混迷の豪州グリーンズ党

政局展望

混迷の豪州グリーンズ党

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

保守政府のゴンスキー教育政策をめぐり、豪州グリーンズ党内が大きく紛糾している。その結果、同党のディー・ナターレ党首は、紛糾の原因を作ったとして、当面の間、同党のNSW州選出連邦上院議員であるリアノン女史を、グリーンズ党連邦議員総会に出席させないことを決定している。更に2人の同党幹部議員が立て続けに二重国籍問題で議員を辞職するなど、グリーンズ党は深刻な混乱に陥っている。

豪州グリーンズ党の概要

豪州は環境保護運動の活発な国として知られるが、同運動に先鞭(せんべん)をつけたばかりか、環境保護運動を政治運動にまで高めたのは最小州のTAS州であった。同州では世界で初ともいわれるグリーンズ党が旗揚げされて、早くも1972年には同州選挙に候補者を出馬させている。その後、環境保護運動、政治運動は全国に拡大したが、TAS州の運動を主導し、また92年に全国的な豪州グリーンズ党の結党に際して中心的な役割を果たしたのも、「豪州環境保護運動の父」「グリーンズ党の開祖」と評される、開業医出身のブラウン豪州グリーンズ党党首であった(注:TAS州上院議員を経て連邦上院議員。既に政界からは引退)。それ以降のグリーンズ党の躍進ぶりは相当なもので、周知の通り現在豪州グリーンズ党は、定数150の連邦下院では1人に過ぎないものの、定数76の上院では9人もの議員を擁するまでに成長している。

混迷する豪州グリーンズのディー・ナターレ党首
混迷する豪州グリーンズのディー・ナターレ党首

グリーンズ党の立ち位置だが、豪州には5主要政党、すなわち、規模が大きい順に労働党、自由党、国民党、グリーンズ党、ワンネーション党の5つが存在するが、これを「イデオロギー・スペクトラム」で見ると、一番右に来るのが極右のワンネーション党で、その「左」が右派の国民党、次が党全体としては、あるいは「重心」が中道右派の自由党、その「左」が全体としては中道左派の労働党、そして労働党内の左派以上に「左」に位置する、すなわち極左がグリーンズ党となる。グリーンズ党も資本主義そのものは容認しているものの、全ての人びとが公平、平等であるように、あるいは社会的弱者を救済するために、政府が積極的に介入すべきとの考えを持つ。当然のことながら、極めて「大きな政府」観の持ち主である。

グリーンズ党の組織だが、党員数は全国で1万人ほどで、その特徴としては、かつて連邦政局でも重要な役割を果たした民主党と同様に、またNSW州グリーンズ党を筆頭にして、「草の根」党員の影響力が強く、「草の根」民主制、直接民主制を重視している点が挙げられる。例えば党首の選出であるが、労働党、自由党、国民党といった大政党の場合、党首、すなわち連邦議会政党のリーダーは、長年にわたり当該政党所属の連邦議員の投票によって決定されてきた(注:ただし労働党は2013年に、連邦議員に加えて「草の根」党員の票も加味した選出システムを採用している)。ところがグリーンズ党の場合は、「同党の父」とされるブラウンが事実上の豪州グリーンズ党のリーダーではあったものの、党首が連邦グリーンズ党議員によって決定されることとなり、正式にブラウンが同党の党首に就任したのは、05年11月のことであった。ちなみに、ブラウンが連邦上院議員に初当選したのは96年選挙の時である。

またグリーンズ党の党組織は「連邦制」のような様相を呈しており、各州などのグリーンズ党組織、各州等の議会グリーンズ党の独立性は相当に高い。換言すれば、グリーンズ党の組織は、豪州グリーンズ党が中心ではあるものの、必ずしも全国で統合された、トップ・ダウン型の構造とはなっていない。

ゴンスキー初等・中等教育改革と施行法案の交渉

以上を踏まえて、今回のグリーンズ党の「お家騒動」を見てみる。

まずゴンスキー教育改革とは、ゴンスキー答申書に基づき、ギラード労働党政権によって策定、施行されたものである。中核的な改革内容とは、政府系と非政府系学校で異なっていた学校助成額算定方式を廃棄し、統一的かつ「ニーズ・ベース」の助成額算定方式を採用するというものであった。ところが、選挙を間近に控えたギラード政府は、州等政府からの合意を得るために、合計で27にも及ぶ各州等政府との「特別・個別取り決め」を通じて、大盤振る舞いを行っている。その結果、ゴンスキー改革の趣旨が損なわれることとなったのである。しかも、労働党政府はゴンスキー改革をスタートさせたものの、スタートの時点においてすら、財源不足から労働党の計画が破綻することは明らかであった。

