野党労働党の大勝利に終わったWA州選挙

政局展望

野党労働党の大勝利に終わったWA州選挙

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

3月11日に実施されたWA州選挙は、予想通りにマクゴーワン率いる野党労働党が勝利を収めたものの、勝利の規模はあらゆる予測を上回るものであった。今次WA州選挙での労働党の勝利により、連邦政府は保守連合であるものの、全国の8政府で保守系であるのは(注:全国6州政府とACTとNT政府)、NSW州とTAS州のみとなった。

選挙帰趨

労働党のマーク・マクゴーワン新WA州首相
労働党のマーク・マクゴーワン新WA州首相

開票率が86.9%の時点における、WA州下院の第1次選好票の政党別得票率、ならびに第1次選好票段階での票のスウィング率を見てみると(注:前回の2013年WA州選挙と比較した場合の票の増減)、①自由党の得票率は31.2%で、スウィング率は実にマイナス15.9%、②国民党は5.4%とマイナス0.7%、③労働党は42.2%とプラス9.1%、④環境保護政党のグリーンズ党は8.9%とプラス0.5%、⑤極右政党のワンネーション党は4.9%とプラス4.9%、そして⑥「その他」が7.3%とプラス2%となっている。

以上の結果、定数が59のWA州下院の政党別勢力分布は、①は僅かに13議席で、②が5、③は41、④⑤⑥はそれぞれゼロとなる見込みである。③の労働党は選挙当日の夜には、単独政権となるのに必要な最低数の30議席を大きく超過していた。ちなみに、13年WA州選挙後の政党勢力分布は、①31議席、②7、そして③が21であった。ただし、その後①は30となっている。

与党の敗因/野党の勝因

連邦選挙か州等の選挙かを問わず、豪州で政権が交代するのは3つの要因、もしくは3つのパターンによるものとされる。すなわち、(ア)有権者も長期政権にはさすがに飽きがきて、いわゆる「政権の替え時症候群」が発生する、(イ)野党の政権担当能力/野党リーダーの能力の方が上に見える、そして(ウ)時の政府/政府のリーダーを懲らしめたいという、多数の有権者の強い願望がある、といった3要因のうちの、少なくとも1つが当てはまる場合とされる。

今回のWA州選挙は、事前に観察されていた通り、上記の3要因のうちの(ア)と(ウ)が強く当てはまる選挙であった。より具体的な内容は以下の通りである。

まず(ア)だが、一般に豪州の国民は現状維持志向が強く、したがって短期間のパフォーマンスで政権を見限るようなことはしないとされる。そのため豪州では、「政権奪取に成功した政党が次回選挙でも勝利するのは当然」と見られてきたのである(注:この歴史的事実に基づく経験則、あるいは「政治常識」も最近ではやや怪しくなってきたが、依然として有効ではある)。

確かに、自由党のバーネット率いるWA州保守政権は第2期目の政権に過ぎなかった。ただ留意すべきは、2期とは言っても、両院の任期が4年のWA州では(注:WA州下院の任期はかつては最大でも4年であったが、同州では2012年に4年の固定任期制が採用されている)、保守政権が誕生してから既に8年半が経過していたことだ。これは、豪州の基準でもやはり長期政権の部類に入る。

また全期間にわたり、州首相は一貫してバーネットであった。しかもそのバーネットは、既に08年WA州選挙の直前の時点で、州政界からの引退を表明していたベテランの政治家である。そのため今回のWA州選挙では、多くの州民の間に「政権の替え時症候群」が発生し、それが保守政権の主要な敗因となったのは間違いない。

一方、比較的「消極的な」要因である上記(ア)に加えて、積極的にバーネットや保守政権を葬り去りたい、との上記(ウ)の要因もあった。そして、バーネット保守政権を懲らしめたいと考える有権者が多かった背景には、おそらく以下の4つの事情があった。

