オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2010年2〜3月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

国家的問題解決のカギは

現代経済先進国に共通する問題として、医療問題や都市交通問題がある。いやこれらは、いつの時代でもどこの国でも、解決を迫られている課題といえよう。

医療問題は、ますます高度化する医学に対応して、国民全体に一定水準以上の医療をどのように提供すべきか、というのが問題の核心であろう。米国でも依然として未解決であり、空前の高齢化社会を迎える日本では、膨大化する医療費の負担問題が焦眉の課題である。

都市交通問題では、先進国よりも都市に人口が集中する傾向が強まっている、中国やインドなどの新興国の方が深刻かもしれない。

この2つの問題を抱えるオーストラリアでは、その処方箋ともいうべきものが相次いで発表され、侃々諤々の議論を呼んでいる。NSW州政府によるシドニー地域交通青写真と連邦政府による公立病院運営移管案である。

身もふたもないが、結論を先に言うと、結局、これらの問題解決の鍵は、資金をどのように調達し、どのように使うかということになる。医師や病院施設の不足は、金銭的資源を投入すれば、ほとんど解決できるし、鉄道や道路などのインフラ整備は、資金さえあれば解決は比較的容易である。

しかし、資金の確保は簡単ではない。いつの時代、どこの国でも、政府財政はひっ迫するのが常である。

 

シドニー地域交通青写真

2月22日にケネリーNSW州首相が表したシドニー地域交通青写真は、来年度に行われる州議会選挙対策の色彩が濃いが、シドニー都心部の地下鉄建設は見送られ、西部地区の新線建設は14年後の完成となり、ライトレール(路面電車)の延長にとどまるなど、鉄道よりも道路整備に重点を置いた計画となった。

これは、財政難に苦しむ州政府が、資金手当てで問題とならないように、当面は比較的少ない資金で行える道路整備連を優先したものであろう。しかし、これでは基本的な解決策とはならない恐れがある。地球温暖化対策という観点でも、思い切った資金を投入して、鉄道網を整備することが、重要であろう。

 

公立病院運営移管

医療問題を解決する案として、3月3日、ラッド連邦首相が明らかにしたのが、公立病院運営移管である。これは、現在、州政府により管理運営されている公立病院の多くを連邦政府が統括することを柱とする、医療制度改革案である。国家医療制度の担い手が州から連邦に移管されることになる。これが実現するためには、連邦議会の承認に加え、すべての州・特別地域政府の同意が必要となる。

公立病院の運営で不祥事の続いているNSW州政府は、同意の意向を示しているが、自主管理に自信を見せているVIC州とWA州の両州政府は、同意の姿勢を見せてはいない。

ここでも鍵を握るのは、資金面である。連邦政府は、移管の代償として、現在は全額州政府に交付されるGST(消費税)収入の3分の1を連邦に譲るように求めている。現在は明確に反対している両州政府も、連邦政府が新たな自己資金を投入するのであれば、再検討するとしており、条件闘争の影も見えている。

高齢化社会を迎えるオーストラリアも、医療問題が最大の社会問題となる恐れがある。どのような医療制度が最適なのかをめぐって、これからも試行錯誤が続くことになるが、結局は、地獄の沙汰も金次第。限られた資金をどのように投入するのが最適なのか、という問題に帰着する。

 

豪州経済の回復状況

3月3日に発表された国民所得勘定統計によると、2009年12月四半期には、GDP(国内総所得)は、季節調整値で0.9%増加し、年率では2.7%の増加となった。個人消費は堅調に推移し、国内固定資本形成(企業設備投資や政府投資)が成長を支える一方、純輸出(輸出マイナス輸入)が経済成長の足を引っ張った。

09年の2.7%という暦年成長率は、1年前に連邦準備銀行(連銀)が予想した0.5%という数字を大きく上回っており、連銀の予想以上に豪州経済は力強く回復していることを示している。

このような情勢を受けて、連銀は3月2日に開催された理事会で、公定歩合(キャシュレート)の0.25%ポイントの引き上げを決定し、4%となった。

連銀の見方では、世界的不況が及ぼす恐れは、豪州経済からは去り、通常の経済巡航速度に近づきつつあるとしている。金利も通常の水準に戻る必要があるとし、インフレの動きも勘案しながら、さらに利上げのあることを強く示唆した。大方の専門家は、年末までには2ないし3回の利上げを予想している。

経済の回復状況は、特に雇用面で顕著である。求人広告件数統計でこの傾向が見られるだけでなく、企業の景況判断も上昇しており、フルタイムを中心に新規雇用意欲が強くなっている。

2月の失業率は、5.3%と1月とほとんど変わらなかったものの、パートタイム雇用からフルタイム雇用への転換が目立った。これは、雇用主が今後の事業に自信を深めていることを示しており、労働市場は一段と活気づいている。

