【政局展望】「再生可能エネルギー源利用目標値」の変更

政局展望

 

「再生可能エネルギー源利用目標値」の変更

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

地球温暖化対策の一環である「再生可能エネルギー源利用目標値」が、超党派的な合意、すなわち保守連合政府と野党労働党の合意を得て、大幅に下方修正されることとなった。

「再生可能エネルギー源利用目標値」とは何か

「再生可能エネルギー源利用目標値」(RET:Renewable Energy Target)とは、クリーン・エネルギー源の活用促進のために、ハワード保守連合政府が2001年4月より施行した、「再生可能エネルギー法」の中に盛り込まれたものである。ちなみに再生可能でクリーンな発電源とは、100万ワット時の発電に際して、発生する温室効果ガス量が200キログラム未満のものとされる。同法は各電力企業などに対して、再生可能エネルギー源による電力の活用、増加を義務付けるものだが、増加させることを望まない、あるいはそれが困難な電力企業などは、「再生可能エネルギー証券」(Renewable Energy Certificates)なる証券を市場で購入することによって(注:1証券が百万ワット時に相当)、罰則を回避することができた。ただ当時期待されていた、国内総発電量に占める再生可能エネルギー源発電量の比率はわずかに2%程度と、極めて微々たるものであった。

また、07年9月にハワード政府は、地球温暖化対策の一環としての電力政策を公表し、その中で、「20年までに、年間当たり3万ギガワット時の電力を(注:当時における20年時点での発電予測量の15~20%に相当)、温室効果ガス排出量の少ない発電源から確保する」ことを義務付けている。同施策には、石炭燃焼あるいはガス燃焼のクリーン化技術(燃焼時に発生する炭酸ガスを集め、液化した上で地下深くに貯蔵するとの方式:CCS)も、政府目標値達成のための手段として含まれていたが、温暖化問題には消極的とされたハワード保守政府も、末期には、再生可能エネルギー源の活用策でも相当に思い切った政策を提示していたのである。実は、温室効果ガス排出権取引き制度(ETS)の導入政策も、末期ハワード政府の公約の1つであった。


大幅に下方修正されることになった「再生可能エネルギー源利用目標値」

一方、07年選挙でラッド労働党政権が誕生すると、地球温暖化対策は政府にとって最優先、中核的な施策となり、労働党政府は、08年12月に気候変動白書を公表し、翌年の8月には、再生可能エネルギー源利用促進法案、すなわち20年までに、豪州の発電量の20%を大規模な風力、太陽光といった、再生可能エネルギー源から確保するとの政府法案を、ターンブル率いる野党保守連合の支持を得て成立させている。同法案の成立以降、つい最近に至るまで、RET政策は超党派的なものであった。ところでRETは、通常は発電量の20%などと形容されてきたが、実際の目標値は、あくまで電力の絶対量の4万1,000ギガワット時である(注:これに小規模な太陽エネルギー発電からの目標値が4,000ギガワット時と、合計では4万5,000ギガワット時となる)。ところが、豪州では電力需要は今後低迷するものと予測されている。その結果、20年時点で、現在の絶対目標値を達成すれば、実際の再生可能エネルギー源発電の利用率は、20%どころか、27%程度に達するものと見られている。

与野党の思惑

そのため13年9月に誕生した保守連合政府、しかも首相のアボットばかりかマクファーレン産業大臣も、これまでの超党派的姿勢を改めて、RETの見直し、具体的には、目標値の下方修正や、達成年の繰り延べなどを目論んできたという経緯がある。その背景には、第1に、地球温暖化問題、とりわけ、それが主として人為的な要因によるものという点に関し、アボットはかつて公然とした懐疑派で、また現在でも「隠れ懐疑派」であること、第2に、アボット政府が、RETを国内産業競争力の重大な阻害要因、ひいては経済成長の重大な阻害要因とみなしていること、第3に、国内製造業の将来に暗雲が漂い、政府は対応策を迫られているが、政府は製造コストに直結する電気料金の問題を、対応策の中核に位置付けていること、第4に、野党労働党への攻撃、労働党との「差別化」のため、そして第5点としては、連立する国民党に対する自由党側の懐柔(注:依然として地方では温暖化対策への抵抗が強く、それを背景にして、地方を支持基盤とする国民党も、RETなどの温暖化対策には反対)、などの事情、動機がある。