第1に、現在のWA州経済の低迷が、やや不当なほどにバーネットの責任とされたことだ。バーネット政権は13年3月の前回WA州選挙で楽勝し、再選を果たしたわけだが、同選挙での与党の重要勝因は、資源・エネルギー・ブームのおかげで、州民の生活に直接影響を与える州経済が好調なことであった。政界を揺るがすような政府の一大スキャンダルでもない限り、高度経済成長を続ける州の政権党が、選挙で敗北を喫することは稀である。

ただ、州経済がブームであったとの事実に加えて、そのブームの現出にバーネット保守政権、とりわけバーネットが貢献してきたとの有権者の思いも重要であった。好調な州経済は、エコノミスト出身のバーネットの手腕、強力なリーダーシップによるものとのパーセプションが、一部浮動層有権者の間に醸成されていたことから、これが自由党の大幅な議席増に繋がったのである。

ところが13年WA州選挙以降、空前の資源・エネルギー・ブームも既に「バースト」している。しかもWA州経済の低迷もあって、州財政もひっ迫している。そしてWA州経済の悪化は、バーネットへの個人評価にも直結したのである。

というのも、かつてのWA州経済の好調さがバーネットの貢献によるものと、実際以上に高く評価されてきたからだ。そのため皮肉なことに、州経済の低迷についても、必要以上にバーネットの責任が追及されることとなったのである。

第2に、ワンネーション(ON)党との選好票交換ディールの失敗である。このディールとは、自由党はWA州上院選挙における自由党の「投票指示カード」を通じて、一部の選挙区でON党を国民党よりも上位に指定し、一方、その見返りにON党は、同党が候補者を擁立する合計35のWA州下院選挙区すべてにおいて、ON党「投票指示カード」により、自由党候補への選好票順位を野党労働党候補の上位に指定する、というものであった。

自由党としては、保守支持有権者層の多くの第1次選好票が、主として自由党からON党に流れるとの予想のもと、何とか流出票が選好票の形で自由党に回帰することを期待して、極右政党と交換ディールを結んだのである。ところが、このディールは期待通りの効果を上げなかったどころか、自由党にとってかなりのマイナスとなった。

まず選挙キャンペーンに入ってからの世論調査で、一時は18%もの高支持率を記録していたON党が、本番の下院選挙では5%程度と、予想を大きく下回る支持率に終わったことだ。その結果、ON党から自由党へと流れる選好票の量も期待を大きく下回り、ただでさえ大きな反与党スウィングに直面した自由党候補にとっては、正に焼け石に水の状況であった。

他方で、自由党とON党との交換ディールは、一部「良識派」有権者層、とりわけ都市部在住の一部有権者層の、自由党からの離反を招いている。こういった「良識派」にとり、大政党の自由党の行動は全く節操のないものと映ったのである。

この「無節操イメージ」は、バーネット自身が当初WA州自由党組織主導の交換ディールにやや不快感を示し、またその後も、ON党とのディールは政権維持のためのプラグマティックな選択と述べつつ、ON党の過激な主張や政策路線への反対を表明していたことから、一層強く印象付けられることとなった。附言すれば、ON党とのディールは、結果的に自由党にとってマイナスであったばかりか、ON党にもマイナスであった。

第3の理由は、政府の電力民営化政策への反発と、野党労働党の巧みなスケアー・キャンペーンの効果である。

ベアードNSW州保守連合政権が実施したように、バーネットWA州保守政権の電力民営化政策も電力網に関するものであった。計画では51%を民営化して、売却予想額である110億ドルのうち80億ドルを、大きく問題視されている州財政の再建に当て、また残りの30億ドルを州のインフラ整備に補填(ほてん)するというものであった。

周知の通り、州の財政がひっ迫している点に関しては、これまでバーネットは財・サービス税(GST)の不公平分配問題を取り上げ、また資源・エネルギー・ブーム時に運輸や社会インフラの整備が不可欠であったから、などと弁明してきたという経緯がある。しかしながら、労働党政府を彷彿とさせるような、州公務員給与の寛大な増額や、社会保障支出の拡大、大規模なインフラ整備、さらに国民党との連携協定に基づく費用対効果の薄い地方振興助成策等、バーネット政府が、あたかも資源・エネルギー・ブームの継続を当然視してきたかのように、州財政の管理に甘かったことは否定できず、これがバーネットの評価を毀損(きそん)してきたのである。

