与野党の組閣/影の組閣

政局展望

与野党の組閣/影の組閣

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

7月18日、自由党のターンブル首相が第2次保守連合政権の組閣内容を公表している。そして翌19日には、キャンベラのコスグローブ連邦総督公邸において、政務次官を含む全フロント・ベンチャーの認証式が執り行われ、正式に第2次ターンブル保守連合政権が発足した。一方、2016年選挙で善戦し意気の上がる野党労働党も、22日に連邦労働党両院議員総会「コーカス」を開催している。同総会では影の閣僚の候補者が選ばれたが、これを基にショーテン野党党首は翌23日に、野党影の組閣の内容を公表している。

ターンブル第2次保守連合政権の組閣

今回の具体的な組閣内容、というよりも改造内容は、①パイン産業・イノベーション・科学大臣が(下院リーダー)、ペイン国防相の担当していた国防調達関連の所掌を担当する、新設の国防産業相に就任、②パインの後任の産業・イノベーション・科学相にはハント環境相が就任、③フライデンバーグ資源・エネルギー相が、環境・エネルギー相へと異動、④閣外のカナバン北部担当相が資源・北部担当相として閣内入り、⑤オドワイアー財務副大臣兼小ビジネス相が小ビジネスの所掌を失い、また閣僚名称が歳入・金融サービス相へと変更に、⑥小ビジネスの所掌を、初入閣した閣外のマコーマックが担当、⑦ナッシュ地方開発・地方通信・地方保健相(国民党副党首)が地方保健の所掌を失った一方で、地方政府及び特別地域の所掌を獲得、⑧上院の当選が危うかったコルベック環境・国際教育相が閣外閣僚ポストから更迭に、⑨チョーボ貿易・投資相に観光の所掌が追加に、⑩ダットン移民・国境保全相が国家安全保障閣僚委員会のメンバーに復帰、⑪閣外のライアン職業訓練・技能相が特別国務相に異動、⑫閣外のフレッチャー特別地域・地方政府・主要プロジェクト相が都市インフラ相に異動、そして⑬閣外のティーアン退役軍人・国防人事相にサイバー・セキュリティーの所掌が追加に、などとなっている。

ターンブル第2次政権の組閣では、閣僚総数は30人のままであるものの、閣内閣僚数はさらに1増加して23人となり、その分閣外閣僚数は1減少してわずか7人となっている。現行の閣内閣僚数は、実に1975年以降で最大の規模で、また96年3月に誕生したハワード保守連合政権に比べて25%も大きなものとなっている。さて自由党では、組閣あるいは影の組閣の際、誰を、どこに据えるかは党首の専権事項である。ただし、自由党は国民党と連立関係を結んでいることから、ターンブルはジョイス国民党党首(兼副首相)と相談しつつ、また国民党内の人事についてはジョイスにほぼ一任した上で、全閣僚人事を決定している。

ターンブル組閣の特徴としては、まず持続性、継続性の重視が挙げられよう。実は今次組閣の内容については、それが予想以上に大規模なものであったとの見方と、予想以上に制限されたものであったとの相反する見方があった。ただ、やはり後者の方が正解である。確かに変更内容、項目自体は数が多いものの、それらの変更が必ずしも大きな意味合いや、インパクトを持つものではないからだ。ターンブル第2次組閣がアボット第1次組閣と同様に、基本的に持続性を重視したものとなった背景には、何よりもターンブル第1次組閣の実施が昨年の9月に過ぎず、また、それからわずか5カ月後の今年の2月には、早々と改造が実施されたとの事実があった。しかも、ターンブル第1次組閣ばかりか、2月の改造も、それなりの規模の変更であった。そのため、今回の第2次組閣での変更が、比較的小規模なものであったのも当然と言えよう。

さらに言えば、今次選挙が予想以上の接戦であったことから、ターンブルのリーダーとしての権威が、相当程度失墜してしまったことも大きい。とりわけ自由党内の右派、旧アボット陣営からの批判が強まっている中、仮に選挙で楽勝していた場合には実施されていたであろう保守派閣僚の更迭や、穏健派の一層の登用などは、ターンブルとしてもおよそ不可能であった。

