選挙後のターンブル保守連合政権

政局展望

選挙後のターンブル保守連合政権

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

7月2日(土)に実施された両院解散選挙から早くも4カ月ほどが経過したが、これまでのところ、再選されたターンブル保守連合政権のパフォーマンスは、功罪相半ばするものとなっている。以下、保守政権の抱える当面の重要政治課題に関し、その現況、進捗状況を概説する。

歳出節減政策

ターンブル首相は、2016年選挙後の最優先課題として経済成長を挙げ、それと同時に、豪州の「トリプルA」の格付けを保持するためにも、可及的速やかな財政再建努力が不可欠と強調しつつ、ショーテン野党労働党やグリーンズ党、そして「その他」議員に対して、保守政府の節減政策への支持を訴えてきた。そして、コーマン予算大臣を主交渉者として、選挙後に野党との交渉を鋭意続けてきたのだが、9月にようやく交渉が妥結している。与野党の合意の下、施行が確実となったのは、政府の合計25件の節減策を纏めた総括的(オムニバス)法案の分で、これで向こう4カ年度の節減額は63億ドル、他にも、タバコ物品税の増税策による財政収支の改善分が、向こう4カ年度で47億ドルと、合計では110億ドルの財政改善が可能となる。確かに、向こう4カ年度の財政赤字額の合計は846億ドルと予測されていることから、今回の110億ドルという改善額も決して大きなものではないが、野党からの合意を得たことは、政府が久方振りに上げた政治的得点であった。

一方、後者のタバコ物品税の増税策だが、これは今年の5月3日に公表された、ターンブル政権としては初の連邦予算案に盛り込まれたものである。具体的には、タバコ物品税を向こう4カ年度にわたり、年率で12.5%ずつ増税するというものである。

7月の総選挙から4カ月が経過した。再選を果たしたターンブル政権の現状とは……
7月の総選挙から4カ月が経過した。再選を果たしたターンブル政権の現状とは……

さて今回の与野党の合意によって、「今後は建設的な役割を果たす」うんぬんといった、16年選挙後のショーテンの発言も、真剣なものであったとの見方もある。その結果、下院は過半数ギリギリで、上院では過半数には9議席不足しているという、数字の上では与党にとって絶望的な議会情勢も、実際には見かけよりも明るいのでは、と見る向きもある。しかしながら、今回の一件をもって、これまで「反対/ネガティブ一辺倒」であった野党労働党が、ついに「建設的/協調的路線」に転換したと結論付けるのは、時期尚早も甚だしい。何よりも節減問題や増税問題を巡っては、前向きとならざるを得ない事情が野党側にあったからだ。

それは、かつての野党はこれら節減政策のほとんどに反対していたものの、16年選挙キャンペーン中に野党は、その多くについて、今後は(前向きに)検討する、もしくは支持することを既に表明していたからだ。そのため、野党が今回反対に回れば、あるいは政府に強く抵抗しただけでも、野党は公約を破ったとの有権者からの批判に晒される恐れがあった。また節減策の一部ばかりか、タバコ物品税の増税策も、歳出サイドには問題はないと主張しつつ、歳入サイド、すなわち、税収入の増額を通じた財政再建を志向する野党が、「言いだしっぺ」であった政策である。実のところ、ターンブル予算案に盛り込まれたタバコ物品税増税策とは、労働党前政府、ならびに野党労働党の政策を堅持、「借用」したものに過ぎない。

退職年金制度の変更

ターンブル政府は同じく連邦予算案の中に、退職年金優遇税制度の相当な厳格化策を盛り込んでいる。ターゲットは、退職年金レジーム参加者の内の富裕者層である。同政策は16年予算案の「目玉」の1つで、政策の骨子は、①退職年金拠出/積み立て税の15%が適用される年収の「敷居」を、現行の30万ドルから25万ドルにまで低減、②就労者の自発的な税引き後退職年金拠出/積立て額の制限を、年間で3万ドルから2万5,000ドルに低減、③税引き後の積立て額の制限を、年間18万ドルから生涯合計で50万ドルに変更、④生涯合計の起算日は遡及的に07年7月1日からとする、そして⑤退職年金積立て基金から非課税の退職年金支払い口座への移動を、160万ドルまでに制限する、などであった。

