オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き

(2010年4〜5月)
鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

転換期を迎えた経済政策

2007年のサブプライム問題に端を発し、08年9月15日の、いわゆるリーマン・ショック以降、世界の主要国の経済政策は、金利を下げ、財政面からのテコ入れを図るなど、景気浮揚のために、考えられ得るあらゆる政策を総動員した。

経済先進国の中では、唯一景気後退(2四半期連続のマイナス成長)を免れた豪州経済は、既に金融政策では、昨年10月以降5回の公定歩合の引き上げが実施され、正常の金利水準に復帰しつつあるが、財政政策面でも、新たな財政出動が見送られただけでなく、財政赤字解消のために逆に増税が実施される方向となり、経済政策はほかの先進国に先駆けて全体として大きな転換期を迎えている。

5月11日に3度目の連邦予算演説を行ったウェイン・スワン連邦財務相が、何度も繰り返し強調したのは、「予定よりも3年早く財政黒字を達成する」ということであった。

昨年の演説では、景気のテコ入れを目的とする一時金支給を含む財政出動により大幅な財政赤字となり、黒字への転換は、2015/16年度とされた。今回の予算演説では、2012/13年度にも財政黒字の達成を見込むとした。

これは、直接的には、大きな財政赤字に対する野党側からの批判を封じるものであるとともに、現在ギリシャなどに見られる国家財政赤字の問題を回避する狙いがあるとみられる。

無論、見込み通りの財政黒字となるためには、税制改革答申でも提言され、予算演説でも導入が明言された資源超過利得税(Resource Super Profit Tax)の実施が前提となる。

たばこ税の増税とともに、国民からの反対が少ないと見込まれる歳入増加策であるが、鉱業界では、連日新聞の全面広告で反対キャンペーンを行っており、連邦政府の思惑通りに進むのか、決して予断を許さないであろう。

膨大な国家財政の赤字といえば、ギリシャ国債の暴落(利回りは上昇)を契機とするユーロ市場の混乱は、第2のリーマン・ショックとなりかねない危険性があった。欧州同盟による大胆な救済策の発表で、ひとまず小康状態となったが、スぺインやポルトガルなど、ほかにも財政面でぜい弱な国があり、再びいつ火を吹いてもおかしくない問題である。

ただ、このギリシャ問題により、国家財政赤字という問題が大きく注目されるようになったのは、怪我の功名というべきであろう。国際通貨基金(IMF)は、最新世界財政調査の結果を発表し、世界経済の不均衡是正と持続的な発展を実現するためには、財政赤字の縮小と増税の必要性を強調した。同じIMFの報告書では、日本の財政赤字の状況を分析し、債務残高の対GDP(国内総生産)比は、このままでは2015年には、最悪の250%になると予想し、増税の必要性(例えば、消費税率の倍増=5%から10%へ)を事実上勧告している。

政治家は無論のこと、ほとんどの日本のマスコミやエコノミストは、財政赤字や増税の問題に目をつぶっているが、もういい加減にし、増税を実施すべきである。税収入よりも、国債収入の方が多いというのは、平時ではあり得ないはずである。民主党が参議院選挙のマニフェストの中に消費税増税の盛り込みを検討しているのは一歩前進である。日本国民全体が国家財政赤字の減少を真剣に考える時期である。

大山鳴動してネズミ1匹ー税制改革答申案

オーストラリアの税の仕組みを大きく変えるものとして鳴り物入りで誕生し、昨年12月にウェイン・スワン連邦財務相に報告されていた、ヘンリー・レビュー報告書の内容と、それに対する連邦政府の対応策が5月2日に公表された。138項目の勧告の内、直ちに連邦政府により採用が決定されたのはわずか4項目にとどまり、ほとんどは不採用または今後の検討事項とされた。連邦公務員の中では最大の実力者とされている、座長を務めた連邦財務省事務次官ケン・ヘンリー氏の面目は丸つぶれとなった。

4カ月以上も連邦政府内で検討されながら、このような結果となった最大の要因は、早ければ今年10月にも予定される連邦議会総選挙を考慮してのことであろう。

英国王の徴税権を制限したマグナカルタ(Magna Carta/the Great Charter 大憲章1215年)や米国独立戦争の契機となったボストン茶会事件(Boston Tea Party 1773年)に見られるように、税金の問題は、国民の財布に直接関連するだけに、経済的な問題であるとともに、常に政治的な問題となる。

ラッド連邦首相やスワン連邦財務相は、政治的な側面を重視し、国民の支持が得られると判断した項目だけを採用し、そのほかは先送りしたものであろう。経済面よりも政治面を優先させた結果といえよう。ただ、勧告項目の多くは、示唆に富むものであり、将来的には採用される項目も多いと思われる。

6度目の金利引き上げ

連邦準備銀行は、5月4日に開催された理事会で公定歩合(キャッシュ・レート)の0.25%の引き上げを決定し、翌日から実施された。これで昨年10月以降6回目の引き上げとなり、金利水準は4.5%となった。

連銀総裁声明では、欧州のソブリン・リスク(国債の暴落による金融市場の混乱)についても触れているが、他国への拡大はなく、影響は限定的と判断した。市場関係者の中には、小売売上げの停滞や建築申請件数の減少などを材料に、連銀が利上げを見送るのではないかという観測もあったが、連銀はインフレ傾向の出現を重視した。

労働力需要の停滞、豪ドル相場の上昇や総需要の増加減速などにより、インフレ傾向は、2008年をピークに下落しているとしたものの、その落ち方が予想ほどではなく、むしろ、今後はインフレへの警戒が必要と判断したものである。