雇用が増えれば、失業保険受給者が減少し、所得税収入が増加するので、財政負担が改善する。09年5月の連邦予算案提示時には、10/11年度の連邦財政赤字額は570億ドルとみられていたが、昨年11月には470億ドルと下方修正されていた。また、財政黒字への転換は15/16年度と見込まれていた。しかし、予想以上の景気回復と鉱産物輸出価格の上昇により、12/13年度にも黒字転換するという見方も生まれている。

この背景には、伝えられる鉄鉱石価格の90%上昇、原料炭価格の55%引き上げがある。いずれにしても、当初予想されたよりも、財政悪化はなくてすむことは確実であろう。

豪州経済の回復は、一段と顕著になったといえよう。

主な経済指標の動き(2010年2月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4596.9 89.09 69.2 80.12 10198.04 901.12
月 末 4651.1 88.99 69.5 79.42 10126.03 894.10
最 高 4686.8 90.16 70.5 82.59 10404.33 915.68
最 低 4520.7 86.62 67.7 77.39 9932.90 881.37

ライバル企業のトップに就任へ

会社に対する忠誠心が重視される日本では、生え抜き社員(入社時から一貫して同じ会社に勤務)でないと大企業のトップになることは難しいが、経営能力が最大の判断材料となるオーストラリアの企業社会では、企業トップの座をいくつも渡り歩く人も珍しくない。しかし、同一業界のライバル企業のトップに転身することは、大きな話題となる。

このほど、航空企業ヴァージンブルー社の社長に就任することになったジョン・ボーゲッティ氏(54歳)は、ライバル企業カンタス航空の元最高幹部(ナンバー3)であった。同氏は、カンタス社長職への望みを断たれた後、辞職し、半年間の競業回避義務(Non-compete)期間の満了により、ヴァージンブルー社からの要請に応じ、この7月に就任するものと、発表された。

00年8月に格安(No-frills)航空会社として出発したヴァージンブルー社は、英国の異色起業家チャールズ・ブランソン氏と7月に離任する現社長ブレッド・ゴドフリー氏を共同創業者としている。国内路線を拡充し、ニュージーランド、南太平洋諸島や米国への国際航空路を軌道に乗せたゴドフリー氏は、1億ドルを超える赤字決算を黒字に転換させたのを契機に、社長交代を考えていた。

ヘッドハントを依頼された企業(08年のカンタス社長探しも手がけたとされている)の最終リストに残ったのは3人といわれている。英国の格安航空社の社長、26%の株式を保有する大株主でもあるヴァージン・グループの有能幹部と、ボーゲッティ氏である。事実上の決定権を持つブランソン氏とゴドフリー氏がボーゲッティ氏を指名したのは、豪州国内航空産業を熟知していることと、特にビジネス・クラスの扱いに慣れているため、とされている。ヴァージンブルー社が単なる格安航空会社から脱皮し、カンタス航空と全面的に渡り合うためには、より経験のあるトップが不可欠と判断されたようである。

念願の航空企業トップに就任するボーゲッティ氏であるが、両社の社風の違いに上手に対応できるかが、経営者として成功するかどうかの1つの鍵となろう。保守的で、官僚的な感じのあるカンタス社から、カジュアルなヴァージンブルー社の空気に馴染むことが必要となろう。

就任発表の記者会見には、早速ノーネクタイで現れたボーゲッティ氏であるが、豪州航空産業を取り巻く経営環境には依然厳しいものがあり、前途は容易ではないであろう。

オーストラリアでも航空産業界には、さまざまな新しい動きが生まれている。

カンタス航空が大半の路線でファースト・クラスを廃止したのに続き、ニュージーランド航空がビジネス・クラスの撤廃を示唆したことは、世界的な不況により、航空業界が質より量で稼ぐ方向を模索しているようである。また、従来はカンタス航空とアメリカン航空のドル箱であった豪州米国間の太平洋路線に、デルタ航空やヴァージンブルーの子会社Vオーストラリア航空に続き、ユナイテッド航空が増便する計画であることや、シンガポール航空も路線開設を模索するなど、競争は激化の一方である。

国内路線でも、シンガポール航空の子会社タイガー航空が東部での路線を拡大するなど、格安航空会社の急成長が目立っている。

日本航空が事実上経営破綻し、そのあおりで、全日空も6百億円を超す赤字を計上し、新興企業のスカイマーク社は不祥事をたびたび繰り返すなど、日本の航空業界には明るい展望が見られない。全日空は、国際線を成長の柱と位置づけているが、厳しい国際競争を勝ち抜くためには、経営合理化に格段の努力が必要となろう。

このほかの経済的ニュースとしては、12月決算の結果が続々と発表され、増収増益となる企業が多く、大不況に苦しんだこの2年間では最良の決算となったこと、選挙を来年に控え、赤字財政を抱えるNSW州が宝くじ事業を売却し(40年後に返還)、黒字に転換する見通しであること、ダーリン・ハーバー東岸地区再開発構想が発表され、早くも賛否両論を呼んでいることや、恒例の米雑誌フォーブス誌富豪番付が発表され、鉄鉱石採掘で大成功したファレスト氏が第1位となった反面、トップ常連だったパッカー氏が第3位に転落したことなどが大きな話題となった。

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