強力労働組合の合併計画

政局展望

強力労働組合の合併計画

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

豪州で最も好戦的とされる左派系の2大労働組合、すなわち、建設・森林・鉱業・エネルギー組合(CFMEU)と豪州海運組合(MUA)、両労組の合併交渉が佳境に入ったことを明らかにしている。とりあえず合併案は来年2月のMUA全国大会で投票に付され、また最終的には連邦の労使機関である公正労働委員会(FWC)の認可も必要となるが、仮に合併が実現した場合は、労組員10万人を擁する、雇用者側にとって極めて強力な対抗相手が誕生することとなる。

合併計画の背景:CFMEUとヘイドン司法調査委員会

アボット保守連合政府が発足させた強力なヘイドン司法調査委員会は、既に大労組の数々の醜聞や違法行為を明らかにしつつあるが、そもそも同委員会は、5つの労働組合を主要対象に、労組の運営ぶり、財政状況、違法行為の有無、労組幹部の行状などを調査するために設置されたものである。そして主要対象5労組の中でも重要視されたのが、ショーテン野党労働党党首がかつて全国書記長を務めていた豪州労働者組合(AWU)と、現在9万人の労組員を擁する建設・森林・鉱業・エネルギー組合(CFMEU)、とりわけCFMEUの内のC、すなわち建設部門労組であった。建設部門が保守政府の最大のターゲットである理由は、主として3つある。

第1に、内部告発者の存在などにより、建設労組、建設労組幹部の汚職問題や、建設部門にはびこる違法行為などが再度大きく注目されていること。保守連合としては、今こそが建設労組を叩く絶好の好機と見なしているのだ。ちなみに前首相のアボットは、CFMEU建設部門とは浅からぬ因縁があった。それは職場関係相時代のアボットが、05年に豪州建築・建設委員会(ABCC)なる、建設部門を監督する連邦労使機関を設置したことであった。当時のハワード保守連合政府は、港湾部門に続く労組叩きの第2のターゲットに、好戦的な労組に支配され、低生産性に悩む建設部門を据えていた。その背景には、建設労組の極めて高い組織率、建設業界にはびこる「遵法精神の欠如」、CFMEUによる違法争議行為、労組加入の強制、建設企業への恫喝と賄賂の要求、暴力行為などがあった。そこでアボットは、強大な権限を付与されたABCCを設置して、CFMEU建設労組の弱体化を目指したのである。

第2に、保守政府の労使政策、とりわけ第1次アボット政権の労使政策の中でも最重要であった、このABCCの再設置策を後押しするためである。アボットが設置したABCCは、実際にCFMEUの諸活動をかなりの程度抑え込み、その結果、建設部門の生産性を向上させることにも成功している。ところが、ギラード労働党政権時代に、ABCCは廃止されたという経緯がある。そのため保守政府としては、何とかABCCの復活を狙ってきたのだが、司法委員会で建設労組の「悪行」が次々と明らかになれば、再設置案に反対する労働党やグリーンズに圧力をかけられる。また、仮に労働党を翻意させることができないとしても、「悪しき労組を護る労働党」、「労組の走狗のショーテン」と、徹底的に労働党を攻撃することができる。

景気刺激策の一環としてインフラ整備に重点を置いていたアボット前首相
景気刺激策の一環としてインフラ整備に重点を置いていたアボット前首相

第3に、アボット時代の保守政府が、生産性全般の向上のため、また景気刺激策の一環として、さらには、製造業部門での大量失職を補うための雇用創出策として、インフラストラクチャーの整備を重視していたからだ(注:アボットは野党時代から、「インフラ首相と呼ばれたい」などと述べていた)。言うまでもなく、インフラ整備とは主として建設プロジェクトにほかならず、インフラ整備を効率的に進めるためにも、建設部門のクリーン化、効率化、生産性向上が必至となるのだ。いずれにせよ、既にヘイドン司法委員会では、CFMEUによる数多くの違法行為が白日の下に晒されつつあり、また過去の数多くの違法行為に対する制裁金の支払い、そして保守政府からの圧力などによって、さすがに強力なCFMEUも苦境に陥っており、とりわけ財政面で苦労をしているとされる。その背景には、空前の資源・エネルギー・ブームが終焉したことで、CFMEUの労組数がかなり減少したとの事情もある。また、CFMEUにとってより深刻な点として、ヘイドン委員会の調査結果に基づき、CFMEUの労組登録がキャンセルされる可能性までが取り沙汰されている。そこで、労組員数は比較的小規模ではあるものの、左派系で、しかも財政的に潤沢で、その気になれば国の経済に甚大な影響を行使できる豪州海運組合(MUA)との合併計画が、CFMEUの主導で進んだ次第である。CFMEUとしては、合併した後では労組登録の抹消も不可能になるものと期待しているのだ(注:ただし、これには異論もある)。

