北部準州(NT)に労働党政権が誕生

政局展望

北部準州(NT)に労働党政権が誕生

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

8月27日(土)に実施されたNT選挙は、予想通り、ジャイル率いる与党地方自由党(CLP)の歴史的惨敗に終わり、ガナー率いる労働党政権が誕生している。

NTの選挙制度と選挙帰趨

NTの人口は約25万人で、有権者数は12万人、有権者の4分の1程度は先住民であるアボリジニーとトレス諸島民となっている。選挙制度は1人1区の小選挙区制で、1選挙区の有権者数は5,000人程度と、例えばNSWの州下院選挙区のわずか10分の1程度の規模となっている。25選挙区のうちの15選挙区は、比較的人口が密集した地域にあり、そのうちの9選挙区がダーウィン地域となっている。NTでは前回の2012年8月選挙より、4年の固定任期制が採用され、選挙は4年ごとに8月の最終土曜日に実施される。投票方式は連邦と同じく「優先順位付き連記投票制」であったが、今次16年NT選挙より、新たに「選択的優先順位投票制」が採用された。同制度下では、投票者は少なくとも第1位選好順位の候補者を選択するだけで良い。さてNTは定数25の一院制議会だが(注:NTとACT、そして州では唯一QLDが1院制)、選挙前には12議席のマイノリティー政権であった与党の地方自由党(CLP)は、選挙後にはわずか2議席のみとなっている。

一方、野党労働党は18(注:選挙前は7)、無所属が5(同6)である。与党の敗北は当然視されていたものの、その規模は予想を大きく上回るものであった。NTに自治政府が誕生したのは1978年だが、1期目の政権が敗北を喫したのは、今回のCLP政権が初めてのことである。なお、CLPとは、NTだけに存在する政党だが、実態はほぼ自由党と言って良い(注:ただ、NT選出のスカリオン連邦先住民大臣は国民党に分類されている)。

12年NT選挙とその後の政局

前回の12年NT選挙では、ヘンダーソン率いる与党労働党が8議席、一方、ミルズ率いる野党地方自由党(CLP)が16、そして無所属が1と、CLPが単独で過半数を制して、久方ぶりに政権の座に就くこととなった。12年NT選挙は、どちらが勝利を収めてもおかしくはない接戦と予想されていたことから、政権が交代したこと自体は決して驚くべきことではなかった。

ただ驚くべき点は、労働党が人口の比較的密集したダーウィンの選挙区をほぼ保持したにもかかわらず、地方/僻地の選挙区でかなりの議席を減少させた結果、前回選挙で敗北したことであった。実際に「2大政党選好率」ベースで見ると、NT全体で発生した反労働党スウィングは8%程度であったが、これを地方/僻地の選挙区だけに絞ると、反労働党スウィングはNT全体の2倍程度にも達していた。

その意味するところは、有権者の4分の1強を占め、しかも地方/僻地に居住する者の多い先住民有権者層が、労働党から大量に離反したということだ。周知の通り、全国的に見ても、エスニック系や先住民有権者には、「社会的弱者の味方」を自負する労働党への支持者が多い。そのためNT労働党も、地方/僻地選挙区での勝利を当然視した上で、ダーウィンでの議席獲得、保持を最優先の課題としてきた。ところが蓋を開けてみると、同選挙では労働党の固定支持層とされてきた先住民有権者層の多くが、労働党への不満から、保守系のCLPへと鞍替えしたのである。

敗北後に労働党のリーダーを辞任したヘンダーソンは、敗北の理由として、連邦政府の行政介入を許した、NT労働党政府に対する先住民層の反発、そして自ら実施したNT地方自治体の統合・整理化策に対する先住民層の反発を挙げていたが(注:NT全体で計52存在した地方自治体組織を、一挙に8つの組織に統合・整理するというもの)、確かに、これらが労働党の主要な敗因であったと見て間違いない。

