注目される同性愛者間婚姻の法的認知問題

政局展望

注目される同性愛者間婚姻の法的認知問題

ナオキ・マツモト・コンサルタンシー:松本直樹

保守政府は現在、同性愛者間婚姻の法的認知問題を巡る任意の郵便投票を実施中である。現時点では、早ければ年内にも法的認知が実現すると見る向きが多い。

アボットの国民/住民投票策

同性愛者間婚姻の法的認知問題は、労働党前政権の時代から連邦政界でも大いに注目されてきたものである。また同問題を巡っては、2年ほど前の2015年8月、すなわち、失脚直前のアボット首相の時代に(注:自由党両院議員総会での党首選挙で、アボットがターンブルに敗北したのは15年9月14日)、保守連合内が紛糾したという経緯がある。契機となったのは、自由党内認知賛成派議員による認知法案上程への性急な動きであった。

この「お家騒動」の動きに対し、与党としても早急に対処する必要があり、そこで採択されたのが、まず国民/住民投票(Plebiscite)を実施して、同問題に関し民意を問うという政策であった。ただ同政策の採択をめぐっては、プロセスが大いに物議を醸した。その理由は、アボットが自由党の両院議員総会での政策討議、採択を飛び越して、いきなりジュニア・パートナーの国民党議員も加えた保守連合議員総会を招集し、その場で、しかも投票に附すこともなしに、国民/住民投票政策を採択したからであった。

敬虔なカトリック教徒で、そのため法的認知には強く反対するアボットの意図は明らかで、それは、同じく認知に反対する右派の国民党議員を参加させることによって、自由党内の賛成派議員を牽制するためであった。国民/住民投票策の採択にしても、同問題でのアボットの積極さや、前向きさを示すものではもちろんない。アボットの意図、動機とは、アボットが恐れる与党議員による婚姻認知議員立法法案の上程、そして自由党議員に「自由/良心の投票」を認めるといった事態を、是が非でも回避することにあった。

というのも、同問題を議会で解決する、要するに議員の自由意思による投票に委ねれば、認知法案が可決、成立される公算が大であったからだ。アボットは、表向きは国民が直接決定すべき問題と述べるなど、民意を尊重するとの殊勝な姿勢を採りつつ、次期選挙で再選を果たした暁には、国民/住民投票を通じて国民に判断を委ねると宣言していたが、投票策は当面の最悪の事態を回避するため、また問題を先送りにするための政策、そして党内分裂のイメージを払拭するためのものであった。

ターンブルの「変節」と野党労働党の反対

さて15年9月にはアボットが失脚し、ターンブルが首相の座に就いたが、アボットとは対照的に、ターンブルは社会政策分野では相当に進歩的であることから、リーダー就任と同時に注目されたのが、同性愛者間の婚姻の法的認知問題に関するターンブルの立場であった。

ターンブルは、それまで法的認知には積極的で、アボット率いる自由党が認知反対を党是としていたのに対して、同問題ついてターンブルは、自由党各議員の「自由/良心の投票」に委ねるべきと主張してきた。

これは言うまでもなく、党内右派ばかりか、連立先の国民党が反対する路線であるが、他方で、世界的な趨勢、同問題に前向きな労働党やグリーンズ党の存在もあって、自由党内にも法的認知派が増大しつつあった。そこで、穏健派であるターンブルの同問題での姿勢、路線がなおさら注目されたのだが、結果的にターンブルは保守連合内の融和を優先し、前言を翻して、アボットの路線を踏襲することを宣言している。

実のところ、ターンブルには選択肢はなかったと言える。というのも、国民党はこの問題での現状維持路線を、新たに結ぶ連立協定の条件としていたからだ。ただ、このターンブルの「変節」は実は正解であったと言える。その理由は、確かに世論調査では同性愛者間の正式婚姻には好意的な回答が多いものの、何よりも一般庶民の関心事とは、光熱費の上昇といった日常生活の問題であり、こういった「高邁(まい)な」倫理問題、人権問題には関心が薄いからだ。

それにもかかわらず、保守政府が重要な庶民の問題を無視し、同性愛カップル問題といった、いわば「贅沢イシュー」に現(うつつ)を抜かしていることは、政府は国民感情から遊離しているとして、多くの国民の反発を招く恐れがあった。

