金融不安再熱の兆し

オーストラリア経済の動き

オーストラリア経済の動き
(2010年5〜6月)

鳥居税務会計事務所代表 鳥居育雄

金融不安再熱の兆し

ギリシアの財政破綻を懸念する世界的な金融不安は、欧州連合加盟国による必死の支援策により、何とかリーマン・ショックの再来は食い止められる見通しとなり、金融市場も安定し始めた矢先、今度は、同じく欧州連合加盟国ではあるものの、ユーロ圏ではないハンガリーの財政危機が表面化し、再び金融危機の恐れが浮かび上がってきた。さらには、ポルトガルやスペインも、同様の財政事情とみられており、米国や英国を含む、多くの経済先進国の財政が破綻寸前というのが現状だといっても過言ではないであろう。

中でも最も深刻な状況にあるのが日本である。日本国債の格付け引き下げに伴い、既発国債価格が下落し、金利が上昇する事態はいつ発生してもおかしくないのである。国内に金融資産が十分にあり、国内消化が可能で、国外に影響することはない、というのは、楽観的過ぎるであろう。新たに発足した菅内閣は、速やかに財政再建に本腰を入れると言明せざるを得ない事態に追い込まれている。

無駄な財政支出の削減と合わせ、消費税の増税(少なくても現状の5%から10%へ)は、できる限り早急に行われるべきであり、恐らくそうなるものと思われる。

1990年代に社会主義体制が崩壊し、市場主義経済が1人勝ちしているが、ほとんどの経済先進国(財政的に安定している北欧諸国を除く)が財政難に陥っている現状は、ポピュリズムの政治家と嫡流であるケインズ経済学の組み合わせに取って代わる、新しい政治経済理論の出現を求めているのかもしれない。

国際的な金融不安が生じると、すぐに大きく変動するのが豪ドルと豪州株式市場である。5月初めには92セント台であった対米ドル相場は、5月半ばには81セント台と、半月足らずに10%を超える下落となった。ほぼ同じ期間に、株式市場指数も10%近く落ち込むなど、為替市場と株式市場が同じような動きを見せているのが、最近の特徴である。各種の豪州市場も波高しの状況である。

大誤算の資源超過利得税

オーストラリア税制の抜本的改革を目指したヘンリー・レビューで提案され、5月の連邦予算案でも採用された資源超過利得税(Resource Super Profits Tax RSPT)については、国民の圧倒的支持を受けるものと期待していたラッド政権にとっては、逆に、国民からの冷淡な反応を受ける結果となり、政権の基盤を揺るがす事態となっている。これほど大きな政治的な誤算も珍しいであろう(記事=6月19日時点)。

資源超過利得税というのは、地下に眠る鉱物資源は、国民全体の共有財産であり、資源ブームの恩恵により、大きな利益を上げている資源企業から、超過的な利益の一部を回収し、今後必要とされる財政需要に振り向け、合わせて、財政の黒字化を図ろうとするもので、国民的共感を得られるはずのものであった。

ヘンリー・レビューで明らかにされた具体的内容は、次の通りである。

 

・鉱物やエネルギーの埋蔵のための調査開発費の30%を連邦政府は企業に還元する。
・生産高に応じて、鉱業会社は、州政府に採掘使用料を支払う。
・採掘費と資本投資額を控除した利得に資源超過利得税(税率40%)を課税する。
・税収の使途は次のようにする。
 −3分の1は、WA州やQLD州のインフラ整備に充てる。
 −州政府に支払った採掘使用料は、連邦政府が補償する。
 −残りは、一般財源の黒字化に充てる。

※なお、資源超過利得税は、既に課税されている石油資源地代税(Petroleum Resource Rent Tax PRRT)(沖合石油掘削事業のみを対象)をモデルとしたものである。

これを受けて、スワン連邦財務相は予算演説の中で、2012年7月から資源超過利得税を導入することを明らかにし、税収の一部は、法人税率の引き下げに向けることも明言した(2013/14年度から。中小法人については1年前倒しで適用)。

つまり、この時点で明らかになったのは、2012/13年度から税率40%の資源超過利得税が導入され、その税収は、インフラ整備や法人税率の引き下げなどに使われるということだけで、対象となる具体的な超過利得の計算方法などは決まっていなかった。

これに対する鉱業会社やその団体の反対キャンペーンは、迅速かつ大規模なものであった。連日のように、新聞の一面全面広告やテレビ広告を繰り返し、資源超過利得税の豪州経済に与える影響や連邦政府の不適正は取り組み方を訴えた。広告主は全豪鉱業協議会(Minerals Council of Australia)や、BHPビリトン社やリオ・ティント社であった。このキャンペーンには既に1億ドルが投入されているとされている。

キャンペーンでは、あからさまな反税広告ではなく、次のような点を強調した所に特徴がある。

 