ところが12年NT選挙で、11年にわたった長期労働党政権に終止符を打ったCLPのミルズ主席大臣も、それからわずか8カ月が経過した13年3月に早々と失脚し、代わりにCLPのジャイルが主席大臣に就任することとなった。このジャイルは先住民系の人物で、豪州の9政府(注:連邦並びに6州と、ACTおよびNT)の長に先住民系の人物が就任するのは、ジャイルが初めてのことであった。上述したように、12年選挙での与党労働党の敗北の主因は、先住民有権者層の与党への反発にあったが、先住民層の労働党への不満を探知したCLPが尊敬を集め、また実力もある先住民指導層を同党の候補者に立てるなどして、先住民層のムードに乗じることに成功したことも忘れるべきではあるまい。

8月に行われたNT選挙で勝利したガナー氏(左)と惨敗したジャイル氏
8月に行われたNT選挙で勝利したガナー氏(左)と惨敗したジャイル氏

そういった先住民有権者層の獲得戦略の策定、執行において大活躍したのがジャイルで、それを契機にして、ジャイルへの評価は大きく高まったのである。一方、ミルズは誠実な人柄の人物として知られていたが、パンチ力、攻撃力が要求される野党リーダーとしてのパフォーマンス評価は相当に低かった(注:かつてミルズは、リーダーとして準備不足と述べつつ、自ら野党リーダーの地位を降りている。控え目であるのは間違いないが、やはりリーダーとしては弱いと見る向きが多かった)。そのミルズも12年NT選挙で勝利を果たしたことから、当面の間はリーダーとしての地位は安泰と見られていた。だが、政権の座に就いた直後からミルズへの評価は失墜することとなった。

低評価の直接の契機となったのは、財政再建を最優先するミルズが、さまざまな歳出カット策を公表すると同時に、電気料金などの大幅値上げを決定したことであった。実は12年選挙前のミルズは、財政再建の一環でもある「安価な政府」の実現については、例えばNT公務員をいきなり解雇するのではなく、引退者、退職者による自然減少、一方で、新規の採用を手控えるといった手段を通じて、規模の縮小を図ると約束するなど、穏健で漸進的な改革を示唆していた。そのため、選挙後の「荒療治」的な再建策は、ミルズの公約違反と受け取られたのである。こういったミルズの政治判断ミスが、以前から脆弱気味であった党内支持基盤を急激に弱めたと言える。

要するに、選挙勝利後わずか8カ月でミルズが失脚したのには、それなりの理由があり、また、ある程度は政治的に正当化もできたのである。しかしながら、結果的にミルズ降ろしの「クーデター」は、ジャイルには高くつくこととなった。何よりも、選挙でCLPを勝利に導いた功労者のミルズを早々と葬り去ったことにより、ジャイルの道義、倫理性が問われることとなった。

しかもNTの政変劇は、ミルズがNTの資源プロジェクト関連の用件で日本に滞在中に発生するという、外交上の観点からも問題のあるもので、もちろん、ミルズの面子を丸潰れにするものであったことから、これが一部有権者のミルズへの同情、逆にジャイルへの反発を惹起したのである。

また同「クーデター」は、党内に闘争的なメンタリティーをも醸成することとなった。それが具現化したのが、アリソンCLP議員を中心とする、3人の先住民系議員の造反事件、すなわち、ジャイルへの公然とした批判と、CLPからの離党、そして新党の結党宣言であった。その後もジャイルは、驚天動地の結果となった15年1月のQLD州選挙の直後に(注:第1期目の政権に過ぎなかった。しかも圧倒的な議席数を誇っていたニューマン自由国民党保守政権が敗北)、自身も「クーデター」に遭遇したものの、「ごり押しで」主席大臣に留まったという経緯がある。

16年NT選挙における地方自由党の敗因

前回のNT選挙に関し長々と解説してきたのも、12年選挙後の与党地方自由党(CLP)内の求心力の低下、党内の混迷ぶりが、今次16年NT選挙における、与党の最大の敗因となったからだ。一般に「政権の交代は野党が勝利した結果というよりも、与党が敗北した結果」と言われるが、昨年のQLD州選挙を例外として、今回のNT選挙ほど、そのことが当てはまる選挙も珍しいと言える。

要するに、NT選挙の結果は、ひとえにNT有権者の与党への反発にあった。反発の最大の理由は、ジャイルCLP政権の具体的政策に対するものでは決してなく、ジャイル政権に信頼性が欠如していたこと、統治能力が欠如していたことにあった。そして、統治能力が欠如していると有権者に判断された理由とは、党内不和と、CLP政治家による数々のスキャンダルの存在であった。