MUAと港湾大争議

一方、合併相手の豪州海運組合(MUA)だが、そもそも豪州の港湾部門は、石炭、建設、食肉加工部門とならび、96年3月に誕生したハワード保守連合政権が、労使改革の必要性を最も強く認識する部門であった。港湾部門が抱えていた問題点とは、同部門の生産性が低く、したがって港湾サービスのコストが高いというものであった。しかも港湾部門では争議件数の多さなどから、荷役スケジュールが狂うことも頻繁にあり、そのため豪州港湾部門の国際的信頼性は決して高いとは言い難かった。こういったことから、港湾部門の改革の必要性が以前より声高に叫ばれ、実はホーク労働党政権下でも改革の試みが為されたのだが、以前に比べて生産性の向上は見られたものの、大きく実効を上げたとは言い難かった。そして、改革の最大の阻害要因であったのは、国の経済活動に甚大な影響を及ぼし得るゆえに、強大な力を有するMUAの存在であった。

実際、ハワード保守政権の労使改革「第1波」、すなわち97年1月から施行された「96年職場関係法」で明確に禁止されたにもかかわらず、港湾部門ではMUA独占のクローズド・ショップ制が続き、そのもとでMUA所属港湾荷役労働者は、比較的短時間の労働で豪州人の平均年収の2倍以上を稼ぐなど、異常とも言える特権を享受していた。さらに、雇用者側にとってより重大な問題は、MUAが労務管理など、本来雇用者側が担当する領域にまで権限を有していたことであった。このような強力なMUAの存在によって、会社側あるいは政府の合理化の試みは、ことごとく骨抜きにされてきたのである。

さて、「職場法」が施行されると、この難関な港湾部門の改革の機運が高まり、いくつかの動きが見え始めてきたが、港湾改革推進のターニング・ポイントとなったのは、強力な農業ロビー団体である全国農業連盟(NFF)が、98年初頭に非MUA労働者を使った荷役会社を設立し、パトリック社(注:港湾部門はパトリックとP&Oの複占体制であった)と荷役労働供給契約を結んで、98年4月よりメルボルン港での操業を開始したことであった。しかも、パトリック社のコリガン社長は、それまで4つの子会社との間で締結していた、パトリックへの荷役労働供給契約を一方的に破棄して、4子会社を倒産させ、その結果、既に97年後半にパトリックから同子会社に所属を移しておいたMUA労働者を、事実上全員解雇するとの暴挙に出たのである。当然のことながら、MUAはこれに激怒し、98年9月に正式に労使間で改革内容の合意がなされるまで、とりわけメルボルン港では、MUAがピケットを張って会社側と対立し、これに対して、パトリック側は数多くの警備員を導入して対抗するなど、一時は相当な争乱状態にまで発展したのである。その結果、荷役業務は停滞・ストップし、一部ビジネスにも影響が出ることとなった。

また一方で、豪州労使関係委員会(AIRC)、連邦裁判所、最高裁判所、そして豪州競争促進・消費者保護委員会(ACCC)まで巻き込んだ、パトリック、MUA、連邦政府による、訴訟合戦も繰り広げられたのである。この港湾争議の結末は、パトリックの一斉解雇を巡る法廷上の争いでは、労組側が一応勝利したといって良い。すなわち、連邦裁判所と同様に最高裁においても、MUA労働者の一斉解雇は、労組員であることを理由に解雇したものであり、これは職場関係法の中でも認められた結社の自由に反する、とのMUA側の主張が認められ、パトリックはMUA労働者の再雇用を余儀なくされたのである。しかしながら、実質的には、会社側、および一貫してパトリック側を支援したハワード政府の勝利と言えた。その理由は、最高裁は解雇は不当との判断を示したものの、一方で、再雇用がビジネス上の観点から合理的、現実的であるか否かの判断を無視して、単に結社の自由の観点から再雇用を命じた連邦裁判所とは異なり、倒産子会社の管財人にビジネス上の裁量権を認めることにより、事実上、会社法下で規定されている管財人の債権者への責任を結社の自由に優先させたからだ。その意味するところは、管財人は採算性の観点から、必要であれば子会社を整理・清算することも、再雇用した人員を削減することも、あるいは非MUA労働者を雇用することも可能ということであった。こうして、画期的とも言える港湾荷役部門の改革が達成されたのである。98年の港湾大争議は、同部門における生産性の著しい改善をもたらし、また強力なMUAの影響力をかなり削ぐものでもあった。ただし、依然としてMUAは1万人程度の労組員を擁し、また引き続き財政的基盤も強固な、強力かつ好戦的な大労組であり続けている。