・資源産業は豪州経済の屋台骨であり、景気回復の原動力になっていること
・資源企業は既に応分の税負担をしており、これ以上の負担では世界で飛び抜けた税率となり、国際競争力を弱め、豪州経済に致命傷を与えかねないこと
・オーストラリアは、安定した国際的な投資先としての定評を得ており、今回の導入により、それが大きく損なわれること
・したがって海外からの投資も減り、株価やスーパーにも悪影響が及ぶこと
・資源超過利得税については、業界に対して事前に何の相談もなく、連邦政府が一方的に決めたこと

特に資源企業が問題にしたのは、資源超過利得税が既存の開発事業にも適用されることであり、これは、競技途中でルールを変えるものだとした。つまり、単に業界だけが反対しているのではなく、国民経済全体に影響があるということと、手続き的にも理不尽であることを前面に出したのである。

連邦政府側も、次のような新聞の全面広告で対抗しようとした。

 

・企業利益に対する採掘使用料などの政府収入の割合は、資源ブーム前に比べ半分以下に落ちており、資源超過利得税はこれを回復するに過ぎないこと
・税収入はインフラ整備に使われ、将来の豪州経済に大きなプラスとなること
・資源超過利得税の対象外である再生可能エネルギーの開発を促進すること

しかし、予算上の制約や政府キャンペーンに関する制限もあり、内容的にも物理的にも、業界のキャンペーンに比べ全くの劣勢であった。

追い討ちを掛けるように、業界が強調したのは、石油資源地代税導入時との次のような違いであった。

 

・当時の労働党政権は事前に業界と十分協議し、その結果、内容も変更されたこと
・新たな事業計画のみに適用され、結果が事前に予見できるものであったこと
・税導入後も、石油業界は十分な国際競争力がある、とみられたこと

そして、資源業界は次のような点を提案している。

・税の内容について業界と十分に協議すること
・国際競争力が異なるので、鉱物別の税率を導入すること
・新たな事業のみに適用すること

このような事態を受けたラッド連邦首相(当時)は、パースやブリスベンに出向き、資源企業の経営者などと協議したが、合意はできなかった。

しかし、効果的な業界キャンペーンの結果、国民世論は資源超過利得税に懐疑的になっており、各種世論調査でも労働党政権の支持率が下落し、野党連合を下回るようになり、ラッド首相交代論も出てきている。しかし、ラッド首相やスワン財務相は、税率などについては方針を転換する姿勢を見せていないので、どこかに妥協点を見つけるほかなさそうである。そうとすれば、先の業界提案(鉱物別税率や新規事業のみに適用など)を受け入れざるを得ないとみられる。

今回の政治的教訓は、どんなに優れた提案でも、国民世論を味方につけない限り、実現は難しいということや、税率40%という数字が1人歩きしたことであろう。

逆転をもたらすか州予算案

教育、医療保健や道路・交通の社会的インフラ施設などを担当する州政府の予算案は、市民生活にとって重要なだけでなく、経済全体にとっても大きな意味を持っている。

支持率が大きく低下し、また、不祥事による大臣の辞職が相次いでいるNSW州労働党政権にとって、起死回生の一打となるか注目されていた、2010/11年度の予算案が6月8日に発表された。ここでも注目されたのは、財政赤字からの転換の可否と黒字額の大きさであった。

予算案の基礎となる2009/10年度決算見込みでは、昨年時の9億ドルの赤字見込みから1億ドルの黒字への転換に成功し、今後4年間も黒字を維持できる見込みとなった。黒字転換の大きな要因となった、不動産建築や取引に伴う印紙税(Stamp Duty)の恩恵を認識して、今回の予算案では、印紙税を減税することにより、住宅建築を促し、雇用や、経済全体を持ち上げるというのが基本方針となった。

具体的には、60万ドルまでの新築住宅を完成前に購入する場合(Off-the-plan)や、65歳を超えた人が既存の住宅の代わりに住宅を新築する場合(Down-size)には、印紙税を免除する制度を導入することとした(最高2万2,490ドルの減税)。また、土地開発業者に対するインフラ負担金を最高2万ドルとする制度も導入される。

これら一連の税改正の背景には、不動産の開発、新築を州経済発展の柱とする政策が採用されたことがある。

しかしこの予算案では、強力な決め手を欠いており、各種世論調査を見ても、労働党の劣勢は明らかで、次の州総選挙での政権交代は必至とみられる。

このほかの経済的ニュースとしては、求人広告の件数が減少しており、労働市場の先行きに懸念が生じていることや、全国の最低賃金を決定する委員会Fair Work Australia による初めての決定が出され、週給が26ドルの上昇で570ドルとなり、予想外の大きな賃上げとなったことなどが大きな話題となった。

主な経済指標の動き(2010年4月)
All Ords $US / $A TWI \/$A 日経ダウ Topix
先月末 4833.9 93.00 72.5 87.49 11057.40 987.04
月 末 4453.6 84.90 67.5 77.71 9768.70 880.46
最 高 4807.1 92.50 72.2 87.42 10695.69 956.72
最 低 4286.3 81.78 65.4 73.39 9459.89 859.00

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