ただ、これまでRETの緩和には強く反対していた野党労働党も、昨年の後半辺りからRET問題では軟化し、政府とのRET変更交渉にも前向きとなっていた。その背景には、上述したアボット政府の攻撃が奏功したことが挙げられるが、やはり最大の理由は、「温室効果ガス集約型かつ貿易関連産業」(EITE)の典型的業種である国内のアルミニウム産業を、RETの適用対象から除外すべきとの主張が、産業界ばかりか、関連労働組合である豪州労働者組合(AWU)からも強まっていたからだ。

AWUと言えば、労働党に相当な影響力を持つ右派系の大労組で、しかもショーテン労働党党首の古巣でもあることから(注:ショーテンはAWUトップの全国書記長を経て、07年選挙で連邦政界入り)、AWUの強い押しが、労働党に一定の影響を与えたものと思われる。さらに言えば、AWUの介入もあって、労働党の伝統的支持層であるブルー・カラー層の重要さ、そういった層が多く働くEITE産業の政治的重要性を、労働党が改めて認識した結果でもあった。他方で、RET変更を強く望む保守政府の方にも、実のところ労働党の協力が不可欠との事情があった。

というのも、取り分け風力発電の拡大に熱心なグリーンズは、当然のことながらRETの下方修正には強く反対しており、しかも、グリーンズと労働党がともに反対する状況下では「バランス・オブ・パワー」を握っていたパーマー連合党(PUP)も、16年と予想されている次期連邦選挙の前にRETを変更することには反対していたからだ。要するに、RET変更のための政府改正法案を成立させるためには、野党労働党の支持が必須であったのだ(注:ただし、当初3人いたPUP上院議員も現在はわずか1人となり、影響力は一挙に低下している)。

与野党交渉の決裂

こうして、昨年10月に与野党のRET変更交渉がスタートしたのだが、それからわずか3週間ほどが経過した時点で、労働党のバトラー、影の環境大臣が政府との交渉を中止する旨を公表し、交渉は早々と頓挫している。その理由としてバトラーは、政府との3回の交渉を経ても、目標値の削減問題で政府が歩み寄りの姿勢を全く示さないことから、交渉をしても無意味である点を指摘していた。ちなみに、政府のマクファーレン産業大臣およびハント環境相は、野党とのRET政策変更交渉に先立ち、保守政府の変更案の「叩き台」を提示している。

政府案の骨子は、①RETの目標値を「真の20%」に変更する、すなわち、現行の利用目標量を一挙に40%削減して、2万7,000ギガワット時とする、②小規模な太陽光利用スキームは現行のまま存続、③「温室効果ガス集約型かつ貿易関連産業」(EITE)のRETスキームからの適用除外、④電力需要予測が上昇した場合は、上昇分の半分については再生可能エネルギー源から確保する、そして⑤RET政策の隔年レビューの廃止、などとなっていた。この叩き台を下に与野党の交渉がスタートしたわけだが、何と言っても労働党としては、最重要な①でこれほどの削減に同意することなど、政治的にも全く不可能であったのだ。