一方、ゴンスキー改革はアボット保守連合政権にも踏襲(とうしゅう)されたが、アボットが渋々であったのに対し、ターンブルはこれを積極的に採用し、しかも17年連邦予算案の「目玉」に位置付けている。それどころかターンブルは、ゴンスキー改革が労働党の政策であったにもかかわらず、労働党のそれを「ゴンスキーもどき」に過ぎないと揶揄(やゆ)しつつ、保守政府の政策を「真正ゴンスキー政策」とまで喧伝(けんでん)している。ターンブル政府の動機、目的とは、教育分野といった、労働党が得意とされる政策分野においては、労働党からの「差別化」ではなく、むしろ同党への「同化」を通じて、労働党の優勢さを「中和」することにあった。

さて6月の議会では、この政府ゴンスキー政策施行法案をめぐって侃々諤々(かんかんがくがく)の議論や、水面下での政府と非政府系政党との交渉が行われたのだが、野党労働党は労働党の計画していたものよりも予算額が圧倒的に少ないとして、当初より政府法案に反対することを宣言していた。そのため、法案が上院で可決、成立するか否かは、グリーンズ党や計12人の「その他」上院議員の意向次第となった。そして法案交渉の開始当初は、ゴンスキー改革が公立学校を重視していることに鑑(かんが)み、グリーンズ党が交渉の主役となることが予想されていたのである。

実際にグリーンズ党は、ターンブル政府に重要な要求、妥協・修正案をのませることに成功している。ところがその挙げ句、結局グリーンズ党は政府法案への反対に回ることを余儀なくされて、法案成立のせっかくのクレジットを、支持に回った上院「その他」議員10人に奪われることとなった。背景には、強力な左派系組合の豪州教員組合(ATU)が政府法案に反対しており、政治献金や選挙支援問題を通じてATUがグリーンズ党に圧力をかけ、しかもグリーンズ党内極左議員が必死になってATUのお先棒担ぎをしたこと、そして党議拘束力の強いNSW州グリーンズ党の存在、などの事情があった。

「スイカ・グリーンズ」とNSW州グリーンズ党

この極左議員がリアノンという名のNSW州選出連邦上院議員で、リアノンは同僚のグリーンズ党連邦議員たちには内密に、かつ多数の同僚議員の方針に反して、勝手にターンブル保守政府の教育政策に反対するパンフレットを刷り、政府との交渉期間中に配布したとされる。またリアノンの動きの背景には、いかなる政策であれ、労働党が反対するような保守政府の政策を、労働党よりも「左」であるはずのグリーンズ党が支持するのはおかしい、といったイデオロギー偏重、教条主義的なNSW州「草の根」党員の存在があったとされる。

グリーンズ党の議員総会では「コンセンサス」で多くのことが決定されることから、NSW州グリーンズ党の党議拘束力の強さは、ディー・ナターレ党首にとっては、連邦グリーンズ党の意思/政策決定過程の重大な阻害要因に他ならない。そこでディー・ナターレは、NSW州グリーンズ党の党綱領の変更、具体的には、同州グリーンズ党党員に与えられた権限、例えば上院議員といえども、「草の根」党員のマジョリティーの決定に従わねばならないといった、党議拘束力の強さや、「草の根」党員の持つ過剰な権限に関し、変更を求めていく旨、明らかにしている。

連邦議員の独立性を維持するためには、NSW州グリーンズ党の妥協が不可欠と見なしているのだ。ところが問題をより複雑にしているのは、NSW州グリーンズ党が、いわゆる「スイカ・グリーンズ」の本拠地/本場であることだ。そもそもグリーンズ党議員のキャリア・パスとは、伝統的には環境保護運動家出身者というものである。ただ、最近では社会活動家出身者が増加している。その理由としては、「草の根」党員やグリーンズ党支持層の中にも、環境問題と同等か、あるいはそれ以上に、社会問題に関心を抱く人びとが増加しつつあることが指摘出来よう。

