年明け早々に発生した閣僚スキャンダル

政局展望

年明け早々に発生した閣僚スキャンダル

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

年明け早々に、ターンブル保守連合政府は深刻な閣僚のスキャンダル、具体的には、自由党閣内大臣のレイ保健・老齢問題・スポーツ担当大臣の旅費・宿泊費不正受給疑惑問題で苦境に陥っている。結局、ターンブルはレイの更迭ばかりか、抜本的な議員旅費・宿泊費制度の改革を余儀なくされている。

レイ・スキャンダルの内容

今回問題視されたスキャンダルとは、2015年の5月、レイが保健相としての公務でQLD州のブリスベンに出張した際に、夫と共にゴールドコーストにまで足を延ばし、当地で高級フラットを購入したというものである。問題となっているのは、レイがゴールドコースト訪問の旅費や宿泊費についても国に全額請求し、受領している点であった。これをとらえて野党労働党は、ゴールドコーストでの活動内容を明らかにせよと迫り、それができないのなら閣僚を辞任すべきと攻撃したのである。

レイはゴールドコースト訪問はあくまで公務であり、具体的には、保健相として病人との個人面談を行ったと述べているが、ただ、プライバシーの問題から詳細は公表できないとしていた。また、出張中に投資住宅物件を購入した件についても、あくまで「衝動買い」であり、決して事前に計画していたものではなかったとして、公務の合間の偶発的出来事であったことを強調している。レイにとってやや不運であったのは、同スキャンダルが「ニュース枯れ」の夏季休暇中に話題となったことであろう。時期が時期だけに、通常以上に注目され、報道でも大きく取り上げられたという面はある。

1月7日付のシドニー・モーニング・ヘラルド紙でも大きく報じられた
1月7日付のシドニー・モーニング・ヘラルド紙でも大きく報じられた

ただし、そうは言っても、ターンブル保守政府にとって手痛いスキャンダルであったのは間違いない。周知の通り、多数の国民は、政治家や政治家の家族に極めて寛大な旅費・宿泊費制度に対し、また、しばしばそれを不正に利用する、あるいは、少なくとも常識に反して利用しようとする政治家に対して、強い不満、憤りを抱いているからだ。それどころか、同問題は国民の政治不信、政治家不信の元凶の1つともなっているものである。もちろん、政治家の公務と私的活動との境界線は曖昧なものであり、また「誰でも叩けば埃が出る」、要するに、こういったスキャンダルは、これまで労働党側にも多数発生してきたものである。

ただ、自由党はつい最近にも、当時のビショップ下院議長のより深刻な旅費・宿泊費関連スキャンダルで(注:いわゆる「チョッパーゲート」スキャンダル。ビショップが党活動に出席する際に、贅沢にもメルボルンからヘリコプターをチャーターし、5,000ドル以上の料金を請求して、受領したというもの)、大きなダメージを被ったばかりである。そのため今回の一件は、自由党には一層痛いものとなった。しかも、レイの弁明、すなわち「衝動買い」云々の弁明も愚かなものであった。上述したように、レイとしては、あくまで公務の「ついでであった」という点を強調したかったわけだが、この住宅物件の購入価格は80万ドルほどとなっている。

これだけの高額物件を、事前に検討することもなく「衝動買い」したとの説明は信じ難いし、仮にそれを受け入れるとしても、今度はレイの一般庶民感覚からの遊離ぶりが際立つこととなる。ショーテン率いる野党労働党は、ことあるごとに「階級闘争カード」を持ち出し、例えば、富裕なターンブル首相が庶民感覚から大きくずれており、そして、富裕層や大企業といった社会的強者の走狗であると攻撃してきたが、レイの発言は野党の主張を後押しするものでもあった。

ターンブル首相の対応

1月9日、レイ保健大臣が記者会見を開き、ターンブルとも話し合った結果、連邦首相府(PM&C)および予算省による内部調査の期間中、閣僚ポストから一時的に離れる旨を公表している。ただレイは、問題視されている旅費・宿泊費の受給も現行の規程に則ったものとの従来の主張を繰り返し、またゴールドコーストへの頻繁な出張についても、来年に同地で英連邦スポーツ大会が開催されることや、重要な大学医学部/医療センターの存在、そして同地域が豪州でも第6番目に大きい人口を擁することなどの事実を指摘しつつ、保健・医療やスポーツを担当する閣僚としては至極当然のことと述べていた。