この引き上げの結果、現実の貸出金利水準はほぼ平均に戻ったとし、景気を浮揚するための対策を終了し、今後の引き上げは引き締めが必要となった場合であることを示唆した。景気が行き過ぎない限り、公定歩合の引き上げは遠のいたと考えるべきであろう。

インフレの恐れ再熱

オーストラリア経済の動き

豪州経済が上向くと、懸念されるのはインフレである。4月29日に連邦統計局から発表された3月四半期の消費者物価指数(CPI)は、0.9%上昇した。この結果、3月までの年間上昇率は2.9%となった。昨年12月四半期の数字は、それぞれ0.5%、2.1%であったのと比べると、インフレの速度が早回っていることが分かる。連銀が警戒心を強め、公定歩合の引き上げを連続して行っている要因の1つである。

上昇の要因を項目別にみると、野菜などの生鮮食品、電気料金、医薬品、ガソリン、医療サービス、住宅購入などとなっている。

逆に、引き下げに寄与したのは、紳士・子ども向け衣料品、コンピュータなどの耐久財、家具、旅行や果物などであった。

全体として、国内で生産される財やサービスが上昇傾向にあるのに対し、輸入品がこれを補っているといえる。この期間、豪ドル相場が大きく上昇したという要因もあるが、これではますます国内産の商品が価格競争力を失うことになる。

これを逆転するには、労働生産性の飛躍的な向上が必要となる。そのための1つの対策が社会的インフラへの投資の増加である。また、貯蓄を増やし、投資全般を飛躍的に増加させるような政策的手段を導入することが求められる。

予算演説の中でスワン連邦財務相は、資源超過利得税収の使途として、社会的インフラを指摘し、また貯蓄率向上のためにスーパー(国民年金)拠出の優遇策を持続するとともに、銀行などからの利息に対する課税優遇措置を初めて導入することも明らかにした。

具体的には2011年7月から、利息の1,000ドルまでには50%の税割引が講じられるというものである。ヘンリー・レビューでは無制限に40%の優遇としていたものを、額に制限を設けながらも50%とさらに優遇措置を強めた。

今まで、貯蓄率の向上策としては、スーパー一本槍であったものを、銀行利息にまで広げたものであり、遅きに失した感はあるものの、貯蓄率の向上に少なからず寄与するものと思われる。

豪州の投資は、スーパーの投資先の約6割が株式に向けられているなど、株式に偏重している傾向がある。先の世界的不況で株式市場が暴落して、スーパー資産が大きく目減りし、また、各金融機関が海外資金に依存しているため、調達コストが急上昇するなど、国内貯蓄不足の弱点が露わになった。貯蓄が投資を促し、投資が所得を拡大するという、好循環となるような政策的配慮が求められる。

総じて、4月から5月にかけては、財政、税金や予算などが大きな注目を集めた。ヘンリー・レビュー報告に対する対応では、検討課題とされながら、予算演説では現実に導入された項目もいくつかある。いずれも国民受けするような項目であり、インパクトを大きく見せるために、わざとそうしたという感じもする。日本の鳩山内閣ほどではないが、ラッド政権の支持率も低下傾向にある。鳩山内閣は、事業仕分け第2弾でも支持率回復に失敗したが、ラッド政権では、起死回生の予算案となるかどうかが注目である。

ファイナンシャル・プランナーは信用できるか

日本ではまだあまり広まっていないが、ファイナンシャル・プランナー(FP)という専門職がある。報酬を得て、投資に関連して資産運用や税金などにもアドバイスするものである。オーストラリアでは通常、相談などに要した時間当たりでチャージされ、決して安くはない料金となる。クライアントに適切なアドバイスが出されれば問題は少ないが、いくつかの投資ファンドが経営破綻したこともあり、投資家の間ではFPの信頼性に疑問が投じられていた。

その要因の1つとして、FPが推奨した投資ファンドから手数料を受け取っているという商慣行が問題とされた。どうしても、手数料の高いファンドを推奨する動機づけとなるからである。現状でも、受け取っている手数料については、開示が義務付けられているが、十分効果が挙がっていない。

連邦政府はこの程、FPが投資先から手数料を受け取ることを禁止する法改正に踏み切った。現在、オーストラリアには2万人近いFPがいるとされており、ほとんどが大手金融機関などとの結びつきがあり、専ら、その金融機関の金融商品を推奨しているとされている。この制度改正が実現すれば、FPの料金が上がることが予想されるので、連邦政府は、簡潔なアドバイスを専門とする仕組みも考慮中である。FPを監督する連邦証券投資委員会(ASIC)も規制強化策を検討している。改正の多くは、2012年からの実施となっている。

例えFPのアドバイスがあっても、結局、損失を被るのは自分であり、最後は自分の判断に責任を持たなければならない。

このほかの経済ニュースとしては、大手銀行の3月中間決算が発表され、増益となったことや、世界的な景気後退で新聞購読数の減少が懸念される中、豪州各紙の減少率は1桁に踏みとどまり、世界の中では比較的影響が少なかったことなどが大きな話題となった。

主な経済指標の動き(2010年4月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4893.1 91.59 71.7 85.55 11089.94 978.81
月 末 4833.9 93.00 72.5 87.49 11057.40 987.04
最 高 5024.1 93.41 72.5 87.49 11339.30 995.68
最 低 4816.1 91.64 71.5 84.59 10900.68 972.11

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