同問題にはグリーンズ党や労働党が一貫して熱心であるが、実際にターンブル保守連合政府はその後、同問題にはむしろ距離を置き、重要な経済分野に集中するとの姿勢であった。ただ、昨年の7月に両院解散選挙が実施されたが、国民/住民投票政策は引き続き与党保守連合の選挙公約ではあった。同選挙は、ターンブル保守連合の予想を上回る苦戦となったが、何とか勝利を収めた保守連合政府は、公約を遵守すべく、17年2月11日に国民投票を実施する計画を立て、16年選挙後に投票実施法案を下院に上程している。

ところが昨年の11月に、実施法案は野党勢力の反対で否決され、その結果、今年に投票が実施されるのは不可能な状況となり、同問題は次期選挙以降にまで先送りとなるものと考えられた。

一方、ショーテン率いる野党労働党の立ち位置だが、野党は15年の7月に開催された第47回全国労働党党大会において、同性愛カップルの法的地位、婚姻認知問題に関し、それまでの議員の「自由/良心の投票」を否定し、認知法案への支持を党是として、全議員に支持を遵守させるべきとの動議を採択している。

労働党と言えば、須(すべか)らく進歩的な政党とのイメージがあるが、支持層や労働党の政治家の中には社会的保守のカトリック教徒も多い。そのため労働党内には、同性愛者間の婚姻の法的認知といった、まさに個人の宗教観や信条に直接関連する問題で、労働党が議員に「良心の投票」を認めないことに(注:労働党の全国党大会に関して特筆すべきは、労働党は大会での採択事項の拘束力が強い政党で、決定事項は全党員を厳格に拘束するという点である)、憤りを抱く者もかなりいる。

ただ、つい数年ほど前には国民/住民投票に前向きであった進歩派のショーテン及び野党も、その後は変節して同投票には反対しており、代わりに可及的速やかに議会で法的認知の是非を問うべきとしている(注:「1961年婚姻法」の改正)。

その理由として野党は、投票の実施は公費の莫大な浪費であることや、賛成/反対キャンペーン運動を通じて同性愛者が好奇の目で見られ、それどころか、誹謗中傷の的となることへの懸念を挙げていた。ただその背景には、議会での採決では認知支持がマジョリティーとなる公算が高い、とのショーテンの思いや計算があった。

いずれにせよ、ターンブル与党の上程した国民/住民投票実施法案は、労働党やグリーンズ党の反対もあって上院で否決され、法的認知への動きも一時は頓挫することとなったのである。

自由党内の対立と郵便投票の実施

9月10日にシドニーで行進する同性婚認知を訴える同性婚支持者たち(Photo: AFP)
9月10日にシドニーで行進する同性婚認知を訴える同性婚支持者たち(Photo: AFP)

ところが今年の8月8日から再開された連邦議会の直前に、再度法的認知を巡る問題が大きく注目されることとなった。その理由は、自由党「造反」議員の動きによって、同問題で自由党内が再度紛糾したからであった。

具体的には、同問題の進展が遅々としたもの、それどころか頓挫していることに憤慨する計5人の自由党陣笠議員が、法的認知のための婚姻法の改正議員立法案の上程、そして議場での法案の採決に際しては、自由党議員に「自由/良心の投票」を認めることを、政府指導部に対し公然、かつ強く要求したことであった。

これを受けてターンブルは、7日に連邦自由党両院議員総会を開催し、法的認知問題に関する党の立ち位置、政策を確認したことから、結局、「造反」議員も一応は矛(ほこ)を収めている。

そこで確認され、また新たに採択された政策とは、①保守政府の選挙公約、すなわち拘束力のない国民/住民投票を実施して、同問題についての国民の考え、意向をまず確認するという公約を実行すべく、同投票を実施するための政府法案を再度採決に附す、②仮に再度上院で否決された場合は、同じく拘束力がなく、しかも有権者が任意で参加する郵便国民/住民投票(Postal Plebiscite)を実施する、③郵便国民投票は豪州選挙管理委員会(AEC)ではなく、豪州統計局(ABS)が担当する、④豪州最高裁判所の合法判決を受けることを前提に、今年の9月12日から11月7日までの間に郵便投票を実施する、⑤投票結果の公表は11月15日とする、⑥仮に国民投票で法的認知支持が過半数となれば、法的認知法案を年末までに連邦議会に上程し、一方、支持が過半数に達しない場合は法案の上程を見送る、そして⑦議会での認知法案の採決に際しては、自由党議員に「自由/良心の投票」を認めるなどとなっている。