ちなみに、伝統的なグリーンズ党議員/党員、すなわち環境保護問題を第一義に考え、政界入りする前から環境保護運動に身を挺してきた議員/党員を「真正グリーンズ」と呼称する(注:あるいは「木を抱く人」とも呼称)。これに対して、環境問題以上に、少なくとも同等に社会正義や社会公正問題を重視し、しかもかつて共産主義や社会主義運動に関わってきたグリーンズ党議員/党員を、「スイカ・グリーンズ」と呼称するのだ。「スイカ」という呼称の由来は、外側は緑(注:環境保護のグリーン)だが、中身は赤(注:共産、社会主義の赤)というものである。

共産主義者や社会主義者の中には、一般世論、有権者に印象の良いグリーンズ党のレッテルを意図的に付ける者もいる。要するに、グリーンズ党はかつての「赤の活動家」の受け皿、あるいは「隠れ蓑(みの)」ともなっているのだ。上述したように、「スイカ・グリーンズ」はNSW州が本場だが、その本場で州議員時代から「スイカ」の代表格であったのがリアノンである(66歳)。

リアノンは2010年8月の連邦上院半数改選選挙で当選して、連邦政界に鞍替えしているが、リアノンの両親は豪州共産党(CPA)の党員であった。こういった出自から、リアノンも子どもの時代から、国内治安・

諜報機関の豪州安保諜報庁(ASIO)の厳重な監視下に置かれている。リアノンは極左のグリーンズ党の中でも「左」に位置しており、何と言ってもイデオロギー的に「確信犯」であるだけに、強面のイメージが強く、また共産/社会主義運動で鍛えられてきたためか、権謀をめぐらすタイプでもある。

いずれにせよ、このリアノンに率いられた、あるいはリアノンを中心人物とするNS

W州グリーンズ党には、同じく「過激な」思想の党員が多く、それが今回のような問題を発生させたばかりか、単なる「抗議政党」からの脱却を図り、政策決定過程で一定の貢献を果たしたいディー・ナターレ指導部を、欲求不満に陥れているのだ。今回の一件は、「真正グリーンズ」と「スイカ・グリーンズ」との路線闘争でもあり、これまで一応連邦議会レベルでは「一枚岩」を保ってきたグリーンズ党が、今後場合によっては、議会での投票行動で分裂する可能性も秘めたものである。また闘争が悪化すれば、ディー・ナターレ党首の責任問題、ひいては豪州グリーンズ党のリーダーシップ問題にも発展しかねないものである。

2上院議員の辞職

以上のように、イデオロギー闘争でグリーンズ党の求心力が低下する中、2人の豪州グリーンズ党の現役副党首、具体的には、WA州選出のラドラスとQLD州選出のウォーターズ女史が、7月中旬にそろって上院議員を辞職するという、一大事件が発生している。その理由は、前者の場合はNZと、後者の場合はカナダとの二重国籍の保持者であったためだ。

連邦憲法の第44条には、連邦上院議員もしくは下院議員として選挙され、または出席することが出来ないケースが幾つか列記されている。議員となることが妨げられる人物とは、外国のスパイなど、犯罪者、破産者、公務員、そして政府と金銭上の利害関係を有する者、の計5つのケースである。第44条の第1項には、「外国に忠誠を尽くし、服従し、もしくは加担すると認められる者、外国の臣民もしくは市民である者、または外国の臣民もしくは市民の権利もしくは特権を有する者」と規定されており、したがって二重国籍者や多重国籍者に議員資格がないことが明白にうたわれているのだ。

両者共に、幼少時に(注:ウォーターズの場合は赤ん坊の時に)豪州に移民して来たため、出生国の国籍が残っているとは考えなかったとしている。おそらく両者の釈明通りであろうが、やはり怠慢、軽率の誹(そし)りは免れまい。

両者の後任は、昨年7月の上院全数改選選挙におけるWA州及びQLD州での投票分が再集計された上で、決定されることとなるが、同選挙におけるWA/QLD州グリーンズ党「上院チケット順位」(注:各政党が事前に決定する当該政党候補者の優先当選順位)の次の順位の候補者が繰り上げ当選になるものと予想されている。そのため、グリーンズ党としては幸いなことに、定数76の上院で現在9議席を擁する同党の議席数に変化はない見込みである。しかしながら、党内の内紛、闘争に加えて、2幹部議員が浅はかな不祥事によって辞職を余儀なくされたことは、グリーンズ党全体のクレディビリティーを大きく毀損(きそん)するものであった。

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