前者の事実は、数字の上からも容易に看取できる。すなわち、CLPが政権の座に就いた12年8月から今年8月までの丸4年間だけで、NT主席大臣は2人、副主席大臣は実に6人、細かなものを入れれば閣僚の改造は18回にもおよび、また一部はその後復党したものの、先住民系の議員など、離党したCLP議員は計5人を数える。

その結果、ジャイルは昨年7月以降、マイノリティー政権となることを余儀なくされている。政党にとって「党内不和は自殺行為」であり、言うまでも無く数々の党内闘争によって、多くのNT有権者の間には「政府は利己的な権力闘争に現を抜かすだけで、NT住民の生活改善には全く関心がない」、とのパーセプションが醸成されたのである。

一方、後者については、政治献金問題、情実人事、下ネタ絡みの不祥事など、盛りだくさんとなっていた。また今次選挙では、12年選挙でCLPがせっかく獲得した先住民有権者層の大量離反が観察されたが、皮肉なことにその背景には、12年選挙勝利の功労者で、初の先住民リーダーとなったジャイルに対する先住民の失望、怒りがあった。

主席大臣となったジャイルは、先住民系であるにも関わらず、というよりも、先住民系であるがゆえに、偏向していると批判されるのを恐れてか、むしろタフな先住民行政を実施してきたからだ。またジャイルには先住民層の不満を和らげることが要請されていたものの、そもそもCLPとは保守系の支持層を地盤とする政党である。ジャイルが先住民に「甘い」政策を採用すれば、今度は伝統的なCLP支持層の間に、CLP政府への不満を惹起する恐れがあったのだ。

実のところ、ジャイルは新世代の有力先住民指導者がそうであるように、これまでの手厚い福祉制度、あるいは福祉漬けが先住民を駄目にしてきたとの考えで、以前より「先住民対策とはひとえに雇用対策である」と喝破していた。ただ、先住民のCLP政府への期待感が高まっていただけに、ジャイルは前回選挙で労働党からCLPへと鞍替えした先住民有権者層を失望させ、怒らせたばかりか、その有権者の批判の声をバックにした、先住民系CLP議員達の造反を招くことともなったのである。

いずれにせよ、今次NT選挙の最大の帰趨要因は、与党CLP側の体たらくにあったが、ただ合計3つの連邦イシュー、あるいは連邦関連イシューも、有権者の反ジャイル投票行動に一定の影響を与えた可能性がある。具体的には、①ジャイル政府の決定した、中国系企業へのNTダーウィン港リース政策、②今年の7月に国営ABC放送が放映した、NT未成年拘置所の「虐待」問題、そして③ターンブル連邦政府による、財・サービス税(GST)分配方式の変更提案の影響、の3つである。

NT労働党政権への不安

NT政局の行方だが、かなり不透明感が漂っていると言わざるを得ない。今次NT選挙でジャイルは、労働党政権が誕生すればNT経済は不況に陥ると強調しつつ、経済運営能力では評価の低い野党労働党へのスケアー・キャンペーンを展開していた。そのガナー野党は、選挙前に労働党政策のコスティングを公表していたが、その内容はかなり信頼性の高いものではあった。ただ、ガナーは昨年4月にリーダーに就任したばかりで、また、これまで経済合理主義者として高い評価を受けてきた人物ではないし、さらに労働党の議員数が大きく増加したとは言え、経済政策分野で優れた議員がいるわけでもない。

他方で、一時は好調であったNT経済も、ダーウィン周辺以外では「不況」状況と言っても過言ではないとされる。要するに、新労働党政権の経済の舵取りに大きな不安があるのだが、与党労働党には僥倖(ぎょうこう)である議会での圧倒的な優勢状況も、NTの今後、将来という観点からはマイナスである。言うまでも無く、政府が高いパフォーマンスを発揮するためには、政府に人材が揃っていることはもちろんのこと、政府の説明責任などを追及する、有能で強力な野党の存在が不可欠であるからだ。

ところが、今次選挙後のCLP議席数はわずかに2議席と、野党としてのステータスすら確保できない状況にある。未経験のガナー労働党政権は、極めて「ぬるま湯」的な状況を与えられたわけで、これはNT住民にとっては不幸なことと言えよう。

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