合併の政治的意味合い

CFMEUとMUAの合併は、合併労組による争議行為のインパクトを大きく強めるもので(注:争議行為は企業別協約の改訂交渉期間中であれば合法である)、したがって労組の労働条件交渉力を強化するものであるのは論を待たない。合併労組は、産業界、とりわけ資源業界などの雇用者にとっては、悪夢以外の何ものでもないと言えよう。また留意すべきは、両労組合併の政治的インパクトである。

まず、元々、票・資金・人材面で労組に強く依存する労働党へのインパクトである。実は豪州労働者組合(AWU)を筆頭として、政治あるいは労働党に強く関与する大労組や労組幹部が多い中、CFMEUは伝統的に政治や労働党とは一定の距離を置いてきたと言える。例えばCFMEUの場合は、ほかの労組に比べて同労組出身の労働党政治家の数は少ない。またAWUの前全国書記長であったハウズや(注:ハウズの前任の書記長であったショーテンとともに、「ラッド降ろしクーデター」の首謀者の一人でもあった。現在KPMGに勤務)、右派系の運輸労働者組合(TWU)のシェルドン全国書記長が、労働党の幹部会である労働党連邦執行部のメンバーであったのとは違って(注:シェルドンは労働党連邦副議長も務めた)、その「資格」は備えているにもかかわらず、CFMEU幹部は執行部メンバーとはなっていなかった。

ただ、それはCFMEUが政治的影響力を持たないことを意味するわけでは決してなく、CFMEUがその気にさえなれば、公認候補を選ぶ労働党の党内予備選挙や党内の人事、あるいは党の政策内容にも、相当な政治力を発揮し得る。それが如実に示されたのが、今年7月に開催された労働党全国党大会でのCFMEUの「活躍」であった。具体的には、ショーテンのために党内左派の抵抗を抑えて、同性愛者間の婚姻問題やボート・ピープル問題でショーテンの意向を通させたのは、他ならぬCFMEUであった。CFMEUがMUAと合併した場合の力の増強は当然のことで、合併労組は労働党に強い影響力を持つこととなる。ただし、これは労働党を「大衆政党」のステータスからますます引き離すものであるゆえに、政治的にはマイナスとなるものである。

付言すれば、11年よりCFMEUのトップの座にいる、すなわち全国書記長であるのは、マイケル・オコーナーという人物だが、オコーナーの実弟は、ギラード労働党政権の閣僚であったブレンダン・オコーナーである。ブレンダンはギラード元首相の親友であるが、実は兄のマイケルはかつてギラードとは恋仲であった。またCFMEUは、労使政策分野では労働党以上に労働者寄りとも言える、環境保護政党のグリーンズ党にも相当な政治献金を行ってきた。

グリーンズは現在、重要な連邦上院で10議員を擁していることから、CFMEUとグリーンズとの関係、そして予想される合併労組の労働党への影響力の拡大は、ターンブル保守政府の政策にも影響を与えるものである。さらに言えば、ラッド労働党が勝利した07年連邦選挙での反「ワークチョイス」(注:ハワード政府施行の労使政策)キャンペーンでもそうであったように、これまでCFMEUは、連邦選挙での反保守連合キャンペーンでは、財政的貢献の面でも、人的動員の面でも中核的役割を果たしてきた。保守連合側にとっては、合併労組の選挙キャンペーンでの影響力が強く懸念されるところであろう。合併問題の行方が注目されている。

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