以上のような結果となった背景だが、まず「5人組」の要求内容がそのまま採択される可能性は皆無であった。連立先の国民党も、自由党内の右派も、更には穏健派の多くも、「5人組」が望む議会での直接解決には難色を示していたからだ。仮に採択される事態ともなれば、自由党のリーダーシップ問題が一挙に燃え上がることは必至であった。

他方で、現行の国民/住民投票政策が、野党労働党やグリーンズ党、そして「その他」上院議員の多くからも反対されていることに鑑(かんが)み、与党現行政策の維持とは、同問題の更なる先送りを意味することに他ならない。

その場合も、「造反組」は「クロス・ザ・フロアー」といった(注:議会において党の方針に反した投票行動を行うこと)、過激な行動に訴えることはしないと約束してはいた。ただ定数150の連邦下院で、与党が過半数ギリギリの76議席だけという、与党にはすこぶる危険な下院の状況に鑑み、指導部としても博打は打てないし、他方で、同問題を放置したままでは、認知派の運動が次期選挙まで継続することも確実であった。

そのため主流派の中には、いたずらに現行路線の維持のみに執着するのではなく、党内融和を図るために、何らかの政策変更が不可欠と考える向きもあった。そこで「落としどころ」、あるいは認知賛成派と反対派双方の妥協案になり得ると見なされたのが、右派の大物のダットン移民・国境保全大臣が主導者となっていた、そして実際に採択された「郵便国民/住民投票」案であった。

この案のメリットとしては、第1に、通常の国民/住民投票とは異なり、法律を通すことなしに政令で実施できること、第2に、実施コストが比較的低いこと、第3に、比較的短期間に実施できること、第4点として、与党保守連合にとり、選挙公約違反には該当しないことなどが挙げられた。

合法判決と法的認知問題の行方

ただし、上記の政令で実施云々については、予想通り裁判沙汰となっている。すなわち、ウィルキー無所属連邦下院議員や同性愛ロビー団体が、保守政府の計画する郵便投票の実施は違法との訴えを起こしたのである。

原告側は、緊急かつ予見が不可能な支出案件に関しては、法律を通すことなく支出を決定する権限が連邦予算大臣に与えられているものの、同性愛者間婚姻の法的認知に関する投票は、十分に予見できたことで、従って予算大臣による支出の決定は違法というものであった。

ただ9月7日に、豪州連邦最高裁の7人の裁判官全員がこの訴えを退けたことから、上述したスケジュールは予定通りにスタートすることとなった。附言すれば、今回の郵便投票は保守政府のオリジナル案とは異なり任意であるし、また担当機関が豪州選挙管理委員会(AEC)ではなく豪州統計局(ABS)ということもあって、最近では「投票」とは言わずに「サーベイ/調査」と呼称されている。

肝心の同問題の行方だが、「サーベイ/調査」が実現したことによって、同性愛者間婚姻を法的に認知する婚姻法の改正も、実現する可能性が高いと見る向きが多い。その理由は、これまで国民/住民投票に強く反対してきた野党労働党のショーテンが、結局、郵便国民投票の実施を受入れ、しかも「イエス・ケース」キャンペーンを展開しているからだ。また、各種世論調査の結果からも明らかなように、同問題には前向きな有権者が多く、従って郵便投票の支持が過半数を超える公算も高いからだ。

更に郵便投票結果に法的拘束力はなく、しかも自由党議員には「自由/良心の投票」が認められるとは言え、議会で各議員が郵便投票結果に反する、すなわち、有権者の法的認知支持を無視する行動を採ることは相当に困難との事情もある。このことは、郵便投票の結果が、全国レベルだけでなく、各下院選挙区ごとに公表されることからなおさらと言えよう。

ただ、やや懸念されるのは、郵便国民投票の投票率がどの程度になるかだ。周知の通り、豪州の各種選挙や国民投票は一般に義務/強制であるが、今回の郵便投票は任意投票の下で実施される。投票率があまりに低い場合には、仮に法的認知支持が過半数となっても、その「正統性」には強い疑念が呈(てい)され、その結果、婚姻法の改正を巡っては、法的認知反対派の強い抵抗運動が発生する恐れもあろう。

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