オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2010年3〜4月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

公定歩合の行方

多くの経済先進国が世界的な大不況からようやく立ち直りつつある現時点で、いち早く成長軌道に復帰した豪州経済では、金利水準も平常ベースに戻りつつある。

4月6日に開催された連邦準備銀行(連銀)の理事会では、公定歩合(キャッシュ・レート)を0.25%引き上げ、4.25%とすることが決定され、翌日から実施された。これで昨年10月に始まった金融の引締めは5回目となり、合計で1.25%の引き上げとなった。

連邦政府の財政面からのテコ入れ策の効果がなくなり、個人消費や住宅融資申請に陰りが見え始めた現在では、今回は連銀が公定歩合引き上げを見送るのではないかという観測も一部にはあったが、連銀は躊躇なく発動した。その背景には、できる限り速やかに平常の水準(4.5%ないし5.5%とされる)に戻したいという、連銀の強い意志がうかがえる。

今回の連銀総裁声明では、明確には強調されていないが、資源ブームによる恩恵といえる交易条件の改善や所得の増加も、当然、考慮されたものとみられる。いずれにしても、この声明でも強調されているように、平常水準に戻るように、年内にもあと1ないし2回の引き上げはあり得ると考えるべきであろう。

日本の金利水準は、長期間にわたりゼロ水準が続いているが、できる限り速やかに平常水準に戻すべきという、意見が全く出てこないのは不思議である。

資源ブームの恩恵で濡れ手で粟

オーストラリア経済の動き
グリーン・ピット鉄鉱石採掘鉱山

濡れ手で粟という表現がある。骨折ることなく、利益を得る例えであるが、今回の鉄鉱石価格交渉の結果(90%のアップ)を見ると、この表現がぴったりという感じである。

もの(財)の価格は、市場経済では、自由競争を前提に、供給と需要の関係で決まるとされるものの、通常は、製造原価に適切な利潤を上乗せした金額を軸に決定される。他方、供給と需要の関係が大きく作用するものに、生鮮食料品や原油・鉱物資源などがある。野菜や果物の価格は、天候や収穫の良否により、つまり、主として供給側の事情により、大きく変動する。しかし、長期的に見れば、需要に応じて供給を増減させることができ、自由競争の下では、供給者側だけが価格決定権を持つことはない。

これに対し、資源に限りのある原油などでは、供給の限界が見えてくるに伴い、生産者側が出し惜しみをちらつかせ、価格決定権を握ろうとする傾向がある。世界各地に生産国が散在する原油では、抜け駆けを防止する意図もあり、石油輸出国機構(OPEC)という生産・価格カルテルを作り、価格決定権を国際石油資本(メジャー)から奪回している。しかし、非加盟国もあり、生産国が完全に価格決定権を持っているとはいえないであろう。

鉄鉱石(iron ore)は、もともと生産地が偏在している上に、ヴェール(ブラジル)とBHPビリトン、リオティント(ともに英豪)の3社が世界生産力の7割を押さえており、価格主導権を強めていた。さらに、高い経済成長を続ける中国やインドでは、「産業の米」といわれる鉄鋼への需要が急激に増大していた。このように、供給・需要の双方で価格上昇の要素が強まっていた。

今回の価格交渉では、前年度の約2倍という生産者側の要求がほぼ通る形となったが、このようになった結果では、次の点を指摘しておくことが重要であろう。

○これまでの鉄鉱石価格交渉では、日本の鉄鋼メーカーと豪州系2社との交渉により、年間の価格が決定され、それが世界的な基準価格となったが、今回では、ヴェールと中国の需要家との交渉により、事実上の基準価格が決定されたこと

○年間の価格ではなく、四半期ごとに見直す仕組みとなったこと

つまり、日本の鉄鋼メーカーは、今後は、鉄鉱石の価格決定に関与できない恐れがあるということである。

鉄鉱石と同様に、製鉄の主原料である原料炭(Coking coal)についても事情は、ほぼ同様である。こちらは、55%の価格引き上げで決着した。

今回の鉄鉱石価格引き上げに伴う経済効果は、非常に大きなものがあり、豪州経済は恩恵を被ることになる。

価格引き上げによる収入の増加や投資の拡大により、豪州経済に及ぼす波及効果は、180億ドルと試算され、国内総生産(GDP)を2%近く押し上げる効果があるとされる。

連邦政府や州政府も、税収の増加により、利益を受ける。

中国を中心とする資源ブームにより、生産側では関係者全員が濡れ手で粟の状況になっている。もちろん、鉄鉱石の需要者側である鉄鋼メーカーも、おとなしく受け入れるわけではない。鉄鋼の需要者である自動車メーカーなどとの間で価格引き上げ交渉を進める一方、欧州の鉄鋼メーカーは、欧州公正取引委員会に対し、不公正な取引として提訴する構えも見せている。