またレイは、速やかに閣僚ポストに復帰することを予想しているとも述べていた。ところが、迅速に実施された内部調査の結果を受けて、13日にターンブルが記者会見を開き、レイの閣僚からの正式な更迭を明らかにするとともに(注:表向きはレイの自発的な辞任との体裁であったが)、連邦議員の旅費・宿泊費制度に関する重要な変更策を併せて公表している。

変更策の中核は、独立した旅費・宿泊費関連の管理・監督機関を新設することと、同関連情報の透明性の向上、具体的には、現行では6カ月ごとに公表されるだけに過ぎない個別議員の旅費・宿泊費請求/受給情報を、今後は毎月、しかも詳細に開示するというものであった。また政府は、ビショップ前下院議長のスキャンダル後に実施された、旅費・宿泊費制度レビュー報告書内の計36の改革提言を全て受け入れ、これらを向こう6カ月以内に実施することも宣言している。

ターンブル政府の改革については、野党労働党も既に原則支持を表明していることから、実際に今年の半ばには、相当に厳格な旅費・宿泊費制度が施行される見込みである。さて制度改革の中核は、旅費・宿泊費の不正/非常識受給、具体的には「公私混同」問題への対処である。要するに、どのように考えても私的、個人的な活動であるにもかかわらず、その旅費や宿泊費を国に請求し、受給するケースである。ただ、過去の数多くのスキャンダルの結果、むしろ露骨な不正受給は減ってきたと言える。問題は、まさに公私混同の状況、換言すれば、公務と私的活動が混在した状況、しかも、しばしば公務がわずかなウェイトを占めるに過ぎない状況であるにもかかわらず、経費の全額が国に請求されるケースである。

やはり現行制度に明確な「公務の定義」が欠如していることが、「議員のほとんどは叩けば埃が出る」との状況を生んでいると言えよう。もう1つの問題は、現行制度が基本的に自己申告/自己管理制度に基づくもの、あるいは、議員各人の良識に委ねたものという点にある。「公務の定義」の欠如と相まって、これが逆に良識を欠く、議員の不正紛いの請求、受給につながっているのだ。今回公表されたターンブル政府の改革策は、この自己申告/自己管理制度からの脱却を意味するゆえに、大きな改革と見なせるものである。言うまでもなく、脱却先とは「お目付け機関」の新設を通じた「他者による管理」を主体とした制度の構築に他ならない。

実は新機関の創設策は、豪州を遥かに上回る一大議員手当てスキャンダルが発生した英国が、改善策の目玉として採用したものである。一方、上述したように、政府は、旅費・宿泊費制度レビュー報告書の改革提言も実施する計画だが、その具体的な内容は、公務の定義の明確化、情報開示の頻度アップならびに情報の詳細化、そして公費による家族旅行等の制限などとなっている。附言すれば、しばしば強い批判を惹起する議員の家族への寛大な旅費・宿泊費制度だが、これは議員が家族との絆、円満さを保ち、後顧の憂いなく国政に携わることを意図したものである。

スキャンダルの意味合い

今回のレイ・スキャンダルの政治的意味合い、影響としては、主として以下の3点が指摘できる。まず第1に、言うまでもなく、ターンブル政府にはダメージとなった。周知の通り、昨年7月の両院解散選挙で苦戦し、権威を一層失墜させたターンブルだが、昨年の11月には、両院解散選挙の「トリガー法案」であった労使関連2法案を成立させたことから、与党内の士気も上がりつつあった。そして、その直後に長期夏季休暇に突入したことから、保守政府としては「良いムード」のままで、2月初旬から開催される議会に臨み、懸案となっている法人税の減税策をできるだけ政府の減税計画に近づけるべく、攻勢をかける予定であった。