こういった施策により、向こう4カ年度で28億ドルの税収入増が期待された。ところが同政策は身内からの批判を受けたことから、ターンブル政府は変更を余儀なくされ、これが野党の支持を受けている。野党とも合意した変更策では、最も物議を醸した上記の③と④が変更され、代わりに「年間の制限額が10万ドル」となった。ただし上記歳出節減策と同様に、退職年金政策での野党の支持を、「建設的な野党への脱皮」などと過大に評価すべきではない。というのも、上述したように、野党は主として増税を通じた財政再建策を追求してきたが、「階級カード」を多用しつつ、「社会的弱者の味方」を喧伝してきたショーテン野党にとり、富裕層を対象とした退職年金制度の厳格化は重要な政策であるからだ。実際に野党は、早くも昨年の4月に、富裕層を目標とした優遇制度の厳格化策を提示していた。

なお、野党は、公的な老齢年金制度には問題は無いと主張する一方で、私的な退職年金制度は富裕層に寛大過ぎることから、富裕層の節税対策や蓄財に悪用されていると批判してきた。他方で、退職年金問題では、ターンブル政府側に妥協を迫る事情もあった。それは、政府の退職年金政策が、少なくとも16年選挙の小敗因の1つであったとの事情である。連邦財務省の試算によると、厳格化による税収入増は向こう4カ年度で29億ドルに達するが、重要な点は、厳格化措置の影響を受ける退職年金利用者は、上位わずか4%の富裕層に過ぎないことで、残りの96%には影響は無いとされた。

一般的に富裕層には自由党支持層が多いことから、富裕層から見れば、上記政策は自由党の「裏切り行為」と見なさせるものだが、ただ、そもそも富裕層の絶対数は少ないし、また同政策によって富裕層有権者に多くが労働党に鞍替え投票する可能性は低い、というのが保守政府の判断であった。

ところが、この政府の読みは結局、甘かったと言える。実際にはかなりの富裕層が選挙で抗議票を投じたとされるし、また絶対数の少なさという議論にしても、上位4%ばかりか、かなりの所得層が影響を被るとの見方が多かったため、より下位の高所得層の間にも、政府への抗議票を発生させた可能性がある。

その結果、政府の施策は、与党国民党や自由党右派議員からの辛辣な批判にもさらされたのである。そして、とりわけ批判派が問題視していたのが「遡及性」の側面であった。今回の変更では遡及性が廃棄されたわけで、これが変更策の中でも「目玉」であった。依然として党内基盤がやや脆弱なターンブルとしては、党内の反対勢力をなだめるためにも、変更、妥協は必至であったのだ。

同性愛者間婚姻の法的認知問題

強硬右派のアボットとは対照的に、ターンブルは社会政策分野では相当に進歩的であることから、昨年の9月にターンブルが首相に就任すると同時に注目されたのが、同性愛者間の婚姻の法的認知問題に関するターンブルの立場であった。ターンブルはそれまで法的認知問題には積極的で、アボット率いる自由党が認知反対を党是としていたのに対して、同問題ついてターンブルは、自由党各議員の「良心の投票」に委ねるべきと主張していた。

 

これは党内右派ばかりか、国民党が反対する路線であるが、他方で、世界的な趨勢、積極的な労働党やグリーンズ党の存在もあって、自由党内にも法的認知派が増大しつつあった。

そこで、強硬保守のアボットが失脚直前に採用したのが、国民が直接決定すべき問題と主張しつつ、次期選挙で再選を果たした暁には、国民に判断を委ねるというものであった(Plebiscite)(注:拘束力のない「国民投票」)。実はアボットにとって投票案は、問題の先送りとも言えるものであったが、ターンブルも保守連合内の融和を最優先し、前言を翻して、アボット路線を踏襲してきたという経緯がある。

結局、ターンブル保守政府は、来年の2月11日に国民投票を実施すべく、16年選挙後に投票実施法案を下院に上程している。これに対して、3年ほど前には投票に前向きであった進歩派のショーテンおよび野党は、現在では投票に反対しており、代わりに可及的速やかに議会で法的認知の是非を問うべきとしている(注:婚姻法の改正)。

