次期連邦選挙

政局展望

次期連邦選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

4月18日夜、連邦上院で保守政府上程の豪州建築・建設委員会(ABCC)の再設置法案が採決に附されたが、野党労働党、グリーンズ党、そして「その他」上院議員の内の計4人が反対票を投じた結果、法案は再度否決されている。その結果、7月2日に両院解散選挙が実施されることがほぼ確実となった。

ターンブル首相の宣言と政府の労使関連法案

3月21日、ターンブル首相が記者会見を開き、次期連邦選挙の実施日や選挙形態にも関連する重大発表を行っている。その内容は、①秋季休会中の4月18日(月)に臨時議会を召集する、②臨時議会召集の目的は、保守政府の労使関連2法案、具体的には、豪州建築・建設委員会(ABCC)の再設置法案、ならびに登録団体監督委員会(ROC)の設置法案の再審議、再採決を実施するため、③仮に法案が再度上院で否決された場合は、同法案を要件法案として7月2日(土)に両院解散選挙を実施する、そして④上記③のケースに備え、本予算法案を成立させるために、5月10日(火)に予定されていた来年度連邦予算案の公表日を5月3日に前倒しにする、などとなっていた。それまで政府が予算案公表の前倒しを行う可能性は取り沙汰されていたものの、臨時議会の召集については予想されていなかったため、ターンブル政府の決定は驚きをもって受け止められた。

上下両院の全議席を同時に改選する「両院同時解散選挙」が実施されることは、ほぼ確実となった。投票日は7月2日になる見通し。
上下両院の全議席を同時に改選する「両院同時解散選挙」が実施されることは、ほぼ確実となった。投票日は7月2日になる見通し。

このABCCとは、建設労組(注:左派系労組の建設・森林・鉱業・エネルギー組合CMMEUの建設部門)の横暴を防ぐため、コール司法調査委員会の提言を受けて、当時職場関係大臣であったアボットが設置した、建設業界の「お目付け役」である。強力な監督機関であるABCCのおかげで、その後建設部門の争議行為、労組専従員の違法行為も減少し、同部門の生産性も大いに向上した。

ところが2007年に誕生した労働党政権は、ABCCの役割、権限を低下させた上で、その所掌を新設した労使機関の豪州公正労働局(FWA)(注:現在のFWC)に移管し、12年にはABCCを廃止している。アボット/ターンブル保守政府にとって、ABCC再設置策は保守政権第1期目の労使政策の中核、「目玉」と言えるものである。しかも保守政府は、ABCCの再設置ばかりか、その所掌にオフショアの資源・エネルギー・プロジェクト建設も含めるばかりか、依然として強力で好戦的な左派系の豪州海運組合(MUA)や、右派系の運輸労働者組合(TWU)の監督までをも加えている。

このように、再設置されるABCCは、実はオリジナル版のABCCよりも強力なものである。またターンブル政府は、次期連邦選挙では労使問題を中核争点化する計画である。その背景には、CFMEUをはじめとする、好戦的な大労組の悪行を暴いたヘイドン司法調査委員会の報告書のおかげで、労組や労組幹部を攻撃する材料には事欠かないし、また労組へのダメージを通じて、労組とは「一蓮托生」の労働党、そして、かつては大労組豪州労働者組合(AWU)のトップであった、野党労働党リーダーのショーテンにダメージを与えることも可能になるとの事情がある。ABCCおよびROC法案ともに、労組や労組幹部をターゲットとしたものであり、保守政府の政治目的にも大いに適うものである。

さて18日に召集された臨時議会だが、政府は必要であれば、向こう数週間にわたり2法案の審議を行う予定であった。ところが、政府にとっての最重要法案であったABCC再設置法案は、18日には早々に採決に附され否決されている。そのため、臨時議会は19日には終了したが、ターンブル首相は議場で、3月21日の宣言通りに、7月2日に両院解散選挙を実施することを確認している。ただし、政府が単独で重要な決定を行うことが不可能となる、「管理政権モード」に入ることをできるだけ遅らすために、政府は両院の解散や正式な選挙コールについては、5月の初旬に実施する見込みである。