今次組閣のもう1つの特徴は国民党の優遇である。周知の通り、今次選挙では自由党が苦戦を強いられた一方で、ジョイス国民党は善戦、健闘し、保守連合下院議員全体における国民党下院議員の占有率は上昇することとなった。その結果、国民党への閣僚割り当て数も増加することが確実視されていた。実際に、選挙前には閣内相4、閣外相1、政務次官が2、すなわち合計7であった国民党のフロント・ベンチャー数は、今次組閣では閣内5、閣外1、そして政務次官3と、合計で9にまで増加している。国民党の閣内閣僚が5となったのは、実に過去60年ぶりのことである。また国民党は、望んでいた小ビジネスの所掌ばかりか、重要な資源の所掌の獲得にも成功している。

言うまでも無く、豪州は資源輸出大国であり、つい先頃までの資源・エネルギー分野は、豪州経済全体の強力な「牽引役」であった重要部門である。そして資源開発・生産は通常地方部、僻地で実施されることから、地方経済の振興の観点からも極めて重要であるが、その地方は国民党の支持基盤である。要するに、資源部門は国民党にとっても担当したい所掌であったのだが、これまでは長らく自由党閣僚が担当してきた。ところが今回の組閣で国民党は、追加の閣内ポスト、しかも資源のポストを獲得したのである。

附言すれば、今次組閣における国民党の優遇も、上述したように、選挙における国民党の好成績によるもので、そして好成績は、今年の2月にトラスの後任の党首に就任したジョイスのパフォーマンスによるところが大であった。気が強くエキセントリックではあるもの、「餓鬼大将」が大きくなったようなジョイスには憎めないところがあり、また、その庶民性や率直さによって、ジョイスはとりわけ地方では極めて高い人気を誇っている。選挙での国民党の善戦も、ジョイスの党首就任によって、国民党の存在感、知名度が大きく上昇したためと考えられよう。以上のような実績により、保守連合内でのジョイスの影響力は、今後一層高まることが予想されている。また、元々「率直な」なジョイスの、しかもターンブルを単なる「ビジネス・パートナー」とみなすジョイスの、自由党への要求が強まることは必至と考えられ、ターンブルとしても、これまで以上に国民党への懐柔姿勢を採ることが不可欠との認識に達したものと思われる。

ショーテン野党労働党の影の組閣

労働党の政策・意思決定過程を考察する場合には、イデオロギーに基づく派閥の存在、党議拘束力の強い全国党大会、両院議員総会「コーカス」、そして労働党の「パトロン」である労働組合の影響力、といったさまざまな要因に留意する必要があり、これら多くの政治アクター間の相互作用、水面下での交渉、闘争により物事が決定される。このことは、連邦議会労働党党首の権限に一定の制限が課せられていることに他ならず、意思決定システムは党首を頂点とする明瞭なピラミッド型とはなっていない。

好例が、閣僚もしくは影の閣僚の選出である。上述したように、自由党の場合は、誰を、どこの所掌に据えるかは党首の専権事項だが、労働党では誰を選択するかは党首ではなく、コーカスでの投票によって決定される。こうして選出された閣僚もしくは影の閣僚候補に、党首がポートフォリオを割り振るのである。ただし、各議員はコーカスにおいて自由な意思で投票できるわけではなく、所属する派閥の決定に従って投票権を行使する。そして投票の前には指導部と派閥の実力者との間で根回しが完了しており、既に結論も出ているのが実情である。

なお、閣僚総数ばかりか、影の閣僚総数にも最大で30人という制限枠があるが、今次影の組閣でショーテンは、「派閥力学・闘争」のおかげで、これを32人にまで増加することを余儀なくされている。影の組閣の特筆すべき内容としては、①プリベセック影の外務・国際開発大臣(労働党副党首)が初等・中等教育、さらに高等教育も担当する「スーパー」影の閣僚となったこと、②ウォン影の貿易・投資相(労働党上院リーダー)がプリベセックの後任に、③ウォンの後任にクレアー影の通信相、④マールズ影の移民・国境保全相が影の国防相に異動、⑤マールズの後任にはニューマン、⑥コンロイ影の国防相(労働党上院副リーダー)は影の特別国務相に、⑦バーク影の予算相が影の環境相に、⑧バークの後任には初影の入閣組のチャーマーズが、⑨カー影の高等教育・研究・イノベーション・産業相兼影の科学担当党首補佐相がイノベーション・産業・科学および研究担当に、そして⑩アルバニーズ影のインフラストラクチャー・運輸相兼影の観光相、⑪ボーウェン影の財務相、⑫フィッツギボン影の農業相、⑬キング影の保健相、⑭マクリン影の家族・社会保障給付相兼影の身障者制度改革相、⑮オコーナー影の雇用・職場関係相が、それぞれ留任、などとなっている。