そのバーネットにとり電力民営化政策は、失墜した経済運営能力を再度誇示するための、起死回生の一打であった。ところが、これは見事に失敗に終わっている。まず、そもそも民営化自体が不人気であったためだ。しかも困難な民営化がNSW州で成功したのは、当時絶大な人気を誇っていたベアードのおかげであったが、これに対して、バーネット人気は「超低空飛行」状況にあった。

もう1つ重要であったのは、野党と労働組合による、徹底した反民営化キャンペーンであった。野党や労組は民営化が大量失職を発生させ、しかも生活コストの上昇、すなわち、電気料金の上昇をもたらすと繰り返し主張してきた。実は世論調査によれば、州経済が低迷しているWA州の有権者にとって、現在最も関心のある問題の上位2つは、失業問題と生活コストの問題である。そのため、電力民営化問題を州民の抱く最大の関心事項、不安感に結び付けた野党のスケアー・キャンペーンは、見事に大きな効果を上げたのである。

最後に第4点としては、保守連盟が分裂しているとのパーセプションが醸成されていたことである。

まず、自由党内の「お家騒動」、具体的には、昨年9月に発生したリーダーシップ挑戦の動きである。バーネットにとっては幸いなことに、結局、リーダーシップ選挙は回避されたが、一般に「政権交代は野党が勝利した結果というよりも、与党が敗北した結果」と言われる。そして「与党が敗北する」大きな理由が、政府には統治能力が不足しているとの有権者の判断で、また統治能力が欠如していると有権者に判断される重要理由は、党内不和に他ならない。そして何と言っても保守政権がバーネットの「ワンマン政権」であっただけに、昨年のリーダーシップ事件は、上記(ウ)の要因を一層強めたのである。

もう1つは自由党と国民党との連盟関係の悪化で、契機となったのは、ガイル国民党リーダーが主導した資源税政策と、国民党をないがしろにした、自由党のON党との選好票交換ディールであった。確かに自由党も国民党も独立した政党であり、しかも、WAの自由党と国民党は正式な連合協定を結んできたわけでもない。しかしながら、両党は過去8年半にわたって閣内協力をしてきたことから、多くの州民の目から見れば、重要政策での両党の対立も、やはり「お家騒動」、党内分裂と映ったのである。

上院の情勢と新政権の課題

定数が36のWA州上院については、議席数の最終確定までにはより時日を要するが、下院では余裕をもって過半数を制した労働党も、上院で過半数を制することに失敗するのは確実である。すなわち、現時点における州上院の政党勢力分布予測によれば、上記①は10議席(注:今次選挙の前には16)、②4(同5)、③15(同11)、④3(同2)、⑤2(同0)、⑥「その他」のうちの射撃・釣り愛好家・農民党が1(同2)で、自由民主党が1(同0)、となる見込みである。

仮に予測通りであれば、労働党はイデオロギー的に近いグリーンズ党と合わせても半数ちょうどの18となり、労働党提出の法案成立は不可能となる。従って他の小政党からの支持が必要となるが、ただ労働党にとって問題なのは、⑤と⑥の3政党がそろって保守系であることだ。新政権は困難な上院運営を迫られるかもしれない。

新政権の当面の課題だが、何よりもマクゴーワンとしては、信頼性の高い詳細政策を速やかに公表して、政権担当能力を誇示することが重要である。また各種政策を明らかにすることに加えて、マクゴーワンは自身に張り付けられた負のレッテルを剝がすべく、努力することが肝要である。

負のレッテルとは、マクゴーワンが労組に近過ぎる、それどころか「労組の走狗(そうく)」というものである。WA州は資源大州、資源輸出大州であり、そして資源産業は外国資本に強く依存している。その外国資本にとり、豪州の強力な労組は投資インセンティブの阻害要因であることから、「労組に優しいWA州政府」とのイメージはいかにもまずい。マクゴーワンとしては、各種政策を通じて早急に同イメージを払拭すべきであろう。

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