その理由として野党は、投票の実施は公費の莫大な浪費であることや(注:コストは1億6,000万から1億7,000万ドル程)、キャンペーン運動を通じて同性愛者が好奇の目で見られ、それどころか、中傷誹謗の的となることへの懸念を挙げている。一方で、議会での採決では、認知支持がマジョリティーなる公算が高いとの思いがショーテンにはある。結局、野党労働党は、グリーンズ党と同様に、実施法案に反対することを正式に表明している。その結果、来年に国民投票が実施されるのは不可能な状況で、同問題は次期選挙以降にまで先送りとなる公算が高い。

労使関連の政府2法案

労使関連2法案とは、豪州建築・建設委員会(ABCC)の再設置法案、及び登録団体監督委員会(ROC)の設置法案で、言うまでもなく、16年両院解散選挙の「トリガー法案」となったものである。

トリガー法案は選挙後の両院議員総会での採決法案となるわけだが、ターンブル政府としては恥ずかしいことに、選挙後の与党は両院議員総会で過半数を制することに失敗している。しかしながら、歴史的に稀な両院解散選挙選択の公式の理由となったトリガー法案を、このまま放置しておくことは恥の上塗りである。また労使2法案は、「労組の走狗」であるショーテン野党党首を叩くためばかりか、経済政策の観点からも重要なものである。

すなわち、ABCCおよびROCの設置は、持続的経済成長のカギである生産性の向上をもたらすもの、換言すれば、有権者の投票行動を決定する上でも重要な、保守連合の経済運営能力を誇示する、極めて重要なポジティブ政策と位置付けられているのだ。

とりわけ重要なのはABCCの再設置で、これは、建設労組(注:左派系労組の建設・森林・鉱業・エネルギー組合CMMEUの建設部門)の横暴を防ぐため、コール司法調査委員会の提言を受けて、「労組叩き」のハワード保守政権が設置した、建設業界の「お目付け役」である。強力な監督機関であるABCCのお陰で、その後建設部門の争議行為、労組専従員の違法行為も減少し、同部門の生産性も大いに向上したという経緯がある。ところが、07年に誕生した「労組にフレンドリー」な労働党政権は、ABCCの役割、権限を大きく低下させた上で、その所掌を新設した労使機関の豪州公正労働局(FWA)(注:現在の公正労働委員会FWC)に移管し、そして12年にはABCCを廃止している。アボット/ターンブル保守政府にとって、ABCC再設置策は保守政権第1期目の労使政策の中核、「目玉」と言えるものであった。

ところが、政府法案は上院で複数回否決され、保守政権第2期目の課題となったのである。政府労使関係2法案の行方だが、野党労働党やグリーンズ党は引き続き反対しているものの、現時点での労使法案の行方は、かなり楽観的なものであるように思える。というのも、例えば、ニック・ゼノフォン・チーム(NXT)は、条件付きではあるものの(注:労災、安全問題などをカバーすべく、法案の修正を要求)、法案には前向きであるし、またワンネーション党(ON)も前向きであることから、今後両政党がまとまっていることを前提にすれば、保守政府としては、残り4人の「その他」上院議員の内の2人を確保すれば良いからだ。

現在のところ、明確に法案への反対を表明しているのは、再選されたラムビーTAS選出議員のみとなっている。また、仮に上院で可決に必要な追加9票を確保できず、同法案の上院での可決が不可能となっても、前述したように、労使2法案は今次両院解散選挙の「トリガー法案」であり、したがって両院議員総会において採決に附することもできる。

可決されるためには、やはり過半数が必要となるが、下院の定数が150、上院定数が76と、両院の議員の合計は226人であることから、過半数とは114人以上となる(注:両院議員総会の採決では、与党議員の下院議長も上院議長も投票する)。その中で与党保守連合は、下院が過半数ギリギリの76議席で、一方、上院では30議席ちょうどであることから、合計では106と、過半数まで8不足している。この追加8票を、上院議員と下院議員の「その他」から集めれば良いこととなる。なお、ターンブル政府は2法案の年内の成立を目指している。

新着記事

新着記事をもっと見る

NICHIGO CHANNEL

新着イベント情報

新着イベントをもっと見る