交渉の妥結と変更政策の内容

ただ、いったんは交渉の席から立った労働党も、結局は政府との交渉に戻り、そして与野党は今年の5月になると、RET政策の変更に関し両者が原則合意に達したことを明らかにしている。合意の主要骨子は、(1)RETの現行目標値、すなわち20年までに4万1,000ギガワット時という、大規模な再生可能エネルギー源発電からの利用目標量を、3万3,000ギガワット時に下方修正する、(2)ただし、小規模な太陽光利用スキームは現行のままで存続させる、(3)アルミニウム産業はもちろんのこと、国内のすべての「温室効果ガス集約型かつ貿易関連産業」(EITE)をRETスキームの適用対象から除外する、そして(4)隔年で実施されてきたRET政策のレビューを今後も継続する、などであった。

ただアボット政府は突然、原生林伐採時に発生する廃材などを燃料として発電されたものも、再生可能エネルギー源の電力として扱うべき、との新提案を行っている。野党労働党はこれに強く反対し、同問題については継続交渉案件となったが、最終的には政府案が採用されている。最重要な(1)だが、当初の政府案、すなわち40%のカットなど、政府も大きく「吹っかけた」だけに過ぎず、おそらく政府は、労働党との交渉における「落としどころ」を、3万1,000ギガワット時程度に据えているものと予想されていた。炭素税などとは異なり、RETについては国民の多くが支持していることから、保守政府としても、大幅な変更を主張することは政治的に危険であったからだ。

実際に、政府の「最終オファー」は3万2,000ギガワット時で、一方、これまで3万3,500ギガワット時を主張していた労働党も、結局、3大経営者団体(注:豪州ビジネス・カウンシルBCA、豪州商工会議所ACCI、豪州産業グループAIG)が提言する目標値、すなわち、3万3,000ギガワット時まで歩み寄ったことから、政府もこれに同意した次第である。なお、このRET絶対値を比率でみると、総発電量の23.5%となる。

さて興味深いのは、RETのレビューに関する政府の姿勢である。上述したように、隔年で実施しているレビューについては、政府の叩き台案では廃止するとなっていた。その背景には、政府としても、再生可能エネルギー産業への投資が停滞する、ひいては対豪州外国投資が阻害されることは避けたいとの事情があった。それを回避するためには、投資家が最も嫌うことを避ける、すなわち、同産業を巡る政府の政策が不透明であることを払拭することが、換言すれば、長期にわたって政策に一貫性がある、少なくとも一貫性があるとのパーセプションが醸成されることが重要、というのが政府の考えであった。そして政策の一貫性を保証するのが、政権を担当する二大政党が、RETの変更に関して「超党派的」に合意することであり、また、レビューの内容によっては政策変更の可能性があると見られかねない、上記⑤の隔年レビューを廃棄するとの策であった。ところが上記(4)にあるように、今回の原則合意では隔年レビューを存続させるとしている。おそらく政府は、今回妥協し過ぎたとの思いを抱いており、そのため投資家への影響よりも、将来再度下方修正する道を残すことを優先したのかもしれない。

最後に、政府が突然取り上げた廃材などの問題だが、これは第1に、上院の「その他」議員対策であったと言えよう。政府の主張は森林、木材、パルプ産業を利するものだが、TASでは同産業が重要産業で、したがって同州選出上院議員で、前パーマー連合党(PUP)のラムビー、また伐採労働者であった自動車愛好家党上院議員のミューアも支持するものであったからだ。今年5月の時点では、労働党とのRET交渉が最終的に妥結したわけではなかったことから、「保険」の意味合いもあったし、またRET問題で与野党が妥結した場合でも、一部の「その他」議員に恩を売ることになるからだ(注:附言すれば、RETに対して最も批判的な「その他」議員は、家族優先党のデイと自由民主党のレオンヘルムの2人で、両者ともにRETの変更どころか、廃棄を主張している)。なお、物議を醸す廃材などの問題については、RETの変更法案には含めない可能性もあるとされた。第2に、労働党の分裂を狙ったものでもある。というのも、TAS労働党は再生可能エネルギー源に含めることを支持しており、ショーテン連邦労働党の拒否の姿勢に反撥し、政府案を受け入れるように迫っていたからだ。

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