両院解散選挙の概要

両院解散選挙とは、特定法案を巡って上院が膠着状態に陥った場合に、それを打開するために政府が用いる最終手段である。歴史的にはまれなもので、両院解散選挙が実施されたのは、1901年の連邦結成以降でもわずかに6回のみで、最後に実施されたのは、ホーク労働党政権下の87年選挙であった。特殊な同選挙方式が整備された背景には、豪州の両院選挙制度の相違により、「(広義の)両院のネジレ現象」が頻繁に現出するとの事情があった。

同選挙実施の基本的要件としては、一定期間を置いて、下院通過法案が上院で再度否決された場合などが挙げられる。要件が整い、しかも政府が特定法案を是が非でも成立させたい場合には、政府は当該法案を要件法案にして(注:これを「トリガー」法案と呼称)、両院解散選挙を選択することが可能である。政府にとり同選挙を選択するメリットとは、もちろん、政府が下院で再勝利することを前提にした上だが、トリガー法案が最終的には選挙後の両院議員総会において採決に附されることだ。仮に選挙後に両院のねじれが継続したとしても、両院議員総会であれば与党が過半数を占めると予想されるので、政府重要法案も成立することが期待できる。なおトリガー法案には制限は無い。政府としては成立が困難な複数の重要法案を、まとめて選挙後の両院議員総会で成立させることも期待できる。

両院解散選挙実施の他の目的

以上のように、ターンブル政府の両院解散選挙選択の動機は、重要な経済改革政策とも関連付けられるABCCの再設置にあるが、実は他にも重要な動機、目的、おそらくは労使法案の成立よりも重要な目的が存在している。それは、両院解散選挙を通じて、これまで政府の活動を妨害し続けてきた、「その他」議員をほぼ一掃することである。両院解散選挙の場合、「その他」議員への影響は極めて苛酷なものとなる。というのも、通常の上院半数改選選挙とは異なり、両院解散選挙の場合の落選は、「即時落選」を意味するからだ。すなわち、上院半数改選選挙のケースでは、当選した各州選出の上院議員の任期がスタートするのは常に翌7月1日からで、逆に落選した現職議員も、翌6月30日までは上院議員を続けることとなる(注:半数改選選挙のコールは任期満了1年以内に実施されることから、落選上院議員がその後1年近くにわたり議員を続けるケースもある)。

例えば、13年9月7日の前回上院半数改選選挙で当選した候補者が、実際に上院議員に就任したのは14年の7月1日で(注:ACTとNT選出上院議員の場合は事情が異なる)、逆に落選した議員も14年6月30日までは上院議員であった。ところが、ターンブル政府が今年の7月2日に両院解散選挙を実施した場合は、新上院の任期起算日は選挙に先立つ7月1日、すなわち、選挙前日となり、落選上院議員は即座に「一般人」に戻ることとなる。これに対して、次期選挙が両院解散選挙ではなく、通常の半数改選選挙となった場合、選挙の実施日は最も早くて今年の8月6日となるが、そもそも次期半数改選選挙の対象者は、「その他」8上院議員の内のマディガン1人だけに過ぎない。

要するに、全員が改選対象となる両院解散選挙でなければ、他の7人については、14年7月1日から20年6月30日という、現在の上院議員としての任期が、換言すれば、残り4年間もの華やかな上院議員の生活が約束されるのだ。附言すれば、その可能性は低いものの、仮にゼノフォンを除く「その他」の一部が両院解散選挙で当選したとしても、州定数12人の内の上位当選者6人に入る可能性は無い。ところが上院全数改選の場合は、通常の6年の上院議員任期となるのは、上位6位までの当選者で、一方、下位6人については任期は3年だけ、具体的には、今年の7月1日から19年の6月30日までとなり、通常の半数改選選挙よりも1年短いこととなる。

