背景には、純経済的に判断する連銀に対し、政治的意味をも加味する連邦財務省との立場の違いが表れている、といえよう。

実体経済に対する影響からいえば、今回の利上げにより、銀行の貸出金利がどの程度上昇するのかが論議となる。銀行側は、調達金利の上昇を理由に、0.25ポイント以上の引き上げを意図する金融機関もあるが、連邦政府側は、その理由はないと牽制している。2011年まで預金を連邦政府に保証されている金融機関としては、その機嫌を損ないたくない、というのが本心であろう。

 

企業経営者の報酬に規制必要か

今回の世界的な不況の中で明らかにされたことの1つは、世界の大企業、特に金融機関の経営者が、長期的な業績とはほとんど関係なく、膨大な報酬を得ていたことであった。先ごろ開催された主要国首脳会議(G8)でも、この問題が取り上げられ、何らかの規制が必要という点では合意が得られたものの、具体的な内容は先送りとなった。

オーストラリアでも、大企業経営者の報酬を見る目は厳しくなっている。1990年代以降の15年間で見ると、大企業経営者と平均的な従業員の給料額などの割合は、17倍から50倍程度に拡大しているという報告書もある。また、2001年以降では、企業経営者のもらう金額は2倍以上増えているのに対し、平均的な従業員では40%程度の増加に過ぎず、格差はますます拡大する傾向にある。しかも、重要なことは、企業業績との関連性が見い出せないということであろう。

株主にとっての関心事は、企業業績と株価である。企業価値を上げてくれる経営者には、相応の報酬を支払うことは認めるものの、業績を悪化させ、株価を下げた企業経営者には、びた1文も払いたくないというのが本音であろう。その代表例が、先にテルストラ社最高経営者を辞任(実質上は解任)したソル・トルヒィーヨ氏であろう。

元米国大企業経営者という触れ込みで三顧の礼を持って迎えられたにもかかわらず、減益決算、株価下落や連邦政府との関係悪化という結果を招きながら、2008年には1,340万ドルの報酬を受けとったことが同社株主を怒らせた。しかし、同時に彼を招へいした取締役会にも同様な批判が寄せられるのを恐れて、うやむやのうちに辞任を認めたというのが真相であろう。

もう1つの例としては、国営企業郵政公社(Australian Post)が指摘されよう。公営企業経営者としては最高の報酬を受けている同公社グレアム・ジョン総裁は、近く退任するが、2009年度の報酬は260万ドルとされ、ケビン・ラッド連邦首相の約7倍という大きなものである。しかもこの1年、同公社の業績は40%の減益であった。

平均的な同公社職員の給料は5万ドル弱とされているので、約52倍ということになる。ACTU(豪州労働組合評議会)のシャロン・バーロウ議長は、企業経営者の最高報酬は、平均労働者の10倍を限度とすべきとしている。

企業経営者の報酬に対する規制の1つの案が、連邦政府の労働生産性委員会から草案の形で発表された。これは、企業株主総会で、経営者層に対する報酬案に25%を超える異議が2回続けてあった場合、その役員の再任投票が必要になるというものである。社会的な要請と企業活力の両立を図る1つの案と評価されよう。12月には同委員会の最終報告書が提出されるので、この案の具体化が注目される。

企業経営者、とりわけ、社会的影響の大きい金融機関の経営者報酬に何らかの規制が必要であるという点では合意があるものの、現実には困難な問題がるようである。

 

新しい百貨店像の模索

デパート(百貨店Department Store)というビジネス・モデルは、日本では完全に斜陽傾向にある。売上高で前年割れの状態が長期化しており、老舗大手百貨店間でも経営統合が進行している。利幅の大きい衣服関係では、ユニクロなどのトレンディーな専門店に押されており、金額の張る電気製品などでは、圧倒的に品ぞろえの豊富な家電量販店に凌駕されている。各種商品価格を下げ、デパ地下での食料品などに活路を見い出す経営戦略を採用している企業が多くなっているが、今のところ、明るい展望は見えないようである。

オーストラリアのデパート業界は、デービット・ジョーンズとマイヤーという2大系列に支配されている。この内、1838年にシドニーで設立されたデービット・ジョーンズは、マーク・マッキネス社長の下、それまでの高級百貨店というイメージを薄め、年間を通じてセールを繰り返す経営戦略が功を奏して、収益を増やし、株価の上昇にも成功している。

カード戦略も、ステータスの高いアメックスと提携するという方針を採用。高級イメージを大きく損なわずに売上を伸ばすという戦略により、一時は破綻寸前であった老舗百貨店の立て直しを図った。

一方、以前は最大のデパート・チェーンであったマイヤーは、1900年にVIC州で開業した小売店に端を発している。その後、メルボルンを拠点に店舗網を拡大し、全国的に展開した。1983年には、シドニーを中心にNSW州で開業していたグレース・ブロス百貨店を買収し、最大規模の百貨店グループとなった。さらに1985年には、小売スーパーのコールズと経営統合し、コールズ・マイヤー・グル-プとして豪州最大の小売企業となった。

しかし、次第にデパート部門が経営上の重荷となったので、百貨店事業部門を切り離し、2006年に米国投資家グループであるTPGを中心とする投資家グループに14億ドルで売却した。同グループはその後、人員削減や店舗の売却を行って経営戦略を立て直し、デパート事業を軌道に乗せて投資資金を回収するために、今回、株式を公募売却して上場を行うものである。投資家グループが予定する十分な応募があれば、回収見込みの資金は投資金額の約2倍に当たる24億ドルとなり、今年最大の上場金額となる。

投資家グループも、それなりのリスクを負担しているので、濡れ手で粟というわけではないとしても、相当な儲けとなることは間違いがない。経営統合や上場の過程で、VIC州の誇る創業者マイヤー家の伝統が消えていくことは、確かであろう。

上場に際しての目論見書(Prospectus)によれば、今後5年間で店舗網を65から80に拡大する計画である。デービット・ジョーンズの経営戦略と合わせ、新しいデパート事業を示すものとなる可能性もある。そうとすれば、地盤沈下に悩む日本のデパート業界にも示唆するものとなろう。

このほかの経済的ニュースとしては、オーストラリア最大の貿易相手国となった中国経済が今年中にも国内総生産の規模で日本経済を追い抜くと予想されるほどに力強く回復していることや、株価の暴落に関連して、今回の金融危機で問題となった空売り(Short Selling)に対する法規制が、より厳しい形で正式に始まることなどが大きな話題となった。

オーストラリア経済の動き
オーストラリア経済の動き

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る