ところが年明け早々にスキャンダル、しかも、有権者の強く反発するスキャンダルが発生したことから、政府の気勢も削がれ、モーメンタムが低下気味となってしまった。また、スキャンダルの内容が大物閣僚の金がらみの問題であったことに加え、発覚のタイミングも、保守政府には痛いものであった。というのも、物議を醸した政府の老齢年金厳格化策が施行されたのは今年の1月1日からであったし、また社会保障支出の節減を目指した「マッチング・システム」、すなわち、国税庁保有の税関連個人情報と、当該納税者の福祉手当て申請情報などとを電子的に照合し、過剰、不適切な、あるいは不正な福祉手当て額の返還を求めるとの政策がスタートし、それが批判を浴びたのも今年に入ってからであったからだ(注:一部の返還額催促レターが誤りであったなど)。

要するに、無駄を省く、あるいは不正受給を防ぐと述べつつ、政府が国民に節減努力を迫っている最中に、公費でゴールドコーストに出張し、ついでに80万ドルの不動産物件を「衝動買い」した、レイのスキャンダルが話題となったのである。その結果、政府へのダメージは一層大きなものとなったし、政府節減政策への反発も一層強いものとなった。第2の意味合いは、レイの辞任によって、当然のことながら、改造が必要となったことだ。

次期連邦選挙はほぼ間違いなく通常の選挙形態、すなわち下院の解散と上院半数改選の同時選挙で、その場合、最も早い実施時期は来年の8月初旬となる。一方、前回の選挙は昨年の7月に実施されたことから、第2次ターンブル保守政権がスタートしてからわずか半年程度に過ぎない。したがって、通常であれば、第2次政権の第1次改造も早くて今年の後半、しかも5月に公表される連邦予算案から数カ月後以降と予想されていた。

ところが今回のレイ・スキャンダルにより、これが半年以上も早められたわけである。なお、レイの後任の保健相には、実力者のハント産業相が就任している。辞任したレイはユニークな経歴の持ち主で、選挙民や同僚の受けも良かったことから、辞任したことは与党には間違いなく損失であった。ただ、やはり今回のスキャンダルを通じて、レイの判断力には大きな疑問符が付いたと言える。また、昨年の選挙におけるターンブル政府の苦戦は、ひとえにショーテン野党労働党の虚偽キャンペーン、すなわちメディケア・スケアー・キャンペーンにあったが、保健相としてレイは、有効な対抗策を採ることに失敗していた。

第3に、今回のスキャンダルによって、ワンネーション党(ON)やニック・ゼノフォン・チーム(NXT)への評価が高まることが予想される。繰り返し述べてきた通り、旅費・宿泊費問題ではほとんどの議員が「叩けば埃の出る身」で、この点は、しばしば倫理的観点から2大政党に説教を垂れるグリーンズ党議員も同様と言える。

一方、こういった政治家の「特典問題」こそが、昨今の国民の政治不信、政治家不信の主因ともなっているものである。そのため、今回のスキャンダルも、多数の国民の既存政党への強い憤りを惹起しているが、以上のような状況下で、これまで一貫して清廉さを印象付け、制度改革を唱えてきたのが、例えば、左派系無所属下院議員のウィルキーや、上院議員のゼノフォンである。

今回の一件でもゼノフォンは、以前から主張してきた制度改革を再主張するとともに、ターンブル改革策についても、不正受給した場合のペナルティーが不足していると批判している。また「得体の知れない者」を抱え、およそ清廉イメージからは遠いON党のハンソン党首も、議員に寛大な現行制度を強く批判している。要するに、今回のスキャンダルは、「アンチ政治家の政治家」たちに対し、自己宣伝、勢力拡大のための絶好の機会を提供しているのだ。英国のEU離脱決定を巡る一件や米国大統領選挙での「トランプ旋風」と同様に、豪州でもNXTや極右政党のON党が躍進するなど、同じく反権威的、あるいは保護主義的、排外的な大衆迎合勢力の台頭が観察されている。レイ・スキャンダルを巡って再度注目された、大政党、既存政党議員の贅沢、公費の浪費は、この傾向を助長するものと言えよう。

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