ただし、「その他」議員を一掃するとの政府の目的に関して言えば、実は両院解散選挙の選択は一種の賭けであった。その理由は、上院の全数が改選される両院解散選挙の場合には、通常の半数改選選挙に比べて「当選基数」、すなわち当選に必要な最低得票数がほぼ半減するからだ(注:半数改選の場合は総有効票の14.3%なのが、全数改選では7.7%にまで低下する)。少なくとも理論的には、選挙後の上院で小政党議員や無所属議員が逆に増加する可能性があり、したがって選挙後の与党の上院運営が一層困難になる危険性があるのだ。ただ他方で、両院解散選挙といった「異常」な選挙、そして「ホット」な政治イシューを前面に掲げた両院解散選挙では、国内世論は大きく2極分化することが予想される。その結果、票の多くが2大政党へと流れる、しかも政府の方に流れると、少なくとも首相が判断する可能性もある。

例えば、アボット保守政府が「その他」議員の支持を得て成立させた炭素税廃棄法案は、炭素税がギラード労働党政府の重大な選挙公約違反で、しかも電気料金の上昇につながるなど、国民生活にも負の影響を与えるものであったことから、両院解散選挙のトリガー法案には最適なものであった。これに対して、今回のABCC法案への一般国民の関心はかなり薄く、国民へのインパクトも低いと言える。そうなると「理論」が勝ることとなり、選挙後の上院情勢が一層悪化する事態ともなる。ところがこの「理論」への懸念、すなわち両院解散選挙を選択した場合の泡沫候補や小政党の台頭の懸念も、後述する上院の投票制度改革が実現したことによって、一挙に払拭されることとなったのである。

上院投票制度の改革

上院選挙では各政党あるいはグループが、事前に自党候補者の優先順位を決定しており(注:これを「上院チケット順位」と称す)、選挙では各党の総得票数に応じて、このチケット順位の上位の者から当選していく。下院と同じく上院の投票でも、投票用紙に記載された出馬候補者全員に優先順位をふることが要求されるが、ただ上院の候補者数は相当な数に上ることから、代わりに「ラインの上」に記載された政党名のうち、支持政党に「1」を記すことによって、当該政党が決定した全候補者の優先順位をそのまま受け入れることもできる。上院選挙でも、一般有権者の関心は支持政党だけであるし、この投票方式の方がはるかに楽であることから、支持政党任せの簡易投票法を採用する有権者がほとんどである。

さて州全体を1選挙区とする「移譲式比例代表制」で、また「優先順位付き連記投票制」を採用する上院選挙では、「自票」と見なせる票はごくわずかに過ぎない泡沫候補が、泡沫政党間の選好票交換ディールに基づく複雑な選好票の積み上げプロセスを経て、大政党の「上院チケット順位」の下位の候補やグリーンズ候補らを押しのけ、当選を果たすケースが発生する。実際に現行上院には計8人もの「その他」議員がいる。こういった事態に直面し、2大政党やグリーンズといった既成政党は危機感を抱き、泡沫候補を排除すべく、上院選挙/投票制度の改革をもくろんできた。その動きは、「その他」議員の即時一掃を優先したターンブル政府の登場で加速化し、実際に政府は上院投票制度の改革法案を議会に上程し、今年の3月になると、グリーンズ党、そして「その他」議員の1人であるゼノフォンの支持を受けて(注:野党労働党内では意見が分かれていたが、結局野党は反対に回っている)、法案を可決、成立させることに成功している。

最大の変更点は、「ラインの上」投票に関して「選択式優先順位投票制度」を採用するというもので、同制度の下では、有権者は「ラインの上」に記載された各政党もしくはグループに、最低で1つ、最高で6つの選好順位を記すこととなる。改革法では、事前に全候補者に順位をつける「グループ(及び個人)投票チケット制度」が廃止されることから、各政党やグループが事前に決定しているのは、自政党/自グループの候補者の当選優先順位、すなわち「上院チケット順位」だけである。この方式によって、有権者は自身の選好票がいかに流れるかを明確に把握できるし、また流れの行き先を制限することも可能となる。

以上の改革によって、通常の上院半数改選選挙であれ、あるいは特殊な両院解散選挙であれ、今後泡沫候補や小政党候補の当選が困難となるのは間違いない。とりわけ重要なのは、当選基数がほぼ半分程度となるために、理論上は泡沫候補や小政党候補にも有利となる両院解散選挙であっても、改革後は同候補の当選はやはり困難となることであろう。この上院投票制度改革が、「その他」議員を即座に一掃したい保守政府による両院解散選挙の選択を可能にしたのである。

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