しかし、天然資源に関しては、生産と需要との関係が大きく変わらない限り、生産者側の力が強まることが予想され、価格上昇への大きな圧力となることは、確かであろう。

この問題とも関連し、日本経済にとって残念なのは、オーストラリアにとって最大の輸出先が中国にとって代わられたことである。英国に代わり、1967年以降維持してきた最大の輸出先国の地位は、中国に奪われた。今年中には世界第2位の経済大国という立場も中国になることは確実視されている。隆盛の国と斜陽の国といわれないように、日本経済の奮起を期待したい。

ネット情報への課金

オーストラリア経済の動き
ウォールストリート・ジャーナル電子版

インターネットの普及以降、部分的ではあるものの、ネットで新聞記事が見られるため、新聞の購読をやめた方も少なくないであろう。新聞社側も、ネット記事に広告掲載を行うなど、収入の増加を図っているが、新聞購読数の減少、ひいては新聞広告の落ち込みに直面していた。日本では、ネットの広告料が新聞を超えたとの統計も発表されている。新聞業界は、ネットとどう立ち向かうのか、という問題に苦しんできた。

ネット記事の有料化を早くから唱えていたのが、世界の新聞王ルパート・マードック氏である。検索エンジンであるグーグルなどが新聞記事をただ乗りしていると非難し、無料で掲載できる記事は、見出しのみか、本文の1行に限るべきだと、主張していた。

そして、一般紙よりも専門紙の方が課金になじみやすいとして、買収した「ウォールストリート・ジャーナル」紙のネット記事の有料化に着手した。この経験により、成算があると考えたのか、一般紙である「ザ・タイムズ」紙(英国の世界最古の新聞)の有料化を6月から開始し、その後も将来的には英国大衆紙である「サン」をはじめ、傘下にあるすべての新聞の電子版を有料化することを明らかにしている。

「ザ・タイムズ」紙の場合、料金は1日1ポンド(約145円)、1週間で2ポンドであり、新聞定期購読者は無料でアクセスできる。定期購読すれば1週間6ポンドなので、新聞の定期購読を仕向ける料金設定といえる。

オーストラリア出身で、世界のメディア王と称されるマードック氏にとって、一般紙電子版の有料化は、人生最後の賭けに出たものであろう。世界的な新聞としては、「ニューヨーク・タイムズ」紙も有料化を予定していると伝えられている。購読料と広告の収入減を有料化で補うことができるのかが注目される。

日本でも、3月23日から日本経済新聞電子版が創刊された。こちらは本紙との併存を意図しているようである。本紙のすべての紙面を見られるほか、ネット独自の速報や過去の記事の検索もできるなど、ネット機能を生かした独自の存在を目指している。

オーストラリア経済の動き
日本経済新聞電子版

同社では、過去に別の専門誌で電子化を企図したが、断念したという経緯もある。単なる有料化ではなく、電子版の創設という意欲的なもので、相当な人員や資金を投入している。しかし、全面的な有料化には躊躇があるのか、無料で登録すれば、これまでと同じように、一部の記事は部分的にせよ見ることができる。

問題は、本紙との関連でどのような料金を設定するかであろう。日経紙の場合、電子版のみだと本紙の定期購読料金とほぼ同じで、本紙とセットの場合には、月額1,000円の上乗せとなった。この料金水準は、本紙への影響を抑えるため、高めの設定になったとされている。

この電子版の誕生は、意欲的なものであるが、日本独特の販売形態にも関連していくつかの問題があるようである。その1つは、読者が本紙から電子版に切り替えた場合、新聞販売所の収入が減ることであろう。さらに、技術的な問題として、電子版に必要なIDとパスワードを数人で使い回しするという問題が予想される。これは技術的に解決できる可能性もあるが、当面は課題となろう。

オ−ストラリアの新聞では、有料化の具体的な動きはまだ顕在化していないが、新聞業界の約半分はマードック氏のニューズ社系が占めており、早晩同じ道をたどるものとみられる。

いずれにしても、新聞電子版の有料化は大きな実験である。新聞業界がほかの収益源を見つけられるのか、他社も固唾を飲んで行方を見ているはずである。マードック氏も指摘しているように、ネット記事の課金と新情報機器「iPad」の出現により、新聞、雑誌とインターネットとの関係は、新たな時代を迎えることになろう。

このほかの経済的ニュースとしては、自動車メーカーのホールデン社が5期連続して赤字を計上したこと、このところ減少一方であった日本との航空便で、ケアンズ—関空間の復活がジェットスター社から発表されたことや、依然として留学生相手の専門学校の経営破綻が続いていることなどが大きな話題となった。

主な経済指標の動き(2010年3月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4651.1 88.99 69.5 79.42 10126.03 894.10
月 末 4893.1 91.59 71.7 85.55 11089.94 978.81
最 高 4926.8 92.20 71.7 85.55 11097.14 979.58
最 低 4694.9 89.75 70.0 79.80 10145.72 897.64

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る