影の組閣が選出された野党労働党。同党が次期選挙で重要争点化を狙う教育分野をプリベセック氏が担当することが最大のハイライトとなった
影の組閣が選出された野党労働党。同党が次期選挙で重要争点化を狙う教育分野をプリベセック氏が担当することが最大のハイライトとなった

さて、これまでの影の閣僚30人の派閥別勢力分布は、最大派閥の右派が16議員、左派が13議員、そして中道左派・無所属派はリー議員ただ1人というものであった。一方、今回の影の組閣における派閥勢力分布は、右派所属議員への影の閣僚割当て数が15で、左派への割当て数は14、そして独立派がリーの1となるはずであった。ところが、ターンブルが閣内閣僚数を23にまで増加させたことを揶揄していたショーテンは、制限枠を超えた32まで影の閣僚数を増加させることを余儀なくされている。

その理由は、左派が14の閣僚枠の中に、VIC選出上院議員のカーを含めないとの決定を行ったからであった。このカーは産業相などの閣内相を務めた、VIC州左派の実力者、それどころか左派全体でも重鎮と見なされてきた大物である。その大物のカー降ろしの背景には、カーと双璧をなしてきた、あるいはカー以上の左派の大物であるNSW選出下院議員のアルバニーズの画策があった。この決定にカーは猛然と反発し、子飼いの3人の左派議員を引き連れて、新しい左派小グループを立ち上げるという行動に出ている。

一方、ショーテンとしては、カーには恩義があるし、また依然としてリーダーシップを虎視眈々と狙っているアルバニーズを牽制すべき、あるいは「保険をかける」べきとの考えも抱いている。そこでショーテンはカーの新グループを認知し、その代表としてのカーに、影の閣僚ポストを保持することを認めている。

最後に、今次影の組閣の最大のハイライトは上記①、すなわち、プリベセックが広範な教育の所掌を担当することであった。実はこれまでのショーテン影の内閣の問題点は、適材適所となっていない点、あるいは「才能の浪費」があったことで、その典型例が、プリベセック労働党副党首が外務を担当していたことであった。通常、2大政党の副党首は財務大臣、影の財務大臣に就任することが多い。その理由は、財務の所掌は首相、影の首相以外では最も「格」が高く、将来リーダーを目指す政治家にとっては、勉強、経験のためにもぜひとも就きたい所掌で、他方で、2大政党の副党首には担当所掌の選択権が与えられているからだ。

ところがショーテンの第1次影の組閣人事では、プリベセックの影の財務相就任を阻む止むを得ない事情があった。それは、13年の7月初めに財務相に就任したばかりのボーウェンが、下野して以降も引き続き財務の所掌を担当することを強く望んだことと、また右派の大物で、選挙後には党首代理まで務めていたボーウェンが、党首選挙には出馬せずに、同じく右派のショーテンに恩を売ったとの事情であった。一方、プリベセックにしても、左派のアルバニーズが党首であった場合には、副党首になる可能性は無かっただけに、ショーテンに対しては発言力が弱いとの事情もあった。またプリベセックにとって外務の所掌は、決して第1希望ではなかったものの、やはり「目立つ」所掌ではあるし、野党の立場であれば、必ずしも困難で多大の時間やエネルギーを要する所掌ではないことから、副党首として、党全体の戦略策定や、党の職務に努力を傾注できるとのメリットもあった。しかしながら、外交は票になり難いし、他方で、プリベセックは次期労働党党首の最右翼の1人と見なされてきた実力派である。しかも、コミュニケーション能力が極めて高く、国民の人気も高い。

要するに、プリベセックが国民生活に密着した所掌に就かなかったのは、労働党にとって明らかに「宝の持ち腐れ」であった。そのため、今回の影の組閣では、労働党が「得意」分野と自負し、次期選挙で重要争点化することを狙っている教育分野を、しかも通常は初等・中等教育と高等教育に分かれて担当する所掌を統合した上で、プリベセックに担当させた次第である。

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